ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年11号
ケース
ビジネスモデル江崎グリコ

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NOVEMBER 2007  40 ビジネスモデル 江崎グリコ オフィスで“置き菓子”の直販事業を展開 自前の販売物流網で9万ボックスを管理  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
一〇〇円均一のオヤツで気分転換  江崎グリコが大都市圏のオフィスで展開す る“富山の薬売り方式”の置き菓子事業が支 持を広げている。
このビジネスは、従業員が 二〇人程度いるオフィスに、一〇種類・二四 個ほどの菓子を入れた専用ボックスを設置す るところから始まる。
利用者は商品を取り出 すたびに一個につき一〇〇円を代金箱に支払 う。
これをグリコが週に一度巡回して、ボッ クスへの商品の補充と集金を行う。
 一九九八年に事業化に着手して、二〇〇一 年から本格展開をスタートした。
以降、順調 に売り上げを伸ばし、〇七年三月期の売上高 は二六億円。
今期は三〇億円を超す見込みだ。
三年後の売上高は四〇億円を超す計画で、依 然として成長の勢いは衰えていない。
 現時点での売上規模は、グリコの連結売上 高の一%程度にすぎない。
しかし東京、名古 屋、大阪、九州の大都市圏に設置された専用 ボックス、通称「リフレッシュボックス」の数 はすでに九万個を超えた。
複数のボックスを 設置する大規模オフィスもあるため、導入済 みの職場数は八万カ所程度。
本格展開してい る地域に限れば、エリア内のオフィスの約一 〇%が導入しているのだという。
 商品の在庫や専用ボックスのための経費は、 すべてグリコが負担している。
サービスの導 入契約を結んだオフィスは、グリコの販売ス タッフ(サービススタッフ)の出入りを許可す るだけでいい。
職場内の禁煙化などが進むな かで、勤務中の気分転換の一助として受け入 れられているようだ。
 小売り事業の一つの形態ともいえるが、流 通事業者はほとんどかかわっていない。
末端 の販売ネットワークの管理から物流に至るま で、メーカーであるグリコが手掛けている。
同 社が設置した五二カ所の販売センターを中心 に「ドミナント方式」でサービスを展開して おり、合わせて八〇〇人近い専属スタッフが 事業を支えている。
 〇四年からは、無償貸与の専用冷蔵庫を使 って飲料やアイスクリームも販売している。
従 業員が三〇人程度のオフィスには飲料・アイ 大都市圏のオフィスに配置した約9万個の専用ボ ックスを使い“置き菓子事業”を展開している。
ボ ックスへの商品補充と集金の販売・物流ネットワー クをゼロから自前で構築した。
事業規模はまだ年 商26億円で、会社の売上高占める比率は小さい。
だが既存の流通網と一線を画すこの試みは、単純な 経営指標では測れない可能性を秘めている。
図1 オフィスグリコ事業の売上高とボックス数の推移 251 530 1,163 1,938 2,565 38 92 3,000 1,800 4,300 11,600 26,000 45,000 69,000 85,000 99,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 売上高 (百万円) 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 設置BOX数 売上高 設置BOX数 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 (見込み) 41  NOVEMBER 2007 スを入れた冷凍冷蔵庫を、五〇人を超す規模 であればアイス専用の冷凍庫を設置している。
これも前述した販売ネットワークで管理して おり、すでに設置数は七〇〇〇を超えた。
菓 子、飲料ともグリコの製品だけでなく他社製 品も扱っている。
 最初に事業を企画した九八年の段階では、販 売ターゲットとしてOLを想定していた。
と ころがテスト販売を通じて、利用者の約七割 は男性であることが分かった。
「代表的なの は『ビスコ』。
スーパーやコンビニで『ビスコ』 を買う男性は少ないが、この事業では一番売 れる。
菓子をオフィスに置くことで、既存の 流通ルートにはなかった新しい需要が生まれ ている」とオフィスグリコ推進部の相川昌也 本部統括マネージャーは語る。
