ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年10号
海外トレンド報告
第18回『ICPR』イタリアに参加して

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

日本からの参加者が最多 第一八回の「ICPR(International Conference on Production Research)」が、 七月三一日から八月四日まで、南イタリアの サレルノ大学で開催された。
筆者はこの国際 学会に出席して、新しい在庫理論「APIM」 の研究発表をしてきたので、以下に報告する。
ICPRとは二年に一回開催される経営工 学分野における世界最大規模の国際学会であ る。
当初は機械工学やロボット工学を含む自 動化技術等、ハードウェアの生産技術を中心 としていたが、一九七七年の東京開催以降、 生産管理など大幅にマネジメント分野を取り 込んで領域を広げている。
また、この東京会議においてトヨタ自動車 が「Toyota production system and OCTOBER 2005 76 第 18 回『ICPR』イタリアに参加して TSCコンサルティング 勝呂隆男 経営工学分野における世界最大の国際学会「ICPR」の第一八回大会が今 夏、イタリアで開催された。
トヨタ生産方式の最新動向を始め、SCMやロジ スティクスに関する数多くの発表が行われた。
今回の大会に日本から参加し、独 自の在庫理論を発表した筆者が、現地の様子を報告する。
すぐろ・たかお1985年、早稲田 大学大学院理工学研究科修士課程修 了。
同年、東芝入社。
生産技術研究 所勤務。
99年独立。
TSCコンサル ティングを設立。
現場改善やSCM 構築支援を中心としたコンサルティン グ業務を数多く手掛ける。
Kanban system: Materialization of a justin- time and respect-for-human systemモ (Y.SUGIMORI, K.KUSUNOKI, F.CHO and S.UCHIKAWA)」と題し、初めて「TPS (Toyota Production System)」を世界に発 信した国際学会としても知られており、その 時の発表者の一人が現在のトヨタ自動車副会 長の張富士夫氏であった。
当時の生産技術者 や、今でいうロジスティクス関係者は、IC PRに駆けつけてトヨタ生産方式を研究した という。
今年のイタリア大会は、ナポリに近い保養 地サレルノで開催された。
七月三一日夕刻に サレルノ市長主催のウェルカム・パーティー がサレルノ・タウンホールで行われた。
写真 ?はパーティー会場の様子である。
会場には 日本からの出席者が非常に多く、後から確認 したところ全参加者約八〇〇人中二三%を占めてNo. 1だったということである。
ちなみに、前述の東京大会以降の運営では (社) 日本経営工学会を中心とする日本勢の存在 が大きく、会議の主催団体である「IFPR (International Foundation for Production Research)」のボードメンバーには複数の日 本人研究者が名を連ね、今年のIFPR理事 会では金沢工業大学教授の石井和克氏が副会 長に選出されている。
この分野において日本 が世界をリードしていることがうかがえる。
今回の一八回大会には、四二カ国から約八 〇〇人が集まり五〇〇件近くの発表がなされ た。
四日間の口頭発表は、 図1に示す通り七 つのトピックスからなる研究が八六のセッシ ョンに分けて行われた。
写真?はサレルノ大 学のキャンパス風景、写真?は大学内に設置 された参加者向けのインターネットコーナー、 写真?は大会の事務局の置かれたホールの様 子である。
筆者は、「Session10(Supply Chain Management 1)」のしんがりを務め、 「Advanced Production and Inventory Management」と題する発表を行った。
かね てより提唱している、新しい在庫理論「AP IM」の研究成果とその適用例の紹介である。
その概要を 図2に示し、発表している様子を 写真?に示した。
サプライチェーンマネジメントのセッショ ンは参加者からの関心が高く、セッションの 途中からもどんどん聴講者が増えてきた。
大 勢の聴衆を前に緊張したが、「安全在庫の古 典理論は実務家の間では使い物にならないと 言われることが多かった」というくだりで、研 究者の自嘲とも思える苦笑が何人かの方々か ら漏れるのが見えたあたりから、ペースをつ かむことができた。
「需要をどのような理論分布でとらえたの か」、「APIMの適用できる製品・市場・業 種はどこか」等々、かなりつっこんだ質疑応 答が活発に行われ、最後にはチェアマンのC. O' Brien氏から「Congratulation! 」の祝福を 受けて、充実した発表の場を持つことができ たように思う。
