ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年4号
特集
儲かる中国物流 日系物流企業が現地で儲ける方法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2009  26 日系物流企業が現地で儲ける方法  日系物流企業は国際輸送の利益で国内事業の帳尻を合 わせる中国物流から早く脱却する必要がある。
当初から 国内物流を狙って中国市場に参入し、ゲリラ的な展開で 事業を着実に拡大している二つの中堅企業がそのヒント を与えてくれる。
            (梶原幸絵) 日本流サービスの収益性  ニチレイロジグループは二〇〇四年に合弁で低温物 流会社、上海鮮冷儲運を設立し、中国の低温物流事 業に参入した。
三六五日稼働の低温物流センターを運 営し、上海地区のローソン、日系卸、料理店向けに食 品の保管・配送業務を行っている。
配送先はローソン の三〇〇店舗を含めて八〇〇カ所に上る。
 センターからの出荷はピース単位。
上海ではテナン ト料が高く、店舗のバックヤードに商品を在庫する余 裕はない。
中でもローソンの店舗には一日二便で配送 し、多頻度小ロットの配送ニーズに対応する。
センタ ーには日本人駐在員が常駐し、日本同様の日付管理、 温度管理を行っている。
顧客ごとの業務マニュアルと 連絡体制も整備。
問題が起きても即座に原因を追跡 できるようにしている。
 そのサービス品質には定評がある。
ローソンの監査 では二年連続で指摘事項ゼロを達成。
高い評価を受け ている。
配送面でも納期に間に合わせ、ミスを抑える ために多くの時間と人手を費やす。
上海ではビル内の 貨物の搬入ルートが整備されておらず、ビル一カ所の 配送に一時間かかることもある。
また、路面店でも 段差のために台車が使えないことがある。
新人ドライ バーには教育係を一人付け、業務を覚え込ませている。
 同様に、最高水準の品質が求められる自動車産業 を主要顧客とする日本郵船グループは、中国でも部品 から完成車までの物流を一貫して行い、日系三大自 動車メーカーのほか、ポルシェ、GMなどを顧客とし ている。
物流事業会社のNYKロジスティックス・チ ャイナ(日郵物流〈中国〉)は二〇〇〇年の設立。
海 上フォワーディング、雑貨などのバイヤーズ・コンソ リデーション(買い付け物流)とともに自動車物流を 事業の三本柱の一つに位置付け、現地自動車産業の 成長に合わせて事業規模を拡大してきた。
昨年の売 上高は設立当初の一〇〇倍以上に達し、航空輸送を 除いた比較では日系物流業者の中でも最大規模とい う。
従業員数は派遣のドライバーや作業員を含めると 一八〇〇人近い。
 成長の原動力はやはり品質管理。
それだけ作業員 とドライバーの教育には多大な労力とコストをかけて いる。
目標を達成したドライバーに報奨金を支払うな どの施策もとっている。
車両にはGPSを搭載して動 静や荷台のドアの開閉をチェックするなどハードへの 投資も怠らない。
 ただし、品質に見合った料金が収受できているわけ ではない。
上海鮮冷儲運の北野隆志董事長兼総経理 は「設立当初は基盤を固めるために何でもやる必要 があったが、〇七年頃から不採算の仕事を整理する ことで〇八年には黒字を達成した。
ただし、日本人 駐在員のコストはまだ本社持ちだ」という。
日郵物流 (中国)の自動車物流も事業規模こそ拡大しているも のの収益面では苦戦を強いられている。
 収益改善のポイントは現地化だ。
現在、日郵物流 (中国)の日本人駐在員数は十二人。
「中国人が管理 職に就き、さらに経営層に入れば日本人は一人もし くはゼロでいい。
コストの問題だけでなく、中国で事 業を拡大していくためには人員を現地化し現地に根付 いていかなければならない」と藤井章宏董事・総経 理は強調する。
 日本通運、山九と並び中国物流?御三家?の一つ に数えられる日新も今後三年ほどかけて日本人駐在員 数を三割程度削減する方針だ。
現状は五〇人強。
駐 在員数では同社最大の派遣先国となっている。
しか し中国の国内物流は、物量は膨大でも物流事業の売 物流ネットワークで国内需要を開拓第3部 特集 27  APRIL 2009 上規模としては日本や欧米先進国よりもひと桁小さ い。
現場に日本人を投入してペイする市場ではない。