きっかけは「消費者接点の多様化」  この事業でグリコは小売りを手掛けており、 従来からの顧客である流通事業者からクレー ムが出ても不思議ではない。
だがスタートから 八年以上が経ち、売上規模が現在のレベルに なっても、特に問題は発生していないという。
それどころか大手流通事業者の中には、自ら のチェーン本部に「リフレッシュボックス」を 置いているところすらある。
 そもそもオフィスグリコ事業は、メーカー による流通業への進出を意図したものではな い。
出発点は、九七年にグリコの社長が社内 で「消費者接点を多様化しろ」と号令を発し たことにある。
 周知の通り、日本におけるメーカーと流通の 関係は時代と共に様変わりしてきた。
家族経 営の駄菓子屋などがメインのチャネルだった時 代には、菓子問屋はメーカーの販売代理店的 な位置づけだった。
その後、大規模小売りチ ェーンの台頭によって、川下の発言力が徐々 に増大していった。
九〇年代に入ると、大手 小売りが相次いで専用の物流センターを設置。
一括物流に乗り出した。
これに伴い小売り専 用の物流センターを経由するときに発生する センターフィー問題などが頻発し、売価の決 定権も小売りに移った。
 それでも一般の加工食品業界では、国分や 菱食といった大手卸売事業者がメーカーと小 売りの間に立って調整役を果たしてきた。
し かし菓子業界には、圧倒的な影響力を持つ中 間流通が存在しない。
このため小売りチェー ンの発言力の増大や、業態の多様化などの変 化の影響が、もろに菓子メーカーに押し寄せ る構図になっている。
 結果として菓子メーカーは、商品ライフサ イクルの極端な短縮や、利益率の低下、新商 品の定着率の悪化などに常に悩まされている。
この状況に対応するためには、ブランド力の 強化や、ある分野でナンバーワンの商品を育 てることなどが必要だ。
成熟市場で容易に実 現できることではない。
そこでグリコは、「消 費者接点の多様化」という切り口からマーケ ティングを見直すことにした。
 社内の各部門で検討が始まった。
その中で 菓子事業部としては、あえてメーカーという 立場にこだわらずに、グリコは将来、客とど のような接点を持っていくべきなのか、それ をビジネスとしてどう展開すべきなのか、と いったテーマで研究することにした。
 九七年九月にマーケティング部門と開発部 門の社員五人からなる「新販売ビジネスプロ ジェクト」が発足した。
消費者を対象とした アンケート調査を行い、菓子をはじめとする 食品が日常的にどのような場面で、どういう 位置づけで、どこで調達され消費されている 9 万個を超えた「リフレッシュボックス」 オフィスグリコ推進部の相 川昌也本部統括マネージ ャー NOVEMBER 2007  42 のか。
そういった消費の実態を調べていった。
この調査を通じて浮かび上がってきたのがオ フィス市場の可能性だった。
 調査の結果を年代別、男女別、時間帯別 などにセグメントしていくなかで『場所』に 着目したところ、菓子の消費場所は予想通り 「家庭」が七〇%と圧倒的な一番目を占めて いた。
意外だったのは、オフィスでの消費が 一九%と二番目に多かったことだ。
 「感覚的には『アウトドア』が多いと思って いたのだが、実はこれは三番目だった。
いま パッケージ菓子の市場規模は約一・五兆円あ る。
この数字からオフィス需要の一九%を考 えてみると、単純に三〇〇〇億円ぐらいの市 場がある計算になる。
ヒアリング調査なども 重ねた結果、プロジェクトとして『オフィス に商機あり。
職場向けの訪問販売に打って出 る』という答申をまとめた」(相川氏)  プロジェクトは発足から三カ月余りで解散 した。
だが訪問販売に打って出るという方針 は役員会で正式に認められた。
そしてプロジ ェクトメンバーの中から、佐藤弘成氏(前オ フィスグリコ推進部長・現在は関連会社に役 員として出向中)と相川氏の二人が新たな事 業のための専任メンバーとして選ばれた。
手探りで組み上げた事業モデル  九八年一月、二人はいわゆる「ヤクルト方 式」の訪問販売を実地で試すため、大阪駅前 の雑居ビルで飛び込み営業を敢行した。
まっ 例にならうことにした。
聞くところによれば、 野菜の無人販売では九割程度の確率でお金が 入れられているのだという。
 「利用者にしてみれば、農家の方たちが一 生懸命に作った野菜を買うという意識がある。
これに応えず代金を支払わなければ、たぶん 心が痛む。
