ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年7号
特集
第2部 保管費 減額交渉の好機到来

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2009  20   相場──過半数が値下げを承諾  昨秋以降、首都圏での募集賃料は大幅に低下し ている。
ジョーンズラングラサールが六月十一日 に発表したレポートでは、ベイエリアの平均賃料 が3四半期連続でマイナスとなった。
業界関係者 によれば、「今年に入ってから全体のおよそ三分の 二の倉庫会社が交渉の末、値下げを認めている」 という。
 ただしファンド物件の場合、値下げ交渉は難し い。
ファンドは物件の収益性を予め投資家との間 で取り決めているため、安易に値下げ交渉に応じ ることができない。
特定のテナントの坪賃料を下 げれば他のテナントに波及する恐れもある。
いく ら借り手市場とはいえ、減額要求をおいそれと飲 める環境にはない。
 だがファンドといえども全ての要求を突っぱね ているわけにはいかない。
賃料が発生しないフリ ーレント期間を設けるなど、値下げが表面化しな いかたちで柔軟に対応している。
三年契約や五年 契約の場合でフリーレントは一カ月分から三カ月 分が一般的。
特定テナント専属型のBTSで契約 期間一〇年という長期契約であればフリーレント 半年分というのも珍しい話ではない。
フリーレン ト期間も交渉によって決まるので、賃料の支払総 額でメリットを出すのも一つの手といえそうだ。
 営業倉庫の在庫を社内に引き上げる  リーマン・ショックで最も大きな影響を受けた 自動車業界では、工場の敷地や遊休地にテント倉 庫を敷設して、営業倉庫から在庫を引き上げる部 品メーカーが後を絶たない。
なかには自社で所有 するゴルフ場にテ ント倉庫を建てた ケースもあるとい う。
 テント倉庫大手 の営業担当は「昨 年秋からメーカーや部品会社の引き合いが増えて いるのは事実。
しかも従来は工場内に倉庫を設け て横持ち輸送を解消し、環境負荷を低減するとい う名目だったが、現在は営業倉庫費用の削減がメ ーン。
ユーザーの関心は環境からコストに完全に シフトした」という。
 その影響でトヨタのお膝元の東海地区の倉庫は 今やガラガラ。
昨年夏まで坪三五〇〇円〜四〇〇 〇円だった坪当たりの賃料を、坪二五〇〇円前後 まで大幅に値下げする倉庫会社まで出てきてい る。
それでも空きスペースが埋まらない。
 首都圏では物流倉庫の“玉突き現象”が起こっ ている。
まず物流拠点の一等地である湾岸部の倉 庫が空く。
そこに東京都下に倉庫を借りていた荷 主が移っていく。
さらに空いた東京都下の倉庫に 関東北部の荷主が移る。
結果、群馬や埼玉北部の倉 庫は数千坪という大規模な空室が目立っている。
通常、空室が出ても募集賃料を下げれば少なくと も引き合いは来る。
しかし、現状はその引き合い さえも無い状況だ。
 契約条件を変更して流動費化する  物流倉庫の契約形態には、賃貸借契約と寄託契 約の二種類がある。
賃貸借契約はスペースを坪賃 料で貸し出す純粋な不動産賃貸。
一方の寄託契約 は倉庫会社が主体となって保管スペースを提供  賃貸借契約が更新を迎えるのなら必ず賃料交渉をし たほうがよい。
周囲の空室物件の募集賃料を引き合い に出せば、オーナー側は応じざるを得ない局面だ。
も との賃料にもよるが、5%程度の減額は見込める。
契約 期間の途中であっても今なら、契約条件の変更や減坪 に応じるケースもある。
イーソーコの 大谷巌一副社長 保管費 減額交渉の好機到来 21  JULY 2009 特 集 すぐ効くコスト削減 し、入荷、検品、加工、梱包といった庫内オペレ ーションを行う営業倉庫に用いられる。
  イーソーコの大谷巌一副社長は「賃貸借契約と 寄託契約をミックスすることで、保管コストを削 減できる」という。
安全在庫分は賃貸借契約で確 保し、オーバーフローした分を寄託契約によって 流動費化する。
余剰スペースが無くなり、必要最 低限の保管コストで済む。
 一〇日単位の超短期の賃貸借契約を通常の賃 貸借契約と組み合わせても同様の効果を得るこ ││家賃の引き下げ交渉に特化したコンサルティング を行っている。
