ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年11号
特集
物流子会社政策 新設──シェアードサービス型の台頭

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

新設──シェアードサービス型の台頭  従来型の物流子会社の多くが単独決算主義時代の負の遺産 として再編を余儀なくされる一方、グループ経営の強化を目 的とした新たなタイプの物流子会社が登場している。
グルー プ各社の間接業務を集約することで効率化を図る「シェアー ドサービス」という考え方が、そこに用いられている。
(大矢昌浩) ロジスティクス市場の最前線  今年五月、千葉県舞浜にキヤノングループ最大の物 流センターが稼働した。
キヤノンマーケティングジャ パン(キヤノンMJ)の「新東京物流センター」だ。
これまで江東区の新砂と南砂の二カ所に分かれてい た関東地区の在庫拠点を一カ所に集約した。
延べ床 面積は約二万三〇〇〇坪で、同社の国内物流の六割 強を処理する。
 雨水の利用設備や熱交換機、自動調光機などの省 エネ機器をふんだんに導入し、CO2排出量をできる 限り抑えた環境対応型のセンターで、倉庫施設とし ては初めて建設物の環境性能を格付けする「建築物 総合環境性能評価システム(CASBEE)」で「A ランク」を正式取得している。
 資産の所有スキームとしては、大和ハウス工業が約 一万一六〇〇坪の敷地を取得してセンターを建設。
事 業用定期借地権を設定して、それを日立キャピタル が購入するかたちで、住友倉庫に賃貸している。
住 友倉庫はキヤノンMJから庫内作業を委託された3P Lパートナーという位置付けだ。
住友倉庫にとっても 同センターは最大の拠点となる。
 これまでキヤノングループの物流の大半は日本通運 が受託してきた。
キヤノンMJの仕入れ先となるキヤ ノン本社のグローバル・ロジスティクスは七割程度を 日通が押さえている。
国内販売を担当するキヤノンM Jも日通の路線便をベースに全国配送のネットワーク を組んでいる。
年商一兆八七〇〇億円を誇る日通に とってもキヤノングループは最大の荷主だ。
 拠点統合前の新砂と南砂の二つのセンターも、パー トナーは日通だった。
ところが、新センターの確保と 3PLを選択するにあたり、キヤノンMJは同社と しては初となる本格的な物流コンペを開催。
結果と して、住友倉庫に軍配を上げた。
綿密なシミュレーシ ョンに裏付けられた提案力を評価したという。
 しかし住友倉庫が千葉に拠点を構えるのは今回が 初めて。
それだけに五月に移転した当初、庫内作業 は混乱した。
運営が落ち着くまでには結局、数カ月 かかった。
それでも、この拠点集約によってキヤノン MJは倉庫賃料だけでも月間一〇〇〇万円以上のコ ストダウンを実現した。
 拠点統合、環境対策、物流不動産開発、3PLコ ンペといった最新キーワードの並ぶロジスティクス市 場の最前線の出来事だ。
そこに新たに「シェアード サービス」というキーワードが追加されようとしてい る。
グループ企業各社で分散管理している間接業務 を集約し、効率化を図ろうという連結経営のコンセ プトだ。
物流が主なターゲットの一つとなっている。
キヤノンの物流子会社が復活  キヤノンMJの新東京物流センターは、二〇〇六年 四月に同社が新設したシェアードサービス子会社、キ ヤノンビジネスサポート(キヤノンBS)の管理下に ある。
不動産管理の連結子会社、キヤノンファシリテ ィマネジメントを社名変更するかたちで設立した。
グ ループ向けの不動産管理や人材派遣業なども手がけ るが、年商約二四〇億円のうち六割は受発注処理や 物流管理などの物流事業が占める。
 この組織改革をキヤノンMJの物流推進本部部長 からキヤノンBSに異動した土井雅文業務推進本部 業務推進部部長は、「二五年ぶりにキヤノングループ に物流子会社が復活したととらえている」という。
キ ヤノングループにはかつて、トラックを自社所有して 国内物流の実運送を担うキヤノン運輸という物流子 NOVEMBER 2007  18 19  NOVEMBER 2007 会社があった。
