ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年9号
ケース
静脈物流積水ハウス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

静脈物流 積水ハウス 住宅施工現場から廃棄物を分別・回収 ICタグで情報収集する仕組みも構築 SEPTEMBER 2007  62 自社管理でゼロエミッションを  積水ハウスは年間三万棟近い住宅を供給す る業界最大手メーカーだ。
同時に廃棄物のゼ ロ化を目指すゼロエミッションの取り組みで も業界の先頭を走っている。
 〇二年六月にまず、全国の自社工場でゼロ エミッションを達成した。
同社が供給する住 宅には一棟あたりおよそ六万点の部材が使わ れている。
このうち、建物の構造躯体や外壁、 内壁枠、天井や床の下地材、サッシ、建具、 間仕切りの壁材など、主要な部材については すべて全国に六カ所ある自社工場で生産して いる。
 これらの工場では、生産活動などに伴って 発生する廃棄物の埋め立てや焼却処分を一切 行っていない。
工場内に設置した「資源循環 センター」で分別し、廃棄物の種類に応じて リサイクル業者に処理を委託している。
こう して工場の廃棄物を自らトレースするリサイ クルの仕組みを確立した同社は、続いて新築 住宅の施工現場で発生する廃棄物についても、 ゼロエミッションの達成を目指した。
 新築施工の工期は平均三カ月。
その期間中、 施工現場では、同社の工場で生産する主要 部材のほか、外部の住設機器メーカーからキ ッチンやバス、洗面台などを調達して工事が 行われ、部材や梱包材などのさまざまな廃棄 物が発生する。
これらの廃棄物の処理を、中 間処理業者に委託せずに、工場のリサイクル ルートを活用することで、すべて自社の管理 体制のもとで一貫処理しようという取り組み だ。
 そのために新たな仕組みを構築した。
まず 施工現場で職人が廃棄物を二七種類に分別 する。
これを全国六〇カ所に設けた「集荷拠 点」を経由して六工場に回収し、工場でさら に六〇種類に分別を行ってからリサイクルの ルートに乗せるという仕組みだ。
 この仕組みが画期的なのは、施工現場にお ける廃棄物の分別作業を職人の一つひとつの 施工作業工程のなかに組み込んだところにあ る。
通常、施工現場における廃棄物の処分は、 その日の工事がすべて終了した後に行う。
こ の段階で現場には、さまざまな廃棄物が混ざ り合ったゴミの山ができている。
そこから分 別を行うには大変な労力を要する。
 これに対して同社が採り入れたのは、職人 が一つの作業を終えるたびに廃棄物を分別し ていく方法だ。
熟練度の高い職人ほど、整理 整頓を行いながら効率よく作業を行っている のを見て着想した。
 廃棄物を二七種類に分別するといっても、 作業単位ごとに見れば分別数はそれほど多く はない。
分析を行ったところ、一人の職人が 一つの作業工程で排出するゴミの種類はせい ぜい三〜五種類だった。
一日の作業終了後 にゴミの山を崩して二七種類に分別するのは 至難の業でも、ゴミの発生時にその都度分別 を行う方法なら実現は可能だと考えた。
 住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、 新築施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッシ ョンを達成した。
現場で分別を行い、集荷拠点 を経由して自社のリサイクル施設に回収する仕 組みを作り、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに現在はICタグを使って廃棄物情報を収集 するシステムの構築をめざしている。
63  SEPTEMBER 2007  社内には異論もあった。
