ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年3号
ケース
ビジネスモデル トライネット・ロジスティクス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2008  44 ビジネスモデル トライネット・ロジスティクス 複合物流基地で樹脂のバルク化推進 日本初の「サイロシステム」も導入 専用岸壁にクレーン設置  千葉県の五井から姉崎にいたる東京湾沿岸 の市原地区は日本最大の石油コンビナート地 帯だ。
主要な石化メーカーの工場が集積し、汎 用樹脂の生産量が国内で最も多い。
その一角 にトライネット・ロジスティクスが、樹脂専用 の総合物流センター「市原インターモーダルタ ーミナル(IMT)」の建設を進めている。
 海に面し、専用岸壁まで整備された三万坪 の土地を〇五年に取得。
その岸壁に一昨年暮 れ、ガントリークレーンを一台設置し、昨年 六月までに九〇〇〇坪の屋外保管施設、九〇 〇〇坪のコンテナヤード、および延べ床面積 一万坪の倉庫を相次ぎ完成させ、本格稼働を 開始した。
来年春をめどにサイロ施設も建設 する計画だ。
これが完成するとIMTの機能 がひととおり整う。
 トライネット・ロジスティクスは三井物産の 子会社で、同社の物流本部が管轄する事業会 社のうち、国内物流の中核を担う日東ロジス ティクス、東神倉庫、京義倉庫の三社を昨年 四月に経営統合して発足した。
 統合前の三社は、それぞれの強みを生かし た物流拠点を展開していた。
IMTはこのう ち旧京義倉庫が土地を取得し建設を進めてい たもの。
「サイロシステム」と呼ばれる樹脂 製品の新しい保管方式を日本で初めて導入し、 バルク輸送(液体や粉体などの荷物を包装し ないで運ぶ輸送方式)を軸にした樹脂物流の 新しいビジネスモデルの実現を狙っている。
 京義倉庫は〇三年に三井物産の傘下に入っ た老舗の倉庫会社だ。
六〇年の歴史を持つ個 人経営の会社だったが後継者がいなかったこ とから、それまで八・九%の株主だった三井 物産の物流本部にオーナーから買収話が持ち 込まれた。
 資本金約五億円、売上高一二〇億円余りと いう中堅規模ながら、同社は千葉県内を中心 に一六万坪もの庫腹を管理していた。
このう ち一〇万坪は市川・船橋地区に、四万坪が市 原地区に集中し、それぞれの地区で特色のあ る事業を行っていた。
市川・船橋地区では不 動産事業が中心で、大手家庭品メーカーや玩 具の卸・小売りチェーンなどに物流センター として倉庫スペースを提供。
一方、市原地区 では石化メーカーからの委託で汎用樹脂の保 管・配送拠点として倉庫を運営していた。
 物流本部では買収に当たり、とりわけ市原 での実績に着目した。
汎用樹脂の生産量が国 内最大のこの地域で、京義倉庫はトップクラ スの取扱実績を誇っていた。
同社を傘下に収 めることで、樹脂物流というこれまで物流本 部の関与が少なかった分野への足がかりがで きる。
物流本部の国際物流部門との連携など により、将来はより大きな事業展開も期待で きると判断した。
 ただし当時、京義倉庫の樹脂物流部門は収 益性の低下に見舞われていた。
それまで市原 では、石化メーカーの工場で袋詰めされた樹 三井物産の子会社トライネット・ロジスティクス が、樹脂物流の新しいビジネスモデル構築に挑んで いる。
千葉県市原コンビナートの南端に手当てた 約3万坪の土地に、バルク化とモーダルシフトに対応 きる複合物流基地整備、そこに日本初の「サ イロシステム」を導入して、樹脂物流のプラットフ ォームを構築しようという構想だ。
45  MARCH 2008 脂製品を同社の倉庫で保管し、オーダーに従 って配送するだけの事業を行っていた。
