ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年3号
判断学
オバマのニューディール政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 第82回オバマのニューディール政策 MARCH 2009  80     ルーズベルトのニューディール政策  一九二九年から始まった世界大恐慌のなかで、一九三三 年にアメリカの大統領に就任したフランクリン・ルーズベルト は、ニューディール政策を打ち出して不況を克服しようとした。
 そこでサブプライム危機から始まった世界的な金融恐慌の なかでアメリカ大統領に就任したバラク・オバマに対しても、 ニューディール政策に匹敵するような抜本的な対策を打ち出 して欲しいという声が、アメリカだけでなく世界中から起こ っている。
 もっともルーズベルト大統領のニューディール政策に対し て、実際にはあまり効果がなかったのではないか、という 批判もある。
例えば、最近日本訳が出たアミティ・シュレー ズの『アメリカ大恐慌』(NTT出版)などがそうだが、こ れはミルトン・フリードマンなどの新自由主義の主張に沿っ たものである。
 ルーズベルト大統領のニューディール政策が失業者救済の ために電力開発などの公共事業に力を入れたこと、そして 銀行の証券業務兼業を禁止するなどの規制を強化したこと はよく知られている。
 このような政策を理論的に体系化したのがケインズ理論で、 それ以後、ケインズ経済学が近代経済学の主流になったこ ともよく知られている。
 このケインズ理論を批判したのが先のフリードマンなどに よる新自由主義だったが、それは「小さな国家」と「規制緩和」 を大きな柱としていた。
それによって経済の金融化が進ん だ結果起こったのがサブプライム危機であった。
 そこで歴史は一回転して、もういちどケインズ政策に帰り、 ニューディール政策を期待する声が出ているというわけだ。
 そしてオバマ大統領が果たしてニューディール政策に匹敵 するような政策を打ち出せるかどうか、ということに世界 中の注目が集まっている。
      それは有効だったのか?  オバマ大統領は就任したあと金融危機対策として、 八一九〇億ドルの国家資金を投入するという政策を打ち出 し、この法案が下院を通過した。
その内容は失業対策や医療、 教育などに国家資金を投入するとともに、地球温暖化対策 に力を入れるというものである。
 金額からみても、その内容からみても、これはルーズベ ルト大統領のニューディール政策に匹敵するものだといえる。
しかしこれに対し共和党から反対の声が出ているだけでなく、 経済学者からも批判が出ている。
 共和党が反対するのは、国民の税金を使って景気対策 をするのは無駄だという理由からだが、経済学者の反対は、 ニューディール政策は有効ではなかったというフリードマン などの主張によるものである。
 アメリカの有名な経済学者マーチン・フェルドスタインは 「ワシントン・ポスト」に「八〇〇〇億ドルの誤り」という 論文を書いているが、ほかにもこのような意見は多い。
 「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」の二月一日号には デービッド・レオンハートがこの問題について長い論文を掲 載している。
そこでもオバマ大統領の対策が果たして有効 なのかどうか、ということが問題にされている。
 政府による景気対策が有効かどうかということは、どこ の国でも問題になる。
現に日本でもバブル崩壊後、政府は 景気対策として巨額の公的資金を投入したが、それは有効 ではなかったという声があった。
 それというのも、単に資金を投入することだけでなく、 それをどのような部門に投入するのか、ということが問題 になるからである。
銀行や大企業の救済のために資金を投 入するのか、それとも失業者や貧困層の救済のために投入 するのか、あるいは戦争のために投入するのか、などとい うことが問題になるのである。
 バブル崩壊後、日本政府は銀行に公的資金を投入したあげく、ただ同然で外 国資本に売り払ったり、元の経営陣に株を返すなどした。
日本のマスコミはこれ を構造改革だとして賛美した。
しかしアメリカではオバマの金融危機対策に対し、 国家が大株主となるのは社会主義ではないかという批判が絶えない。
81  MARCH 2009         国有化=社会主義か  銀行や大企業を救済するために国家資金を投入すること は銀行や大企業を国有化することにつながり、それは社会 主義だという声がアメリカでは強い。
 オバマ大統領が社会主義者だなどとは誰も考えていない が、にもかかわらず国家資金の投入=社会主義という考え 方がアメリカには強い。
それというのも銀行や大企業に国家 資金を投入すれば、政府が大株主として会社を支配するよ うになるからである。
 これに対し、公的資金、すなわち国家資金を投入しなが ら銀行を救済するだけで、それを外国の投資家に売り渡し たり、元の銀行の経営者に返すという方法もある。
これで は誰も社会主義だとはいわない。
 この道を歩んだのがバブル崩壊後の日本である。
経営が破 綻した日本長期信用銀行や日本債券信用銀行を巨額の公的 資金で救済し、そのあとこれをアメリカの投資家にただ同然 の価格で売り渡した。
そして三菱東京UFJやみずほ、三井 住友のなどの銀行にも公的資金を投入し、政府はその見返り に優先株を取得したが、これはそれぞれの銀行に売り渡した。
 そのいずれも大銀行を救済したが、それは社会主義ど ころか、単なる救済でしかなかった。
それは国民の税金を 使って外国投資家に安売りしたか、あるいは元の銀行に返 したというものであった。
これを実行したのが小泉内閣で、 竹中大臣がリードした。
それに対して日本のマスコミはこれ を構造改革だとして賛美した。
 ところがアメリカではそうはいかない。
国民の税金を使っ て大銀行や大企業を救済する以上、国家が大株主になって これらを支配するのが当然であり、それはすなわち社会主 義だというわけだ。
 ここに日本とアメリカの大きな違いがある。
アメリカは日 本ほど甘くはないのである。
      税金で銀行を救済するのか  今、アメリカで問題になっているのは、ウォール街の大銀 行やGMのような大企業を救済するために国民の税金を使 ってよいのか、ということである。
 サブプライム危機で大打撃を受けたのはウォール街の大銀 行であったが、なによりも昨年九月一五日、リーマン・ブ ラザーズが倒産したことが世界中にショックを与えた。
リー マン・ブラザーズは投資銀行で、日本でいえば証券会社に当 たる。
このリーマン・ブラザーズのあとメリル・リンチはバ ンク・オブ・アメリカに合併され、そしてモルガン・スタン レーとゴールドマン・サックスは銀行持株会社を作って商業 銀行に転換した。
 そして商業銀行のシティ・グループやバンク・オブ・アメ リカも巨額の損失を出して、経営危機に陥っている。
そこ へさらにGMをはじめとする自動車メーカーが経営危機に陥 った。
ブッシュ政権はこれを救済するために国家資金を投 入したが、効果がなかった。
そこでオバマ大統領はさらに 巨額の資金を投入しようとしているというわけだ。
 ただ、オバマ政権がブッシュ政権と違うところは、国家資 金を単に大銀行や大企業の救済のために投入するのではなく、 地球温暖化対策や医療、教育にも使うというところであり、 これはルーズベルト大統領のニューディール政策に匹敵する ものだといえる。
 しかしオバマ政権としても、大銀行やGMなどの大企業 が倒産するのを放置しておくわけにはいかない。
巨額の国 家資金がその救済のために使われることは避けられない。
 ところがこれに対しては「国民の税金を使って大企業を 救済するのはけしからん」という国民の反対の声が強い。
そしてそれを代弁しているのが共和党で、これが議会で反 対する。
これにオバマ政権がどう対処するのか、というこ とが問題になる。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『世界金融恐慌』(七 つ森書館)。

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