ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年6号
物流指標を読む
第6回 運賃は上がったのか?下がったのか?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2009  78 物流指標を読む 運賃は上がったのか?下がったのか? 日通総合研究所 「企業物流短期動向調査」 全日本トラック協会 「トラック運送業界の景況感」 日本銀行 「企業向けサービス価格指数」 第6 回 ●07、08年の運賃は上昇・下落・横ばいと三者三様の結果 ●調査対象の事業規模・立場の相違がそれぞれの結果に反映 ●交渉力の弱い中小トラック事業者は運賃の高騰を享受できず さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
運賃の実態は?暗黒大陸?  仕事柄、銀行や証券会社の調査部門から取材を 受けることが多いのだが、その際にしばしば聞か れるのがトラック運賃の動向である。
運賃水準は トラック事業者の経営を大きく左右する要素であ るから、株式・社債の販売や融資を行う側からみ れば非常に重要な項目なのだが、その実態はまさ に?暗黒大陸?そのものである。
 ご存じの通り、トラック運賃は、二〇〇三年四 月一日に貨物自動車運送事業法が改正されたこと に伴い、従来の事前届出制から事後届出制へと移 行し、実質的に自由化された。
元々、タリフ運賃 と実勢運賃の水準が大きく乖離しており、タリフ 運賃自体が有名無実化していたことも事実である が、今やトラック運賃は相対運賃であると言って も過言ではなかろう。
ゆえに、トラック運賃は暗 黒大陸であると申し上げた次第である。
 さて、トラック運賃の動向を示す指標はいくつ かあるが、時にそれぞれの指標が異なるベクトル を示すことがある。
そこで、今回はそれぞれの指 標の性質について整理してみたい。
 トラック運賃の動向を示す指標としては、まず、 日本銀行が毎月発表している「企業向けサービス 価格指数」(CSPI)があげられる。
これは、道 路貨物輸送のうち、積合せ貨物輸送、宅配便、メ ール便、貸切貨物輸送、特殊貨物輸送における取 引価格、すなわちトラック事業者が荷主にサービ スを提供する際に収受する運賃を「二〇〇〇年平 均=一〇〇」として指数化した数値である。
 次に、全日本トラック協会が四半期ごとに実施 している「トラック運送業界の景況感」という調 査(以下、「景況感調査」)のなかで把握している 「運賃・料金水準」の判断指標があげられる。
こ れは、トラック輸送のうち、宅配貨物、宅配以外 の特積貨物、一般貨物の運賃・料金水準が、調査 対象の期間(四半期)において前年同期と比較し てどうであったか、次の四半期にはどうなるか(見 通し)についてDI方式により算出したものであ る。
すなわち、「大幅に上昇」との回答にはプラス 二点、「やや上昇」との回答にはプラス一点、「横 ばい」との回答には〇点、「やや低下」との回答に はマイナス一点、「大幅に低下」との回答にはマイ ナス二点を与えた上で、それを足し上げて回答数 で除し、一〇〇倍した数値である。
 最後に日通総合研究所が四半期ごとに実施して いる「企業物流短期動向調査(日通総研短観)」の なかで把握している「運賃動向指数」があげられ る。
これは、トラック輸送のうち、一般トラック と特別積み合せトラックの運賃水準が、調査対象 の期間(四半期)において前年同期と比較してど うであったか、次の四半期にはどうなるか(見通 し)についてDI方式により算出したものである。
すなわち、「値上り」との回答割合から「値下り」 との回答割合を引いて算出した数値である。
 なお、日銀のCSPIは、二〇〇〇年平均と比 較して、現在どの程度の水準であるかを定量的に 示した指標であるのに対し、景況感調査の運賃・ 料金水準判断指標ならびに日通総研短観の運賃動 向指数は、各回答者の(定性的な)動向を集約し たものであり、その結果がそのまま全体としての (定量的な)運賃水準の上昇率や低下率を意味す 79  JUNE 2009 は、傾向としては弱含み横ばいで推移しており、〇 八年四〜六月が底となっている。
また、運賃・料 金判断指標(景況感調査)では、全期間において ほぼ同水準のマイナスとなっており、〇九年一〜 三月にはマイナス幅が急拡大している。
 また、特別積み合わせトラックの運賃については、 運賃動向指数では、一般トラックと同様に、徐々 に上昇していき、〇八年四〜六月から一〇〜十二 月には大きなプラスとなった後、〇九年一〜三月 に急降下している。
一方、CSPIでは、微増傾 向で推移しており、〇九年一〜三月でも前期から 横ばいとなっている。
また、運賃・料金判断指標 では、〇八年四〜六月以外はマイナスとなってお り、〇九年一〜三月にはマイナス幅が急拡大して いる。