われわれのスタッフが路上で野菜 を売る農家の人たちにとって代わることがで きれば、やはり九割以上の代金を回収できる のではないか。
そう決めつけて“貯金箱方式” でやることにした」と相川氏は振り返る。
 この方針転換を、訪問販売の受け入れに前 向きだった六〇件のオフィスにすぐに提案し てみた。
すると四〇件が快諾してくれた。
早 速、試作した菓子ボックスに約二〇種の商品 を詰め、貯金箱と一緒に職場に置かせてもら たく手探りで一〇〇件を訪問したところ、う ち六〇件から「来てもいい」という前向きの 返事をもらえた。
ただし「昼時に来てほしい」、 「午後三時頃はOK」、「終業後ならいい」な ど時間帯に条件がつく職場が大半だった。
 事前に東京都心のオフィスビルを視察した ときにも、あちこちで「訪問販売お断り」、「セ ールスお断り」といった但し書きを目にした。
訪問販売が世間に定着しているヤクルトには 許されている行為でも、同じことを新規参入 のグリコがやれば、施設のセキュリティなどの 観点から断られる可能性が高かった。
いきな り壁に突き当たってしまった。
 頭を抱えた二人は、改めて原点に帰って考 えてみた。
職場で菓子を食べたいというニー ズは間違いなくある。
ただし職場によっては、 勤務時間中に菓子を食べることを上司が快く 思わないところも少なくない。
だから目立つ のはダメだ。
あれこれ悩んだ末に出した結論 が“富山の薬売り方式”への転換だった。
仕 事場にマッチする整然としたボックスに菓子 を入れ、オフィスに配置しよう。
これを利用 者が食べたいときに、自由に取り出せるよう にすればいいのではないか。
 置き菓子方式を試すにあたり、最後まで 悩んだのが代金回収の方法だった。
取引先が 会社として菓子の代金を負担してくれること はありえない。
利用者から確実に集金するに はどうすればいいのか。
ここでも事前の調査 で知っていた、路上での野菜の無人販売の事 サービススタッフが専用台車でオフィスを巡る (上は専用情報端末) 43  NOVEMBER 2007 った。
翌週、チェックしてみると「結構、売 れていた。
しかもお金はほぼ一〇〇%入って いた。
これが貯金箱方式で配置型の商売をし ていくことを決めた最初になった」(同)。
 ユニット化された緻密な販売物流網  ようやくビジネスモデルの原型が固まった。
以降の一年間は、時間に追われながら多くの 作業を同時並行で進める必要があった。
販売 ネットワークの整備、必要なボックスや貯金 箱、販売スタッフが使うワゴン(台車)など の用意、どのような菓子を扱うかを決める商 品ローテーションの仕組みづくり、業務を効 率よくこなすための情報システムの開発──。
すべてが手探りだった。
 販売ネットワークは、訪問販売を検討してい たときから、企業が一定以上の密度で集積し ている地域に「ドミナント方式」で展開する つもりだった。
飛び込み営業の経験から、取 引先の開拓はだいたい一割程度のヒット率で きることが分かっていた。
ここから、どの程 度の開拓担当者を投入すると、どれくらいの 期間で事業化に必要な顧客を開拓できるかを 計算した。
 商圏については、販売スタッフが徒歩で移 動することを前提に半径一キロ程度、面積に して約四キロ平方メートルを想定した。
その 中心部に物流拠点を兼ねた「販売センター」 を置き、ここで商品の在庫や小分け作業、ス タッフの管理などをしながら、全方位に販売 活動を展開していく。
 販売スタッフは主婦を中心に組織し、年収 が扶養控除の対象となる一〇三万円を超えな いよう一日四時間ぐらい働いてもらう。
実際 に巡回作業を試してみたところ一時間に約七 個をフォローできたため、一日に一人で管理 できるボックスは約三〇個。
この場合の売上 予想や経費を積み上げて、販売センターが備 えるべきスペックを割り出した。
 こうして決まったのが、販売スタッフが十 二人と、販売センターの責任者であるセンタ ー長、現場スタッフを束ねるセンターサブとい う十四人を一セットとする体制だ。
試算に基 づいて九九年二月に大阪市北区で第一号の販 売センターを開設して、テストマーケティング を開始した。
ほどなくさらに二カ所を増設し、 実地テストの舞台は三カ所になった。
 その後は実際に現場を運用しながら、人材 教育や業務指導など労務管理のノウハウを蓄 積していった。
センターを設置する手順のマ ニュアル化や、販売センター内の最適レイアウ トの作成などを進めた。
時間が経過していく なかで業務効率がどう変化していくのかも見 極めていった。