とこ ろが近年、製品の包装用に従来の紙袋ではな くプラスチック製の袋(樹脂袋)を採用する ようになったことで状況が変わった。
樹脂袋 は風雨に強く屋外保管が可能なため、メーカ ーは外部の営業倉庫を利用せず工場構内の空 きスペースに野積みで保管するケースが増え てきたのだ。
 京義倉庫は単純な保管と配送という従来の 事業形態のままでは、売り上げ規模の縮小を 免れなかった。
樹脂物流事業に新たな付加価 値をつけて他社との差別化を図る必要に迫ら れた。
その突破口として位置付けたのが、バ ルクコンテナ輸送だった。
 同社は市原地区で一〇年ほど前からバルク 輸送に取り組んできた。
主要顧客である出光 石油化学(現出光興産)が、樹脂専用のバル クコンテナを独自に開発し、その運用を京義 倉庫に委託したのが始まりだった。
 従来、樹脂製品を倉庫で保管しユーザーへ 納品するときの荷姿は、二五キロ詰めの袋か 五〇〇キロ・一トン詰めのフレキシブルコンテ ナ(フレコン)が一般的で、主に一〇トント ラックで配送していた。
これらの荷姿ではト ラックへの積み降ろしのたびに荷役作業が発 生し、納品先では降ろした荷物をサイロの前 まで運び、袋を破いて中身をバンカーに投入 するという作業が必要になる。
 専用コンテナの開発は、こうした作業を解消 して物流を効率化することが狙いだった。
そ のコンテナは既存の箱型の二〇フィートコンテ ナを改良したもので、後ろ側に充填口と排出 口がある。
中に樹脂製の内袋をセットし、工 場での充填時には、充填口が上向きになるよ うにコンテナをダンプアップしてサイロから充 填口へ樹脂製品を流し込む。
納品先では、ロ ータリーバルブを使って樹脂をかきだしなが ら排出口からホースでサイロへ送り出す。
 積み降ろしや破袋・投入作業が不要である ため従来の荷姿と比べてはるかに作業効率が いい。
作業時に異物が混入する危険も少ない。
使い終わった紙袋など廃材の処理もいらない 等の利点がある。
二〇フィートコンテナには 樹脂製品を一六トン積めるため、一〇トント ラックから大幅に輸送ロットをアップできる ことも大きな魅力だ。
 京義倉庫はこの新型コンテナを二三〇〇台 導入して出光石化からバルク輸送業務を受託、 さらに出光が工場内に整備したコンテナヤー ドのオペレーションも任され、一〇年間にわ たってオペレーションのノウハウを蓄積してき た。
つまり三井物産の傘下に入った当時の京 義倉庫には既に、バルクシステムによる新規 事業展開という、後のIMT構想の下地が整 っていたのだ。
 三井物産の物流本部から京義倉庫の専務に 着任した伊藤史郎氏(現トライネット・ロジ スティクス常務執行役員)は、このバルクシ ステムに新しいビジネスモデル構築の糸口があ るとみた。
「二〇フィートのバルクコンテナを 使えばトラックから船や鉄道へのモーダルシフ トが容易になる。
荷役の効率化だけでなく環 境面でもプラスになる。
いずれほかのメーカ ーもそのメリットに気づくはずだ」と考えた。
カトゥーンナシーのパートナーに  そんな折に同氏は、ベルギーの有力物流会 社カトゥーンナシーが「サイロシステム」とい う樹脂の保管方式を日本に広めるためパート ナーを探していることを知った。
サイロシス テムとは樹脂をバルク状態のままサイロでグレ ード別に保管しておき、受注時にマシーンで 必要数だけパッキングするシステムのこと。
カ トゥーンナシーは八五年にこのシステムを考案 し、国内はもとより海外にも普及を図ってき た。
これまでに二二カ国の九二カ所に合せて 二〇〇〇本のサイロを設けシステムを運営し ている。
 樹脂製品には用途に応じてさまざまなグレ ードがある。
