ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年11号
特集
物流子会社政策 売却──究極の物流リストラ

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NOVEMBER 2007  14 売却──究極の物流リストラ  グループ連結経営の強化とグローバル化の進展 が、物流子会社政策の再考を迫っている。
この ところの業績回復で、痛みの伴うリストラを先送 りする動きが見られる一方、懐に余裕のあるうち にと、前倒しで改革を断行する企業も目立って きた。
親会社のスタンスは二極化が進んでいる。
強いメーカーから先に動く  富士通、TDK、資生堂、オムロン、日本IBM ──日本の有力メーカーによる物流子会社の売却が 加速している。
売却先はいずれも国内外の物流企業、 3PLだ。
物流子会社の従業員と既存事業は、その まま売却先の3PLに受け継がれる。
これによって それまでの事実上の自家物流が、オセロゲームのよう に一瞬にして3PLに塗り変わる。
日本市場に特有 の3PL導入スキームだ。
 米国では自家物流をアウトソーシングに切り替える にあたり既存従業員のレイオフが実施される。
実際、 九〇年代初頭の米国では、荷主企業に勤める物流マ ンの大量の首切りと、資産を持たないノンアセット系 3PLの台頭が、コインの裏表となって拡大した。
一 方、米国と比べて労働組合の力が強い欧州では、荷 主従業員の雇用維持が3PL導入の条件となってい る。
それに対して日本では、物流子会社をスタッフ ごと買収することが、その親会社を荷主とする3P L案件獲得の常套手段となっている。
 もともと日本は各業界の大手メーカーがそれぞれ 傘下に物流子会社を抱える世界にも類を見ない“物 流子会社大国”だ。
二〇〇〇年三月期まで続いた親 会社中心の単独決算主義が、その背景となっていた。
単独決算主義では子会社の業績は親会社の評価の対 象とはならない。
そのため親会社は物流子会社との 取引を、毎期の業績数値をコントロールするための調 整弁として利用できた。
子会社を親会社の余剰従業 員やOBの受け皿にもしてきた。
 欧米に倣って日本も連結決算重視に移行したこと で、その前提が崩れた。
過去の子会社政策の精算を、 親会社は否応なく迫られることになった。
そのため に会計制度改革を直前に控えた一九九〇年代末には、 大手メーカーの物流子会社の身売り話が水面下で活 発にやり取りされていた。
しかし、結果的にはゴー ン改革でバンテックとゼロ(旧日産陸送)を売却した 日産自動車を例外として、大規模な物流子会社のほ とんどが、そのまま温存されている。
多くの先輩社 員が天下りしている子会社を切り捨てることに、親 会社の経営陣が二の足を踏んだ格好だ。
 それでも連結経営が本格的にスタートし、同時にグ ローバル化が急加速したことで、親会社のスタンスも 変わってきた。
手遅れにならないうちに選択と集中 を進めようと物流子会社改革を断行するメーカーが、 この三〜四年の間に次々に現れている。
外資系3P Lの本格参入をはじめ、日本市場に3PLがはっき りと定着してきたことも、それを後押ししている。
 富士通は〇四年に物流子会社の富士通ロジスティ クスを、3PL世界最大手のエクセル(現在のDHL サプライチェーン)に売却した。
ITバブルの崩壊で 大きなダメージを受けた富士通は、経営資源をコア・ コンピタンス(競争力の源泉)に集中する大規模な改 革を実施。
既存の業務プロセスをコアとノンコアに分 類し、ノンコアと評価したプロセスのアウトソーシン グに踏み切った。
 富士通ロジスティクスの売却はその一環だった。
同 社は大型コンピュータ関連の物流を強みとして、良好 な財務状況を維持していたが、その他のサービスには 目立った優位性がなく、グローバル・ロジスティクス の実績にも乏しかった。
グループ以外の荷主、いわゆ る外販比率は一割以下で、売り上げの大半をグルー プに依存している状態だった。
