ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年1号
特集
物流機器を突破せよ SCMの混乱はいくらにつくか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2009  14 八〇〇件の事例を追跡調査  企業が企業価値を生み出すのにサプライチェーン のネットワークに依存する度合いは、日に日に増し ている。
多くの産業において、サプライチェーン機 能の優劣は、より戦略的な経営課題としてとらえ られるようになってきた。
サプライチェーンが売り 上げを生み出し、コストを管理し、資産の生産性 と顧客満足度を高めるからだ。
 その一方、最近になって、企業がサプライチェー ンにかかわる社内外の関連部門を統制することが できなかったために、サプライチェーンが混乱に陥 るケースも目立ってきている。
 経営陣の多くはこれまで、どうやって効率的な サプライチェーンを確立するかに多大な関心を払っ てきた。
つまり、いかにしてサプライチェーンのコ スト要因を絞り込むかに焦点を当ててきた。
しか しサプライチェーンから無駄がなくなり、その機能 が世界中に分散されるようになった現在、経営陣 はサプライチェーンが混乱に陥ることを恐れるよう になっている。
 これまでも専門誌や学術誌は、サプライチェー ンが混乱に陥れば企業の業績に大きな損害を与え ることを繰り返し指摘してきた。
しかし両者の因 果関係をはっきりと証明した記事や論文はほとん どなかった。
シスコシステムズの在庫償却や、ソニ ーの部品不足、ナイキの過剰在庫といったように、 多くの場合、いくつかの事例を並べて個々の損害 に言及するだけにとどまっていた。
 そうした事例やケーススタディは問題への関心を 高めるのには役に立つが、企業価値創造における サプライチェーンの潜在能力を経営陣が理解し、そ の機能を高める投資に積極的に踏み切らせるだけ の、十分な客観的理由を与えるまでには至らなか った。
 以下の論文は、サプライチェーンの混乱が長期間 にわたり企業業績にどのような損失を与えるのか を調査したものである。
 我々が調査の対象としたのは、一九八九年から 二〇〇〇年の間に米国の経済紙(ウォールストリー ト・ジャーナル紙とダウジョーンズ・ニュースサー ビス)が報道した、サプライチェーンが混乱に陥っ た上場企業の事例だ。
その一部を挙げると次のよ うになる。
 「ソニー 年末商戦にプレイステーション2が供 給不足」二〇〇〇年九月二八日付 ウォールスト リート・ジャーナル紙(ソニーは主要部品が不足し たため、「プレイステーション2」の出荷量を計画 の二分の一に減らすことを余儀なくされた)  「モトローラ 第4・四半期の販売が需要に追い つかず」一九九九年十一月一八日付 ダウジョー ンズ(モトローラは部品不足のため、携帯電話の 生産が需要に追いつかず、二〇〇〇年まで供給不 足の状態が続くと発表した)  「ボーイング 部品不足で納期に遅れ」一九九七 年六月二六日付 ウォールストリート・ジャーナル 紙(部品の不足のため航空機の製造が滞り、ボー イングの経営に深刻な影響を与えた)  「アップル 部品の不足による納期遅れで第4・ 四半期の利益を下方修正」一九九五年九月一五日 付 ウォールストリート・ジャーナル紙(新製品を 生産する際の主要部品の慢性的な不足により、ア ップルは利益の見通しを下方修正せざるを得なか った) SCMの混乱はいくらにつくか  サプライチェーンが混乱をきたせば、その会社の営業収 入は107 %減少し、株主収益率は3年間で40 %低下する─ ─北米で2005年に発表された学術論文が、その後欧米で開 催されたSCM関連学会やイベントをリスク・マネジメント 一色に染めるキッカケとなった。
同論文を本誌が要約した。
加ウィルフリッド・ローリエ大学 ケビン・ヘンドリックス 教授 米ジョージア工科大学 ビノッド・シンガル 教授 特集 15  JANUARY 2009  これらのニュース報道は、それが短期的に株価や 企業の業績にどのような損失を及ぼしたかという ところで終わっている。
それに対して我々は、数 年にわたって該当企業の株価の推移と年次報告書 を追跡調査することで、サプライチェーンの混乱が 長期的な株主価値や業績にどのような損失を及ぼ したのかを検証した。