 「『引き下げ』ではなく『適正化』。
市場に出回ってい る物件のうち、七割以上が我々の考える適正賃料よりも 高い賃料で借りられている。
それを適正な賃料に戻すサ ポートをする。
これまでの実績は累計五〇〇〇件以上。
飲食店、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンターな ど業種業界を問わず引き合いがある。
もちろん物流拠点 の依頼も少なくない」 ││この不況で依頼は増えているのでは。
 「〇七年度の調査依頼件数は二二二六件だったが、〇 八年度は約二倍の四〇四六件にまで膨らんだ。
これは景 気が悪化した年度後半の伸長によるところが大きい」 ││賃料はどの程度下がるのか。
 「ケースバイケースだが、昨年度の実績で平均一三・ 四%。
月一〇〇万円の賃料だった場合、九〇万円くらい までは下がる。
年間 一二〇万円ほどが 削減され、それがそ のままクライアン トの経営資源とな る」 ││減額の具体的な 方法は。
 「まず適正賃料を算出し、それが実際の賃料よりも低 ければオーナーとの減額交渉に臨む。
交渉の主体となる のはあくまでクライアント。
我々はサポートとして同席 する。
適正賃料の算出方法に最大の強みがある。
通常、 周辺物件の相場や物件の状態などから賃料を算出する が、我々の観点はそれだけではない」  「例えばクライアントの経営環境の変化なども加味す る。
もしクライアントが物件を借り始めたときの売上総 利益が五〇〇〇万円で、年間の賃料が一〇〇〇万円だっ た場合、賃料が売上総利益に占める割合は二〇%。
不況 の影響でクライアントの売上総利益が四〇〇〇万円に 下がったら、賃料の割合は二五%に高まったことにな る。
これを従来の二〇%で計算すれば八〇〇万円が適正 賃料と考えることができる」  「調査の対象は交渉相手であるオーナーにまで及ぶ。
謄本などの資料をもとに、その物件をいつ、いくらで取 得したのか、投資回収はどの程度進んでいるのか、減額 要求に応じられる状態にあるのかといったことまで調 べて交渉に臨む」 ││理論武装してオーナーを説得する?  「重要なのは、複眼的な考え方と豊富な事前資料を備 えておくこと。
賃料交渉というのは相談事。
この規定に 沿って、いくらにしなければいけないという決まりはな い。
抽き出しを多く持っていれば、それだけ交渉を円滑 に進めることができる」 ││応じてくれないオーナーもいるのでは。
 「もちろんいる。
特に個人オーナーの場合だと感情論 も入りやすい。
それでも現在の成立率は約七五%を誇っ ている」 ││物流拠点に関しては。
 「平均よりも高い成功率を収めている。
物流業は他の 業界に比べてコスト意識が多少甘い。
物件を借りる際に 詳細な精査・交渉をしていない場合が多い。
それだけに 我々がサポートできる余地も大きい」 ││クライアントが御社に支払うフィーは。
 「基本的に交渉が成立したときの成功報酬型。
減額し た金額の約一年分がフィー。
例えば一〇万円の減額に成 功したら一二〇万円から一三〇万円ほどが我々への報 酬となる」 ││少し割高な感も受ける。
 「オーナーとの交渉時に『三年間は改訂した賃料を変 更しない』という契約を交す。
つまり一年目でペイ、二 年目、三年目の減額分は、そのままコストカットになる。
移転を考えていないクライアントにとっては、悪い条件 だとは考えていない」 ││独自で物流拠点の減額交渉に臨んでいる企業も少 なくない。
 「それも一つの手。
だが、『下げて欲しい』と言って下 げてくれるオーナーばかりではない。
そこに我々の存在 価値がある。
また、テナントの交渉のみで減額するより も、我々がサポートした方が大きく減額できる可能性が 高い。
月五万円と一〇万円の減額では大きく異なる」 「7割以上の物件で値下げの余地あり」 ビズキューブ・コンサルティング 笠井大祐 代表 とができる。
シンプルな方法だが、それができる ことを知る荷主はまだ少ない。
長期契約で収入を 安定させたい倉庫会社にとっては望ましくない 契約であるため、荷主側から提案しなければ実現 しない。
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