ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年11号
ケース
静脈物流 らでぃっしゅぼーや

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2008  46 静脈物流 らでぃっしゅぼーや 環境NPO発の食品個配ビジネス 有機野菜と環境対応で事業規模拡大 センターから出る生ゴミをゼロに  今年二月、有機農産物や無添加食品を会員 に販売する「らでぃっしゅぼーや」はCO2排 出権を取得し、宅配のカーボンオフセットを実 施すると発表した。
昨年一年間で商品の宅配 時に使用した燃料からCO2排出量を算出す ると、約三七〇〇トンであることがわかった。
今後の会員数の増加等を見込み、五〇〇〇ト ン分の排出権を購入した  一九八八年の創業以来、自前の宅配ネット ワークを利用した静脈物流を構築。
「カートカ ン」と呼ばれる紙製の飲料容器や卵のモール ドなどの容器リサイクル、段ボールや保冷剤と いった配送資材のリユースを行っている。
会 員からの容器の回収率は現在、九六%以上と 極めて高い。
 二〇〇一年には、家庭から出る生ゴミを回 収し、リサイクルする「エコキッチン倶楽部」 を開始した(図1)。
会員向けに生ゴミ処理 機「リサイクラー」を販売。
これを使って各 家庭で生ゴミを乾燥処理した後、粉砕したも のを「乾燥資源」として宅配の帰り便で回収 している。
 トラックの助手席に専用容器を設置して乾 燥資源を密封し、会員に届ける商品と厳格に 区分して物流センターに回収する。
その後、乾 燥資源を物流センターの専用スペースで一時 保管し、ロットをまとめて生産者に戻し、有 機肥料として利用している。
 その輸送にも生産者から物流センターに納 品する車両の帰り便を使う。
「帰り便など既 存のインフラを利用することで、大きな投資 をせずに始めることができた」と、事業本部 SCM部の桃井正行グループリーダーは説明 する。
 消費者はリサイクラーを購入しなければな らないが、生ゴミは乾燥処理することで滅菌 され無臭になり、粉砕することで生ゴミの量 が通常の七分の一以下に縮小されるため、家 庭から出るゴミの量が格段に減少するなどの メリットがある。
 開始当初は関東地方と中部地方のみで行っ ていたが、〇二年に全国展開を始めた。
〇三 年には同社の物流センター「首都圏センター」 にも大型リサイクラーを二台導入した。
会員 同様乾燥処理して、生産者に送り届けている。
これによって、首都圏センターから排出され る生ゴミの量はゼロになった。
 参加会員数は開始初年度の三五〇世帯から 現在は一七〇〇世帯まで増加し、年間一五一 トンの生ゴミが有機肥料として生産者に活用 有機野菜や無添加食品を会員向けに宅配する「ら でぃっしゅぼーや」は、環境負荷低減を経営理念に している。
物流分野では宅配の帰り便を利用して家 庭から出る生ゴミや食器を回収、リサイクルする独 自のスキームを構築した。
今年2月には宅配向けに カーボンオフセットも実施。
食の安心・安全と環境 問題で訴求することで事業規模を拡大している。
らでぃっしゅぼーや事業本部S CM部の桃井正行グループリー ダー 47  NOVEMBER 2008 されている。
このエコキッチン倶楽部は昨年、 日本産業デザイン振興会が主催するグッドデ ザイン賞の新領域デザイン部門を受賞してい る。
 この他にも〇五年には、家庭で不要になっ た食器を回収し、それを原料としてリサイク ルした「Re─食器」の販売を開始した。
R e─食器を購入した会員に送り届けた帰り便 で、不要になった食器を回収する。
食器は物 流センターを経て岐阜県の中間法人「グリーン ライフ 21 プロジェクト(GL 21 )」に輸送。
G L 21 は回収した食器をリサイクルしてRe─食 器を製造し、らでぃっしゅぼーやに納品する というスキームだ(図2)。
 食器の原料となる陶土は現在、国内の生産 量が減少していて、将来的に枯渇するのでは ないかと懸念されている。
そこで岐阜県美濃 市にある美濃焼の原料・製造メーカーや研究 機関などが合同でGL 21 を設立。
製造過程で 出る不良品や家庭で不要になった食器を回収 して粉砕し、原料としてリサイクルする技術 を開発した。
 しかし、GL 21 は 販売面で課題を抱え ていた。
そこで、ら でぃっしゅぼーやや 東武百貨店など、R e─食器の取り組み に賛同した会社が販 売を行い、食器の回 収に協力することと なった。
らでぃっし ゅぼーやにおける〇 六年三月時点の食 器の回収量は四二〇 キログラム、Re─食 器の累計売上高は約 二五〇〇万円。
現状 では小規模だが、取 り扱いは増加傾向に あるという。
