ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年3号
特集
物流不動産ファンド 倉庫・配送センター 市況レポート

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2009  30 連 載 倉庫・配送センター 市況レポート  首都圏、中部圏、関西圏の賃貸市況を中心に、物流不動産市 場の最新の動向を解説する。
「倉庫・配送センター市況レポート」 は国内主要都市の倉庫等物流施設の市況動向を調査・分析した ものだ。
主用途が倉庫・配送センターであり、かつ一般募集され た施設3682 棟を対象としている。
国内全般 過去最大の新規供給  二〇〇八年は、全国的に大型物流施設の開発ラッ シュとなった。
不動産投資家等による年間供給量は 〇二年に物流施設への不動産投資が始まって以来過 去最大となり、賃貸マーケットの拡大が顕著にみら れた。
一方で、昨今の不動産市況の悪化や建築コス トの高騰、不動産投資家等が開発計画を延期、凍結 するなどの動きもあり、〇九年以降については全国 的に新規供給量の抑制が想定される。
 賃貸市況動向としては、〇八年上半期(一〜六月) は新規供給物件が多くみられ、首都圏の空室率が大 きく上昇した局面もあった。
しかし同下半期(七〜 十二月)は大量供給が行われたものの、需要が大き く伸張したことで空室率は改善傾向を示している。
 物流業界の動向としては、景気低迷の影響を受 けて事業環境が悪化する企業もみられ、荷主企業や 物流企業が事業計画の意思決定までに時間をかける ケースが増えている。
首都圏 千葉・埼玉で賃料下落傾向  首都圏では、千葉・東京・川崎・横浜へと連なる 湾岸部、国道一六号線・埼玉県南部を中心とする内 陸部、常磐・東北・関越・中央・東名自動車道に 代表される高速道路インターチェンジ(IC)周辺 に物流施設が集積している。
首都圏の環状線である 圏央道の整備も進んでおり、同沿線周辺エリアの物 流拠点としてのポテンシャルの向上が期待される。
 物流業界の動向としては、景気悪化に伴う先行き に対する不透明感もあり、荷主企業、物流企業等が 事業計画を見直し、延期する等の動きがみられるよ うになっている。
テナントサイドの物件に対する選定 も厳しくなってきており、周辺環境や施設の使い勝 手などで物件を選別する動きがある。
 〇八年下半期の中・大型規模物流施設(募集面 積一〇〇〇坪以上)の募集賃料水準は、埼玉県で上 半期に比べ一・〇%減、千葉県で六・五%減、東京 都で五・四%増、神奈川県で一・五%増という結果 となった(図1)。
埼玉県、千葉県では下落傾向だが、 東京都、神奈川県では堅調な推移となっている。
 近年は大型供給が相次いだこともあり、テナント 獲得競争により賃料水準が実勢ベースでは弱含みで 推移するエリアもあるが、募集賃料ベースでは比較 的安定的な推移となっている。
現状では大型施設に 対する需要はあり、賃料水準も比較的安定的に推移 しているが、昨今の景気悪化に伴う企業の物流コス ト削減意識が強いことを考えると、今後大きく上昇 することは考えにくい。
 また、近年不動産投資家等により供給されている ランプウェー設置型施設等、市場競争力を有してい る施設の賃料水準が底堅く推移している一方で、中 小型施設やスロープが設置されていない多層階施設 等、競争力に劣る施設については、割安な賃料設定 を行う必要に迫られている。
 延べ床面積一万坪以上の大型マルチテナント型物 流施設の空室率をみると、〇八年九月期は一四・ 五%、十二月期は一五・〇%と上半期から改善傾向 がみられる(図2)。
〇八年九月期は新規供給がなかっ たこともあるが、十二月期は四半期ベースで過去最 高の五棟、約十一・五万坪の新規供給が行われ、空 室率の上昇が懸念されていた。
 それでも需要が大きく伸張したことにより、空室 率は微増という結果となった。
〇八年上半期は川崎、 横浜湾岸部で供給が集中的に行われたことで空室率 シービー・リチャードエリス総合研究所 鈴木公二 物流不動産市場レポート《特別編》 2008年下半期 特 集物流不動産ファンド いま何が起きているのか? 31  MARCH 2009 が大きく上昇し、マーケットの先行きに対する不透 明感がみられたが、直近においては新規供給が相次 いでいるものの、それによって需要も喚起され空室率 は改善傾向をみせている。
 各年の需要と供給の需給バランスをみると、〇五 年以降供給に対して一定の需要が創出されており、 空室率は比較的安定的な推移となっている(図3)。
しかし〇八年は前年の二倍程度の供給が行われたこ とが影響し、空室率は大きく上昇。
供給過剰感がみ られたが、〇九年以降については〇八年の半分の水 準まで新規供給が抑制されるため、一定の水準の新 規需要がみられるようであれば空室率も徐々に改善 していくものと思われる。
 不動産投資家等の開発動向については、〇八年は 過去最高となる四〇万坪を超える供給が行われ、開 発実績は前年に引き続き大きく積み上がった(図4)。
供給物件の大型化も顕著になっている。
延べ床面積 一万坪以上の物件が数多く供給され、マーケットに 大きなインパクトを与えた。
 一方で、内陸部のIC周辺等で大型用地を物色す る動きは散見されるものの、昨今の不動産市況の悪 化や建築コストの上昇などにより、開発計画を延期 したり、凍結するケースもみられ、事業化に当たっ ては慎重な姿勢をみせる不動産投資家等も多くなっ ている。
〇九年の供給は〇八年から半減する見込み であり、物流投資マーケットには一服感がみられそ うだ。