 物流企業と比較して人件費の割高な総合商社の場 合は、さらにその影響が大きくなる。
そのため三菱商 事は〇五年に日通と共同持ち株会社の日通エム・シー 中国投資を設立し、現地のオペレーションを日通側に 委ねる体制に移行している。
三菱商事は三菱倉庫や 中国企業などとの合弁で上海浦菱儲運(現・上海日 通浦菱物流)を設立し、中国のほぼ全土をカバーする 国内輸送網を他社に先行して築いたが、それを日通 エム・シーの傘下に収めた。
 その後、日通は上海日通浦菱物流の物流配送網を 拡充し、現地法人一八社・一〇二拠点のネットワーク と国際輸送を組み合わせたサービスメニューを整えて いる。
なかでも上海日通浦菱は内需の高まりで追い 風を受けている。
今年は日用雑貨などの内陸部への 配送ニーズに対応し、定期混載便の対象都市を八〇 都市から一〇〇都市に広げる予定だ。
 三井物産も国内物流は現地の有力企業をパートナー としている。
三井物産(上海)貿易の外山康二副総 経理・物流部部長は「ローカル並みの値段と日本に近 いクオリティを打ち出さなければ、中国市場では勝負 できない。
そのため現地の有力企業と手を組みローカ ルのサービスに日本式の味付けを加えている」と語る。
 今年、国内物流に本格参入する丸紅は、上海市交 通局系の国有企業、上海交運国際物流に三四%(約 四一億円)を出資した。
三月にも社名を上海交運日 紅国際物流に変更する予定だ。
上海交運は一般貨物 から冷凍・冷蔵貨物、化学品・危険品、重量物輸送 まで手がける華東地区最大の物流企業だという。
 出資はするが、可能な限り人は出さない。
それが総 合商社の中国国内物流のスタンスだ。
これに対して物 流企業は現場のオペレーションから離れられない。
そ の上で利益を出すにはどうするか。
中国ブームの以前 から国内物流に軸足を置いて中国市場に参入し、現 地に根付いた運営を実現している二つの日系運送会 社がそのヒントを与えてくれる。
現地のドライバーを管理職に  その一つが遠州トラックだ。
一九九三年に中国に進 出し、徹底したローコスト運営で国内事業を軌道に乗 せている。
現在は大連、北京、青島、上海の現地法 人を含めて主要都市に二二拠点を展開し、自社便によ るトラックの定期混載輸送、すなわち日本の路線便を 現地で運用している。
拠点はハルビンやウルムチ、昆 明まで広がり、現在の年商は投資金額の三倍に成長 した。
 中国事業の基盤は、現法の親会社に当たる日本の 中国遠州コーポレーションの落合岐良社長がいちから 作り上げた。
落合社長は中国遠州だけでなく、現法 四社の経営トップを一人で兼務している。
日本人の給 与負担を分散することで、各社から支払われる給与 を現地の水準に抑えている。
 当然ながら落合社長は毎日のように各地の現法を飛 び回らざるを得ない。
不在時に現場の指揮を振る右腕 が各拠点に必要になる。
そのため「早くから現地化 を図ってきた。
中国でも物流業は泥臭い商売でインテ リは集まらない。
給与水準も低い。
しかし学歴はな くとも優秀な金の卵はたくさんいる。
そうした人に日 本の品質、物流技術を教え込んだ。
彼らが競争力の 源泉になっている」と落合社長はいう。
 新興国の国内物流においては、最終的に日本側は 戦略立案と投資、新規顧客の開拓に特化し、後は中 国側に権限を委譲して管理・運営を任せなければ利 日郵物流(中国)の藤 井章宏董事・総経理 上海鮮冷儲運の北野 隆志董事長兼総経理 上海鮮冷儲運の低温物流センター。
倉庫面 積は2700?。
ピース単位で店舗別に荷揃 えし、出荷する 上海交通国際物流傘下の低温物流会社、上 海交栄物流の低温物流センター。
倉庫面積 は1 万9700?。
テスコ向け配送なども 行っている 三井物産(上海)貿 易の外山康二副総 経理・物流部部長 APRIL 2009  28 益は出ない。
そのためには「こつこつと地道に仕事 を通じてお互いの信頼関係を築いていくしかない」と 落合社長は考えている。
 東大阪市に本社を置く丸協運輸も、遠州トラックと 同様に国内のトラック混載輸送を武器にする。
九四年 に上海の北西、約一〇〇キロの距離にある河川港、張 家港に中国現地法人として丸協運輸貿易を設立した。
進出を決めたのは、アパレルと雑貨の物流加工の引き 合いがあったことがきっかけだが、基本的には創業社 長の渡部司・現会長が将来の経済成長を見越した先 行投資だったという。
