ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
現場改善
建材卸B社の支払運賃の削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 58 配送コストが増加 我々日本ロジファクトリー(NLF)の物流 改善では、取り組みを進めていくうちに、当初 クライアントから依頼された改善テーマとは別 の新たな課題が見つかり、長いお付き合いに発 展していくケースが多い。
また一度は改善を終 了し我々の手を離れた後に、新たな問題が発覚 し、改めてお声がけいただく場合もある。
今回 紹介するB社は後者にあたる。
B社は東京都に本社を置く建築資材卸である。
千葉県某所に物流センターを構え、首都圏エリ アを中心に営業を行っている。
現在では業界内 で定番化してきている当日受注・当日配送をB 社は一〇年以上前から実践してきた。
配送サー ビスを強みとして売上規模は毎年一〇%近い成 長を続けている。
今年度は初の三〇〇億円超え を目論んでいる。
B社のK社長から電話をいただいたのは、我々 が一日の業務を終え、帰り支度に取りかかって いた夜九時過ぎであった。
突然の着信音に受話 器を取ると、K社長の張りのある元気な声が聞 こえてきた。
「ご無沙汰しております。
B社のK です」。
本当に久々だった。
時候の挨拶状などの やり取りはあったものの、直接お話するのは約 二年振りであった。
当時、B社の物流センターは売上規模の拡大 と比例して作業時間が長時間化していた。
その 結果、サービスレベルの低下はもちろん、残業 代の増加による人件費増に陥っていた。
そこで 我々と共に改善プロジェクトを起こし、商品ロ ケーションの整備、作業フローの改善によって 無駄な作業を削減したのであった。
「その節は大変お世話になりました。
おかげ様で 物流センターの方は、毎日ほぼ円滑に業務を進 められています。
それとは別に実はまた新たな 問題に着手しようと考えているのです。
そこで また御社に相談に乗ってもらいたいと思いまし てね」とK社長は続けた。
ありがたい話だった。
前回の取り組みを評価いただけたわけである。
後日、東京某所にあるB社の本社を訪れた。
K 社長は「このところ配送費が増大し続けている んです。
原因を追究して削減しなければならな いと考えています」と、新たな課題を説明した。
それを聞いて我々がまず懸念したのは、配送費 を、売上高に占める構成比率で見ることができ ているか、であった。
売り上げが向上すれば当 然、配送費も増加する。
それを単なるコスト増 として見てしまい、無理な削減に走れば、返っ て業務にしわ寄せが生じる。
結果としてサービ スレベルや品質の低下を招きかねない。
その点を尋ねてみると、K社長はそんなこと は当り前だという顔で、「それは以前にNLFさ んから教えていただいたことじゃないですか。
当 第33回 売上高の拡大以上に配送コストが増加している。
調べてみると 二つの原因があった。
運賃体系の不備と、営業担当者による緊 急輸送の乱発だ。
協力会社との契約を見直すと共に、営業担当 者別に運賃を管理することで、売上高に占める支払運賃の比率 を大幅に低減することができた。
建材卸B社の支払運賃の削減 59 OCTOBER 2005 送に加え、余り資材や梱包資材の回収などで、卸 側の物流負担が大きくなっている。
それがその ままコスト増の原因となっている。
昨今のホームセンターの大型化も建材卸には 逆風となっている。
ホームセンターの大型化に よって一般消費者でも本格的な建築資材や道具 などが安価で購入できるようになった。
職人に よっては、持ち運びのできる資材はホームセン ターで仕入れ、その足で現場に向かうこともあ る。
そのため建材卸業界全体の市場規模が低迷 しているとのことであった。
そんな厳しい環境の中でも、B社は配送サー ビスを強みにここまで売り上げを順調に伸ばし てきた。