 富士通としては三つの選択肢があった。
?改革の先 送り、?子会社の解散、?売却である。
しかし、「? 先送り」する猶予はない。
また「?解散」は事実上、 親会社への吸収を意味し、選択と集中とは逆行する。
結局、経営陣は「?売却」を決断した。
 売却先の検討に当たっては、既存従業員の雇用維 持が最重視された。
最終的に外資のエクセルを選んだ のも「既に組織の出来上がっている国内の3PLで は、富士通ロジスティクスの元社員たちが新しい居場 所を見つけることが難しくなる」ためだった。
日本 の3PL市場に新たに参入した外資であれば、相手 側の人材ニーズとも合致するため活躍の場を確保しや すい。
しかも外資系3PLには、富士通が荷主とし て必要とする国際物流のノウハウも期待できた。
 物流子会社にメスを入れるキッカケは業績悪化ばか りとは限らない。
今年四月、資生堂は業績絶好調の 最中に資生堂物流サービスを約二八億円で日立物流 に売却した。
同じタイミングで国内八カ所に所有して いた物流センターの土地・建物も物流不動産ファンド のプロロジスに一六〇億円で売却した。
 いくら足元の業績は好調でも国内の化粧品市場は 既に成熟している。
市場規模の拡大はもはや期待で きない。
一方、中国を始めとしたアジアの化粧品市 場は急成長しているが、物流子会社は国際物流の機 能を欠いている。
今後国内市場がシュリンクして、海 外シフトが進めば、物流子会社の存在がグループ経営 の足かせになる恐れがある。
そのリスクを事前に回避 しておこうという判断だ。
 物流子会社のリストラのスキームは既に確立してい る。
物流不動産ファンドの台頭によって、買収する 側の3PLのリスクも大幅に軽減された。
今後は業 績好調でグローバル化の進むメーカーほど物流子会社 改革に先手を打っていくことになる。
問題を先送り する親会社との格差は広がる一方だ。
 (大矢昌浩) 15  NOVEMBER 2007 主な物流子会社のM&Aの概要 時期 親会社 子会社 子会社の概要 売却先 売却スキーム 2004年6月 2004年10月 2005年10月 2007年4月 2007年4月 2008年1月 富士通 TDK 大丸 資生堂 オムロン 日本IBM 富士通ロジスティクス TDK物流 アソシア 資生堂物流サービス オムロンロジスティック クリエイツ 日本IBMロジスティクス 旧エクセルの日本法人が全株式を取得。
買収 金額は非公開。
その後、エクセルをDHLが買 収。
アルプス物流を存続会社として合併。
合併比 率はアルプス物流1に対してTDK物流 0.82。
子会社株の68%を6億5000万円で郵政公 社に売却。
子会社はJPロジサービスに社名 変更。
子会社株の90%を約28億円で日立物流に、 物流施設は160億円でプロロジス、マテハン 設備は30億円で日立キャピタルに売却 子会社株式の49%を住友倉庫に売却。
子会 社はオムロン住倉ロジスティックに社名変 更。
日本IBMの保有する子会社株の全株式を1億 円で安田倉庫に売却。
子会社は日本ビジネス ロジスティクス(JBL)に社名変更の予定。
93年設立。
06年度の年 商約40億円。
07年9月 時点の従業員数86人。
97年設立。
06年3月期 の年商約150億円。
従業 員数約40人。
87年設立。
06年度末時 点の年商約170億円。
従 業員数282人。
68年設立。
04年年度の 年商119億円。
従業員数 477人。
81年設立。
従業員数 242人。
03年度末の年 商約60億円。
88年設立。
03年度の年 商推定380億円。
従業員 数473人。
DHLサプライチェーン (旧エクセル) アルプス物流 日本郵政公社 日立物流 住友倉庫 安田倉庫 売上規模が三分の一に ──今回の売却の経緯から教えてください。
 「親会社のIBMは一九九〇年代後半から、ビジネ スの軸足をITサービスやソリューションに移してい ます。
これは物流子会社である我々日本アイ・ビー・ エムロジスティクス(JBL)にとっては、仕事の減 少を意味します。