 当初からトラックを使った長距離混載輸送を事業の 中核に据えた。
チャーター輸送では差別化が難しいと 判断したからだ。
といっても自社便でネットワークを 仕立てたわけではない。
中国の大都市周辺には現地 のトラック業者が集まり方面別に貨物を交換する「ト ラックステーション」が必ず設けられている。
これに 目を付けた。
 上海から成都に混載便で貨物を輸送する場合であ れば、上海のトラックステーションに貨物を運び込み、 そこで成都方面に行くトラック業者に配送を依頼す る。
その業者によって成都のトラックステーションま で運ばれた貨物は、さらに市内配送のトラックに積み 換えられて最終的に納品される。
 この仕組みを使えば配送コストは格安だ。
ただし最 低でも二回の積み換えが発生し、破損や貨物の紛失 など事故につながりやすい。
リードタイムも読めない。
そこで、各地のトラックステーションで比較的規模の 大きなトラック業者と代理店契約を結んで輸送網を組 織し、貨物の発地と着地のステーションに監視役を置 いて指導を行うことにした。
 責任者となる業務部長には現地のベテランドライバ ーを起用した。
ドライバー出身だけに現場の事情には 精通している。
ドライバーの言い訳やウソもよく見抜 く。
一〇年かけて代理店契約を結ぶトラック業者の選 別も進めてきた。
その結果、「混載便の管理は品質と 納期の面で中国一。
チャーター便と変わらない品質を 混載便でも出せるようになった。
これまでに砂漠地 帯への輸送を請け負ったこともあり、ラサ以外の中国 全土への輸送実績がある」と丸協運輸貿易の神並充 総経理は胸を張る。
価格と品質のバランスで差別化  現在、丸協運輸貿易は上海、張家港、北京、広州、 成都の五都市に自社拠点を置き、売上高は年率三〇% のペースで成長を続けている。
もっとも売上規模は七 億円と大きくはない。
昨年は金融危機の影響も受け、 前年比一五%増と成長ペースが鈍った。
それでも今年 の二月に入って例年の二倍の引き合いが集まっている という。
荷主がコスト削減の一環として輸送費の見直 しを進めているためだ。
 定温倉庫事業でも低価格を売り物にしている。
中 国では定温倉庫が少なく、二〇度前後で保管する貨 物でもチルド倉庫を使わざるを得ないことが多いとい ──中国でも輸出入を中心に荷動きが落ち込んでい ます。
 「昨年九月頃から減速し、十一月からは目に見えて 取扱量が落ちています。
お客さまの生産は四〇%〜 五〇%減にまで落ち込んでおり、当社の中国法人一 〇社の売上高は大体一〇%減という状況です」 ──元々、中国の日系物流業者の経営はかなり厳し い。
日本人駐在員の経費を日本本社が持ってもよく てトントンです。
 「当社もこれまでトントンくらいできていましたが、 「支配貨物を増やせば利益は出せる」 姫田正規執行役員 山九 ロジスティクス・ソリューション事業本部 副本部長兼中国事業部長 Interview 丸協運輸の 渡部智社長 丸協運輸貿易の 神並充総経理 中国遠州コーポレー ションの落合岐良社長 丸協運輸貿易の物流セン ター。
5S を徹底して品質 を高めている 特集 29  APRIL 2009 う。
そこで倉庫に空調設備を導入し、チルド保管の半 分以下の料金で貨物を引き受けた。
こうした戦略が 当たり、上海地区での常温・定温の倉庫面積は三万 平方メートルになっている。
 丸協運輸や遠州トラックが中国で提供しているサー ビス品質を、そのまま日本と比較すれば、まだ差があ るかも知れない。
しかし、コストは他の日系物流企業 よりもずっと安い。
高付加価値品からボリュームゾー ンに事業領域を広げようとしている日系荷主企業の 戦略にはきちんと合致する。
景気の減速も両社にと ってはむしろ追い風になる。
 丸協運輸の次の目標は中国荷主の開拓だ。
現在の 顧客は日系荷主が九割以上を占める。
中国企業も最 近では物流品質を意識するようになってきたのに対応 し、営業を強化する。
ただ、中国企業との取引では 代金回収の問題が起こってくる。
このため、自社で 独自に信用調査を行ってランキング表を作成し、日系 メーカーの主要サプライヤーなど信頼性の高い企業か らの受託を目指す。
 「今年の売上高は二二%増を計画しており二〇一〇 年には売上高一〇億円を目指す。