しかし顧客ニーズに応えていくことは、 コスト増との戦いである。
同時に自社の中に潜 むコスト要因を取り除いていくことは、逆風に 然、対売上高の構成比率で確認していますよ。
前 回の改善でご提示いただいた『物流コストの考 え方』(図1)をその後も実践しています。
こう したデータを継続的にとることによって、今回 の配送費増も発覚し、それが深刻な問題である と捉えることができたんです」という。
実際に数値を見せていただくと、確かに対売 上高配送費の構成比が上昇していた( 図2)。
同 社に限らず昨今、建材卸業界の配送費は増大す る傾向にある。
「欲しいときに・欲しいものを・ 欲しいだけ」という顧客ニーズの拡大と共に、多 頻度小口配送による納品が一般化してきたため だ。
背景には同業界における環境対策の高まり がある。
無駄な資材を現場に持ち込まないこと や、極力ゴミを発生させない現場作りが社会的 に急務となっている。
そのために多頻度小口配 耐える企業体質を作ることでもあるのだ。
営業が軽運送を勝手に使用 改善プロジェクトチーム発足後、我々は本社 を含む各営業拠点からの受注を一手に処理して いる千葉県某所の物流センターを久々に訪れた。
前回の活動の訪問時と比べて作業件数は格段に 増加した。
現場は皆忙しく動き回っている。
し かし、以前のように作業者が商品を探し回った り、縦横無尽にフォークリフトが走り回ったり ということはなかった。
前回の改善から時間が だいぶ経過しているにも関わらず、現場は元の 姿に戻ることもなく、効率的な運用を維持して いた。
それを見て、B社の改善に対する意識の 高さや、現場で働く作業員の仕事に対する忠実 な姿勢を改めて認識することができた。
我々はまず配車担当者のA氏にヒアリングを 行った。
A氏としては配送費削減への意識を常に持っており、配送車両の台数を削減するため に積載率を向上させて全体の配送頻度を低下さ せようと努力しているようだった。
そのA氏は ヒアリングの中で、配送費を増大させている原 因の一つとして、次のような問題点を指摘した。
営業担当者の手配による軽運送車両の使用が 増大しているというのである。
A氏自身も出荷 作業ミスのリカバリーや、クレーム処理を迅速 にするため、やむを得ない場合には軽車両を活 用することがあるという。
しかし、最近はA氏 の知らないところで営業担当者が勝手に軽運送 業者に配送を依頼しているというのだ。
昨年頃 から対売上高配送費比率が増大してきたことか ら、A氏が配送費明細をチェックしたところ、A OCTOBER 2005 60 多い。
しかも、納品先は九〇%以上が建築現場 であることから、全てが手降ろしである。
ドライ バーの負担は非常に大きい。
ところがB社と協力物流企業との間に結ばれた運送契約内容は、二t車一日当りの基本料金 二万八〇〇〇円(仮)+距離超過に対しての付 帯料金しかついていなかった。
近郊で何軒も配 送しているドライバーより、遠方へ一〜二件配 送しているドライバーのほうが高運賃というこ とになれば近郊で配送しているドライバーのモ チベーションは低下するはずである。
しかも何回走っても運賃は一緒だ。
そのため 本来であれば一日に二回、三回の往復ができる はずのルートを回っている車両がなかなか帰っ てこない。
配車担当者は時間に迫られた挙句、新 たな車両を追加で調達する。
その結果、新規基 本料金二万八〇〇〇円(仮)が新たに発生して しまい、この分が配送費増となっていた。
配送によって得られるB社のメリットを評価 基準にすれば、配送距離ではなく、売り上げに 貢献している車両(ルート)すなわち、多くの 現場に多くの商品を運んでいる車両を高く評価 する契約でなければならないはずである。
次に?の軽運送の利用であるが、これは前述 の配車担当者A氏からのヒアリング内容を、そ のまま数値で証明する形となった。
すなわち営 業担当者が自分達で軽運送を利用していた分が コスト増の大きな原因であった。