 なお株価の分析には、株主収益率(=shareholder return :株価の値上がり益と配当金の合算値)と 株価変動率の二つの指標を使った。
企業業績の分 析は、営業収益、売上高利益率、使用総資本利 益率(ROA)、売上高、原価、総資本、総在庫 ──を指標とした。
 また業績を分析する際には、産業ごとや売上高 規模の違いによるばらつきを最小限に抑えるため、 サプライチェーンが混乱に陥った企業の業績を、同 一産業、似たような企業規模、同じような業績性 向を持つベンチマーク企業群などと比較した数字を 用いた。
混乱による損失は三年続く  図1は、サプライチェーンが混乱に陥ったことを、 その企業が発表した当日に、株主収益率にどれだ け影響を与えたかを調べたものだ。
その企業と事 業ポートフォリオが一致する企業群、売上規模が一 致する企業群、業績性向が一致する企業群、産業 が一致する企業群──という四つの企業群との比 較を表している。
いずれも七%前後の落ち込みを 見せている。
 図2は、「一年目」、発表当日、一年後、二年後 に分けて、該当する企業の株主収益率をポートフ ォリオが一致する企業群と比較した数字だ。
一番 下落幅が大きいのは、「一年目」で十三・七%だ った(編集部注・本論文の「一年目」とは、ある 企業のサプライチェーンが機能不全に陥った四半期 と、その直前の3・四半期を合わせた一年を指す。
「発表当日」より、「一年目」に表れる影響が大き くなるのは、サプライチェーンが混乱に陥った四半 期の三カ月分の下落幅が含まれているため)。
 発表当日は七・二%で、一年後でも一〇・五% の落ち込みとなる。
二年後になると一・八%と落 ち込み幅は小さくなるが、サプライチェーンの混乱 が引き起こす悪影響は、短期的なものでは終わら ないという点に注目する必要がある。
 三年間の株主収益率の損失の合計は比較基準に よってマイナス三三%から四〇%の幅で分布してい る(図3)。
これについては次のように考えるとそ の影響の大きさが鮮明になる。
株価を年率十二% 上昇させている企業があると仮定する。
その企業 のサプライチェーンが一〇年に一度の割合で混乱に 陥れば、年間平均の株価の上昇率は八〜九%に下 がってしまう。
このことは、CEO(最高経営責 任者)やCFO(最高財務責任者)といった経営 トップ自らが、自社のSCMに多大な関心を持ち、 監視を続けることが必要であることを意味してい る。
 このような株価の大幅な下落は利益の低下によ るものなのか、それとも単に株式市場 の過剰反応にすぎないのだろうか。
そ の疑問に答えるために、企業が公開し ている数字をもとにして、サプライチェ ーンの混乱がその会社の業績に及ぼす 影響について以下に検証していく。
 図4「一年目の企業業績」は、営業 収益が前年同期比一〇七・四%減、売 上高利益率は一一四・七%減、ROA (総資産利益率)は九二・三%減とな った。
また売上高、原価、資産、在庫 を前年同期と比較すると図5のように なる。
売上高が減る反面、原価と資産、 ポートフォリオ が一致 図1 発表当日の株主収益率の落ち込み 売上規模が 一致 企業性向が 一致 産業が一致 0 -2 -4 -6 -8 -10 (%) -7.2 -7.2 -6.8 -7.8 ポートフォリオ が一致 図3 3年間の株主収益率の落ち込み 売上規模が 一致 企業性向が 一致 産業が一致 0 -10 -20 -30 -40 -50 (%) -40.7 -34.8 -32.2 -38.4 1年目 図2 株主収益率の落ち込み 発売当日1年後2年後 0 -3 -6 -9 -12 -15 (%) -13.7 -7.2 -10.5 -1.8 編集部注:本論文の「1年目」とは、サプライチェーンが機 能不全に陥った四半期と、その直前の3・四半期を合わ せた1年を指す 注:図の数字が小数点以下二ケタまである場合、いずれ も小数点以下二ケタを四捨五入した。
また本文中の表記 もそれに準拠した JANUARY 2009  16 在庫が増えて、経営状態が悪化していることがわ かる。
こうした状況は二年後までつづく。
その結 果、企業の成長率に大きなブレーキがかかる。
 このように先に挙げた株価の落ち込みは、株式 市場の過剰反応というより、企業業績の悪化と連 動している。
つまり株式市場がサプライチェーンの 混乱に陥った企業を罰するのは、それが利益率と 成長率といった、株主価値に直結する二つの数値 を悪化させるためであることが、この調査結果か ら明白になってくる。