 販売センターを本格的に運用しはじめるま でに、ビジネスに使う備品や道具を整備する 必要があった。
「リフレッシュボックス」には 当初から書類ケースと同様のものを使うつも りだったが、A4サイズにするかB5サイズ にするかで迷った。
購買機会を増やすために は容量に余裕があったほうがいい。
しかし商 品在庫はすべてグリコの負担になるため、余 分には持ちたくない。
 購買時の利用者の心理を考える必要があっ た。
ボックス内の三割から五割が売れている状 態は、利用者に「よく利用されているな」と いう良い印象を与える。
だが七割売れて、三 割しか残っていない状態は、「なんだ、売れ残 販売ネットワークの構成 商品調達先販売センターサービスエリア 販売スタッフが オフィスを訪問 商品納入センターに直納 商品の補充・集金 (週1回) ●グリコ ●他メーカー 亀田製菓 でん六   ほか 全国52 カ所 (07 年10 月現在) 東京、横浜、愛知、 大阪、兵庫、福岡ほか 販売センターを中心として 12 人のサービススタッフが 徒歩で巡回できる範囲に設定 《1カ所あたりのスペック》《スタッフ1 人あたりの業務》 ●担当エリア  半径1?の円内(約4?四 方)の12分の1 ●1日4時間程度で30ボッ クスを巡回(週5日で約 150ボックス) ●原則として担当エリア内 のすべてのボックスを週 1回チェックし集金も実 施 ●平均的な延床面積  66 ? ●従業員  全14 人(原則)  センター長 1 人  センターサブ 1 人  サービススタッフ 12 人 ●販売用ワゴン(台車)  12 台 ●物流機能  (在庫、仕分け) NOVEMBER 2007  44 りか」という悪い印象につながりがちだ。
こ うした観点から、利用者にスカスカな印象を 与えないB5サイズに軍配を上げた。
 代金回収のための貯金箱には徹底的にこだ わった。
何百という貯金箱を検討したが、ど うしてもイメージに合うものが見つからない。
迷った挙句に思い出したのが、三〇年ほど前、 相川氏がまだ小学校二年生のときに、当時の 三和銀行が口座開設の記念に配っていた粗品 の“カエル貯金箱”だった。
必死で探してみ たところ、東大阪のあるメーカーがプラスチ ック成型に使っていた金型をまだ持っている ことが判明。
製品として復活してもらえるこ とになった。
 販売スタッフがオフィスを巡回するときに 使うワゴン(台車)も、四回ほど作り直した。
最初に試した台車はサイズが小さすぎて、売 れ行きに応じて商品を供給することができな かった。
しかも路上などを走るときの音がう るさい。
走行性も悪く、段差にすぐに引っか かってしまった。
販売スタッフに気持ちよく 仕事をしてもらうためには、何とかして使い 勝手を改良する必要があった。
 雨の日の対策も含めて、訪問販売などで使 われているワゴンを徹底的に研究した。
さら にサイズを最適化するため、オフィスビルの エレベーターのサイズを片っ端から測り、現存 するエレベーターのほぼ九割五分に乗せられ るサイズを割り出した。
そして走行性能や静 穏性を高めるため、足回りやキャスターを徹 底的に見直していった。
本部が作る商品ローテーション  ボックスにどのような菓子を、どういうタ イミングで補充するかは、このビジネスの生 命線だ。
適度に商品を入れ替えることで目先 を変えながら、コンスタントな売り上げを実 現する必要がある。
利用者のリクエストに応 える仕組みも欠かせない。
その一方で、賞味 期限切れによる廃棄損を最小限に抑え、スタ ッフに負担が掛からないよう商品管理をシン プルにしなければいけない。
 試行錯誤の挙句、利用者のリクエストがあ れば一時的に応えるが、原則として本部が作 った一年間・五二週分の商品ローテーション を維持するというルールを定めた。
一度、商 品のリクエストがあっても、繰り返し要望が なければ、すぐに本来のローテーションに戻 す。
こうすることで商品ローテーションの最 適化については本部が一手に責任を持ち、現 場レベルで商品選びなどの作業が重複するこ とを避けようという狙いがあった。
 ただし相川氏としては、本部主導のこの手 法が微妙な問題をはらんでいることも理解し ていた。
「スタッフ自身は、利用者から寄せら れる一つの声を凄く気にする。
だから一度リ クエストのあった商品をずっと入れ続けてし まい、これが日付切れなどの原因になってし まう。
決められたローテーションを守るのが 一番、販売効率が高まることを、まずみんな に納得してもらう必要があった。
