ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
国際物流の基礎知識
コンテナ船大型化の盲点

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 82 コンテナ船の大型化が急速に進んでいます。
二〇〇六年には九六〇〇TEUサイズの投入 が予定されているほか、一万二五〇〇TEU サイズの建造が検討されているとも囁かれて います。
既存のコンテナターミナルはコンテ ナ船の大型化に対応できるのでしょうか。
今 回はコンテナ船の大型化がもたらすメリット とデメリットについて解説します。
コンテナ船の歴史 原油を運ぶタンカーや、バルカーと呼ばれ る撤積船、そしてコンテナ船のような同一形 態の貨物を一度に大量に輸送する場合、船舶 が大型であるほど輸送貨物の単位当たり輸送 コストは減少します。
船舶の大型化による船 価上昇の度合いに比べ、それほど船員費や燃 料費は増加しないからです。
コンテナ船の場合にはコンテナ一個当たり の輸送コストが下がります。
つまり大型化に よってスケールメリットを享受できるのです。
船会社にとって大型コンテナ船を運航するこ とは価格競争力の向上につながります。
一九八〇年代後半以降、定期船市場の競 争が激化し、船会社は競争力強化のための経 営改善を余儀なくされました。
グローバルア ライアンス(国際企業同士の戦略的提携)が 活発化し、コンテナターミナルの共同利用な ど合理化策が進められたほか、コンテナ船の 大型化が急速に進展しました。
パナマ運河の 通航制限を考慮しなくてもいい欧州航路から コンテナ船の大型化が進み、太平洋航路にお いても西岸航路でポストパナマックス型の大 型化が加速しました。
コンテナ船の歴史を振り返っておきましょう。
コンテナ船が登場したのは一九五七年。
シーランドの改装コンテナ船「ゲートウェイ シティ」がニューヨーク〜ヒューストン間に 投入されたのが最初です。
同船の搭載能力は 三五フィートのコンテナ二二六個でした。
日 本では一九六八年に太平洋航路に就航した日 本郵船の「箱根丸」が最初で、七五二TEU 積みの新造フルコンテナ船でした。
その後、貨物のコンテナ化が加速するにつ れ、コンテナ船の大型化も進展していきまし た。
そして一九八八年には「パナマ運河を通 航できる最大船型」というそれまでの常識を 打ち破るコンテナ船が登場しました。
APL のプレジデントトルーマン、四三四〇TEU 積みです。
この船はパナマ運河の通行制限を 超えるという意味で、「オーバーパナマック ス」もしくは「ポストパナマックス」と呼ば れています。
それ以降、「オーバーパナマック ス」型の大型コンテナ船の建造が続きました。
現在では欧州/アジアや北米西岸航路など の基幹航路に投入されるほとんどが「オーバ ーパナマックス」型のコンテナ船になりまし た。
一九九六年に就航したレジナマースクは 六四一八TEUで、遂に六〇〇〇TEUの 大台を突破。
翌年に就航したマースクライン のソブリンマース クは公称で六六〇 〇TEU積みとな っていますが、実 際には八〇〇〇T EU以上のコンテ ナが積載可能と見 られています。
二 〇〇一年にはハパ ッグロイドが七五 〇〇TEU型を投 入、二〇〇三年に OOCLが八〇〇 〇TEU型を投入 するなど、大型化に拍車がかかっています。
さらに現在、韓国のサムソン重工では九六 〇〇TEU型を建造中で、今年末から来年初 めにはチャイナシッピングによって導入される予定です。
マースクシーランドが一万二五 〇〇TEU型の建造を計画中との噂も耳にし ます。
ちなみに二〇〇三年に造船所に発注された コンテナ船は全世界で合計四六五隻でした。
そのうち七四隻が八〇〇〇TEU型、二二隻 が九〇〇〇TEU型です。
全体の二〇%が八 〇〇〇TEU以上の大型コンテナ船という計 算になります。
二〇〇四年の発注は八〇〇〇 TEU型が二八隻、九〇〇〇TEUが一四 隻でした。
これら建造中の大型コンテナ船は 二〇〇六年以降、世界各地に続々と投入さ コンテナ船大型化の盲点 《第7回》 83 OCTOBER 2005 れるわけです。
大型化に伴うデメリット コンテナ船の大型化によって単位当たりの 輸送コストが下がるため、定期船社が大型化 を加速させていることは冒頭で触れました。
米 シティグループの金融アナリストの最近のレポ ートによると、八〇〇〇TEU型のコンテナ 船は従来のポストパナマックス型コンテナ船に 比べて一〇〜一五%のコスト削減につながり、 二〇〇五年後半から二〇〇六年に投入が予定 されている九〇〇〇〜一万TEU型では、八〇〇〇TEU型と比較して、さらに一〇〜一 五パーセントのコスト削減が可能とのことです。
ただし、これは十分な貨物を確保できるこ とが前提条件です。
積載率が低い場合には逆 にコストは上昇してしまいます。
また、多く の定期船社が同じように超大型コンテナ船を 建造すると、将来は船腹過剰によってマーケ ットの混乱を招くことも考えられます。
船舶の建造に関する問題点もあります。
技 術的な部分はかなりクリアされているようで すが、コストの面では課題が山積しています。
一万二〇〇〇TEU型になるとエンジンのプ ロペラが二軸にならざるを得なくなり、結果 として建造費の大幅アップを余儀なくされま す。
プロペラを増やさない場合には、その分 スピードを犠牲にしなければなりません。