廃棄物処理法に基 づく建設廃棄物の種類は、木クズ、瓦礫類、 ガラス・陶磁器・コンクリート材、金属クズ、 廃プラスチック、繊維クズ、紙クズの七つだけ。
これに廃石膏ボードを加えても、せいぜい八 種類に廃棄物を区分するのが建設業界では一 般的であって、二七通りもの区分は義務付け られてはいない。
 だが実際に現場で排出される廃棄物には、 これらのカテゴリーにあてはまらない混合物 が多い。
例えば、木材にビニールコーティン グされた建具の枠の切れ端などは、木クズと 廃プラスチックのいずれに分類するのか判断 に迷う。
また木クズ一つをとってもいくつか の種類があり、有効な資源リサイクルを行う ためにはもっと細分化する必要があると同社 では考えた。
 そこで、職人が作業工程のなかで分別しや すく、しかも分別後にそれぞれの組成にあわ せてリサイクルしやすいことを条件に、職人 の意見も採り入れながら分類方法を検討した。
その結果が二七通りの分別だった。
 この分類方法では木クズは三種類に分別さ れる。
一つは純粋な木材の製材で、紙の原料 になる。
二つ目は合板や集成材など接着剤の 付いたもので、主にハードボードの原料になる。
三つ目は合板に色のついたフロア材。
燃料チ ップとして再利用される。
この程度の分別で あれば現場でも対応でき、細かく分けること でより適したリサイクルが可能になる。
 一方で、分類するのが困難な混合部材はそ のまま一つのカテゴリーとして扱うことにした。
混合部材を組成ごとに分別する作業を工場の 資源循環センターで処理することで、現場で の作業負荷を最小限に抑えた。
“分別”よりむしろ“整理整頓”  分別作業そのものも、職人がなるべく作業 しやすいようシンプルなフローにした。
当初 は分別用の袋に廃棄物の名前や番号をあらか じめ書いておくか、色分けしておいて、職人 が分別する廃棄物の名前(番号・色)の入 った袋を選んで作業をする方法を試みた。
 だがこの方法はうまくいかなかった。
倉庫 でのピッキング作業とはわけが違う。
施工現 場で、職人が二七種類もの袋のなかから該当 するものを識別し、いつでも取り出せる状態 にしておくのは極めて困難だということがわ かった。
 そこで袋には何も記入せず色分けもせず、 ひとまとめにしておくことにした。
しかも袋 は透明なものを採用した。
職人は作業を始め る前に、分別に必要な枚数だけ袋を手元に確 保しておき、作業をしながら袋の中に廃棄物 を分別していく。
外から袋の中身が見えるた め入れ間違いは起こりにくい。
一つの作業が 終わったら袋を封印し、廃棄物の名前を記入 して所定の場所に移す。
 “分別”というよりはむしろ“整理整頓し ながら効率よく作業を行う”ための業務フロ ーという表現が相応しい。
現場の職人に作業 への協力を求める際にも、“分別”よりも“整 理整頓”という表現を強調した。
 「ゼロエミッションの目的が地球温暖化防 止だといわれても、なかなか自分自身の行動 には結びつかないものだ。
それよりも整理整 頓をきちんとやれば作業環境がよくなり効率 も上がると訴えるほうが、職人にとってわか りやすいと思った」と環境推進部推進グルー プの上川路宏チーフ課長は振り返る。
 実施に際しては各施工現場を管轄する支店 の担当者が協力会社や工事店の職人を指導。
作業工程ごとにどんな部材の廃棄物が出るの か、それをどのように分別するのかを、わか りやすく写真で示したガイドを作成して事前 に配布した。
また住宅設備工事などの際に外 部の事業者が加わる場合には、協力会社や工 事店の職人に権限を与えて、外部スタッフに 対して分別の指示を出せる体制をとった。
 施工現場にはさまざまな工事業者が入り込 んで作業を行う。
そこにこうした分別作業を 浸透させるのは通常なら容易なことではない。
その点、積水ハウスは施工工事をグループ会 環境推進部推進グループの 上川路宏チーフ課長 SEPTEMBER 2007  64 社で行う独自の体制をとり、職人への教育制 度も充実している。
