ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年6号
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第50回 日本通運 

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2009  42 統合は営業利益に貢献  日本通運と日本郵便は今年四月から、両社が 共同出資した新会社「JPエクスプレス(JP EX)」に宅配便事業を段階的に移管する。
現 状では、事業統合の効果は未知数だが、コンビ ニなどの集荷ネットワークの密度には強みがあ る。
今後のシナジー効果に期待したい。
 新ブランドでの業務開始は一〇月一日を予定 しており、それまで日本郵便は「ゆうパック」 ブランド、日本通運はJPEXを持分法適用会 社として「ペリカン便」ブランドでそれぞれサ ービスを提供する。
両社は早期にブランド統一 後の料金体系やサービス内容などを顧客に通知 する必要があろう。
また、貨物追跡などシステ ムの品質に違いがあれば、現場や顧客の混乱を 招くことになるため、早期のシステム統合が求 められる。
 一方、宅配市場はヤマトホールディングス、佐 川急便、JPEXの三社のシェアが九〇%程 度となるため、これまで以上に寡占市場の特 徴が出る可能性がある。
現状、大手宅配業者 は人員やネットワークを自社化することで品質 を向上させようとしているようだ。
その過程 では人件費や固定費の上昇が予想される。
 固定費を賄うために、一社が数量確保・単 価の値下げに走れば業界全体に波及し、相場 が下落するリスクを内包する。
このため、単価 の下落を防ぐための高付加価値商品の開発な どが宅配業者の課題になろう。
 現時点(四月二三日現在)で宅配事業の統 合による日通の業績見通しと当面の課題を考 えてみたい。
日通の宅配事業が連結除外され れば約一二〇〇億円の売り上げがなくなると 推定されるが、約半分は日通を元請けとしてJ PEXに委託し、残り半分はJPEXが自社で 販売するとみられる。
これは日通にとっては約 六〇〇億円の減収要因になるが、その分営業 費用も減少する見込みだ。
 日通の宅配事業は営業赤字の可能性が高いた め、営業利益では統合がプラスに働くと考えら れよう。
これ以外に、ターミナルなどをJPE Xに賃貸することから得られる賃料収入が見込 めることもある。
 ただ、〇九年度のJPEXの業績は営業赤 字になる可能性が高い。
初期費用の発生に加え、 景気悪化やブランド統合の準備期間における取 扱数量の伸び悩みなどが想定されるためである。
日通の持分法損失が経常利益悪化要因になる可 能性も否定できない。
 また日通は、JPEXの資本金五〇〇億円に 日本通運  宅配事業の譲渡でフォワーダーに回帰 〇九年度は収益力問われる重要な年度に  宅配便事業の開始以来、トラック、ターミ ナルなどの資産を保有しインテグレーターの 性格を強めていたが、フォワーダーに回帰し ようとしている。
まずは部門別の収支管理徹 底による収益率の改善を期待したい。
しかし 将来的には特積み・貸し切りトラック事業の グループ内での存在意義、シナジー効果が問 われることもありそうだ。
土谷康仁 バンクオブアメリカ─メリルリンチ 日本証券 調査部 シニアアナリスト 第50回 43  JUNE 2009 対して不動産や車両など固定資産により三四% を現物出資する。
バランスシートへの影響とし ては一二六億円の資産がなくなることが挙げら れるが、日本郵便が発行する普通株式三三万四 〇〇〇株が投資有価証券として一七〇億円計 上される予定となっている。
 コスト削減の余地は大きい  宅配事業が連結から除外された後の注目点は どこにあるのだろうか。
周知の通り、日通の母 体は鉄道貨物輸送を中心とするフォワーディン グ会社だった。
フォワーダーとは過度に資産を 保有せず、キャリアと荷主を仲介する物流業者 である。
 その後、日通の事業構造は輸送手段を持ち末 端までの一貫輸送を 行うインテグレーター に近いかたちに変化 してきた。
これは一九 七七年にペリカンB OX簡易便(八一年 にペリカン便に改称) を開始し、トラック やターミナルなどの資 産を保有し始めてか らといえよう。
今回、 同社は宅配便事業の 資産を切り離したこ とで、改めてフォワー ダーとしての力量が 問われることになる。
 〇九年度は同社の収益力の変化をみる上で重 要な年度になりそうだ。
ペリカン便の営業収支 は営業費用の配賦が難しく、利益寄与度を図る のが難しかった。
今後、ペリカン便の譲渡によ り、各部門の営業収支管理が徹底されれば利益 改善のポテンシャルがあると考えている。
 特別積み合わせ輸送の「アロー便」は引き続 き同社の資産・継続事業となるが、連結グルー プ内における貸し切りトラック便の存在意義や シナジー効果などで再考を迫られる局面が来る だろう。
株式市場の関心事としては、事業譲渡 に伴い、遊休資産の有効活用が見込まれること も挙げられる。
 バンクオブアメリカ─メリルリンチ日本証券で は、日通の〇九年度の営業利益を前期比一八・ 二%減の二四七億円、〇九年度のGDPを一・ 八%減と予想しているが、景気は同年度下期以 降、回復基調になるとみている。
 日通は世界的に総合物流を手掛けるため、顧 客構成はB to Bで大企業主体となっており、 トラック業界の中でも景気の影響を受けやすい。
今後の景気底打ち局面では貨物取扱量の回復が 見込めようが、少なくとも〇九年度上期は〇八 年度下期並みの取扱減が想定される。
 しかし、営業費用面ではフレキシブルな対応 が可能なのが同社の特徴である。
具体的には、 変動費である傭車費の抑制に加え、燃料費の減 少や人件費の削減などが期待できる。
一般的に 外注業者との傭車契約は半年契約が多いため、 年度末の傭車契約見直しに伴い、〇九年度は外 注費を抑制できると考えている。
 燃料費については、〇八年度の軽油価格は1 リットル当たり一一五円、〇九年度の軽油は同 一〇〇円の前提を置いている。
一円当たりの燃 料費変動額は三億円と推定されるため、〇九年 度は約四五億円の燃料費の減少が見込めると予 想している。
 また日通の過去を振り返ると、業績悪化局面 では管理職以上の賃金カットなどで人件費を抑 制してきた歴史がある。
過去をみる限りは人件 費でコストコントロールする余地があるといえ よう。
 財務面をみると、〇八年度の予想ROE(自 己資本利益率)は三%と推定され、バンクオ ブアメリカ─メリルリンチ証券がカバレッジする トラック五社の平均値八・五%を下回っている。
これの意味するところは、トラック会社の株主 資本コストが五%とすると、株主の要求リター ンを十分に満たしていないということである。
 日通には安定配当という魅力はある。
しかし、 貨物量の減少に応じた設備投資の抑制、自社株 買いなどの機動的な資本政策、事業部門ごとの 収益管理の徹底による収益率の改善などが今後 の検討課題になると我々は考えている。
(円) 日本通運の過去10年間の株価推移 《出来高》 つちや やすひと 一九九七 年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券などを経て、二〇〇 五年一〇月に現バンクオブア メリカ│メリルリンチ日本 証券に入社。
運輸セクター 担当アナリストとして活躍 している。
著者プロフィール

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