“株価変動率”でリスクを算出  サプライチェーンの混乱とは、その企業が経営に おける重要なプロセスを管理監督できなかったこと を意味している。
そのため、それが起こると企業 の将来性に不安を感じさせてしまう。
経営陣の能 力が不足しているのではないかという懸念も生ま れてくる。
サプライチェーンの混乱がどのように企 業のリスクに影響を与えるかを的確に理解しておく ことが重要だ。
 ここでいう「リスク」とは、企業の安全性に価値 を見出す投資家にとってのリスクを指す。
このリス クは投資家の要求する利益と株価に影響を及ぼす。
また企業が資本を調達するときの金利は企業の抱 えるリスクと直接結びついている。
株式発行や金 融機関からの借入により資本を調達するとき、そ の利率は企業が抱えるリスクが高いほど高くなる。
 ムーディーズやスタンダード&プアーズといった 格付け機関は、その企業のリスクを考慮して信用 力を査定する。
リスクが高いと判断されれば格下 げの対象となり、資本調達が一層難しくなる。
リ スクの高い企業の株は、買収のターゲットとしても 魅力の乏しいものとなる。
 本論文では、サプライチェーンの混乱がどのよ うに企業のリスクに影響を与えるかを知るため、 混乱に陥る前と後の株価変動率( Share Price Volatility)を比較するという手法をとった。
株価 変動率が増加すれば資本の調達費用が上昇し、そ のために株主収益率が減ることになるからだ。
 資金の調達が高くつけば、株価の低迷につなが り、投資戦略の縮小や見直しを迫られることもあ る。
大きなリスクを抱えた企業との取引に二の足 を踏むサプライヤーから支払いサイトを短くされた り、顧客に足元を見られて買いたたかれるなどの 不利な取引条件を要求されることもある。
 株価変動率が高くなることで、金融機関が早期 に資金を引き揚げたり、追加融資に応じなかった りという事態につながる恐れもある。
こうした環 境下で下された経営判断は、往々にして債権者や 株主にとって利益を生み出すものとならない。
 図6は、サプライチェーンが混乱に陥った企業の 株価変動率を、そうした影響を受けていない企業 群と比較したものだ。
混乱に陥る一年前、「一年 目」、一年後、二年後の数字をみると、サプライチ ェーンの混乱と株価変動率が関連していることが わかる。
そしてその影響は三年にわたって続いて いる。
 このようにサプライチェーンの混乱は高い株価変 動率となって表れる。
そして、それは企業のリス クが高まったことを意味しているのである。
中小企業ほど被害は甚大に  次に、サプライチェーンの混乱を産業別に見たら どうなるのか、売上規模別に見たらどうなるのか、 という観点から考察を深めていきたい。
 まずはサプライチェーンの混乱を四つの産業別 に分けてみてみよう。
一つは加工産業(食品、タ バコ、繊維、木材、家具、製紙、化学品などの製 造業を指す)、もう一つはハイテク産業(コンピュ ーターやハイテク家電、通信、軍事関連企業を指 営業収益 図4 1年目の企業業績 売上高利益率ROA 0 -20 -40 -60 -80 -100 -120 -140 (%) (%) (%) -107.4 売上高 図5 1年目の業績の各指標 原価資産在庫 20 15 10 5 0 -5 -10 (前年同期比) (前年同期比) -6.9 10.7 6.1 -114.7 -92.2 13.9 1年前 図6 混乱前後の株価変動率の動向 1年目1年後2年後 20 15 10 5 0 -5 -1.8 2.8 15.2 13.5 特集 17  JANUARY 2009 す)、もう一つは卸売業と 小売業、最後はサービス産 業(金融サービスや政府関 連企業などを指す)──の 四つだ。
 サプライチェーンが混乱 に陥る一年前から二年後ま での三年間の株主収益率の 落ち込みは図7のようにな る。
産業によって五〇%前 半から二〇%後半までばら つきはあるものの、株主収 益率は四つの産業すべてで 大幅に落ち込んでいる。
 図8は四つの産業別に、 サプライチェーンが混乱に 陥った「一年目」の数字を 用いて、営業収益と売上高、 費用の前年比を表したもの だ。
卸売業と小売業におい てのみ、売上高が伸びてい るが、それを除くと、収入 減かつコスト増となってい る。
 この図7と図8から、産 業にかかわりなく、サプラ イチェーンが混乱に陥れば 企業業績と株主収益率の両 方に損失を及ぼすことがわ かる。