実際、売上高はピーク時の約三分 の一にまで下がりました。
この数年間に藤沢・野洲 工場内の事業売却が実施され、とりわけ大きかった のは、二〇〇五年のパソコン事業の売却でした」  「私が社長に就任した直後のことでした。
当時、当 社の売上高のうちパソコンの物流業務は三〇%以上を 占めていました。
まず考えたのは、完全子会社のま まIBMに依存している体制では、JBLの展望は 開けない、ということです。
親会社のコアはITで あって、生産や、ましてや物流ではありません。
グ ループ内にもはや大きな物流はなく、我々はスキルを 発揮させてくれる場を必要としていました」  「〇六年頃からIBMとして具体的に売却先の検討 を始めました。
買収に興味を示してくれた企業の中 から、外資を含めた数社に候補を絞っていきました。
そこで重視したのは、現在の雇用を維持できるか、わ れわれのエクスパタイズ(専門技術、ノウハウ)を発 揮しやすい環境を得られるか、ということです。
最 終的に安田倉庫を選んだのは、もともと安田倉庫は 日本IBMの販売物流のパートナーであり、日本I BMもまた安田倉庫のIT関連の業務を行っていた、 という相互の信頼関係もあったかもしれません」 ──グループを離れることに関して、JBL内に混乱 はなかったのでしょうか。
 「もちろん社員たちにとっては驚きだったと思いま す。
特に日本IBMからの出向社員にとっては一大 事だったでしょう。
しかし、当社の社員たちが日本 IBMに戻っても、これまで培ってきた専門性を活 かす場はありません。
今回の話は我々のスキルを活か すためのチャンスだから、一緒に移ろうと一人ひとり 説得しました。
最終的に出向社員、転籍社員、プロ パーの人員に加えてレギュラー以外の契約社員、派遣 社員も皆、残ってくれることになりました」 ──売却後にIBMとはどういった関係になりますか。
 「IBMのプリファード・サプライヤー(優先起用 取引先)の指定を受けて、今後もIBMの物流業務 を行っていく予定です。
これまで通り合理化とコスト 削減を進め、IBMの業務をベースに競争力を高め ていきたい。
新たに親会社となる安田倉庫と、IB Mを含めた荷主のために、JBL時代に凍結せざる を得なかった力を発揮していきたい」 ──振り返ってみると、JBLは九三年に3PLの 外販を強く意識して設立されています。
3PLとい う言葉が日本ではまだほとんど知られていない時代 でした。
 「当時のIBMには機能別に子会社を作ろうという 考えがあり、当社の設立もその一環でした。
ただし、 物流子会社を作ったのは世界中で日本だけです。
欧米 では物流業務は全てアウトソーシングしています。
し かし、日本の場合は国内工場があるために高度な物 流管理が必要で、適切なアウトソーシング先が見当た らなかった。
そこで日本IBMが五一%、日本IB Mからの転籍者が四九%を出資するかたちのジョイ ント・ベンチャーとしてJBLを設立しました」  「ゆくゆくは3PLとして独立させようという考え 方でした。
実際、親会社から外販が奨励され、日本 IBMの部品サプライヤーなどにサービスの対象範囲 NOVEMBER 2007  16 「物流専業者への売却は望むところ」  日本IBMロジスティクスの安田倉庫への売却が決まった。
親 会社のIBMがITサービスに事業の軸足をシフトしたのに伴い ベースカーゴが激減、物流子会社としての将来像を描けずに いた。
新たに物流専業者に傘下入りすることで、IBM時代に 培った専門性の発揮を目指す。
       (梶原幸絵) 日本IBMロジスティクス 辻本昇市 社長 売却──究極の物流リストラ を広げていきました。
その結果、設立当初はIBM の業務が一〇〇%でしたが、外販比率を二〇%くら いまで上げることができました。
業績も右肩上がり に伸び、一定の成果は残せたと思っています」 ──外販のアプローチは?  「生産物流、特にVMI(Vendor Managed Inventory :ベンダー主導型在庫管理)のノウハウが武器に なりました。
