ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2007年8号
特集
最新物流施設 拠点集約の前に需給調整を統合||マルハ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

全国を三ブロックに分割 水産最大手のマルハは、二〇〇四年十一月から二 〇〇五年二月にかけて加工食品の物流拠点再編を実 施した。
事業部ごと、支社ごとに在庫拠点を構えてい た従来の体制を改め、全国を北海道、東日本、西日 本の三つのブロックに分割。
ブロックごとに在庫を集 約する「ブロック物流」体制に切り替えた。
受注翌日納品というリードタイムを前提に、北海道 は札幌、東日本は宇都宮、西日本は西宮にフルライ ンの商品を保管する物流センターを設置した。
このほ か福岡、下関、仙台にも拠点を構えた。
九州へは西 日本拠点からでも翌日配送ができないわけではない。
だが、配送コストが割高になるうえ、交通事情や気象 の影響を受けた場合に南九州への遅配リスクが高まる ことから、一部の商品については在庫を置く必要があ ると判断した。
下関と仙台は地域配送センターを兼ね た工場隣接型拠点だ。
「拠点を東西二カ所、あるいは北海道を加えた計三 カ所に集約するというのはよくある話。
ブロック物流 が違うのは、輸送距離が一番短くなるように工夫して いるところ。
二つなり三つなりの大きな拠点に何でも かんでも置いて全部そこから出荷するという訳ではな い。
工場が全国に点在している現状を考えると、ブロ ックで管理するやり方は非常に効率的だ」と食品企画 管理部物流課の中村哲課長は胸を張る。
この再編によって在庫拠点は基本的に三カ所に集 約された。
その結果、安全在庫水準を下げることがで きた。
ただし、拠点集約の狙いとしては、在庫削減以 上に欠品率の改善と、保管費や輸送費などの物流コ スト削減のほうが大きかった。
拠点再編に先だって在 庫削減は済ませていたからだ。
マルハの事業は大きく、水産物そのものを扱う水産 部門と、缶詰やハム・ソーセージなどを扱う加工食品 部門に分かれる。
このうち加工食品部門で二〇〇〇 年四月に大幅な組織改革を行った。
本社直轄の機能 横断組織として、生産を統括する食品生産管理部、販 売を統括する食品販売統括部、生産と販売をつなぐ 物流を統括する食品管理部(現在は食品企画管理部) を新設した。
需給調整と物流を統合管理することが目的だ。
「そ れまでは同じ加工食品部門のなかであっても事業部ご とに商流も物流も政策がバラバラだった。
これを改め、 せめて加工食品部門の中だけでも横断的な視点で全 体最適を目指してこうという方針だった」と、食品企 画管理部の菊地修平部長は説明する。
加工食品部門の需給調整は従来、各支店の発注担 当者のカンと経験に委ねられていた。
そのため大阪で は大量に余っている商品が名古屋では欠品していると いった在庫の偏在が珍しくなかった。
支店間で在庫を融通するにも、欠品の出た支店の担当者から、在庫の ある支店に個別に連絡して手配する必要があり、時間 と手間とコストがかかっていた。
情報システムも整備 されていなかった。
支社は販売に専念させる 需給調整機能の統合に着手した食品管理部の物流 課では当初、支店の発注業務を物流課に集約するこ とで問題を解決できると考えていた。
しかし、肝心の 拠点の在庫データの信頼性が低く、発注業務は各支 社の担当者に確認をとりながら業務を進めざるを得な かった。
結果として支社の負担は減らず、物流課の人 員が増えただけという格好になってしまった。
そこで需給調整システムの導入に踏み切った。
従来、 拠点集約の前に需給調整を統合 ||マルハ 事業部ごと、支社ごとにバラバラに運営していた食品事業 の物流を、本社直轄の一元管理に改めた。
