ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年6号
メディア批評
マスコミ=サラリーマン社会へのアンチテーゼカタログ雑誌『通販生活』の好企画「私の禁じ手」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 59  JUNE 2008  『通販生活』はなかなかにおもしろい特集を やる。
私も加わっているから、ちょっと面映 ゆいのだが、今年の夏号に「私の禁じ手」と いう企画がある。
マスを追いかけて、前のめ りになっているメディアへの強烈なアンチテー ゼのようにも読める。
 順にまず、見出しがわりの「吹き出し」か ら紹介しよう。
 菅原文太が「自家用車がなくてもまったく 困らない。
車を手放してもいい人が、本当は もっといるんじゃないか?」。
 椎名誠が「ヒトの噂話や悪口は言わないし 聞かない。
男としてこの手の性癖がある奴は 一番貧しい人間だ」。
 私は「ゴルフをしない理由」で「会社の論 理が適用されるゴルフ場は、取引・接待・談 合の場」。
だから、ゴルフは趣味の欄ではなく、 仕事の欄に書けと皮肉った。
防衛庁の汚職事 件で逮捕された守屋前次官は極端な例だけれ ども、仕事の延長だから、そこでは会社の論 理がそのまま適用される。
ゴルフ場が「緑の 宴会場」と呼ばれるゆえんである。
 慶大教授の金子勝は「株には手を出さない」。
 作家の中村うさぎが、「禁煙ファシズム」を 批判して「ここまで追いつめられたら、私は 死んでもタバコをやめないレジスタンスの気分」。
 そう言えば、『朝日新聞』が論説で、神奈 川県知事の松沢成文の“禁煙ファシズム”を 礼賛したのには驚いた。
清潔主義は怪しいと いう思いを私は消せないが、「浄化」が『朝 日』は好きなのだろう。
社会を浄化するナチ に、いつのまにか“浄化”されてしまったのが、 ドイツのリベラルではなかったか。
 食文化研究家という肩書きの魚柄仁之助は、 「クーラーを使わない」と決めてしまえば、暑 さを防ぐ工夫も考えるし、「今必要なのは生活 のスケールダウンです」と。
 脚本家の筒井ともみが「パソコンがなくて も本当に必要な情報は入ってくる。
便利さよ りも自分の五感を大切にしたい」。
 そして映画監督の森達也は「僕はトイレで 用を足したあとに手を洗わない。
無自覚な習 慣に無自覚に埋没したくない」と言っている。
 こうした企画はマスメディアが考えるべきも のではないのか。
いつのまにか、メディアは 時流に抗するものではなく、時流に乗るもの となってしまった。
 この中で、椎名の発言が私には一番ピッタ リきた。
 「いままでただの一度もやったことのないの は、靴磨きをヒトにやってもらうこととゴルフ。
どっちも自分の親ぐらいの人に靴を磨かせたり、 自分の遊び道具をもたせたり、というのが嫌 だったからだ」  私は靴磨きはやってもらったことがあるので、 ドキッとした。
「でも」と思ったら、椎名はそ れを「そうしないとそれぞれそういう仕事を している人にとっては生活がかかっているん だから困る、という議論はあるだろうけれど 論点は別のような気がする」と軽く払う。
 私はそもそも運転免許を持っていないから、 次の指摘に同調するのも見当違いかもしれな いが、椎名はこう語る。
 「自分のクルマを洗うこともしない。
自分の クルマをピカピカに光らせている人は嫌いだ。
車なんて外を走る泥靴と思っていればいいじ ゃないか。
バンパーに傷がついたといって怒 って損害賠償を求めるヒトも嫌いだ。
そんな ことするのは自動車後進国の日本人だけだ」  ウームと唸ったのは、私も時々行くから困 ってしまったカラオケ。
 「サラリーマンをしていた若い頃は社長命令 でやったコトあるけど今はアホではないかと 軽蔑している」という。
自己陶酔が嫌いらしい。
 「サケのおしゃくもしない。
自分のペースで 飲みたいからしてほしくないし相手にもしない」  ある意味で、この企画はサラリーマン社会 批判だが、サラリーマン社会となってしまっ たマスメディア批判としても有効である。
マスコミ=サラリーマン社会へのアンチテーゼ カタログ雑誌『通販生活』の好企画「私の禁じ手」

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