当時の野洲事業所や藤沢事業所などの 工場に、VMIを導入しました。
国内では恐らく初 めての取り組みだったと思います。
VMIはメーカー の在庫負担をサプライヤー側に移管することになるわ けですから、サプライヤーとの調整は容易ではありま せん。
しかし、そこで苦労した甲斐もあって、その 後は中国、フィリピン、タイなど、海外でもVMIモ デルを立ち上げ、軌道に乗せることができました」 ──二〇〇〇年以降、VMIは他のハイテクメーカー にも広がってきていきました。
  「VMIを導入することで、セットメーカーの在庫 は事実上ゼロになります。
そのため興味を示す企業は 多いけれども、成功させるのは難しい。
VMIには メーカーとサプライヤー、双方の協力が必要です。
そ こで発生する物流コストの分担にも配慮しなければ ならない。
形だけを採り入れても長続きはしません。
細部まで考え抜かれた仕組みにする必要があります。
同時に、IT化も不可欠な要素になります」 新たな場で専門技術を発揮 ──その後、JBLは九九年に完全子会社化される ことになりました。
 「それもグループ戦略の一環です。
我々JBLも含 めシェアード・サービス系の会社を完全子会社化し、 統合するという新たな方針に基づいています。
この 統合を機に、当社の事業モデルは大きく変わりまし た。
日本IBMと取引先の間に入り、物流企業から 仕入れたサービスを親会社に販売して自分たちのマー ジンを稼ぐというのではなく、親会社に代って“仕 入れ”を工夫し、KPIやPDCAサイクルなどを 使って協力会社を管理し、計画立案を行うという立 場になりました」 ──外販に対するスタンスも変わった。
 「基本的に外販拡大はストップしました。
ただし、 工場の売却などで、結果的に外販比率は上がりまし た。
現在は約五〇%です。
日本IBMの工場、例え ば野洲事業所では、売却によって荷主は変わりまし たが、工場の構内物流の仕事を今でも続けさせても らっています。
それだけの競争力はあると自負して います。
また、互いの信頼関係を継続していきたい と思います」 ──外販を追わず、親会社の合理化に貢献するとい う取り組みを進めていくと、物流子会社としての事 業規模は小さくならざるを得ません。
 「そうですね。
売上を追いかけるのではなく、合理 化を進めながら自分たちのバリューを活用し、いかに 適正な利益を上げていくか、ということに力を注い できました。
社内の改革、組織と人員配置の適正化 も進めました。
九九年時点の社員数は二〇〇人弱で したが、現在は八六人にまで絞られました」 ──売却でようやく展望が開ける?  「いろいろな道が見えてきます。
安田倉庫の子会社 になることで我々の力を思い切って外に向かって発揮 できる。
我々が培ってきたロジスティクスとITのノ ウハウを活用することができる。
新しい未来に向か って仕事ができると期待しています。
こんなにうれ しいことはないと思っています」 17  NOVEMBER 2007 企業概要  1993 年、日本IBM が51%、残りを子会社 経営陣が出資するかたちで、日本ビジネス・ロジ スティクスとして設立。
99 年、日本IBM の全額 出資となり、日本アイ・ビー・エムロジスティク スに社名変更。
2007 年9 月、安田倉庫が日本 IBM と全株式取得で合意した。
株式譲渡は08 年1月の予定。
06年12月期の売上高は39億 6300万円、経常利益は1億100万円、純利 益は4700 万円。
従業員数86 人。
A社部品工場 B社部品工場 C社部品工場CRセンター IBM工場 顧 客 EMS OEM ●EMS 共同倉庫機能 ●部品共同倉庫機能 ●出荷・配送センター機能 ●キッティング機能 JIT納品 VMI ●90年代に他社に先駆け国内工場にVMIを導入した 特集

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