ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年11号
道場
御社の強みは何ですか?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2008  66  「あと、いらした方といえば、講演依頼の方々 ですねー。
本の原稿の催促に出版社の方もいら っしゃいましたね。
あっ、先週でしたか、どこ かの倉庫業者の方が何かの相談に来られたじゃ ないですか」  「ん? 倉庫業者‥‥そう言えば、そんなこ とがあったな。
たしか営業担当の役員と営業部 長とかいう人たちが来たな。
そうそう思い出し た。
なんか、おもしろい話の展開になったんだ った。
取り止めのない話だったけど、それでい ってみるか。
えーと‥‥」  大先生の手がようやく動き始めた。
 訴求力のない会社案内の典型  その倉庫業者一行は、残暑から一転して晩秋 の頃のように涼しくなった日に来訪したのだっ た。
来訪者の最初の言葉が「今日はずいぶん涼 しいですね。
寒いくらいですね」だったことを 大先生は思い出した。
 その倉庫業者は、特に依頼や相談事があって来 たのではなく、ある人の紹介で、大先生に「ご 挨拶したい」といって来たのであった。
そんな ことで大先生も気楽に相手をした。
 初対面の挨拶が終わると、常務氏が会社案内 を持ち出して、「当社はこんな会社です」と大 先生に渡した。
大先生がそれをぱらぱらめくる。
そこには3PLだとかアウトソーシング、ロジス ティクス、さらにはSCMなどといった仰々し  3PL、アウトソーシング、ロジスティクス、さらに はSCM 等々、昨今の物流会社のパンフレットには、 仰々しい横文字がいくつも並んでいる。
それで本当に 荷主に訴求するだろうか。
改めて足元を見つめてみよ う。
これまで見過ごしていた自社の強みが見つかるか も知れない。
アピールすべきはそこにある。
湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 御社の強みは何ですか? 大先生の日記帳編 第14 回  いつもながら大先生の筆は…  大先生が事務所の会議テーブルでパソコンを前 にぼんやりとタバコを吹かしている。
大先生は、 一日の多くを自分の席ではなく、喫煙場所と決 めている会議テーブルで過ごす。
 そんな大先生に、給湯室に向かいながら女史 が声を掛けた。
 「何かお入れしましょうか? お仕事が進まな いようですが‥‥あっ、締め切りを過ぎた原稿 ですか?」  「締め切りを過ぎてんのかまだなのかわからん けど、なんたって何を書いたらいいのか、なー んにも浮かばん」  「例の連載ですね。
いつものことじゃないです か。
そのうち何か出てきますよ」  「それがなかなか出てこないから困ってんじゃ ないか‥‥最近、誰か、おもしろい人とか来な かったっけ?」  「おもしろいかどうかわかりませんが、銀行の 方がいらっしゃいましたよ」  「銀行の人?‥‥あー、顧客支援をする部署 の人だったな。
『日本の企業では、在庫管理なん か当たり前にできてるかと思っていたら、在庫 責任不在で、期末になると恣意的に在庫を減ら してるだけなんですね』なんて言ってたな。
た しかにそうなんだけど、それを一回分に膨らま すのは大変だ」 79 67  NOVEMBER 2008 い言葉が散りばめられていた。
 ロジスティクスやSCMの説明を読んでも、そ れが既存の物流をどう劇的に変えるのか、よく わからない。
本来、「当社はロジスティクスやS CMの取り組みを支援できます。
その実現によ って、御社の物流はこう変わります」といった 説明があれば、荷主の興味を呼ぶのだろうけど、 物流との違いさえ明確でない説明ではそんな訴 求力はない。
 そんなことを思いながらも、大先生は「なる ほど」という一言で会社案内を閉じてしまった。
会社案内について大先生から感想や質問がある だろうと思っていた来訪者の二人は、戸惑った 表情で次の言葉が続かなくなってしまった。
 ちょっとした沈黙を大先生が破った。
 「それで、御社の強みはなんですか?」  ほっとしたような表情を見せ、常務氏が頷く。
ただ、突然「強み」と問われたせいか、どこと なく声に元気がない。
 「はー、当社は倉庫業者と言いましても、保管 よりも作業で商売しようというのが会社の方針 です。
お客様としては、まあ、結果としてそう なったということなのですが、多品種少量の作 業を伴うところが多いという実情です。