しかし、本業への集中を目的として 八〇年代初頭に同社を解散。
それ以降、物流はノン アセットを基本として、日本の大手メーカーとしては 珍しく物流子会社も置かず、本社物流部門や事業部 門が直轄で管理してきた。
 キヤノンBSの設立によって、この体制が大きく変 わった。
キヤノンMJのロジスティクス管理は戦略立 案機能まで含めて全てキヤノンBSに移管された。
本 社には担当役員が残るのみで、キヤノングループのグ ローバルな会合までキヤノンBSのスタッフが日本市 場代表として出席する。
グループの各事業会社に分 散していた物流管理も全てキヤノンBSに集約した。
 その狙いをキヤノンBSの井出登士哉総合企画部 副部長は「“小さな本社”を実現することが目的だ。
そのためにIT機能の整備と並行してシェアードサー ビスを実施した。
シェアードサービスとは、コア事業 に集中するためにノンコア業務を集約するグループ経 営の手法の一つ。
当社の場合はキヤノンBSを、その 核として位置付けている」と説明する。
 キヤノンMJグループは、キヤノンBSを含む二四 の連結子会社から構成される。
〇五年時点でグルー プの総勢約一万六〇〇〇人の社員のうち、キヤノン MJやグループ各社の間接部門には計一八〇〇人の 正社員が在籍していた。
これをシェアードサービスの 導入によって合理化し、〇八年度末までに一五〇〇 人に圧縮するという計画だ。
 ロジスティクスはノンコア業務と判断しながらも、部 門売却等のドラスチックな改革は避け、グループ内に 人員を抱えたまま時間をかけてスリム化を進める。
終 身雇用の維持を社是とする同社らしいソフトランディ ングといえる。
しかし、かつて雇用の受け皿として 設立された物流子会社の多くが今日、連結決算中心 主義への移行によって再編を余儀なくされている現 状では、周回遅れの緩い施策にも映る。
 キヤノンBSは人件費のレートや本社部門の管理費 を、顧客であるグループ会社に対してオープンにして いる。
それに基づいて毎期、サービス料金をグループ 各社と交渉する。
料金水準は毎年削減していくこと が義務づけられている。
改善によるコスト削減分は、 その期中はキヤノンBSの取り分になる。
しかし、翌 期以降は料金の値下げによってグループ会社に還元す る決まりだ。
 キヤノンBSがいくら成果を挙げても、売上げと 利益は構造的にグループに吸い上げられてしまう。
外 販に打って出ない限り、シェアードサービス企業には 事業規模を拡大するすべがない。
しかしキヤノンB Sのミッションはあくまで業務品質の向上と効率化に よるグループへの貢献で、当面の計画に外販は含まれ ていない。
グループ向けのサービス範囲を拡大してい くことは可能だが、それもいずれは限界が訪れる。
 その先のキヤノンBSの展開について、井出総合 企画副部長は「一般論としてはシェアードサービス企 業として継続していくこともあれば、役割を終えて 親会社に再吸収する場合もある。
外販に打って出る ケースもあるだろう。
しかし今の段階では、そこま では計画していない」という。
物流子会社の出口戦略  従来の物流子会社政策は、自立がゴールだった。
外 販の獲得によってグループ依存から脱却し、株の配当 と最終的には株式公開によるキャピタルゲインによっ て親会社に貢献することが、物流子会社の成功のか たちとされた。
それに対して現在新設の続いている シェアードサービス型の物流子会社は、グループ連結 特集 Canon工場新東京物流センター ベンダー各社 (キヤノン以外) 納入条件輸送形態 納品先 宅配/路線便 集荷追跡システム 梱包形態、 料金自動計算 ・遠隔地配送 ・多頻度小口 ・単純納品 ・時間指定 ・宣伝回収 ・ロット納品 ・重量物搬入 ・設置調整 ・下取機回収 ・時間指定 エンドユーザー 量販店店舗 量販店倉庫 ディーラー倉庫 企業オフィス チャーター便 方面別配送リスト 設置便 DRIVE配車システム セッティングサービス キヤノン 【入荷】 【保管】 【出荷】 キヤノンMJ 【仕入れ】 【保管】 【出荷】 【流通加工】 【キッティング】 ●納品リードタイム AM中入荷 PM3:00 出荷締切 夜間積込 全国翌日配送 エンドユーザーまでのワンストップ流通体制 基本は翌日だが、一部カメラ・量販店及び用紙についてはエリア限定で当日配達実施 ●キヤノンMJの新東京物流センターと物流フローの概要 経営の強化を目的とした時限プロジェクト的な意味合 いが強い。
