ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2007年8号
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近鉄エクスプレス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2007 44 アジア発着が市場を牽引 近鉄エクスプレスは、以下の三点で注目に 値する。
?主力事業である航空貨物市場がグ ローバルベースで成長していること、?市場 拡大に合理化効果やITコストの低減などが 加わり、年率一〇%を超える営業利益成長か つ最高益の更新が予想されること、?物流業 界の再編をリードする企業の一つとして期待 されること――である。
航空貨物市場は、運輸業界の中で最も高い 成長力が期待できるマーケットの一つである。
世界景気の好調持続という循環要因に加え、 産業構造のグローバル化や貨物輸送における 航空化比率の上昇傾向などといった構造要因 も加わり、グローバルベースで見て「シクリ カルグロース(Cyclical Growth:好調と不 調の循環はありつつも、長期的には右肩上が りで成長すること)」が期待できる。
市場拡大の牽引役は、海上コンテナ輸送と 同様、日本発着から海外発着、特にアジア発 着へシフトするであろう。
日本発の航空貨物 輸出量は、二〇〇六年一〇月〜十二月期以 降、メーンであるエレクトロニクス関連製品 の在庫調整などから循環的な調整局面を迎え ている。
だが一方で、日本発や三国間の航空 貨物需要の伸び率と歴史的に相関性が高いと 思われる世界の半導体出荷数量の伸び率につ いては、〇七年四月〜六月期を底に上昇率が 拡大すると見ており、世界的な航空貨物市場 は最悪期を脱しつつあると予想される。
今後の需要拡大の牽引役という視点からは、 日本発着の荷動きよりは三国間輸送に着目し たい。
足元で国内回帰の動きがあるものの、 生産拠点の空洞化の大きな流れは避けられな い。
国内経済の成熟化も加味すれば、日本発 の航空貨物輸出市場は、今後、年率一〇% を大きく超える拡大は見込みづらいだろう。
一方で、アジア地域を軸とする三国間の航空 貨物需要は、各国経済の好調や生産拠点のシ フト、自由貿易協定の締結などを背景に成長 ポテンシャルが大きい。
アジア発着の航空貨 物需要は、伸び率が鈍化傾向にある欧米地域 と比べて底固く、依然としてプラス基調を維 持している。
中長期的に見ても、アジア発 着・アジア域内の航空貨物が需要拡大を牽引するだろう。
日本発の航空貨物輸出量が〇六年九月以 降、エレキ関連製品の在庫調整、航空輸送か ら海上輸送への切り替えなどを背景に前年比 伸び率がマイナス基調にあったものの、近鉄 エクスプレスの〇六年度連結業績は堅調であ った。
連結売上高は前年比七・九%増、同営 業利益は同三八・九%増となり、同年度第3 四半期決算時の会社予想を上回った。
業績好調の要因として、以下の三点が考え られる。
第一に、単独業績が前年比〇・四%増収 と伸び悩み、新システム導入に伴い人件費が 前年比で九・一億円増加したにも関わらず、 第31回 近鉄エクスプレス 好調な航空貨物市場の波に乗り 今期も最高益の更新を見込む 近鉄エクスプレスは、二〇〇二年度以降、最 高益を更新し続けている。
〇七年三月期の連結 営業利益は対前年比三八・九%増を記録した。
市場拡大の追い風に加え、原価の徹底的な抑制、 不採算荷主の整理など地道な取り組みが奏功し ている。
尾坂拓也 モルガン・スタンレー証券 株式調査部 45 AUGUST 2007 営業利益は同一・五%増と増益を確保したこ とである。
前年比で減少した貨物の中には相対的に収 益性が低い貨物もあり、利益率という観点で は数量減は必ずしもマイナスの影響にはなら なかったと推測される。
さらに、需要低迷期 は航空貨物の需給緩和から一般的にスペース の仕入れ原価が低下する傾向にあるが、近鉄 エクスプレスは通常以上に仕入れ原価の積極 的な抑制を徹底した。
その結果、〇六年度の 単独粗利率が前年の一八・一%から一九・ 七%へ一・六ポイント改善した。
第二に、国内の航空貨物やトラック輸送な どを展開する連結子会社である近鉄ロジステ ィクス・システムズの黒字転換が挙げられる。
同子会社の営業利益は、〇五年度の二・五 億円の赤字から〇六年度は二億円の黒字にV 字回復し、連結での日本セグメントの営業利 益において四・五億円の増益要因として寄与 した。
黒字転換の背景には、人員の削減、不 採算荷主の整理、賃貸倉庫の返却による賃貸 料の削減などがある。
第三に、海外セグメントの好調である。
特 に、〇六年度の米州の業績は海外セグメント の利益成長を牽引した。
米州の営業利益は、 前年比二・三倍の二八・七億円と大幅に増 加した。
営業利益率は六・八%となり、過去 最高の水準にまで達した。
新たに就任した米 州部門トップの掛け声の下、不採算荷主に対 する運賃値上げの実現や様々な費用削減、相 対的に収益性が高いと推測される米国発輸出 貨物の強化など、経営効率を高める施策を実 行したことの効果が表れているといえよう。