日本の工場では生産した製品を いったんサイロで受けるが、サイロの数が少 トライネット・ロジスティク スの伊藤史郎常務執行役員 MARCH 2008  46 ないため別のグレードの製品をつくるときに は受け入れのためにサイロを空にしなければ ならない。
その際に出荷先が決まっていない 在庫品は二五キロ袋に詰めて保管しておく方 法をとっている。
ただし実際の出荷がこの荷 姿によって行われるとは限らない。
受注数量 によっては一トンフレコンなどへ荷姿変換し なければならないことも多い。
 サイロシステムならこのような一時保管の ためのパッキングや荷姿変換という無駄な工 程を省くことができる。
欧米のメーカーもか つては日本のように袋詰めで保管していたが、 サイロシステムの普及とともに今では必要数 だけをオンデマンドでパッキングする方法が主 流になっている。
 ただし日本の場合、欧米とは生産状況が異 なる。
一メーカーで生産する樹脂のグレード 数が格段に多いのだ。
その分、一グレードあ たりの生産単位は小さい。
サイロ一本の容量 が一六〇トンあるのに対し、一回の生産ロッ トはせいぜいその半分でしかない。
生産規模 の小さい日本の工場にサイロシステムを普及 させるのは困難が予想される。
 それでも伊藤氏はこのシステムに新しい樹 脂物流のモデルとしての期待をかけた。
現在、 サウジアラビアで日本の大手石化メーカーが 世界最大級のプラント建設を進めている。
国 際競争に勝ち抜くため、今後はメーカーが国 内での生産を高機能製品に特化して、汎用樹 脂などベーシックな製品の生産は海外へシフ ダー輸送や空コンテナのポジショニング(回送 輸送)の一部を海上へシフトしようという取 り組みだ。
 はしけ輸送の新規需要開拓と同時に、埠頭 の車両混雑解消やCO2排出量削減にも貢献 できる。
国土交通省の進めるスーパー中枢港 湾構想の一環でコンテナ輸送の効率化をめざ す横浜市がこれを支援し、青海ふ頭〜本牧ふ 頭間に続いて市原〜本牧ふ頭間でも定期運航 を検討していた。
 市原地区からは樹脂製品の輸出が多く、大 半はコンテナをトラックで陸送し東京港から船 積みしている。
これを海上ルートにより横浜 港へ誘致する狙いがあった。
その市原側の船 積み候補地に京義倉庫のターミナル建設予定 地はまさにうってつけだった。
京義倉庫にと トする戦略に出ると考えられる。
 これに伴い海外から国内市場へ向かう樹脂 製品の新たなルートが生まれる可能性が出て くる。
輸入樹脂製品の荷姿は容量の大きいシ ー・バルクコンテナがメーン。
「これを受け入 れるために、サイロを始めコンテナをオペレー ションする専用の施設が必要になる」と見た のだ。
 そんな矢先に市原地区で鉄鋼メーカーの工 場跡地が売りに出された。
海に面しているう え、専用岸壁まで整備されており、海上ルー トによるバルク輸送を行うにはまたとない物件 だった。
京葉臨海鉄道の貨物駅にも近く、鉄 道輸送にも好都合だ。
京義倉庫は躊躇なく購 入を決めた。
 ここから同社のIMT構想が急ピッチで動 き出す。
バルク化やモーダルシフトに対応でき るよう、屋内・屋外の保管施設、コンテナヤ ードのほかサイロ施設まで備えたターミナルを 建設して、石化メーカーや業務委託先の物流 会社に物流プラットフォームとして利用して もらい、新しいコンセプトの樹脂物流の実現 をめざすという構想だ。
バージ輸送の定期航路も開設  折良くこの頃、横浜はしけ運送事業協同組 合が大型で高速の新型コンテナバージを導入 し、東京湾内のコンテナバージ輸送を計画し ていた。
東京と横浜の港間を陸路でシャシー によって行われている実入りコンテナのフィ カトゥーンナシー社の「サイロシステム」 47  MARCH 2008 っても専用岸壁を活かせる絶好のビジネスチ ャンスだった。