 その違いはビジネスモデルにも反映されている。
外 部株主のいない一〇〇%子会社で、外販もなければ、 親会社はいつでも組織を組み替えることができる。
そ のため物流センターや車両など、再編の足かせになり かねない物流資産は抱えない。
グループ会社に分散 したロジスティクスに横串を刺すだけでも、当面は十 分なメリットがある。
その後については、その時点の 状況次第で判断すればいい。
連結経営を活かして出 口戦略まで配慮したモデルといえる。
 もっとも、グループのロジスティクス戦略を立案し、 3PLを管理するというその役割は荷主企業のロジ スティクス管理部門と変わらない。
法人格を分けなく ても理屈の上では同じ役割は果たせる。
しかし、キ ヤノンBSの土井部長は「分社化することで、管理 費まで含めた物流コストが否応なく明確になる。
また 物流費を自分の会社の経費として管理するのと、売 り上げとして扱うのでは取り組み方が全く違ってくる。
スタッフにその意識を芽生えさせるだけでも大きな効 果がある」という。
 当面の課題は、荷主であるグループ企業とキヤノン BSの間、そしてキヤノンBSと3PLの間で、そ れぞれ締結する「サービス・レベル・アグリーメント (SLA)」と呼ばれる契約方法を洗練させていくこ とだ。
サービス品質や作業生産性を評価する数値指 標(KPI)を定義して、両社が合意のうえで毎期 の目標値を設定する。
それを落とし込んだKPIを、 社員一人ひとりの評価にも用いる。
 「KPIでキヤノンBSの経営を貫く。
それによっ て当社流のアウトソーシングを確立したい。
当社の規 模で3PLを全国展開して成功させたという話はま だ聞いたことがない。
やりがいがある」と土井部長 は意欲を燃やしている。
グループ統合に役割を特化  キヤノンMJと同じ〇六年四月、日用雑貨品メーカ ーのエステー(旧社名エステー化学)もまたエステー ビジネスサポート(エステーBS)の営業を開始して いる。
受注から納品までの物流業務をメーンに、卸 に対する売掛金の管理・回収や、フィールドサービス と呼ばれる小売店頭の陳列作業などの後方支援業務 を担当するシェアードサービス企業だ。
従来の本社ロ ジスティクス部門の機能は、戦略立案まで含め、その ままエステーBSに移管した。
 エステーは現在、本社販売部門の他にチャネル別に 三つの販売会社を設置している。
業務用品チャネル を担当する連結子会社のエステートレーディングを〇 三年四月に分割し、自動車用品販売店向け販社とし てエステーオートを設立。
さらに翌〇四年九月には住 友スリーエムとの合弁でスリーエム・エステー販売を 設立した。
これらのグループ会社に分散した物流や事 務などの間接業務を集約することが、シェアードサー ビスの目的だ。
 エステーBSにはエステーグループが〇五年十二月 に導入したセカンドキャリア制度の受け皿としての役 割も持たせている。
定年退職したOBをエステーBS で再雇用して六五歳まで定年を延長する。
本人の意 向とスキルに配慮してエステーBSの社内で働く以外 に人材派遣のかたちで本社やグループ会社の仕事にも 就かせている。
 エステーBSの現在の従業員数は正社員が三二人。
ほかに契約社員と派遣社員が合わせて五八人在籍し ている。