最後の祝福は、産業界からの 発表ということで優遇されたのだと思う。
トヨタ生産方式の新しい方法論 産業界からは先のトヨタ自動車が今回も発 表し、酒井浩久氏が「"Intelligence TPS, Key to Global Production Strategy Advanced Science TQM : TPS-LAS Model Using Process Layout CAE System at TOYOTA"(HIROHISA SAKAI and KAKURO AMASAKA)」というテーマで、 トヨタ生産方式の新しい方法論についての発 表をされていた。
酒井氏は、グローバル生産推進センターで 77 OCTOBER 2005 ?ウェルカム・パーティー?サレルノ大学のキャンパス風景 ?会場内インター ネットコーナー ?大会事務局ホール?発表風景 トヨタ生産方式グローバル展開の秘密兵器 「ビジュアル・マニュアル」を開発したことで 知られるエンジニアである。
トヨタではかん ばん方式や精神論のトヨタ式にとどまらずに、 経営工学分野において先進的な研究開発を積 極的に進めていることがうかがえる。
ロジスティクスやサプライチェーンマネジ メント関係の発表では、「?" S u p p l y Optimization for the Production of Raw Sugar"( M.Grunow, H.-O.G nther, R.Westinner)」, 「 ?"The Inventory Management Study by using Radio Frequency Identification System" (J.H.Kuan, G.L.Lai, H.L.Fu, S.W.Huang)」, 「?"Capacity Decision of Supply Chain with Flexibility of Backward Integration" (L.Wang, L.Liu, Y.Wang)」などが興味深か った。
?は砂糖生産におけるサプライチェーン最 適化研究、?はRFIDを活用した在庫管理 システムの開発事例、?はサプライチェーン 上の能力決定に関する基礎理論研究である。
?は台湾、?は中国からの発表で、生産分野 ではビジネス面だけでなく学術面でも中国人 の活躍が目立っている。
日本における、IEや生産管理、ロジステ ィクスを中心とする経営工学は、かつて欧米 先進手法の導入に力点が置かれ、研究者の活 動も欧米へのキャッチアップと産業界への啓 蒙教育が中心であった。
その後、産業界が独 自に開発した経営手法が世界的に注目される ようになると基礎的な研究が顧みられること が少なくなったようである。
しかし近年は、生産活動のグローバル化と IT化の流れの中で再び基礎的な理論研究に 期待が集まっている。
グローバル化対応のた めには、勘と経験ではなく普遍的な理論手法 が必要とされるし、ITを活用するためには 経験知・暗黙知を理論に基づく形式知に置き 換えることが要求されるからである。
筆者開発の新しい在庫理論「APIM」も、 実践経験をふまえての基礎理論の見直しから 生まれたもので、日本経営工学会における研 究交流活動がそのベースとなっている。
七月 一五日付けで特許が成立し、需要予測誤差を 基に安全在庫を算出する計画生産対応機能と、 需要の曜日パターンや月末集中などを考慮す る機能を追加した新システムが完成している。
ユーザー企業も着実に増加し、適用事例を積 み重ねているところである。
そんな中で、今 回のICPRにおける日本勢の健闘は基礎研 究分野からも日本のモノづくりの将来に期待 を抱かせる内容だったように思う。
四月二九日の論文採択通知から三カ月とい う短期間で準備ができたのは以下の多くの 方々のご指導のおかげである。
青山学院大学 名誉教授・黒田充氏、早稲田大学教授・吉本 一穂氏、上智大学助教授・伊呂原隆氏、電気 通信大学助手・山田哲男氏には、発表準備段 階でのご指導をいただいた。
この報告をまと めるにあたり、金沢工業大学教授・石井和克 氏、ソニー生産戦略本部生産革新センター 長・金辰吉氏にはICPRに関する貴重な情 報を教えていただいた。
心より感謝申し上げ たい。
最後に本筋とは離れる内容であるが、八月 初旬のイタリアTV放送でヒロシマ・ナガサ キが大きく取り上げられていたことを申し添 えておきたい。
八月六日、九日の原爆記念日 と前後して、各チャンネルが連日のニュース や一時間枠・二時間枠の特集番組で歴史的背 景と被爆の実態、そして今年の平和式典の様 子をさかんに報道していた。
戦後六〇周年の 節目の年ということもあろうが、日本におけ るよりも多い報道量に驚き、海外でこのよう に報道されることの意義を考えると、平和へ のメッセージを流し続けることの重要性を再 認識したことをお伝えしたく付記した次第で ある。
OCTOBER 2005 78

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