このことが現場での分別 の徹底を可能にした。
「広域認定」を取得  施工現場のゼロエミッションを達成するに は、もう一つ欠かせない要件があった。
全国 に常時七〇〇〇〜八〇〇〇カ所もある施工 現場から、分別した廃棄物を同社の六カ所の 工場へ効率よく回収するための物流システム の構築だ。
 工場と施工現場の間には既に動脈物流のル ートが構築されている。
だがこのルートをそ のまま静脈物流に活用するわけにはいかなか った。
施工現場へ搬入される部材の重量は基 礎工事の分を除いても一棟あたり平均五〇ト ンある。
これに対して現場から回収する廃棄 物の量はその一割にも満たない。
回収を行う には新たな輸送網が必要だった。
 しかし廃棄物の輸送網の整備は、廃棄物 処理法の規制を受ける。
廃棄物を広域で回 収するには地方自治体ごとに廃棄物収集運搬 の許可が必要だ。
この規制はメーカーが効率 的な静脈物流を構築する際にしばしば障害と なってきた。
 そこで〇三年十二月に「広域認定制度」 が設けられた。
これを取得すれば自治体ごと の許可がいらず、廃棄物収集運搬の許可が ない事業者にも輸送を委託できる。
製品の特 性を熟知するメーカーが自ら廃棄物を処理す  こうした物流システムの構築と分別の徹底 によって、同社は〇五年七月に新築施工現 場からでる廃棄物のゼロエミッションを達成 した。
住宅業界で初めての快挙だ。
 この活動に並行して、廃棄物自体を減ら すための対策も講じてきた。
例えば瓦を工場 でプレカットしてから搬入したり、石膏ボー ドを張る順番を変えるなどの対策だ。
このよ うに部材の製造や施工方法を見直したことに 加え、現場で部材を無駄なく使うように声を 掛け合うなど、ゼロエミッションの活動その ものも廃棄物の発生を抑制する効果を生んだ。
現場によっては、工法の見直しと職人の意識 改革の相乗効果で廃石膏ボードの排出量が半 減したところもあるという。
 この結果、〇〇年度に一棟あたり平均二・ 九トンあった廃棄物を、〇六年度には一・ 六トンまで削減することができた。
このほか に副次的効果として「作業環境が改善され、 製品の品質や顧客満足の向上にもつながった」 と上川路チーフ課長は強調する。
廃棄物情報を生産工程へ  積水ハウスでは今後もさらに廃棄物の減量 を進め、一棟あたり八〇〇キロにまで削減す るという高い目標を掲げている。
上川路チー フ課長は「この目標を達成するには部材の設 計・開発段階にさかのぼって対策を講じる必 要がある。
そのためには部材の設計・開発部 門に対して、どんな施策が廃棄物の削減にど ることで、より適切な処理が可能になるとい う考え方から、高度な再生処理能力を持ち、 かつ一連の処理行程を統括管理できるメーカ ーに広域での処理を認める特例制度だ。
 この「広域認定」を積水ハウスは〇四年 九月に建設業界で初めて取得した。
廃棄物と なったすべての建築部材が対象になる。
これ によって同社は、全国に六〇カ所の「集荷拠 点」を設け、ここを経由して廃棄物を六工場 へ回収する静脈物流のルートを新たに構築す ることができた。
 六〇拠点の大半は運送会社の倉庫で、収 集運搬を担当する運送会社は約三〇〇社ある。
すべて「広域認定」の対象になっている。
施 工現場からの廃棄物の回収は、基本的に部 材を搬入する車両の帰り便で行う。
ただし大 都市圏など施工現場が密集している地域では 専用車を仕立てている。
 回収業務を効率化するために、「ぐるっと メール」というユニークな仕組みも構築した。
携帯電話を使い回収情報などをサーバーで管 理するシステムだ。
一定数量の廃棄物が発生 すると現場から携帯電話で回収依頼を通知。
インターネット経由で運送会社に情報が送ら れ、現場方面を走行する車両に回収指示が 出る。
ドライバーは現場へ回収に行き、携帯 メールで回収報告を行う。