営業開始初年度となる〇七年三月期の売り NOVEMBER 2007  20 ?物流作業 ?物流業務用設備・器材 ?物流システム設計  (ハード・ソフト)  ⇒3PLシステム ?物流システム運営・管理  ⇒3PLシステム運用・   利用契約 ?物流品質管理と対策 物流そのものをライバル に勝つ商品とすること 荷主の物流業務を徹底し て合理化すること( 品質 は当然) ?物流拠点政策 ?拠点別作業別業者政策 ?物流メニュー政策  (サービス コスト) ?物流品質管理と対策 ?物流ネットワーク政策  (例:連結物流・動脈、  静脈・共同物流) ?組織(人事・教育含む) ?重クレーム対応 コ アノンコア 目 的目 的 キヤノンBSの土井雅文 業務推進本部業務推進 部部長 キヤノンBSの井出登士哉 総合企画部副部長 ●キヤノンBS は物流子会社としてのコア業務とノン  コア業務を整理した キヤノンBS 3PL  それでも、分社化にともない従来は本社物流部門 で管理していた需給調整機能は再び工場に移管され ることになった。
ロジスティクス管理の組織体制とし ては一歩後退した格好だ。
同社のSCM構築は既に 一段落している。
当面はシェアードサービスを機能さ せる効果のほうが大きい。
外部化することで経費も 明確になる。
分社化には妥当性がある。
 組織は戦略に従う──それは分かっていても、自分 の経営する会社が将来、従来型の物流子会社のよう な負の遺産にもなりかねないという危惧がある。
そ れを避けるためには、グループのロジスティクス戦略 立案部隊としての存在価値を、親会社に常にアピー ルしていく必要がある。
それによってエステーBSの スタッフのモチベーションを鼓舞していかなくてはな らない。
それがシェアードサービス企業のトップとし ての役割だと認識している。
 来年春にはプラネット物流の北関東センターが稼働 する。
エステーは現在の関東地区の拠点を同センター に移転する計画だ。
大幅なコスト削減が見込める。
そ れを原資としてエステーBSの情報システムの高度化 をしかける考えだ。
グループのシステム戦略を先導す る自立的な投資によって一日も早く地位を固めてお きたいと急いでいる。
 他にも「非効率な受注活動に対するペナルティや、 輸送ロット単位にまとめた注文に対するインセティブ を、グループ向けの料金体系に反映させることを検 討している。
それによって親会社の営業スタイルを改 善することができる。
受注情報や在庫情報を工場に 提供することで、ムダな在庫を減らすこともできる。
そうした戦略部門の名にふさわしい活動を展開する ことで従来型の物流子会社や3PLとは一線を画す 会社にしたい」と岡田社長は考えている。
21  NOVEMBER 2007 特集 エステービジネスサポ ートの岡田章一社長 上げは四億円強。
このうち約半分が物流管理費とし て親会社に請求している分で、別途約一五億円の支 払い物流費を親会社に代わって管理している。
それ を取り込むことで近くエステーBSの年商は二〇億円 規模になる見込みだ。
連結売上高が約四五〇億円の エステーにとっては小さな存在ではない。
 エステーBSのトップを務める岡田章一社長は、エ ステーのIT戦略部長や営業企画部長を歴任し、S CMの陣頭指揮をとってきたロジスティクスのスペシ ャリスト。
「グループの受発注と物流をカバーするエ ステーBSは、エステーグループのSCMのカギを握 る組織だ」という。
しかし、同時に岡田社長は物流 管理を本社から切り離したことに一抹の不安も感じ ている。
屋上屋は重ねない  もともとエステーには物流子会社がなかった。
本社 でセンターを所有・運営していた時代もあったが、事 業規模の拡大でスペースが手狭になったのを機に自社 倉庫を閉鎖。
その後は物流の現場作業を全てアウト ソーシングしてきた。
同社は日用雑貨品メーカーの共 同物流機構、プラネット物流を最も積極的に利用し ているメーカーの一つでもある。
既存アセットや物流 子会社を持っていなかったことが、共同物流への参 加を容易にした。
 そのため岡田社長は「個人的には物流子会社は持 たない方が良いと考えていた。
子会社を作っても、親 会社に管理部門が残れば、かえって意志決定が遅くな ってしまう。
親会社側から見ても、かつての先輩社 員を管理するとなれば、どうしても遠慮が働く」。
そ のため今回の分社化では本社側に物流管理部門を残 さず、屋上屋を重ねないことに配慮した。
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