利益率は日本人駐 在員のコストを一部日本で負担した上で二%〜三%だ が、中国の混載事業を日本国内で展開している共同 配送と結びつけることで当社独自の展開をしていき たい」と、丸協運輸の渡部智社長は夢を描く。
 中国の内陸輸送に海上コンテナ混載を組み合わせ、 それをさらに日本国内の共同配送ネットワークまでシ ームレスにつなごうという構想だ。
国際物流から入っ て中国の国内物流に展開していった大手日系物流会 社や総合商社とは全く逆のアプローチだ。
中国物流の 事業モデルには、まだいくつもの選択肢が可能性とし て残されている。
今年は厳しくなりそうです。
収益性を高めていく必 要がある。
それには支配貨物を増やすことが重要で す。
貨物取扱量が大きければ、例えばトラックの帰 り便を活用する往復の物流が可能になります。
効率 的な物流の絵をたくさん描けるようになる」 ──トラック運賃も下がっているようですが。
 「燃油価格が下がった分、昔に戻っているというと ころでしょうか。
燃油価格の上昇分を転嫁できたのは 一部でしたし、中国ではそれほどトラック運賃は乱高 下していないという印象です」  「これまで毎年ビッドをしていたのを見送るお客さ まもいます。
これ以上運賃は下がらない、逆に上が る恐れがあるといった考えがあるのかもしれません。
それくらい、中国の運賃は元々低かった」  「しかし荷動きが減少しても、あまり悲観的になる のはいかがなものかと思います。
個人的には今の状 況でも悲観はしていません。
落ち込んだ中にもビジ ネスチャンスはあるからです。
お客さまは減産を進め ていますが、その中で物流の集約・再編を検討して います。
新しいパターンの物流が生まれようとしてい る。
それほど多いというわけではありませんが、こ れまで当社が取り扱っていなかった物流の引き合い が出てきています」 独資化のメリットは大きい ──荷動きの回復にはどれくらいかかるとみていま すか。
 「あと一年半くらいはかかると考えています。
人 口が多く市場が大きいだけに、少しでも回復すれば 効果は大きいはずです。
現状でも自動車メーカ ーの中には、減産を見 直しているところもあ る。
牽引役の自動車が 元気になれば、どのア イテムも増えていく」  「また、中国政府には このままじゃいかんという強い意志があります。
政 府が内需を拡大するといったら必ずする。
大胆なこ ともできますから、中国に関しては大きく崩れると いうことはないでしょう。
農民工の問題が取りざた されていますが、組織する人がいないため、全国的 な暴動に発展する可能性は少ないと思います。
黄河 流域の砂漠化で水がなくなる、などの環境面の懸念 の方が大きい」  「われわれとしてはこの一年半の間にもう一度内 部をきちっと固めていきたい。
具体的には各合弁会 社の合弁相手から株式を買い取って出資比率を引き 上げ、独資(一〇〇%出資)にしようとしています。
当社は早くから中国に進出し、各地域に合弁で現地 法人を作っていきました。
今では物流業への外資規 制は緩和されていますが、歴史的にはそれしか手段 がありませんでした。
これが今、一番大きな経営課 題になっています」 ──独資化の目的は。
 「グループの方針を貫徹できる経営環境を作り、ネ ットワークを充実させていくことです。
作業には数 年前に着手しました。
手続きは煩雑で段階的に手順 をずっと踏んでいくので、時間はかかります。
です が北京と南京の現地法人は既に完了しました。
大連、 広州も近々の予定です」 ──中国側の合弁相手がいなくなることで、事故な どのトラブルや法令の解釈で不都合が起こることはな いのでしょうか。
 「それは確かにあります。
しかし、当社の現地法人 には副総経理をはじめとする中国人社員がおり、彼 らの力を借りることができます。
政治が絡むような 大きなトラブルとなればさすがに無理ですが、通常 の経済活動の中では独資のメリットの方がはるかに 大きい。
比較の問題です。
それに例えばの話ですが、 労務問題で訴えられたとしても、法令を守ってきち っとしていれば、平たくいえば悪いことをしていな ければ平気です。
事故でもすべて保険をかけている ので、通常のルールの中で処理できます」

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