環境NPOが母体となり設立  このように同社が静脈物流やCO2削減に 積極的に取り組むには理由がある。
もとも と、同社は一九七七年に設立された環境NP O「日本リサイクル運動市民の会」の活動を 母体としている。
同会は「持続可能な社会の 実現」を理念に掲げ、大量消費社会に対する アンチテーゼの意味合いを込め、各地でフリ ーマーケットの運営を行っていた。
 同社の設立も農薬や除草剤の使用を制限し た、環境に負荷をかけない有機農産物を販売 し、食を通じて環境保全活動を広めることが 狙いだった。
 「我々にとって環境対応は当たり前のこと で、何も特別なことではない。
会員の環境に 対する意識はもともと高く、二〇年以上前か らサステナビリティという言葉を使ってきた。
ようやく時代が追いついてきたと感じている」 と同社コーポレート・コミュニケーション室広 報グループの益貴大氏はいう。
 「RADIX」という、環境と食品の安全 性に配慮した独自の商品生産基準を設けてい る。
農薬の使用基準は国よりも厳しい。
現在、 国に登録されている農薬原体(農薬の原料と なる成分)は四七六種類あるが、そのうち一 一三種類の使用を同社では禁止している。
 トレーサビリティも厳格に行っている。
野 菜は生産地、生産者、栽培期間中の農薬の使 用の有無や、使用している場合は種類、回数 図1 エコキッチン倶楽部のスキーム らでぃっしゅぼーや 生ゴミをリサイク ラーで乾燥処理 会 員 生産者 有機肥料として 土作りに使用 《乾燥資源》 《有機農産物》 《野菜ぱれっと》 図2 食器の回収、リサイクルとRe- 食器の販売スキーム 会員 らでぃっしゅぼーや GL21 不要になった 食器の回収 Re- 食器を販売 不要な食器を届ける リサイクルして 再び食器を製造、納品 NOVEMBER 2008  48 物はマニュアルピッキングを行っている。
 業績は好調だ。
〇二年以降七年連続で増収 を記録している(図3)。
相次ぐ企業の食に 関する不祥事の影響もあり、消費者の食の安 心・安全志向の高まりが追い風になっている。
会員数は〇五年以降、対前年比一一〇%近い ペースで増え続け、現在は約九万四〇〇〇世 まで公開している。
加工食品は生産地、仕入 先、全ての原材料がはっきりしない限り扱わ ないという。
メーカー工場の視察も行ってい る。
 同社のメーンアイテムは野菜のセットボック ス「ぱれっと」だ。
旬のものを中心に、野菜 八種類、果物一〜二種類が会員宅に毎週届 く。
価格はスタンダードなセットで一箱二五 〇〇円。
野菜や果物種類は毎週変わる。
ただ し、会員が選ぶことはできない。
 野菜は天候により収穫量が大きく左右され る。
豊作だと安くなり、凶作だと高くなるな ど、価格変動のリスクも抱えている。
しかし、 ぱれっとの値段は一定。
生産者と契約を結び、 種類、量、時期など計画的に生産された野菜 を全量買い付けているためだ。
生産者は売れ 残りのリスクを回避でき、会員はスーパーや 自然食品店よりもリーズナブルな価格で有機 農産物を楽しむことができる。
 設立当初は有機農産物のみを扱っていた が、翌年の八九年にカタログ通販「げんきく ん」を開始して、畜産品、水産品、加工食 品、日雑品まで取り扱いアイテムの幅を拡大 した。
九五年には酒類の扱いも始めた。
その 結果、現在のアイテム数は約七〇〇〇に上っ ている。
国内初の食品個配を開始  らでぃっしゅぼーやが事業を開始する以前 から、生協や大地など有機野菜を会員制で販 売するビジネスは存在した。
ただし、他社は どこも各地域で会員が班を組織し、まとめて 配送する「共同購入方式」をとっていた。
そ れに対して、らでぃっしゅぼーやは国内初と なる食品の個別宅配に踏み切った。
共働きの 家庭が徐々に増えるなどライフスタイルに変化 の兆しが見え始め、共同購入は今後シュリン クしていくと見越したうえでの判断だった。
 配送網は物流会社のネットワークを使わず、 自前で構築した。
不在時に玄関の前など指定 した場所に商品を置いて帰る、?留め置き?を 行うためだ。
商品には蓄冷剤を同梱している ので、留め置きでも鮮度の問題はクリアでき る。
顧客の五割は配送時に不在。
連絡票を置 いておき、商品を一度センターに戻す既存の 物流会社のシステムでは、リードタイムが長く なってしまう。
 商品の配送は、各地の物流会社を配送代理 店として位置付けて委託している。
セールス ドライバーが宅配時に注文書や前述の乾燥資 源や食器の回収を行い、キャンペーンの案内 まで行う。
同社の会員は口コミで広がること が多く、新規会員の二五%はセールスドライ バーの営業によるものだという。
 倉庫内作業は、生協の物流で実績を持つ定 温物流会社、全通に委託している。