その意 味で、そういう多品種少量の作業には強いとい うのが当社の強みと言えるかと思います」  「なるほど、うん、そういう細かい作業をミス なく効率的にこなせるとしたら、それは強みだ と思いますよ。
それをもっと強くアピールすれ ばいいのに」  大先生が、会社案内を指で叩きながら言う。
営 業部長氏が苦笑して、言い訳をする。
 「はい、たしかに、そこにはちょっと格好のい い、というか最近のはやり言葉を入れた方がい いだろうと思って、そうしてしまってます。
そ んな言葉は先生からみればお笑いだろうと思い ますが、少量多品種の作業ができるというので は、あまりアピールしないのではと思って、ま あ、そういうことに‥‥あっ、作業品質には自 信があります」  「はやり言葉よりも、具体的にできることの方 がアピールすると思いますけどね。
まあ、それ はいいとして、作業品質の向上にはいろいろ取 り組んでこられたのですか?」  営業部長氏が、今度は自信を持った口ぶりで 答える。
 「はい、当社では、絶対にお客さまにご迷惑を 掛けないということを第一義にしておりますの で、ロケーション管理のメンテもきちっとやって おりますし、ハンディターミナルも駆使してます。
また、ピッキングが終わるたびに現物の在庫残 数が簡単にわかるようにしてありまして、それ とハンディに表示される残数とチェックを掛ける ようにしています。
ピッキングのミス率は一万分 の一、二というところです。
ある荷主様で品質 を測る指標をいくつか設定して、定期的に全業 者を測定しているんですが、当社は全世界で常 にトップクラスに位置しています」  営業部長が一気に説明する。
大先生が素朴な 疑問を呈する。
 「へー、そういうことを会社案内に紹介すれば いいじゃないですか」  「はぁー、なんか自慢ぽくなり過ぎるのじゃな いかと思いまして‥‥」  「はー、なんとも奥ゆかしいことだ。
ただ、私 は、そういうの好きです」  大先生が笑いながら、嬉しそうに言う。
 世界トップクラスの現場管理とは  苦笑いしている常務氏らの顔を見ながら、大 先生がさらに質問する。
 「しかし、作業品質というのは、それを維持す る仕組みを作っても、それだけではだめで、そ こで働いている人たちの意識が重要だと思うん ですが、いかがですか? 作業者はパートさん ですよね?」  営業部長氏が大きく頷き、また勢い込んで説 明する。
 「おっしゃるとおりです。
仕組みというのは、 そのとおりに作業者が動いてくれるということ を前提にしていますので、作業者のミスを出さ ないという強い意識が実は要を握っていること は間違いありません。
作業者はほとんどがパー トですが、当社のパートさんは、そういう意識 NOVEMBER 2008  68 は強いと思います」  「その作業者の強い意識というのはどうやって 作ってきたんですか?」  大先生の質問に営業部長氏が言いよどむのを 見て、今度は常務氏が代わって説明する。
 「はぁー、そこなんですが、実は明確にこれだ ということを言うことができないというのが実 情です。
これまでいろいろやってきまして、た とえば、作業者個々のミス率などを出し、成績 のいいものを掲示したり‥‥」  「ミスが少ない人を掲示することで、ミスが多 い人にやんわりと発破を掛けようということで すか?」  「はい、もちろん、ちょっとひどいミスには 直接注意することもありますが、あっ、その掲 示も結局作業者間でぎくしゃくするもとのよう なことになってきたので、やめてしまいました。
また、チームを作って、優秀なパートさんをリー ダーにしてチームとしての総合力を上げようと いう取り組みもしましたが、リーダーのパートさ んがメンバーに遠慮したり、浮いてしまったり ということがあって、これもやめました」  「ふーん、試行錯誤的にいろいろやってきたん ですね」  科学的管理と現実を融合  営業部長氏が頷き、常務に代わって説明を続 ける。
 大先生の言葉に営業部長氏が苦笑しながら「は い、結構大事な要素です。
もちろん、本人には そんなことは言いませんが」と言う。
 常務氏が頷きながら続ける。
 「それに、うちでは、作業者個々の作業時間 を毎日取ってます。
日報という形で書かせてま す。
処理個数や行数は別途にシステムから取っ て、作業者ごとの一処理当り作業時間などをつ かんでいます。
それを作業者の評価に使うこと はしていませんが、現場の管理をしているうち の社員たちは、それを見て、いろいろやってい るようです。