中部圏 賃料水準の二極化が鮮明に  中部圏では、内陸部の交通の要衝である小牧周辺 および名古屋港周辺に物流施設が集積している。
〇 五年の愛知万博の開催に伴い、東海環状道の豊田東 図3 首都圏の需給バランス 図1 首都圏の中・大型賃料水準(倉庫・配送センター) 図2 首都圏のマルチテナント型物流施設空室率(1万坪以上) ※中・大型施設:募集面積1000 坪以上を対象とする 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 平均募集賃料変動率 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 新規需要 新規供給 (坪) (%) 11.3 -1.0 -2.0 -3.5 2.3 1.6 -4.6 -2.4 5.4 5,890 5,770 5,570 5,700 5,680 5,770 5,630 5,370 5,420 5,710 0.9 -0.4 10.1 10.4 5.0 4.6 3.1 11.7 9.5 9.1 7.5 8.6 8.1 5.1 8.4 8.9 7.7 5.3 16.4 18.0 14.5 15.0 20.0 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0 (%) 03 年1 2月 04 年3月 04 年6月 04 年9月 04 年1 2月 05 年3月 05 年6月 05 年9月 05 年1 2月 06 年3月 06 年6月 06 年9月 06 年1 2月 07 年3月 07 年6月 08 年3月 08 年6月 08 年9月 08 年 12 月 07 年9月 07 年1 2月 東京都 -6.4 -2.9 -7.9 -1.6 3.6 -1.1 -0.7 1.5 4,810 4,670 4,300 4,230 4,410 4,570 4,520 4,490 4,580 4,650 2.0 4.3 神奈川県 -5.3 2.7 -2.8 -6.3 -0.8 -2.0 6.1 -1.0 4,150 4,260 4,140 3,880 3,800 3,770 4,000 3.920 4,100 4,060 4.6 -2.1 埼玉県 -4.2 3.0 1.3 -2.1 -6.4 11.8 2.8 -6.5 3,670 3,780 3,830 3,750 3,880 3,630 3,730 4,170 4,150 3,880 -0.5 3.5 千葉県 空室率 00 年01 年02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 00 年01 年02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 00 年01 年02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 00 年01 年02 年03 年04 年05 年 05 年06 年07 年08 年09 年 (予定) 10 年 (予定) 06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 MARCH 2009  32 図5 愛知県の中・大型賃料水準(倉庫・配送センター) 図7 大阪府の中・大型賃料水準(倉庫・配送センター) 図4 首都圏の不動産投資家等の開発動向 図6 中部圏の不動産投資家等の開発動向 図8 関西圏のマルチテナント型物流施設空室率図9 関西圏の不動産投資家等の開発動向 ※中・大型施設:募集面積1000 坪以上を対象とする ※中・大型施設:募集面積1000 坪以上を対象とする 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 (坪) 平均募集賃料 変動率 平均募集賃料 変動率 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 (円/坪) (%) 80,000 60,000 40,000 20,000 0 (坪) 150,000 125,000 100,000 75,000 50,000 25,000 0 (坪) 6.4 16.6 15.4 9.4 25.5 26.1 30.6 25.7 21.4 16.5 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5 0 (%) 06 年9月 06 年1 2月 07 年3月 07 年6月 08 年3月 08 年6月 08 年9月 08 年 12 月 07 年9月 07 年1 2月 -1.8 -5.7 3.2 -5.9 -1.4 -8.9 12.8 4.2 3,310 3,120 3,220 3,030 2,940 2,900 3,270 2,980 3,130 3,260 5.0 -3.0 -9.8 5.8 -5.0 1.8 2.1 -6.9 1.0 -2.2 3,970 4,200 3,990 4,060 3,790 3,870 3,910 3,640 4,040 3,950 11.0 -6.7 02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年09 年10 年 以降 02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年09 年10 年 以降 02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年09 年10 年 以降 00 年01 年02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 00 年01 年02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年 上半期 08 年 下半期 JCT〜美濃関JCT間が開通し、地域の利便性が 向上したことにより、沿線エリアで工業系施設や商 業施設などの進出がみられるようになっている。