野菜は鮮 度を重視しているため、前日収穫した野菜は センター到着後、一時保管して、翌日の出荷 に備えている。
センターでは常温品、冷凍冷 蔵品はDPSを導入しているのに対し、農産 図3 らでぃっしゅぼーやの売上高と会員数の推移 (単位:百万円) (単位:人数) 89/4 90 /4 91 /4 92 /4 93 /4 94 /4 95 /4 96 /4 97 /4 98 /4 99 /4 00 /2 02 /2 03 /2 04 /2 05 /2 06 /2 07 /2 08 /2 09 /2 (月期) 100,000 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 売上高 会員数 ※2000 年2月期は決算期変更のため、10カ月決算 49  NOVEMBER 2008 分散していた三デポを統合することとなった。
 「物流コストとして、億単位の削減効果が みられた」と桃井グループリーダーがいうよ うに、集約効果はてきめんだった。
 新首都圏センター開設に伴い、バラバラだ った常温品用の段ボールや冷凍冷蔵品用の発 泡スチロールといった、包装資材のサイズを 統一。
これによって、最新式のDPSの導入 が可能になった。
ピッキングスピードが速くな り、温度に敏感な冷凍冷蔵品の変化を最小限 に留めることができるようになった。
 また、包装資材のサイズを統一したことで トラックへの積み込みも容易になり、積み込 み時間が短縮された。
拠点を一カ所に集約し たことで、課題だった横持ちの時間もなくな った。
 ぱれっとの箱詰めを行う野菜センターは、壁 を全て防熱パネルで囲んだ。
これによって、葉 物、果物を一時的に保管する蘇生庫、根菜用 の保管庫、箱詰めを行う作業所と、それぞれ に適した温度帯での野菜の管理が可能になっ た。
 物流拠点の再編は〇三年をもって終了し た。
「当初目標としていた会員数一〇万世帯 突破も目前に控え、来年以降は物流体制の再 編がテーマになるだろう。
大地とは生産地が 被るので、共同調達ができれば物流効率はも っとよくなるのではないか」と、桃井グルー プリーダーは将来を見据えている。
(柴山高宏) 帯。
目標としていた一〇万世帯突破も時間の 問題となった。
 その経営形態を巡っては試行錯誤もあった。
〇一年、同社の創業者である高野裕一氏が、 環境問題により特化したいと退職。
同氏が持 っていた株式をキューサイに譲渡したことで、 らでぃっしゅぼーやはキューサイの子会社と なった。
青汁を中心とした健康食品事業を手 掛けるキューサイとは、有機農業や環境対応、 通信販売などコンセプトが共通していたため、 シナジーが生まれるのではないかという判断 だった。
 だが、想定していたほどのシナジーが生ま れず、かつ経営の自由度も狭まったことから、 〇六年二月、大手ベンチャーキャピタル、ジャ フコの支援によりMBO(マネジメント・バイ アウト:経営陣による買収)を行い、再びキ ューサイから独立した。
これによって、主要 株主はキューサイからジャフコへと異動した。
物流体制再編も検討  宅配を販売チャネルとする同社にとって物 流インフラの整備は常に経営上の大テーマと なってきた。
設立時に埼玉県戸田市に物流拠 点「首都圏センター」を設置。
その後会員数 の増加に伴い、「神奈川センター」、「中部セ ンター」、「大阪センター」、「北海道センター」 を順次開設し、全国五拠点体制を敷いていた。
 なかでも首都圏センターは設立当初、野菜 と常温品を同じ物流施設で扱っていた。
小規 模な施設だったので、取り扱いアイテムの拡 大に伴い、商品分野別に拠点を新設していっ た。
九一年に冷凍冷蔵品センターを、九二年 には野菜常温品センターから野菜を分離、独 立させるかたちで野菜センターを設置。
首都 圏センターは野菜センター、常温品センター、 冷凍冷蔵センターの三デポ体制となった。
 しかし、最初に設置した野菜常温品センタ ー付近に十分な施設用地がなかったこともあ り、各拠点間の距離が一キロ近く離れてしま った。
一台のトラックが各センターを回って、 商品を積み込まなければならないため出発時 間が遅れ、リードタイムが長くなってしまう など、拠点の分散化に伴う課題が顕在化して いた。
 成長ペースを考えると、現在稼働している 施設のキャパシティを超えてしまい、さらなる 事業拡大に対応できないことは目に見えてい た。
そこで、〇三年に物流拠点を再編するこ ととなった。
同年一月に中部センターを、三 月に大阪センターを移転、拡張した。
八月に は、東京都板橋区に新首都圏センターを新設。
らでぃっしゅぼーやコーポレー ト・コミュニケーション室広報 グループの益貴大氏

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