ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年1号
値段
トランコム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2009  58 営業利益を三年間で一・六倍に  トランコムが二〇〇八年五月に発表した〇 九年三月期〜十一年三月期の中期経営計画 は、意欲的な利益目標、そしてアグレッシブ な株主還元を打ち出した点で注目された。
 計画最終年度の十一年三月期の業績目標 は売上高九〇〇億円、営業利益四五億円と し、経営指標では営業利益率五%、ROE一 五%維持を目指す。
〇九年三月期業績計画と の対比でみると、売上高は三二・四%増、営 業利益は五六・二%増、営業利益率は〇・八 ポイント改善の水準だ。
〇九年三月期以降の 利益成長率は年率二〇%以上となり、メリル リンチ日本証券がカバレッジするトラック銘 柄の中では相対的に成長率が高いといえる。
 高い利益成長率を達成するために同社が掲 げた基本戦略は、「物流情報サービス事業を核 とした新規営業機軸の構築と東名阪での新規 顧客の獲得」だ。
同社がパイオニア的存在で ある求貨求車事業「物流情報サービス事業」 と、3PL事業である「ロジスティクス・マ ネジメント事業」の両事業のシナジー効果を 発揮させる考えとみられる。
 例えば、3PL事業の顧客に求貨求車シス テムを利用してもらうことにより、一貫した 物流サービスを提供していくという戦略であ る。
顧客側からみれば、物流を専業者に一括 して委託することで物流費の削減が図れると いうメリットがあるといえよう。
 三年間の設備投資額は最大一五〇億円を計 画している。
〇八年三月期までの過去三年間 の設備投資が約四〇億円だったことを考える と、大幅な投資拡大だ。
設備投資資金の一部 は借入金で賄うことが想定されるが、その一 方で積極的な株主還元の姿勢をみせた点にも 注目したい。
配当性向(配当金支払額÷当期 利益×一〇〇)については、中期経営計画期 間中に三〇%に引き上げるとした。
 もっとも、一五〇億円の設備投資は投資資 金に見合った案件があった場合の最大金額で ある。
メリルリンチ日本証券では一〇〇億円 強の投資額を想定しているが、成長投資と株 主還元を両立させることを目標とした点で評 価できる中期経営計画だと考える。
 トランコムは〇九年三月期中間決算発表と 同時に、中期的な配当目標とは別に発行済み 株式総数の最大二・九%の自社株買いも発表 した。
今後のM&Aなど機動的な資本政策の ために充当する考えとみられ、株式市場では この自社株買いをポジティブに評価した。
 以上はメリルリンチ日本証券による中期経 営戦略の評価であるが、今後の進捗について 考察してみたい。
トランコム 景気後退は3PL事業拡大のチャンス 新規顧客獲得とM&Aの推進が必要  今期からスタートした三カ年の中期経営計 画で、強気な利益目標と投資計画、株主還 元を打ち出し、株式市場から評価を得ている。
財務体質も健全だ。
景気後退による経営環境 の悪化という懸念はあるが、こうした局面を ビジネスチャンスと捉え、3PLのシェア拡 大に注力すべきだろう。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 第46回 59  JANUARY 2009  周知の通り、最近のトラック業界を取り巻 く経営環境は悪化している。
具体的には、設 備投資の減退や消費低迷に伴う既存顧客の物 量減、燃料費の高騰、顧客からの単価値下げ 要請などの業績圧迫要因があるだろう。
 トランコムの〇九年三月期中間期(四〜九 月期)営業利益は、前年同期比三・四%増の 十二・四億円となり、メリルリンチ日本証券 の事前予想十三・一億円、会社計画の十三・ 二億円を約六%下回った。
計画未達の主因は、 ロジスティクス・マネジメント事業における既 存顧客の物量減や軽油価格上昇などと考えら れる。
逆にいえば、新規顧客の獲得やコスト 削減では十分カバーできなかったといえよう。
 こうした中間期実績を踏まえ、同社は〇九 年三月期通期の営業利益予想を下方修正。
従 来予想の三〇億円から二八・八億円に、約 四%の減額をした。
新たな〇九年三月期下期 (〇八年一〇月〜〇九年三月期)の営業利益 計画は前年同期比四・三%増の一六・五億円。
これについてメリルリンチ日本証券では、最 近の軽油価格下落や赤字に陥っている不採算 物流センターの閉鎖、センターの集約などに より、達成可能と考える。
ただ、景気低迷が 長期化することを考えれば、経営戦略も見直 しが必要になる可能性がある。
海外展開は時期尚早  まず、景気減退局面は既存顧客の物量減 が懸念材料ではあるものの、顧客の潜在的な 物流費削減ニーズが顕在化する局面でもある。
同業他社でも3PLの新規の商談案件が増加 しているもようであり、景気低迷の逆境をビ ジネスチャンスに変える好機と捉えることが できよう。
トランコムの年間の3PL稼働件 数は同業他社に比べやや少なめだが、今後は 営業体制をさらに強化し、新規顧客の獲得に 尽力すべき局面だと考える。
 また、景気後退局面ではオーナー物流企業 の後継者不足や業績悪化などを背景に、M& Aの案件が増加すると予想される。
年率二 〇%以上の利益成長を達成するためには商圏 の拡大が必須であり、そのためにはM&Aが 有効な手段となる。
関東や関西において物流 センターを保有する同業他社を安価で買収し、 物流運営コストの低減を図れば、顧客に価格 競争力のある物流センター運営が可能なこと を提示するチャンスにもなる。
 一方、同社は「物流情報サービス事業」な どの海外展開も目論んでいる。
これについて は、まずは国内の物流基盤を強固なものとし、 安定的なキャッシュフローが生み出せる経営 体質になった段階で、リスクのある海外事業 を展開することが望ましいといえる。
 財務戦略面では、一般的に考えると従来 に比べて資金調達が困難になる可能性がある。
ただ、同社の〇八年三月期末の借入金は手元 流動性資金一六億円を下回る一五億円程度 に過ぎない。
従って、借り入れに際しては投 資リターンのターゲットを引き上げる必要があ るかもしれないが、資金調達難に陥るリスク は小さいだろう。
 物流業界は物量低迷や燃料費増加など経営 環境の悪化という向かい風に直面しているも のの、シェア拡大のチャンスが訪れたと考え たい。
特にトランコムは財務体質が健全な上、 過去二年間はコンプライアンス重視の経営を 実施してきた。
シェア拡大を狙うには適切な ポジションにいると考えられる。
トランコムの上場以来の株価推移 つちや やすひと 一九九七 年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券などを経て、二〇〇 五年一〇月にメリルリンチ日 本証券に入社。
運輸セクタ ー担当アナリストとして活 躍している。
著者プロフィール 《出来高》 (円)

購読案内広告案内