軽運送の運賃 は一台当り一日/二万円(仮)と通常のルート 配送車両と大して変わらないレベルだった。
こ れを多いときには日に四〜五台使用していた。
し かもその際に発生したコストを営業経費ではな 氏の身に覚えの無い軽車両代金が物流費に加算 されていたという。
A氏の話を踏まえ、次に営業部長にヒアリン グを行った。
確かに、営業担当者が依頼する軽 車両は最近多くなってきているという。
「最近は、 客からの時間指定が厳しくなってきているから ね。
通常のルート便では間に合わないところは 軽車両を手配している営業マンもいるみたいだ な」と営業部長。
これに対して「それでは配送 費を管理している配車マンのAさんの知らない ところでコストが発生していることになるじゃな いですか」と我々が詰め寄ると、営業部長は「そ れはそうだが…。
サービスレベルも低下させられ ないし…。
クレームを受けるのは営業マンだか らねぇ…」と歯切れの悪い言葉を残した。
さらに我々は、B社から一年分の配送明細を 預かり、委託物流企業別の運賃分析、また配送 ルート別の運賃分析を行った。
そこから以下の ような課題・問題点が抽出できた。
?本来、一台で一日二〜三回配送できるはずの ルートで配送が遅延しており、毎日のように 追加便を走らせていた ?軽運送への支払い運賃が前年比二〇%増とな っていた ?の追加便についてさらに調査を進めると、運 送契約の問題からドライバーのモチベーション が著しく低下していることが分かった。
B社は ネジやワッシャーといった小物から、鉄パイプや バルブなどの重量物までを取り扱っている。
物 流業界でいう、いわゆる「ゲテモノ」の荷物が く、配送費という形で計上していた。
これでは 配送費が増大するのも無理はない。
この事実を営業部長に突きつけると、バツが 悪そうに「最近は、急を要する注文やイレギュ ラーな受注が多いのも確かなんだよ。
それに対 応しようとしたら、どうしても軽車両が必要な ときだってある」と応えた。
確かに、売上高も 受注数も増えている以上、イレギュラー配送の 増加にはやむを得ない部分もあるのであろう。
し かし、我々は営業担当者の怠慢もかなりの割合 で隠されているのではないかと推測した。
営業担当者の意識が変わった 以上のことを踏まえ、我々は二つの問題点に 対し、?に対しては「運送契約体系の見直し」。
?に対しては「営業担当者が調達した軽運送に よる配送費の管理」という解決策を提示した。
このうち「運送契約体系の見直し」には当然、協力物流企業各社の協力を仰がなければならな い。
早速、B社物流センターの会議室において、 我々を含むB社メンバーと配送を委託している 協力会社四社の代表による話し合いの場を設け た。
我々からの提案内容は以下の通りである。
?超過距離割増の発生する距離を一〇〇?以降 から一五〇?以降に変更する。
?近郊ルート便に関してはルートごとに担当物 流企業を固定し、二回目、三回目の配送につ いて追加割増料を支払う。
その代わりに担当 ルートの遅延による配送車両台数の追加につ いては二回目、三回目の配送と同等とする。
61 OCTOBER 2005 ?については事実上、運賃の値下げ交渉にな ってしまったが、幸いにも遠方コースだけを担 当しているという会社が無かったこともあって、 全社理解を示してくれた。
?についても反論が 出ることを予想していたが、案外すんなりと理 解を得られた。
後である協力物流企業の代表者 に聞いたところ、実はこんな裏話があったとい う。
通常便のドライバーの帰りが遅延するため に、B社が別途調達することを余儀なくされて いたスポット輸送は、今回の交渉に参加してい る四社以外の物流企業に委託されていた。
四社 としては自社のドライバーの遅延が目立ち、質 が低下していることは否めないため、スポットの 協力物流企業に通常の配送まで取られてしまう のではないかと心配していたというのだ。
それが今回の契約内容の変更によって、それ まで協力物流企業の裁量に任せていた担当ルー トの車両のやりくりは固定化され、二回目、三 回目の配送については新たに割増料金がつくこ とになる。
