ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年3号
物流IT解剖
西濃運輸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2008  62 第12 回 あえてオープン化せず 汎用機をオフコンに置換   二〇〇七年一月、西濃運輸は新し い基幹システムを稼働した。
大型汎用 機で管理していた西濃輸送グループの 基幹業務を、全面的にオフィス・コン ピュータ(オフコン)に移行。
これに よって基幹システムの運用コストを年 間六億円から三億円に半減し、同時 に災害対策のためのシステムの二重化 も実現した。
 このとき西濃は、汎用機の小型版 ともいうべきオフコンを新たな主力マ シンに据えた。
汎用機を使ったシステ ムは“レガシー”などと言われ時代遅 れのイメージが強い。
特定のITベン ダーに依存し、オープンシステムのよ うに競争原理を活用したコスト削減効 果も期待できない。
 しかし、その安定性を評価する専門 家は依然として多い。
近年の技術革 新によって、オフコンが汎用機なみの 性能を発揮するというコストパフォー マンスの高さも出ている。
西濃もこう した観点から汎用機(IBM製「Z 800」)をオフコン(IBM製「A S/400」=現「System i」)に置 き換えることを決めた。
 この結論に至るまでには、IT子 会社のセイノー情報サービスとともに 多くの検討を重ねた。
検討作業中の〇 四年には新潟中越地震が発生し、西 濃グループの拠点も被害を受けた。
そ うした事情もあって、災害対策も同 時進行させることになった。
 当時、セイノー情報で親会社向け業 務の責任者の立場にあり、現在は西 濃で情報システム部を担当している田 中隆取締役はこう振り返る。
 「当社にとって一番大事なのは顧客 主義だ。
そして、お客さんが最も喜ぶ のはコストを下げること。
だからこそ システムを刷新してコンピュータ費用 を下げ、その下げた費用で災害対策も できないかと考えた。
じゃあ汎用機と 同じような信頼性があって、一番コス トを下げられる手段は何なのか。
そう いう中で選んだのが『AS/400』 だった」  一昔前であれば、オフコンは中小 事業者向けの機種とみなされていた。
現に西濃も、各店舗の分散処理のた めに複数のAS/400を導入してお り、ピーク時には全国で一〇〇台以上 を使っていた。
これをシステム統合な どでスリム化し、〇二年にはわずか二 台で全店舗の処理をまかなえる体制 になっていた。
上位のAS/400で あれば、すでに汎用機なみの性能を 発揮する時代になっていたことを同社 はよく理解していた。
 オフコンであれば、過去に汎用機向 けにCOBOL(コンピュータの記述 言語)で書いた三万本強のソフト資産 を有効活用できるという思惑もあっ た。
ただし、これほど大規模なホス 汎用機をオフコンに換えてコスト削減 災害対策とデータの可視化も同時に実現 西濃運輸  国内最大規模のホスト・マイグレーション(移行作業)によって、基幹システ ムのコンピュータを汎用機からオフコンに置き換えた。
同時に災害対策やインタ ーネット対応の強化なども施したが、基幹システムの運用コストは年間6億円か ら3億円に半減した。
一連の取り組みは、情報子会社の売り上げを2割以上減ら す構造改革でもあった。
情報システム部担当の田中隆 取締役 基幹システム ◆本社組織  情報システム部に取締役情報システム部長 の田中氏を含む4人が在籍。
グループ持株会社のセイノー ホールディングスの社内にも情報部門があるが、西濃運輸 の田中取締役ほか1人が兼務 ◆情報子会社  セイノー情報サービス 資本金:1億円 (セイノーホールディングス100%)、売上高:約90億円 (07年3月期)、外販比率:約45%、従業員:374人 《概要》1984年に西濃運輸の「電算室」を分社化し、情報子会社「セイノー情報サービス」を 発足。
同年、西濃運輸の国内オンライン網が完成した。
セイノー情報は、91年に通信衛星を利 用した移動体通信システムの計画を日本で初めて発表したり、97年に日本IBMと共同で電 子商取引の仕組み「EC物流ゲートウェイ」を開発するなど先進的なIT活用に取り組んできた。
 システム開発の実務まで担える人材を情報子会社に抱えて、IT活用をほぼグループ内でま かなっている。
子会社の従業員のうち150人余りが貨物追跡をベースに西濃グループの基 幹業務を支援に従事。
残りが外販を担当している。
 主力ITベンダーは従来から一貫してIBM。
昨年、基幹システムを刷新して脱ホストを図った が、その代替機にもIBM製のオフコン「AS400」(現System i)を採用した。
現在でも記述 言語としてCOBOLを中心に据えているため、将来的には専門知識を持つ人材の確保が課題 になると思われる。