 総じてみると、〇七年および〇八年のトラック 運賃は、運賃動向指数では「上昇圧力が高まっ た」という結果となったのに対し、運賃・料金判 断指標では、マイナス幅の拡大・縮小はあるもの の「低下方向に変化なし」という結果が示されて いる。
また、CSPIでは「ほぼ横ばい」での推 移となっている。
ベクトル異なる運賃指標  どうしてこのように、異なるベクトルになるので あろうか。
それは、調査対象の相違に起因するも のと考えられる。
CSPIおよび景況感調査の調 査対象となっている企業名は公表されていないた め、これは筆者の推測であるが、CSPIの調査 対象は比較的規模の大きいトラック事業者であろ う。
一方、日通総研短観の調査対象は比較的規模 の大きい荷主企業(製造業、卸売業)である。
こ うした調査対象の相違がそれぞれの調査結果に色 濃く反映されたものと考えられる。
トラック事業者 においては、規模の大小により対荷主との運賃交 渉力が異なるほか、大手が元請けとなり中小に傭 車を依頼するケースも多いことなどもあって、中小 のトラック事業者が収受する運賃水準は相対的に 低く抑えられがちである。
また、規模の大きい荷 主企業においては、出荷先が全国に及ぶところも 少なからずあろうが、全国規模の出荷を行う場合、 全国に輸送ネットワークを有する大手のトラック事 業者に委託するケースも多かろう。
そして、受託 した大手の事業者が中小の事業者に再委託した結 果、荷主企業が元請けに支払う運賃水準は上昇し ても、元請けが下請けに支払う運賃は横ばいとい うケースも想定される。
 ちなみに、本誌〇八年九月号の「トラック運賃 急騰!」という記事には、貸切トラックの運賃が 概ね前年度よりも上昇していることが示されてい る。
このように、昨年度は、軽油価格の高騰を受 けて、トラック運賃は上昇したものと考えられる。
にもかかわらず、景況感調査の結果をみると、中 小のトラック事業者においては、運賃水準が低下 したとの回答割合が上昇したとの回答割合を大き く上回った。
言い換えれば、中小トラック事業者 の中には、軽油価格の高騰分すらも運賃に転嫁で きなかった事業者も多かったということである。
 前々回の本欄で、昨年度における中小トラック 事業者の営業収益営業利益率をマイナス七%と推 測したが、上記のような運賃水準の低下を勘案す れば、さらに下振れした可能性もありそうだ。
るものではなく、傾向として、運賃の上昇あるい は低下圧力が大きいか小さいかを判断するための 指標であるという大きな相違点がある。
 それでは、〇七年一〜三月から〇九年一〜三月 までの各指標の動きをみてみよう。
先ほど、トラッ ク運賃の動向を示す各指標が時にそれぞれ異なるベ クトルを示すことがあると書いたが、まさにその通 りの結果と なっている。
 たとえば、 一般(貸切) トラックの 運賃につい ては、運賃 動向指数 (日通総研 短観) では、 徐々に上昇 していき、〇 八年四〜六 月から一〇 〜十二月に 大きなプラ スとなった 後、〇九年 一〜三月に は水面近く まで急降下 している。
こ れに対して、 C S P Iで 日通総研・全ト協・日銀の運賃指標 注1)日通総研短観およびトラック協会の景況感は、運賃水準が調査対象の期間(四半期)において前年同期と比較してどうであっ たか、次の四半期にはどうなるか(見通し)についてDI方式により算出 注2)日銀のCSPIは「2000年平均=100」として指数化した数値。
なおCSPIは月別のデータが公表されており、他の指標との整 合をとるため、便宜的に三か月分の単純平均値を示した 日銀のCSPI 年 月 一般トラック 特別積合せトラック 宅配貨物 宅配以外の特積貨物 一般貨物 積合せ貨物輸送 宅配便 貸切貨物輸送 全ト協の 景況感調査 日通総研短観 13 12 13 19 20 36 43 32 4 -6 10 9 17 16 19 30 37 30 4 -5 -17 -23 -7 -15 -13 -14 -15 -21 -42 -50 -4 -13 -14 -7 -2 3 -6 -10 -39 -48 -19 -19 -20 -15 -16 -19 -18 -22 -40 -50 96.9 96.9 96.9 96.9 97.1 97.4 97.7 98.0 98.0 ー 105.9 108.3 108.3 108.3 108.2 107.1 107.2 107.4 107.4 ー 95.0 95.1 95.1 94.8 94.3 93.9 94.1 94.3 94.3 ー 1 〜 3 4 〜 6 7 〜 9 10 〜 12 1〜3 4〜6 7〜9 10 〜 12 1〜3 4〜6 (見通し) 2007 2008 2009

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