今は本部が 作る一つのパターンに対して、真剣な意見を 出してもらうようにしている」  結局、九九年に大阪市内に初めて販売セン ターを開設してから、約三年間をテストマー ケティングに費やした。
そして〇二年三月か ら関西と東京の大都市圏でオフィスグリコ事 業を本格的に展開しはじめた。
その後の成長 は、冒頭のグラフで紹介した通りだ。
 この間には専用の情報システムも構築した。
販売スタッフの作業負担を軽減するには、携 帯端末の活用が欠かせなかった。
投資余力が 限られていたため、小規模のITベンダーと 組んでほぼ手作りでシステムを開発した。
当 初は個別の商品の賞味期限を管理しようと単 物流拠点を兼ねる 「販売センター」 45  NOVEMBER 2007 品管理を志向した時期もあったが、とても採 算が合わず、減った分だけ推奨商品を補充す るという単純な管理に変えた。
システムは本 格展開をスタートしてから一年後の〇三年三 月に稼動した。
 ビジネスモデルとしては単純な事業だが、実 践するためのノウハウは多岐にわたっている。
しかし、その気になれば誰でも手掛けられる 事業でもある。
先行者の優位を確保する狙い でビジネスモデル特許を取得した。
 実際、後追いする企業は多かった。
しかし 軌道に乗ったケースは皆無だ。
手間がかかる わりに利益を出すのが難しいビジネスである ことに気づき、「とても真似できない」とサ ジを投げてしまった。
そうしたライバルたち の多くが、今ではオフィスグリコ事業のため に商品を提供してくれるようになっている。
小売りではなく“有料”の試食  今年六月には、通販大手の千趣会が同様の ビジネスを事業化すると発表した。
従来から 展開している頒布会事業の“お世話係”を活 用して、今期中に三万個のボックスを設置す るという強気の計画だ。
既存の販売ネットワ ークを活かそうとしていることから、効率的 な事業モデルさえ確立できれば軌道に乗る可 能性はありそうだ。
 しかし、オフィスグリコ事業と真っ向から 競合する可能性は低い。
グリコにとってこの 事業は一般的な小売りではない。
むしろコマ ーシャルなどの販売戦略を補完するマーケテ ィング機能と位置づけている。
相川氏は「私 はこれを “有料試食”だと思っている。
こん なことを言うと今はまだ笑われるが、いずれ はここで商品の認知度を高めて、それを根拠 に一般の流通ルートで定番として置いてもら えるようにしていきたい」と意気込む。
 事業化に着手してからすでに一〇年近く経 つが、まだ事業全体としては赤字だ。
五二カ 所ある販売センターのうち、二〇カ所は利益 を出せるようになった。
しかし残りの三十二 カ所はこれからだ。
事業モデルの設計そのも のが、新設の販売センターが利益を出すまで に約三年かかるようになっている。
 一年目に菓子の「リフレッシュボックス」を 置きながら販売センターのドミナントを形成す る。
その上で二年目は飲料やアイスクリーム などに品揃えを拡大していく。
ここで無償貸 与の冷蔵庫などをどんどん投入するため当然、 設備投資が発生する。
この期間を乗り越えて 利益を出せるようになるには、どうしても三 年程度はかかるのだという。
 相川氏としては、二〇一〇年三月期の黒 字転換をめざして全力を傾けている。
計画で は、この時点で販売センターが六〇カ所を超 え、売上高は四二億円になる。
ボックスの設 置数は十一万個を超え、冷蔵冷凍庫の総数も 一万個を上回っている予定だ。
販売スタッフ の数も九〇〇人近くなっているはずだ。
 これほど多くの労力を費やし、しかも着手 から一〇年でようやく黒字転換というのは、 資本効率を考えれば合わないようにも思える。
だがこの事業には数値化できない多くの可能 性がある。
平均二〇人の従業員がいるオフィ スに十一万個のボックスが設置されれば、職 場の半数が利用するとしたら約一一〇万人に 対するダイレクトの販路を持つことになる。
メ ーカーにとっては大きな武器だ。
 このネットワークを、たとえば新商品の開発 やテスト販売などに活用できれば、計り知れ ない効果につながるはずだ。
これを有効活用 できるどうかは今後の工夫次第といえる。
オ フィスグリコ事業の真価は、その結果を見て から判断する必要がありそうだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 冷蔵庫を使って飲料と アイスクリームも販売

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