63  MARCH 2008 で、西濃自体の業務に精通したIT 技術者を多く抱えていることは心強か った。
〇五年一月から三カ月ほどか けて実施した「見積り調査」によっ て、セイノー情報を中心にプロジェク トを組めば投資額を一五億円程度に 抑えられることも確認できた。
 情報部門からこうした報告を受け た西濃の経営陣は〇五年五月にシス テム刷新の方針を決定。
この年の六月 から、大規模なホスト・マイグレーシ ョンを伴うシステム刷新プロジェクト が動きだした(図1)。
本機から四キロの場所に バックアップ機を設置   前述した通り、このプロジェクトと 並行してシステムの災害対策にもメド をつけた。
より正確に言うと、基幹 システムの刷新と災害対策は完全にセ ットで実施された。
 今回のプロジェクトで西濃は、新た なハードを導入したわけではない。
店 舗業務の処理で使っていた二台のA S/400のうち、一台で基幹業務 と店舗処理の両方をまかない、残り の一台を災害対策のバックアップ機に 使うという合理的な選択をしている。
システム全体を再構築することによっ て、より一層のスリム化と二重化を実 現したのである。
 災害対策で最も悩んだのはバックア ップ機の設置場所だった。
一般的な考 え方では、日頃使うメーン・コンピュ ータから離れた場所にバックアップ機 を置き、直下型地震などに対するリス クを分散する。
ところが西濃は、こ の“常識”に真っ向から逆らう決断 を下した。
 同社のメーン・コンピュータは、本 社(大垣市田口町)にある「SIS センター」に置かれている。
一方、災 害対策のためのバックアップ機も、同 じ大垣市内のIT産業集積地、「ソフ トピアジャパン」に建てられたNTT コミュニケーションズの耐震ビルに配 置した。
二台のマシンを隔てる距離は、 わずか四キロメートルしかない。
 もちろん東京や大阪などの遠隔地 にバックアップ機を置くことも検討し た。
しかし、その場合に懸念された のは、「災害が発生したとき、実際に コンピュータを動かすのは誰なのか」 という問題だ。
IT活用の大部分を グループ内で処理している同社ならで はの悩みだった。
 「ハードだけあっても、ノウハウを 持った人間がいなければ復旧は上手く いかない。
結局、われわれのメンバー が現地に行く必要がある。
でもその ような非常事態になれば、誰だって 仕事より家庭を優先する。
遠隔地に 関係者がすぐに駆けつけられるとは 限らない。
その点、すぐ近くに災害 対策用のマシンがあれば、家族の安全 を確保できた人間から順番に送りこむ ことができる」(田中取締役)  教科書通りではないことを承知の うえで、より現実に即した道を選んだ。
最大の決め手は、NTTコムのビルの 災害に対する強度だった。
万一、本社 「SISセンター」の機能が麻痺する ほどの大地震が発生すれば、ソフトピ アも被災を免れないはずだ。
だが田 中取締役は「その点についてはNT Tコムさんの災害対策を信頼するしか ない。
電源供給などライフラインの確 保も心配だったが、あそこは情報産 業の基地になっている。
最優先で復 旧されるはずだ」と割り切った。
 たしかにNTTコムの資料を見る と、施設が活断層の上にないことや、 「国内トップレベルの免震構造」、「液 状化対策」、「無瞬断の安定電源」と いった華々しい文言が並んでいる。
よ ほどの大災害に直撃されないかぎり、 建物やコンピュータごと物理的に壊れ る可能性は低そうだ。
 もっとも、この経営判断を西濃が 下した理由はほかにもいくつかあっ た。
NTTコムのビルの建設時期が、 西濃のシステム刷新とちょうどタイミ ング的に重なっていたこと。
さらに ト・マイグレーション(汎用機からの 移行作業)は成功事例がほとんどな かった。
しかも大手ITベンダーの助 けを借りてこれをやれば約四〇億円 の出費が発生する。
コスト削減どころ ではない。
 幸いセイノー情報には親会社向け業 務の担当者が一五〇人余りいて、開 発実務まで自前でまかなっている。
失 敗の許されない基幹システムの刷新 災害対策 図1 基幹システム(汎用機)の刷新スケジュール セイノー情報サービスシステムセンター 1. 運用コスト50%削減 2. 移行資産(プログラム本数 3万本強) 3. プロジェクト工数 1800人/月 4. 災害対策の実現 データ移行事前分(TAPE差分更新) データ移行(12h) DBコンバージョン バックアップ取得(8h) 稼働検証(5h) 環境切換(5h) 19カ月 2005年6月2005年12月30時間 12/31 23:00〜 1/2 〜5:00 現行調査設計コンバージョン検証導入/本番一斉切り換え 元資源 従来システム 刷新システム 棚卸 分析 ・ 設計 マイグレーション ツール テスト 新資源 並行稼働期間無し MARCH 2008  64 は、通信コストをめぐるメリットがあ った。