 新型コンテナバージはプッシャーボートで後 ろから押す“押航方式”で航行し、樹脂を積 んだ二〇フィートコンテナを一度に一二〇本 運べる。
荷役を行う際には、従来のバージの ように船のクレーンではなく、岸壁のガント リークレーンを使う。
京義倉庫では〇六年暮 れに入札で横浜市からガントリークレーンを一 基購入して岸壁に設置し、ストラドルキャリ アも二台導入した。
そして翌〇七年四月にコ ンテナバージが市原〜横浜間に就航し週に二 便体制で運航を開始した。
 クレーンを設置したのは、バージ輸送だけ でなく、内航船による国内向け貨物の輸送に も対応するためだ。
この頃から市原地区では、 出光以外にも住友化学や日本ポリプロなどの メーカーがバルクコンテナを導入して海上輸 送を開始しつつあった。
ただし船積みのたび にメーカーが個別にクレーンをリースし自社岸 壁や公共埠頭に設置して荷役を行っておりコ ストがかかっていた。
 そこでこれらのメーカーにIMTのガントリ ークレーンを共同利用してもらい、スケールメ リットをアピールしようと考えたのだ。
期待 通りバルクコンテナの海上輸送は徐々に広がっ た。
現在IMTには毎月一五隻の内航船が接 岸し月間五〇〇本のコンテナを扱っている。
 ただし横浜港間のバージでのコンテナ輸送 量はまだ月平均三〇〇TEUと、思ったほど は伸びていない。
横浜港で岸壁の使用枠が制 限されていることに加え、ドレージ輸送業者 が海上へのシフトに警戒心を抱いていること も原因の一つだ。
 「IMTをつくった目的は、あそこを経由 することでメーカーや物流会社にさまざまな 効率化のメリットを享受してもらうこと。
そ れをくりかえし訴えていきたい。
同時に、海 へシフトしてもトラックの仕事がなくならな いよう、新しい需要を創出できるビジネスモ デルを構築することがこれからの課題でもあ る」と伊藤氏は言う。
 来年の春にはカトゥーンナシーに建設を委託 した十二本のサイロが完成する予定だ。
伊藤 氏はIMTの事業展開はそこからが本番と見 ている。
今年の後半に石化メーカーの海外の 大型プラントが稼働し、来春には日本へ樹脂 の輸入が本格的に始まっているかもしれない。
 輸入コンテナが港に陸揚げされたら、現在 は輸出コンテナの輸送をメーンに行っているバ ージで、輸入コンテナをIMTへ運ぶ。
IM Tではコンテナの樹脂をサイロに受け入れて 保管し、出荷指示とともにバルクコンテナに 積んで船や鉄道で国内市場へ供給する。
こう したフローが生まれることで、IMTは機能 をフルに発揮できるようになる。
 もっとも、トライネット・ロジスティクスに とって、IMTの事業は目標とするビジネス モデルに向かう一里塚にすぎない。
ゆくゆく はメーカーの工場内にサイロを建設してオペレ ーションを受託し、ブレンドやコンパウンドな どの業務を含めたアウトソースの受け皿とな ることを狙っている。
その第一歩としてIM Tでサイロシステムを認知してもらう戦略だ。
 「輸入が増えるとともにメーカーの考え方も 変わると思う。
ここ数年その感触をつかんで いる」と伊藤氏。
日本の石化メーカーは国際 的な価格競争力の強化をめざして海外進出や 事業統合による規模の拡大を図っている。
そ の動きが加速すれば、欧米型のビジネスモデ ルを日本に持ち込もうという同社の挑戦が早 期に実を結ぶ可能性も出てくる。
(フリージャーナリスト・内田三知代) IMT に接岸するコンテナバージガントリークレーンで荷役 ストラドルキャリアが縦横にコンテナヤードも整備

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