パナマ運河やスエズ運河の通航制限を超え ると、航路によっては投入できないケースも 出てくるでしょう。
荷役設備や水深の関係で 大型コンテナ船に対応できない港湾もあり、受け入れは限定されます。
そのためフィーダ ーコストが増加することも考えられます。
コ ンテナの積み卸しに時間が掛かり、船の停泊 日数が延びることも予想されます。
入港後、 最初に陸揚げされるコンテナと最後に陸揚げ されるコンテナで日数差が生じてしまいます。
例えば、米国西海岸のように混雑の激しいコ ンテナターミナルでは、より混雑が悪化する 恐れもあります。
米国西岸がパンクする コンテナ船の出入港および荷役の役割を果 もり・たかゆき1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年 丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現 職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航 海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」 (鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会 員。
青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、 東京海洋大学海洋工学部講師 OCTOBER 2005 84 たすコンテナターミナルも、コンテナ船大型 化への対応を迫られます。
水深の確保や荷役 関連機器の能力アップ、そして取扱量増加に 応じたコンテナターミナルそのものの処理能 力の向上が要求されます。
八〇〇〇TEU型 の場合、横一八列に対応したガントリークレ ーンが欠かせません。
水深は一五メートルが 必要です。
八〇〇〇TEU型については主要 港の多くが対応済み、もしくは現在設備能力 を拡大中という段階にあります。
問題は一万TEU超の場合です。
横二〇列 以上に対応できるガントリークレーンが必要 になるほか、水深も一五メートルでは不十分 です。
現在、設備を増強中のコンテナターミ ナルでは将来の需要を見込んで一六メートル 水深のバース建設を計画に織り込んでいます。
ただし、すべてのコンテナターミナルが対策 を講じているわけではありません。
九・一一の米国同時多発テロ以降、世界各 地の港湾施設は安全対策を強化するための投 資を強いられました。
コンテナターミナルの 能力アップに必要とされる投資は新たなコス ト負担として重くのし掛かります。
もちろん、 港湾施設での投資は最終的にユーザーである 定期船社にコストとして跳ね返ってきます。
現在、日本の主要港もコンテナ船大型化へ の対応を急いでいますが、膨大な設備投資に 見合うだけのコンテナ取扱量を確保できず、 減価償却を済ませることさえも苦しくなるの ではないかという懸念の声も聞かれます。
85 OCTOBER 2005 アジアの港湾の多くは十分な設備能力を有 するコンテナターミナルを用意しています。
問題はロサンゼルス・ロングビーチなど米国 西岸の港湾施設です。
環境問題や地域住民と の関係、あるいは労働組合や鉄道の能力など の問題で、これ以上のコンテナターミナルの 拡張は困難な状況です。
コンテナ船のさらな る大型化が昨年のようなコンテナターミナル の混雑を再び引き起こす可能性もあります。
大型船の場合、簡単に他港に振り替えること も難しくなります。
コンテナ船大型化の一番 のボトルネックは米国西岸のコンテナターミ ナルであると言えそうです。
タンカー大型化で得た教訓 一九五〇年代後半にコンテナ船が登場して 以来、およそ五〇年の間にその積載能力は十 数倍になりました。
コンテナ船は短期間で急 速に大型化が進みました。
そして今後も大型 化への道を歩み続けるのでしょうか。
技術面 では問題はないでしょう。
しかし経済的な側 面からいずれ限界が訪れるでしょう。
大型化一辺倒ではなく、航路ごとに最適な船型が選 択されるようになるはずです。
海峡や運河な ど通航制限といった航路条件、港湾の水深や 荷役設備などの港湾条件、船舶のエンジン、 造船所の建造能力、船価・燃料費といった運 航コストなど、さまざまな要因で船型は決ま っていくと考えられます。
コンテナ船の大型化は、フィーダーコスト 増や、荷役時間が延びてスケジュールの維持 に追加船舶の投入が必要になるなどコストア ップを招きます。
トランジットタイムが長く なるといったサービスレベルの低下も懸念さ れます。
経済性と最適化という観点からすれ ば、今後も引き続き大型化が進むとは考えに くく、むしろ大型化は限界の域に達している と判断できそうです。
現在建造中の九〇〇〇TEU型は欧州/ アジアなど特定航路のみで就航し、同時に航 路によっては中小型コンテナ船の需要も存在 する。
つまり、色々なサイズのコンテナ船が 航路によって使い分けられる時代が到来する のではないでしょうか。
例えば、原油タンカ ーでは以前に五〇万重量トンクラスが建造さ れましたが、結局投入されたのは四隻どまり でした。
しかもその四隻は現在、スクラップ あるいは備蓄船として利用されており、運航 されていません。
VLCCと呼ばれる大型タ ンカーの主力は三〇万重量トンであるという のが実情なのです。

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