ここに入居することで大幅な コスト削減を見込めたことが決断を後 押ししたのだ。
 災害対策用のコンピュータは、本社 のメーン・コンピュータが処理したデ ータを常にバックアップしている。
こ のために二つの機器は一本で二ギガの 容量を持つ高速回線二本で接続され ており、ほぼリアルタイムでデータを 転送している。
仮に遠隔地に置いた マシンに秒単位のタイムラグでデータ を転送しようとすれば、通信コストが 跳ね上がってしまう。
 このため一般的な災害対策では、デ ータを数十分とか一時間単位のバッチ 処理で転送している。
災害発生時に ある程度のデータが失われるのを覚悟 し、その分は再入力するという考え 方である。
これに対して西濃は、「本 当に守るべきは災害が起きた時点での お客さんの物流データ。
これを再現す るのは事実上不可能」と信じている。
 だからこそ正副二台のコンピュー タを至近地に置き、その間を高速回 線で結ぶリアルタイム処理にこだわっ た。
回線の敷設はNTTに依頼した が、ここでバックアップ機を設置する NTTコムとの関係を活かし有利な条 件を引き出すことができた。
したた かな計算と言えるだろう。
総量一〇テラにおよぶ 物流データを可視化   同社のIT活用でユニークなのは災 害対策だけではない。
日常業務を通 じて蓄積されるデータの保存方法に も、特有の方針を貫いている。
 運送事業で使われる「送り状」の 原票は、契約の領収書類として税法 上七年間の保存が義務づけられてい る。
「送り状」にある情報の多くは運 賃計算や精算業務のためコンピュータ にも入力されるが、電子データの保存 期限はとくに定められておらず、一 般に運送事業法上の責任期間である 一年間をメドに保存されている。
だが 西濃は、電子データについても自主的 に七年分を保存してきた。
 紙の原票だけでは顧客からの問い 合わせに迅速に回答できないためだ。
一日あたり約四〇〇万個に上る荷物 の集荷・配達状況を管理している西 濃にとって、膨大な「送り状」の中 から特定の一枚を探すのは容易ではな い。
大変な時間と労力が必要で、す ぐ結果を知りたがる顧客のニーズには 即応することができなかった。
 そのために電子データを保存してい るのだが、それでも汎用機を使った従 来のシステムでは、顧客に回答するま でに一日程度かかった。
総量一〇テラ バイトに及ぶ過去の蓄積データは、オ ープンリール方式の磁気テープで保存 していた。
実際に顧客から問い合わ せが入ると、まず該当する磁気テープ を探す。
これを汎用機にセットしてデ ータを吸い上げ、それからオンライン で調べる必要があった。
 今回の基幹システムの刷新では、こ のデータ保存のあり方も抜本的に改善 した。
新たに正副それぞれのコンピュ ータ用に巨大なハードディスクを用意。
磁気テープで保存していたデータをす べてここに記憶させることで、自在 に検索できるようにしたのである。
 このようなITの運用方針の決定 権は、社内のごく限られた人たちの 判断に委ねられている。
IT戦略の 骨子を企画・立案している西濃の情 報システム部には、田中取締役を含め て四人しか社員がいない。
このうち 二人は持株会社のセイノーホールディ ングスの情報担当も兼務しており、実 質的にはわずか数人だけでグループ全 体のIT戦略を策定している。
 田中氏は一九七八年に西濃に入社 するとすぐに電算室に配属され、八 四年にセイノー情報が発足したときに はそのまま転籍した。
そして〇六年ま では、セイノー情報の役員として、親 会社(西濃)向けの業務の担当役員 を務めていた。
今回の基幹システムの 刷新プロジェクトにも、当初はセイノ ー情報の人間として参画し、西濃の 前任の情報システム部長と二人で相談 して基本方針を立てたのだという。
通信事業の撤退などで 売上高が二五%減少   少数精鋭で戦略を策定する体制は、 西濃グループ全体の経営手法にも通じ 情報子会社 図2 災害対策システムの全体概念図 TSM Web 汎用機 リモートMINIX 広域LAN LANスイッチ FC/IP変換FC/IP変換 LANスイッチ Web DB SAN DB PC PC i-Series サーバLAN サーバLAN バックアップ用LAN マイグレーション  Global Mirror(DBエリア) SISセンターNTTコム災害対策センター  Global Copy(TSMバックアップ) SAN 統合ストレージ統合ストレージ i-Series IT戦略の策定 65  MARCH 2008 社と契約するように変わった。
 田中取締役は「ようはコンピュータ に関するビジネスの方針を変えて欲し いということだ。
