ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
ロジビズ再入門
メーカーのロジスティクス戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 66 多段階でメーカー別縦割りのサプライチェー ンを改め、工場と店舗間をフルラインの品揃 えを持つ中間流通拠点一カ所で結ぶことでト ータルコストを最小化する――それが日本市場 におけるSCMの基本的な方向性だ。
しかし 同じビジョンを共有しながらも、それを実現す るための戦略には各社で大きな違いがある。
今 回は日用雑貨品業界を例に、メーカーのロジ スティクス戦略をケーススタディする。
花王 VS 「反・花王連合」 小売りの専用センターによる「一括物流」の 拡大が、メーカーにロジスティクス戦略の見直 しを迫っている。
戦後の日本市場のサプライチ ェーンは、基本的にメーカーの主導で構築され た。
各産業の大手メーカーは、自社製品の販 売代行機能を持つ特約店卸を地域ごとに配置 し、大量生産した商品を日本全土にあまねく 供給する体制を確立した。
なかには松下電器 産業やコクヨなど、末端の店舗レベルまで系列 化するメーカーも見られた。
こうしたメーカー別縦割りのサプライチェー ンによって、メーカーは末端価格や製品寿命 を容易にコントロールすることができた。
在庫 の配置や輸送ロットなどもメーカー側の都合で 設定することができた。
市場規模が拡大を続 け、旺盛な需要のある環境では、プッシュ型の サプライチェーンは有効に機能した。
しかし、市場規模の拡大が止まり、需給バ ランスが逆転すると、メーカー主導のサプライ チェーンに齟齬が生じてきた。
大量生産・大 量消費を前提にした重装備のインフラは、環 境の変化に柔軟には対応できない。
大量の売 れ残りが発生し、末端価格は崩壊。
サプライ チェーンの主導権はメーカーから小売りにシフ トした。
発言力を増した小売りは販売力を背景に、自 分にとって都合の良いロジスティクスをメーカ ー側に要請し始めた。
メーカーはそれに従わざ るを得ない。
要請の具体的な内容は、小売り の業態によって異なっている。
しかしメーカー の既存のインフラは、複数の物流サービスを使 い分けるようには設計されていない。
新たなイ ンフラ投資が必要になる一方、稼働率の下が った既存インフラの処理という問題が別に発 生した。
その対応策を現在、メーカー各社は模索し ている。
全国規模のチェーンストアの台頭に対 応して、これまで地域別に分散させていた販売 機能を集約。
これと並行して、これまで一体 化していた商流と物流を分離する「商物分離」 を実施――そこまでは各社でほぼ共通している。
しかし、商流と切り離した物流のオペレーショ ンを、誰がどのように担うかという点で各社の 対応は分かれている。
とりわけ日用雑貨品業界では、大手三社の 戦略の違いが鮮明になっている。
日本の日雑 業界は、最大手の花王が昭和四〇年代に卸を 中抜きして自社系列の販売会社による事実上 の直接取引に移行して以来、花王 VS 「反・花 王連合」という図式で動いてきた。
市場の末 端までの垂直統合を目指す花王というガリバ ーの存在が、ライオンやP&Gなどのライバル メーカー、そして花王に切られる形になった日 雑卸を団結させた格好だ。
そのため同業界では、反・花王連合による 共同化が他の業界以上に進んだ。
ライオンの主 導で一九八五年に設立された業界VAN(付 加価値通信網)会社のプラネットには、花王 以外のメーカーがこぞって参画。
ライバルメー カーがEDIのインフラを共有する業界VAN の数少ない成功例となり、プラネットは二〇〇 四年にはジャスダックに株式公開を果たした。
反・花王連合は物流の共同化も実施した。
共 同物流会社としてプラネット物流を設立。
花 王以外のメーカーの商品を共同保管し、一括 して卸に配送する体制を整えた。
ただし、この 物流共同化は業界VANほど成功していない。
もともとメーカー出荷段階の物流はロットがま とまりやすく、共同化のメリットが薄い。
これに加え、プラネットの活動領域がメーカ ー〜卸間に限定されていることが足かせになっ ている。
花王以外の製品をフルラインで扱える プラネット物流が、小売りの専用センターに直 送すれば物流の階層が減り、トータルコストの 低減が期待できる。
しかし反・花王連合は、そ の成り立ちから卸流通を前提にしている。
その ため卸の中抜きに繋がりかねない取り組みはタ ブー視される傾向にある。
たとえ物流機能だけ 第6回メーカーのロジスティクス戦略 67 OCTOBER 2005 であっても、メーカーが小売りと直接結びつく ことには抵抗がある。
このジレンマにライオン以下の反・花王連 合が立ち往生するなか、外資系のP&Gファ ーイースト・インクは、従来の特約店制度を 解体することで、それを乗り越えようとしてい る。
反・花王連合の一翼を担い、かつては「日 本企業以上に日本的」と言われるほど、伝統 的な卸流通を重視してきたP&Gは、九九年 に取引制度の抜本的な改革を行った。
事実上、 小売りとの直接取引の容認だった。
新取引制度では複雑で不透明だったそれま でのリベート制を廃止して、取引条件に応じ た工場出荷価格を新たに明示。
買い手が誰で あっても同じ価格体系を適用するようにした。
たとえ小売りであっても、大量に一括購入す れば、特約店卸よりも安い値段で仕入れるこ とができる。
工場出荷価格が同じ条件であれば、最終的 な価格競争力はロジスティクスの優劣によって 決まる。
卸であれ小売りであれ、最も効率的 にオペレーションできるものがロジスティクス を担うべきだ。
そんな考え方が、新取引制度 の背景になっている。
P&G自身にはオペレー ションを担おうという意図はない。
メーカーと して必要なオペレーションは全て3PLに委託 している。
専用インフラを業界プラットフォームに これに対して花王は、自社専用の物流イン フラを改造して、日雑業界の物流プラットフ ォームとして再活用することで、小売りからの 要請に応えようとしている。
過去には花王は小 売りの専用センターによる一括物流の要請に 最も強く反発してきた。
インフラ投資を重ねて 築き上げた垂直統合による強みを失ってしま うからだ。
しかし、小売りからの圧力が増加し、対応 を避けられないところまで追い込まれたことか ら、従来の方針を一転させた。
九六年に花王 システム物流を設立。
小売りの一括物流セン ターの運営を、花王システム物流が3PLと して受託することで、末端の物流を他社に手 放さない新しい仕組みを整えた。
この花王方式は、日雑業界以外の他の多く の産業界でも大手メーカーの常套手段となっ ている。
日本の大手メーカーはいずれも自社専 用の重い物流インフラを資産として所有して いる。
しかし小売りが自ら物流を手掛けること で、メーカー物流の役割は小さくなる。
そのま までは既存インフラの稼働率が下がる。
人員 削減や資産売却などの縮小均衡によるリスト ラは容易ではない。
そこで自社専用のインフラを小売り向けに 転換することで、3PLという新たな収益源 を生み出して雇用を維持しようという発想だ。
小売りのセンター運営では当然、ライバルメー カーの商品まで含めたフルラインの商品をハンドリングすることになる。
結果的に自社専用の インフラが、業界の物流プラットフォームとし て生まれ変わる。
全国規模のインフラを持つ最 大手クラスのメーカーだけに可能な戦略だ。
このように、日本市場におけるメーカーのロ ジスティクス戦略は今日、各社の業界内にお けるポジションや、チャネルパートナーとの関 係に大きな影響を受けながら、再編を余儀な くされている。
サプライチェーン上の役割分担 を改めて決定する経営判断が求められている のだ。

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