 いかなる産業も、混乱の 悪影響を免れることはでき 加工産業 図7 産業別の株主収益率の3年間の落ち込み ハイテク産業卸売業と 小売業サービス産業 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 (%) (%) (%) (%) -51.1 -42.2 -35.8 -27.3 加工産業 図8 産業別の1年目の業績の各指標 ハイテク産業卸売業と小売業サービス産業 20 0 -20 -40 -60 -80 (前年同期比) (前年同期比) -55.6 -3.6 5.6 -56.7 -3.5 5.5 -5.5 9.4 1.7 -70.3 -4.4 11.9 第1分位 (最小) 第2分位第3分位第4分位第5分位 (最大) 図9 売上規模別に見た株主収益率の3年間の落ち込み図10 中小企業と大企業の1年目の業績 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 -32.4 -19.6 -64.3 営業収益売上高利益率ROA 売上高原価 20 0 -20 -40 -60 -80 -100 -29.5 -86.4 -25.2 -22.9 -66.2 0.3 -7.8 2.6 7.6 -47.1 -46.7 -72.4 営業利益 売上高 原価 大企業 中小企業 ない。
この点はとりわけ重要だ。
というのも、サプ ライチェーンのリスク・マネジメントの問題は、し ばしば動きの速いハイテク産業だけの問題であるか のように語られることが多いからだ。
しかし実際 には、サプライチェーンにおけるリスク・マネジメ ントはハイテク産業にとどまらず、成熟産業におい ても同様に重要であることがわかる。
 次に売上規模別に、サプライチェーンの混乱の影 響の度合いを比べてみるとどうなるか。
図9では 企業規模を五段階(五分位階級)に分けて、株主 収益率の落ち込みの三年間の合計にどのような変 化があるかを見たものだ。
また図 10 では、企業規 模を中小企業と大企業に分けて、機能不全に陥っ た「一年目」の企業業績を前年同期比で比べてい る。
 この二つの図から、大企業よりも中小企業の方 がより深刻な影響を受けることがわかる。
特定の 製品やサービスに特化している中小企業は、サプラ イチェーンが完璧に実行されることで、はじめて利 益の生み出せる仕組みになっているからだと考え られる。
サプライチェーン混乱の原因  こうしたサプライチェーンのリスクを考慮に入れ て、企業業績に対するこれまでの評価方法を、大 きく改める必要がある。
サプライチェーンが混乱に 陥るリスクから目を背けることは、破壊的な損失 を生み出すことにもなりかねないからだ。
それで はサプライチェーンが混乱に陥る原因にはどのよう なものがあるだろうか。
代表的な要因をいくつか 挙げてみる。
競争の激化  まずは企業間競争が激しくなった JANUARY 2009  18 くことが不可欠となる。
協力体制を確立するには、 情報システムへの投資や新しいKPI(重要業績 評価指標)の設定、ゲインシェアリング(互恵的な 成功報酬)などの条件を整えることが前提となる が、それらはいずれも容易に達成できるものでは ない。
効率への傾倒  多くの企業はこれまでサプライ チェーン業務の効率を向上しよう、つまりコストを 削減しようと努めてきた。
米国の調査会社である フォレスターが二〇〇二年にまとめた調査による と、調査対象となった二六社のうち二四社が業務 の効率化をサプライチェーン業務における最優先事 項として挙げている。
リスク・マネジメントを最優 先事項としたのはわずかに二社だけだった。
 しかし企業はサプライチェーンの効率化を進める ことで、リスクを高めるという結果も招いている のだ。
現時点では、多くの企業がサプライチェーン の効率化とそのリスクが二律背反の関係にあるこ とに気づいていない。
貧弱な現場作業と計画性  レベルの低い現場作 業と計画性は、需要と供給の不一致を引き起こす 原因となる。
不正確な在庫と不十分な情報処理能 力に基づいて作られた計画は、おおざっぱで詳細 な詰めを欠いている。
 上質な情報システムがなければ、企業はサプライ チェーンの現場で何が起きているのかを把握するこ とはできない。
また将来何が起こるかを予測する ような業務指標がなければ、企業は起こり得る問 題に先回りして対策を打つことができない。