つまり協力物流会社としては売り上 げの安定と拡大を得られるわけである。
固定の 配送ルートの四社への割り振りでは、各社の多 少の駆け引きはあったものの最終的にはバラン スの良いコース配分ができた。
B社はこの契約体系の見直しによって、コス ト削減の他にもう一つのメリットを得ることが できた。
それまでかなりの激務だった配車担当 者の負担を軽減させることができたのである。
こ れまで配車担当者は各コースのドライバーと直 に連絡をとりながら、遅延が発生しそうになる と別の車を調達したり、他のコースの車両をヘ ルプに回すといった調整に追われていた。
それ が今回のコースの固定化で解消された。
新体制では各コースの進捗状況や、遅延が発 生しているコースへの対応は原則として各協力 物流企業の配車担当者が行う。
B社の配車担当 者は、それらのもう一つ上に立ち、業務全体の 進捗状況確認を行うことができるようになった。
次に?の営業担当者が調達した軽運送費用の 管理では、センターの通常の配送費と、営業が 独自に調達した配送費を分離。
さらにイレギュ ラー配送を調達した営業担当者の名前と費用な どをチェックできるようにした。
実施当初K社長は、「営業担当者のコストを管 理するだけで本当に効果があるのだろうか」と 懸念を表していたが、実際には大きな成果を得 られた。
営業担当者の物流コストに対する意識 自体が改善されたのである。
これまで営業担当 者は、いざとなったら軽運送を使えば良いと、安 易に時間指定を受けてしまう傾向があった。
そ こで発生するコストは物流センターの配送費と してしか管理されていなかったために、コスト増 への責任意識が全く無かったのである。
新たな体制に移った次の月から営業担当者に よる軽運送の調達は、月に二〇件以上あったも のが一〇件以下に半減した。
つまり、これまで も急を要する注文やイレギュラーな受注が多か ったわけではなく、営業担当者が受注入力を忘 れていたり、受注ミスがイレギュラー輸送の理 由の大半だったのである。
これらのミスが表に 出る管理体制になったことで「軽車両を走らせ ればいいや」という意識が消えたのだ。
もちろん今でも得意先から本当に緊急の依頼 が来たときや、他の要素が原因で軽運送を使用 することはある。
しかし、それについても原因と 責任の所在が明確になったことで、改善策を講 じることができるようになった。
配送費率は七・四%から四・六%に 今回、この二点の改善策を三カ月かけて現場 に定着させた結果、改善前の年には最大で七・ 四%(月)だったB社の売上高に占める配送費 の構成比を、四・六%(改善後三カ月平均)ま で下げることができた。
コストが上昇し始めた 昨年の最も低い月をさらに下回る数字である。
この結果にK社長は大変喜ぶと同時に、今回 の改善によって反省点も多く見つかったという。
「コスト削減が成功したことは喜ばしい。
しかし 自社の部署間を越えたコスト意識の低さや、連 携の悪さが露呈したことは今後の反省点だ。
企 業の規模が大きくなればなるほど、個人の視野 は狭くなる。
自分たちが誰に対してサービスを提供していて、どうやって利益を出していくの か。
改めて皆で考え、支えあう会社にしなけれ ばならない」とK社長。
この言葉で今回の配送 費削減プロジェクトは解散となった。
これからB社はさらに成長を続けるだろう。
事 業の規模が大きくなり、従業員が増え、取引先 企業が増えることで、今回のような落とし穴も 増えていくことだろう。
しかし、B社にはK社 長始め、社内に改善意識の高いメンバーが数多 くいる。
企業の成長と共に、このようなメンバ ーを増やすことができれば、経営の落とし穴を 事前に発見して改善していけるだろう。
その時 に、また我々をお呼びいただけるのであれば嬉 しい限りである。

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