一方、 市街化調整区域が多いという地域特性があることか ら、物流施設の開発用地が供給されにくいという側 面もある。
 物流業界の動向としては、自動車関連企業の業績 悪化の影響を受け、関連の荷動きが良好とはいえず、 物流会社等の経営環境は厳しい状況にある。
また、 景気悪化による先行き不透明感もあり、物流業務を アウトソーシングする動きや、統廃合により大型施 設を求める動きが若干減少。
物流会社等の動きも以 前に比べ鈍化している。
 中部圏の中・大型施設の賃料水準は、〇八年上半 期に比べ四・二%増となっており、堅調に推移して いる(図5)。
新築の大型施設に対するニーズは堅調 といえるが、既存施設や中小規模の施設については 空室がみられ始めており、競争力に劣る物件の空室 が長期化する傾向にある。
周辺環境や多層階建て等 の使い勝手に劣る物件についても実勢ベースの賃料 水準が弱含みで推移しており、物件の二極化が進行 している。
 不動産投資家等の動向については、〇六年までは 大型供給が少なかったが、〇七年に入りセントレア や小牧周辺等でマルチテント型施設の供給が顕在化 し、大型賃貸マーケットの動向が注目された(図6)。
しかし、〇八年の新規供給は前年より大きく減少。
〇九年も〇八年と同水準の供給見込みとなっており、 全般的に不動産投資家等が大型用地を物色する動き は減少している。
二〇一〇年以降については大幅に 供給が増加する見込みだが、現時点では竣工時期が 未定となっている物件も多い。
特 集物流不動産ファンド いま何が起きているのか? 33  MARCH 2009 2008年下半期全国最新市況 平均賃料平均預託金 3,540円3.6カ月 3,600円3.6カ月 北海道 平均賃料平均預託金 3,130円4.1カ月 3,770円4.6カ月 宮城県 平均賃料平均預託金 4,070円3.2カ月 4,300円3.2カ月 埼玉県 平均賃料平均預託金 4,060円3.6カ月 4,780円4.3カ月 千葉県 平均賃料平均預託金 6,310円4.0カ月 7,400円4.8カ月 東京都 平均賃料平均預託金 4,880円3.9カ月 5,240円4.9カ月 神奈川県 平均賃料平均預託金 3,140円3.9カ月 4,280円5.4カ月 愛知県 平均賃料平均預託金 2,800円5.2カ月 4,290円5.1カ月 石川県 平均賃料平均預託金 2,640円6.0カ月 3,670円─ 滋賀県 平均賃料平均預託金 4,590円7.3カ月 5,860円6.6カ月 京都府 平均賃料平均預託金 4,930円7.0カ月 5,310円7.4カ月 大阪府 平均賃料平均預託金 4,170円7.1カ月 5,730円7.8カ月 兵庫県 平均賃料平均預託金 2,470円5.3カ月 3,860円6.2カ月 香川県 平均賃料平均預託金 2,900円5.7カ月 4,410円6.5カ月 岡山県 平均賃料平均預託金 2,500円6.0カ月 高知県 平均賃料平均預託金 3,670円6.3カ月 4,280円7.4カ月 広島県 平均賃料平均預託金 2,880円5.4カ月 4,700円7.5カ月 福岡県 平均賃料平均預託金 2,470円5.3カ月 3,330円6.8カ月 鹿児島県 ─ ─ ※上段は倉庫・配送センター、下段は事務所兼倉庫 関西圏 大型施設の空室率改善  関西圏は首都圏に次ぐ消費規模を擁しており、物 流施設に対する潜在的なニーズの高いエリアである。
物流集積エリアとしては、大阪南港、北港等を中心 とする湾岸エリア、内陸部では大阪府茨木市、摂津 市、高槻市等の北摂エリア、東大阪市、大東市、門 真市等の東大阪エリア等が挙げられる。
 物流業界では、コスト削減を目的とした移転計画 等においても意思決定までに時間をかけるケースが増 加している。
 大阪府の中・大型施設の賃料水準は、〇八年上半 期比二・二%減と若干下落を示している(図7)。
既存の大型物件については空室消化が比較的順調に 進み、実勢の賃料水準も概ね横ばい推移している。
一方、中小型の物件では内陸部で空室が発生してお り、使い勝手に劣る多層階型施設の空室が目立ち、 今後賃料水準が弱含む可能性は十分考えられる。
 大型マルチテナント型物流施設の空室率は、〇八 年九月期は二一・四%、十二月期は一六・五%とい う結果になっている(図8)。
〇六年、〇七年の湾 岸部を中心とした大量供給により、〇七年九月期以 降は高い水準で推移していたが、〇八年に入って大 型供給が一段落し、既存施設の空室の消化が比較的 順調に進んだことで、改善傾向を示している。
 不動産投資家等による開発動向については、〇六 年、〇七年は約一四万坪程度の供給が集中的に行わ れたが、〇八年は前年から大きく減少し、新規供給 に一服感がみられた(図9)。
〇九年以降は昨今の 不動産市況の悪化などもあり、開発計画の凍結や延 期をする不動産投資家等もみられ、新規供給は〇八 年と同水準の見通しとなっている。
●対 象 主な用途が倉庫・配送センター/事務所兼 倉庫であり、一般募集された施設 ●賃 料 2008年7〜12月までの期間の新規募集賃 料(円/坪)を棟数平均し算出 ●預託金 預託金(円/坪)を棟数平均し算出。
また、 算出された預託金を平均賃料(円/坪)で 割り、平均預託金(月)を算出

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