さら に貨物の可視性(ビジビリティ)に問題があれば、 サプライチェーンの上流と下流で何が起きているの かを把握することは不可能に近い。
 現時点では、多くの企業がサプライチェーン上で 起こる不測の事態を見つけ出し、それに対処する 能力を持ち合わせていない。
さらに、サプライチェ ーン業務の計画立案者と現場担当者との間のコミ ュニケーションが十分にとれていない場合には、こ の問題は一層深刻になる。
リスク・マネジメントの具体策  ここでわれわれが考え出さなければならない解 決策は、サプライチェーンの混乱という問題に対処 しながらも、その効率化(コスト削減)を犠牲に しないようなものでなければならない。
需要予測の精度を上げる  需要と供給の不一致 の主な理由の一つとして、正確さを欠く需要予測 が挙げられる。
需要予測に定量的な厳格さを求め ることは、予測の精度と信頼性を高めるのに役立 つはずだ。
計画を立てる際、企業は需要予測がど の程度正確なのかということに加えて、予測に見 込み違いがある可能性までを考慮に入れなければ ならない。
これによって、需要予測を立てる担当 者に、どんな不測の事態が起こり得るだろうかと 考える素地が生まれる。
 企業はまた、長期計画は短期計画よりも精度が 落ち、細部まで詰めた予想はおおざっぱな予想よ りも精度が落ちることを理解しておかなくてはな らない。
これによって、需要予測の担当者は、セ ールス部門やマーケティング部門から上がってくる 見込みの数字を、より慎重な姿勢で取り扱うこと ができるようになる。
 企業が大胆に需要予測を調整することができな いときや、自分たちの組織の外部の要素でありな がらも需要予測に大きな影響を与え得る事柄を軽視 ことが挙げられる。
どんな産業であれ、一〇年前 と比べると、競争が激化していることには疑いの 余地がない。
今日の市場の特徴は、同業他社との 激しい競争、不安定な需要動向、細分化された顧 客の需要、短い製品のライフサイクル──といった 言葉で表すことができる。
こうした環境下で需要 と供給を一致させるのは骨の折れる仕事となる。
と くに企業にとって、需要予測を立てることと予期 しない変化に対応することは大きな困難を伴う作 業となる。
サプライチェーンの複雑化  海外からの部材の 調達、数多くの協力業者の管理、長いリードタイム への対応などのために、サプライチェーンは一層複 雑になってきている。
その分、需要と供給を一致 させることが難しくなり、サプライチェーンが混乱 に陥るリスクを高めることになる。
また協力業者 が自分たちの担当する地域や業務の部分最適を優 先するあまり、全体の柔軟性が不足してしまうこ とでも、サプライチェーンの抱えるリスクは高くな る。
アウトソーシングと協力業者  サプライチェー ンに関連する業務のアウトソーシングが進み、世界 中に張り巡らされたネットワークにおいて、そうし た協力業者との相互依存性が高まると、サプライ チェーンの一部が機能不全に陥るだけで、その波 動が瞬時に全体に広がり、すべての活動が停止し てしまうことになる。
 アウトソーシングや協力業者とのパートナーシッ プの重要性については多くの専門家が語っている が、それが十分に機能するためには、お互いの作 業状況の情報や生産計画を共有することなどを通 して、そうした業者との協力体制を組み立ててい 特集 19  JANUARY 2009 でリスクが現実として起こるのか、どれだけの被害 を引き起こすのか、回復までにどのくらいの費用 と時間がかかるのか──などについて考えること。
 それに基づき、?どのリスク要因が最も危険をは らんでいるかという優先順位をつける。
?リスク がサプライチェーンの混乱につながったときは、緊 急の計画を作り即座に対処する。
最後は、?常に リスク・マネジメントの対処方法を改善する努力を 惜しまず、リスクがサプライチェーンの混乱を招い た時に、どのようにしてリスクを最小限に抑えよ うとしたのか、そこでは何が有効で、何が有効で なかったかを綿密に記録して、次回に備える姿勢 を社内外で共有することである。
ケビン・B・ヘンドリックス (Kevin B. Hendricks)  1990年にアメリカのコーネル大学でビジ ネスの博士号を取得後、ジョージア工科大 学の助教授を皮切りに、北米の大学でオペ レーションマネジメントや情報技術につい て教鞭をとる。