部署を新設し需給 調整機能を統合した上で、拠点の再配置に着手。
手順を踏ん だ取り組みで、在庫と欠品を抑え輸配送コストを最小化する 物流体制の構築に成功した。
(森泉友恵) AUGUST 2007 22 第2部事例に学ぶ物流拠点集約 支社では月次、週次の販売計画の立案のほか、手持 ちの在庫と今後の必要量を勘案して、発注量と工場 から引き取る際の輸送車種(五トンの鉄道コンテナか、 トラックなら何トン車か等)を選定していた。
これを システム化して、支社では販売計画だけを入力するよ うにした。
まず、支社が前月一四日に月次の販売計画を入力 する。
さらに前週の火曜日に、月次の計画を週次に落 とし込んだ販売計画を確定する。
支社の仕事はここま で。
翌日の水曜に今度は物流課が、週次の販売計画 を拠点の在庫数量と照らし補充が必要な数量を算出 して工場に出荷依頼をかける。
この補充量計算で重要な役割を果たすのが、「在庫 係数」だ。
在庫を厚く持たなければいけない商品、薄 くてもいい商品を、物流課が判断している。
「過去の 実績データに加えて、例えばこの人はいつも多めに入 れているだとか、逆にこの人は少ないだとかいう癖ま で考慮して、随時見直しをかけながら係数をマスター 管理している」と中村課長は説明する。
この係数は、社内にも開示していない。
係数を公開 すると、それをサバ読んで販売計画を立ててくる恐れ があるからだ。
販売は計画数量のことだけを考えてく れればいい。
需給の調整については、物流課が責任を 持つというスタンスだ。
物流コストを二割削減 需給調整システムの導入効果は、すぐに表れた。
ア イテムカットなど事業部の取り組みも奏功し、最初の 一年間で、六〇億円以上あった缶詰の在庫が一五億 円にまで減った。
もっとも、「六〇億円というのは異 常な数字。
輸配送コストの削減を狙って北海道に大 型の保管倉庫を作ったら、いくらでも入るからと工場 からどんどん出荷されて在庫が膨れ上がってしまった 結果だ」と中村課長。
それでも大きな在庫削減効果 を上げことは事実だ。
このステップを経て、次に拠点統合に乗り出した。
在庫が減ったことで保管スペースには空きが出てきた。
それを集約することで、まず保管費が減る。
分散して いた在庫を集約することで横持ち費用も削減できる。
何より欠品率の改善が期待できる。
こうして需給調整 システムの導入と拠点の集約により、〇二年から〇五 年までの三年間で、保管費、配送費、労務費を含む 物流コストを二割削減することに成功した。
新たな取り組みとして、〇六年からは、ハム・ソー セージの直送を開始している。
工場から拠点を経由 せずに、そのまま顧客に納品する。
北海道は対象外 だが、宇都宮工場の生産品を東日本全域と近畿圏の 一部に、下関地区生産品を九州沖縄を含む西日本全 域に直送する体制を組んだ。
直送には在庫を圧縮する効果があるが、これもむしろ主目的は鮮度の維持だ。
ハム・ソーセージの賞味期 限は生産から三カ月だが、社内的には一カ月以内に 出荷することをルール化している。
顧客はできるだけ 新しいものを求める傾向にあり、顧客によっては生産 から数日以内の出荷が求められるようにもなってきて いる。
冷凍食品の物流改革にも昨年から取り組み始めた。
そこに突如、昨年十二月、同業三位のニチロとの経 営統合の話が舞い込んだ。
「全く違う課題で、次のステージが用意されてしま った。
これをどうやっていくかが、今まさに大きな課 題。
とはいえ、そもそも物流には完成型はない。
その ときそのときの環境変化にいかに対応していくかが重 要だ」と菊地部長は語る。
23 AUGUST 2007 食品企画管理部の 菊地修平部長 食品企画管理部 物流課の中村哲課長 マルハの東日本物流センター。
年間510万ケースを出荷する

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