ネットワークビジネ スはもう止めて、これからは(運送 事業に関連する)マネジメント業務を やってもらいたい」と、子会社の意 識改革を期待する。
 設立当初からセイノー情報は「IT を駆使して西濃グループのために荷物 を獲得する」という明確な基本理念 を掲げてきた。
実際、ITのパッケー ジだけを外販するといったビジネスは 原則として手掛けておらず、ITを 活用したソリューションを荷主に提供 することで西濃グループの荷物を増や すことに徹してきた。
 しかし、それが最近は微妙に変化 してきたようにみえる。
西濃本体のロ ジスティクス事業とは別に、セイノー 情報が独自にロジスティクス事業(L LP事業)を展開するなど、役割分 担が曖昧になってきている。
 西濃としては「物流マネジメントセ ンター」という名称で自ら展開してい るロジスティクス事業を、セイノー情 報に下支えしてもらうことを期待し ている。
しかし、当のセイノー情報は、 欧米流の3PL事業も見据えてLL P事業を拡大中だ。
荷主の立場でロ ジスティクスを設計するあまり、西濃 以外の輸送会社をキャリアとして使う ケースすらある。
 「情報部門が強くなって勝手にやる のもいいと思う。
そこから良いもの をうちが使えばいい」と田中取締役。
だが、このまま独立独歩の傾向が強 まるのも困る。
セイノー情報の外販比 率は相対的に高まっているが、「もう 外販は止めてくれ。
西濃のブランドで 一緒に事業展開をしていこう」と話 しているのだという。
一層高まったIBM依存と 専門技術者の確保に課題   西濃の主力ITベンダーはずっとI BMだった。
セイノー情報がシステム 開発の実務まで担える人材を抱えてい るため、本来であればIBMの役割 は、ハードの保守と先進技術の案内役 でしかない。
それだけオープン化もし やすいはずなのだが、依存度はます ます高まっている。
 西濃は近年、インターネットを使っ た顧客絡みのシステムを意図的に富士 通のサーバーで処理してきた。
ところ が基幹システムの刷新でIBMのオフ コンを選択し、ネット関連の仕組みま で扱えるようにした結果、逆戻りし てしまった。
田中取締役は「今後は 他社のサーバーで処理する業務を増や していく」と強調する。
 一連の取り組みによるコスト削減の 効果には、おおむね満足している。
と は言え、現状で単体売上高の二%程 度あるITのランニングコストを目標 の一・六%程度まで引き下げるため には、ここで手綱を緩めるわけには いかない。
ネット関連のシステム開発 や、携帯電話を使った仕組みなどの IT投資は逆に増加傾向にある。
こ うした領域のシステムをIBM以外で 処理しながら、もう一段のコスト削減 につなげていく考えだ。
 基幹システムの刷新で、汎用機時代 と同じCOBOLを使い続けると決め たこともリスク要因の一つだ。
基幹シ ステムについては、「今後一〇年間は 変える必要がない」と見ているため、 過去のソフト資産や技術的蓄積を生か せる余地は大きい。
一方で新しいコン ピュータ言語を使いこなせる人材も育 成しているため、最新技術の面でも 心配していない。
 問題は、基幹システムを保守・運 用するための人材を将来にわたって確 保できるかどうかだ。
COBOLを 高度に使いこなす専門技術者は今後、 否応なく減っていく。
これをどうや って補充し続けていくのか。
西濃の IT戦略にとっては最大の課題の一つ といえそうだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) る。
セイノーホールディングスは〇六 年に、それまで六割しか保有してい なかったセイノー情報の発行済み株式 をすべて買い取った。
西濃とセイノー 情報は、本社も同じ敷地内にあって 従来から一体感が強い。
にもかかわ らず完全子会社化を進めたのは、持 株会社を中心とするグループ経営を強 化する狙いからだ。
 これによって西濃グループのIT戦 略そのものが変化したわけではない。
しかし、情報子会社の事業展開には 少なからぬ影響を与えた。
セイノー情 報の近年の売上規模は、〇六度の約 一一〇億円から、〇七年度には約九 〇億円、〇八年度は約八三億円(見 込み)と縮小しつづけている。
この 間、同社が手掛けている外販事業の 規模は大きくは変化していない。
売 上規模の縮小はほとんどが親会社の 方針転換に起因している。
 基幹システムの刷新によって、汎用 機関連の売り上げがなくなったことが 一つの理由だ。
さらに大きな要因と して、電話事業からの撤退があった。
かつて西濃が全国オンライン網を構築 したときにVAN事業をスタートして 以来、セイノー情報は電話回線のリセ ール事業を手掛けてきた。
ところが近 年になって電話会社が通信料を大幅に 値下げすると、西濃は直接、通信会 ベンダー活用

購読案内広告案内