2006年からカナダのウィ ルフリッド・ローリエ大学(Wilfrid Laurier University)ビジネス・経済学部の教授。
ビノッド・R・シンガル (Vinod R. Singhal)  1988年にニューヨークのロチェスター大 学でビジネスの博士号を取得後、ジョージ ア工科大学で教鞭をとる。
2001年から同 大学マネジメント学部の教授。
 本稿は二〇〇五年六月に発表された'The Effect of Supply Chain Disruptions on Long-term Shareholder Value, Profitability, and Share Price Volatility'と題した学 術論文を、執筆者のケビン・フレデリックス教授の同意を 得て本誌が抄録にまとめたもの。
同論文はジョージア工科 大学のビノッド・シンガル教授が共著者となっている。
したとき、需要予測はうまく機能しなくなる。
加 えて、需要予測を立てる際には、工場の生産能力 やリードタイム、配送ルートなどを固定的なものと してとらえる傾向が強い。
不測の事態に直面して 計画の修正を迫られたときは、こうした諸条件を 変えることはできないかと考えてみる柔軟性が求 められる。
計画と実行の整合性  企業における需要予測の 方法は洗練されてきてはいるが、現場の実態から 離れて需要予測が立てられている場合もしばしば見 受けられる。
出来上がった需要予測の多くは、具 体的な説明がないままに現場に実行計画書として 手渡される。
 それに対して、サプライチェーンの現場担当者は 現場の事情を加味して計画に微調整を加える。
当 初は微調整のつもりであったものが、時間の経過 とともに重大な変更となることもあり得る。
しか し、それが需要予測の計画者に伝えられることは めったにない。
その結果、計画の立案と実行の間 に認識のずれが生じる。
両者のコミュニケーション を密にして、その認識のずれをなくすだけで、サ プライチェーン上の需要と供給の不一致にかかわる 多くの問題は事前に回避することができる。
パートナーとの協力体制  アウトソーシング先 パートナーとの協力体制については、これまでも多 くのことが語られているが、実際にパートナーと商 取引上の有効な関係を作り上げることは決して容 易なことではない。
しかしサプライチェーンの混乱 が企業に与える損失を考慮すれば、手間暇をかけ てもパートナーとの協力体制を築くことは経済的に 見合うことがわかる。
この分野での先駆者たちは、 パートナーとの間に信頼関係を築き、最初の段階で ゲインシェアリングの方法について合意している。
また従来のようにサプライチェーンが一社だけで完 結するという考え方を進んで改めようとしている。
 いったんこうした条件が整うと、パートナーは意 思決定や問題解決のプロセスに進んで参加するよう になる。
中長期の戦略や当面の計画作り、日々の 業務に関する情報交換にも積極的に取り組むよう になる。
パートナーとの、こうした良好な関係を維 持することは、サプライチェーンの混乱につながる ような不正確な情報の伝達や、伝達の遅れを減ら すことに大いに役に立つ。
可視性への投資  サプライチェーンが混乱する 危険性を減らすためには、企業は自らのサプライチ ェーンにおいて何が起こっているのかを詳細に把握 しておかなければならない。
把握しておくべきこ とは、社内の業務内容から、顧客とサプライヤーの 現状、在庫の場所、現場の業務処理能力やどんな 物流資産を持っているかなどである。
 サプライチェーンにおける可視性を高めるために は、?将来何が起こるのかを予測することのでき る複数の指標を前もって作ること、?そうした指 標から上がってきたデータを集めて分析すること、 ?そうした指標に、このレベルを超えるとサプライ チェーンが混乱するという基準を設定すること、? 指標がその基準を超えないかを監視すること、? 指標が基準を超えた場合には、直ちに現場担当者 に連絡をとること、?同時に不測の事態に対処す る方法を立てること、が必要である。
 またサプライチェーンの混乱に対処するには、次 の五つのことが必要となる。
まずは?社内にリスク の専門家からなる横断的な部署を作ること。
次に、 ?リスクの要素を列挙して、どれぐらいの可能性

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