これらの情報を集 荷拠点や工場でも共有して管理を一元化し、 スムーズな連携によって業務の効率化を図っ ている。
65  SEPTEMBER 2007 れだけ有効かを検証できるよう、廃棄物の発 生情報をより詳細に分析してフィードバック することが不可欠だ」と考えた。
 現状の仕組みでも廃棄物の種類・重量・ 発生場所などを把握することはできる。
施工 現場で回収袋に廃棄物の種類と邸名(発生 場所)を記入、重量については廃棄物ごとに 一袋あたりの係数を設け、回収した袋の数か ら重量換算して近似値を算出している。
 だが近似値では誤差が生じる。
施策の有効 性を検証するうえでは限界がある。
やはり実 測値が必要だ。
また検証を行うためには実測 値を廃棄物の種類などの情報とともに電子デ ータ化するシステムを構築しなければならな い。
そこで昨年から、日本総合研究所と共 同で、ICタグを使い廃棄物の種類・重量・ 発生場所を管理する「次世代型ゼロエミッシ ョンシステム」の構築に乗り出した。
 その仕組みは次の通りだ。
現場の職人が廃 棄物を分別した袋に従来通り種類と邸名を記 入した後で、ICタグを貼付する。
回収に来 たドライバーは携帯型のリーダー(PDA) でICタグを読み取り、袋に表記された廃棄 物の種類と邸名を入力して、重量を電子秤で 測定する。
このデータをPDAの無線通信機 能で収集し、タグの情報と廃棄物の情報(重 量・種類・邸名)をデータベース上で紐付ける。
これで種類別・邸別の発生量を正確に把握で きる。
 さらに、工場の資源循環センターで回収し た袋の中身をチェックする際に、作業者が「分 別良好」か「分別不良」かを判断して、袋 から取り外したICタグを二通りに分けてお く。
これによって、廃棄物の種類や邸ごとの 分別状況までデータとして収集し、作業の改 善に活かす。
 同社はこのシステムを今年一月から三カ月 にわたって、二工場と三支店が管轄するお よそ一〇〇カ所の施工現場で実験運用した。
その結果、狙い通りにデータを収集できるこ とが実証された。
 問題は施工現場で重量を測る作業にどれだ け負荷がかかるかだ。
現場に回収に来たドラ イバーはもともと「ぐるっとメール」の操作 を行っている。
ここへ新たに計測やPDAの 操作が加われば当然、負担は増える。
ただし 「ぐるっとメール」の機能をPDAに持たせ ることができれば、新たな負荷はかからない。
むしろ従来よりも時間短縮が可能になるとい う感触を実験からつかんだ。
今年度はこれを 実証するために、二つの機能を一体で運用で きる仕組みを開発し改めて実験を行う予定だ。
 一邸あたりで発生する廃棄物の袋の数はお よそ二五〇〜三〇〇個。
これに対して常時、 全国に八〇〇〇近い施工現場があるため、こ のシステムを導入するには数百万個単位のI Cタグが必要になる。
このほかにPDAなど 機器類の配備もいる。
初期投資はかなりの規 模になる。
 実験では費用対効果の検証も行う。
上川 路チーフ課長は、「廃棄物の情報には生産工 程の無駄が端的に現れる。
情報を上流へ吸い 上げることで、単なる廃棄物の削減だけでな く生産工程の合理化によるコスト削減効果も 期待できる。
その意味で充分に投資価値のあ るシステムだと思う」と力を込める。
 整理整頓された現場だからこそ正確な情報 を収集できる。
しかもすべての現場を網羅す る静脈物流のルートがあるからこそ、それが 生きた情報になる。
施工現場でのゼロエミッ ション達成には、環境対策にとどまらず、先 見性の高い戦略的な意義が秘められていたと 見るべきだろう。
(フリージャーナリスト・内田三知代) ?ゴミの重量を電子秤で測定 ?半透明のゴミ袋に職人がIC タ グを貼付 ?ドライバーがPDA でタグの情 報を読み取る

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