日常的な会話や作業指導などでそ のデータが効果を発揮しているってとこでしょ うか」  大先生が感心したように「へー」っと頷く。
そ れを見て、今度は営業部長氏が続ける。
遠慮っ ぽい社風の割には、彼らはよくしゃべる。
 「それに、各作業工程の進捗が常時わかります ので、遅れている工程があれば、他から応援に 行かせて、遅れを取り戻すってこともやってま す。
なんといいますか、仲間意識というか、み んなで頑張ろうっていう雰囲気です。
忙しい時 は、私らはもちろん、社長まで現場に入ります から、そういう意味では、全社に一体感がある といえるかもしれません」  なんだか話の展開が自慢話的になってしまっ たのを危惧したかのように、常務氏がちょっと 自嘲気味に結論を出す。
 「はい、結局いまやってることは、なんと言い ますか、そう、適材適所ということです。
当た り前と言えばそうなんですが、パートさんと言 っても、性格や、そう体型などもいろいろです から、人によって適する作業というものがあり ます。
ピッキングはうまくないが、検品には適 してるとか、梱包はうまいっていうように、人 によりいろいろです。
ですから、そういう得手 不得手を一人ずつ把握して作業割り当てをやっ てます」  「たしかに体型も関係するかもしれないな」 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 69  NOVEMBER 2008  「まあ、要するに、お恥ずかしながら、科学 的管理というよりも情実の世界で何とかやって るってことです」  「いやいや、働き手は人間ですから、両方必 要なんですよ。
見事に融合しているってことじ ゃないですか?」  大先生の褒め言葉に「いやいや、そんな」と いうように常務氏が顔の前で手を振る。
 『当社の作業者は日本一優秀です』  大先生が、思ったことを口にする。
 「御社は自慢しない社風のようですが、どうで すか、会社案内に『当社の作業者は日本一優秀 です。
是非現場を見に来てください』って書い たら?」  大先生の提案に営業部長氏が「いやー、そん なこと言って、実際に見に来られたら、作業者 が萎縮して、ミスしちゃいますよ」と冗談ぽく 言う。
大先生が真面目な顔で続ける。
どこまで 本気なのかはわからない。
 「なーに、もっと作業者を買い被ってごらん なさい。
日本一の作業者だって活字を見せれば、 作業者はプライドを持って、自信たっぷりに作 業するようになりますよ」  大先生の言葉に常務氏が、ちょっとその気に なったようだ。
営業部長氏に語りかける。
 「もしかしたら、そういうのもおもしろいかも しれないね。
うちは作業が売りなんだから、も っとそれをアピールするようなパンフレットに変 えることも必要かも。
今度検討してみよう」  営業部長氏が素直に頷く。
それに大先生が独 り言のように言う。
 「うちに任せていただければ、在庫を減らせま す。
うちに任せていただければ、物流コスト削 減の道筋が見えるようになりますって言葉も書 き込んだらどうですか? 荷主の物流担当者に とっては結構興味を引く言葉だと思いますよ」  常務氏が自信なさげにつぶやく。
 「たしかにそうですが、うちにそんなノウハウ はありません」  「なーに、なければ身に付ければいいんですよ。
これは情実ではなく技法の類ですから、そんな に難しいことではありません。
話を聞いている と、御社なら十分できると思いますよ」  今度は営業部長氏が乗り気になったようで、常 務氏に話しかける。
 「万全の作業力に、そういうノウハウを売りに したら、結構行けるかもしれませんね」  常務氏は、ちょっと考える風に視線を落とし ていたが、顔を上げると、大先生に元気に返事 をした。
 「帰ってからお話を上にあげてみます。
場合に よっては、お力添えをいただくかもしれません が、その節はよろしくお願いします」  大先生が頷き、よせばいいのに、心にもない ことを口走ってしまう。
 「そうそう、今度現場を見せていただけます か?」  その言葉に「はい、喜んで!」と勢いのよい 返事が返ってきた。
勢いに押されて、大先生は つい大きく頷いてしまった。
ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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