モルガン・スタンレー証券では、近鉄エク スプレスの連結営業利益を、〇六年度の一二 四億円(前年比三八・九%増)に対して、〇 七年度は一四六億円(同一七・四%増)、〇 八年度は一六一億円(同一〇・三%増)と、 〇二年度からの最高益の更新を予想している。
増収効果に加え、〇七年度からのシステム開 発費用の低減、国内外の赤字子会社の黒字 転換、航空貨物の仕入れスペース原価の抑制 など同社特有の要素も想定している。
同社はエレクトロニクス関連製品への依存 度が相対的に高いが、自動車部品、建設機械、 医療機器、航空機部品など非エレクトロニク ス製品への営業力強化が奏功している点も見 逃せない。
また、欧州ではベネルクス法人の 赤字が解消し、日本セグメントでは〇六年度 下期から実施している航空運賃原価の積極的 な抑制策の効果が引き続き顕在化するなど、 合理化の効果も期待できる。
さらに、〇六年 度に本格導入したグローバル共通の情報シス テムの初期導入コスト九・一億円(具体的に は新システム導入に伴う人件費増)が〇七年 度から低減するであろう。
同社は、配当性向を単独当期利益の三〇% とコメントしている。
モルガン・スタンレー 証券では、過去最高益の更新が続くことを前 提に、年間配当を、〇六年度の二一円/株に 対して、〇七年度は二六円/株(会社予想は 二三円/株)、〇八年度は二九円/株、と増 配が続くと予想している。
〇七年度を最終年 度とする第二次中期経営計画の経営目標(連 結売上高三二〇〇億円、連結営業利益一三 二億円、連結経常利益一二八億円)は超過 達成の見込みであり、今後は〇八年度を初年 度とする次期の中期経営計画の詳細に注目し ていきたい。
また、商船三井グループとの提 携の効果やM&Aの実現にも着目したい。
国内外で業界再編が加速 近年、航空貨物業界では再編が加速してい る。
〇五年十二月に は、ドイツポスト傘下 のDHLが英国物流 会社でコントラクト・ ロジスティクス(長期 一括請負契約に基づ く物流業務。
広義の 3PLに相当)最大 手だったエクセルを吸 収合併した。
〇六年 一月には、ドイツ鉄 道傘下の航空貨物会 社シェンカーが米国 の航空貨物会社バッ クスグローバルを吸収 合併し、スイスの航 空貨物大手キューネ・アンド・ナーゲルが仏 の物流会社でコントラクト・ロジスティクス に強みを持つACRを買収。
今年五月には、 オランダの物流会社CEVAロジスティクス(旧TNTロジスティクス)が米国の航空貨 物会社EGLを買収した。
CEVAロジステ ィクスはコントラクト・ロジスティクスに特 化しており、同分野で世界シェア約二%の第 二位である。
加速する業界再編の背景にある各社の狙い は、得意とする地域や顧客業種の補完、規模 の経済性の追求、フォワーディング・倉庫・ トラック配送など物流機能の品揃えの確保に 加え提案力やITシステム力なども含めた総 合物流会社化への志向などであろう。
世界経 済のグローバル化に伴い顧客企業の調達・生 産・販売体制が複雑化し、世界規模で物流 システムの最適化を求めるニーズが高まって おり、物流会社は「航空貨物に特化してい る」「倉庫オペレーションに強い」というだけ では大手荷主の3PL案件の入札に参加する ことが困難になりつつあるためである。
今後 も海外市場では業界再編の動きが活発化する 可能性が高い。
一方、シェアが固定的であった日本市場で も今後、シェア流動化が起こる可能性が高い であろう。
〇五年五月に、航空貨物業界二位 の近鉄エクスプレスは業界八位の商船三井ロ ジスティクスへの出資、業務提携を発表した。
また、業界三位の郵船航空サービスが〇六年 五月に業界十三位のヤマトロジスティクスと の業務提携を発表。
今年三月には業界五位の 阪急交通社と業界一九位の阪神エアカーゴが、 〇八年四月を目処に持株会社を傘下に並列 に置く方針を発表している。
前述の外資系企業の再編を契機に、DHL グローバルフォワーディングとエクセルジャ パン、西濃シェンカーとバックスグローバル ジャパンなど日本の現地法人同士も合併する。
今後は、大手御三家(日本通運、近鉄エクス プレス、郵船航空サービス)、外資系、電鉄 系子会社が再編をリードしていくと見ている。
近鉄エクスプレスの株価は基本的に利益と の連動性が高く、最高益の更新と共に株価も 上昇トレンドをたどってきた。
また、日本発 の航空貨物輸出量や世界の半導体の出荷数 量との相関性が〇四年以降に強まってきてい る。
ただし、同社の場合、海外セグメントの 営業利益構成比が〇六年度で六八%と高ま ってきており、日本発の航空貨物輸出量だけを見ていると連結全体の収益力を見誤る可能 性が高まっていることに留意したい。
モルガン・スタンレー証券では、競合する 海外の主要大手企業と収益性と利益成長性 を比較し、同社の株価は割安感が強いと判断 している。
AUGUST 2007 46 (円) 近鉄エクスプレスの過去5年間の株価推移 《出来高》

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