ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
グローバルSCM
グローバル調達改革?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

グローバルに統合されている。
だが、一五年ほど前はまったく別 の姿だった。
当時、IBMの調達組織は国単位 あるいは事業所単位でバラバラに展 開されていた。
各々の調達組織は当 該国内あるいは事業所内での調達業 務にのみ終始し、組織間の連携は無 かった。
どこで何が購入されているの かが一元的に管理されておらず、い わゆる集中購買ができるような状態 ではなかった。
連載第三回(二〇〇七年三月号) で述べたように、IBMは九三年に 大きな業績赤字を計上し、それを契 機として強力なリエンジニアリングを 推進してきた。
バラバラに管理されて いた調達も、リエンジニアリングの主 要テーマの一つに挙げられた。
現在のIBMの調達体制の土台は、 このときスタートした「IBM調達 トランスフォーメーション」で確立さ れた。
調達改革のポイントとなったの は、大きく次の三点だ。
?品目群(コモディティ別)の視点で の調達方針の立案 ?技術査定が可能な調達エンジニア リングスタッフの保有 ?グローバルで一元管理を行う調達 組織の最適配置 以下で各ポイントの具体的な内容 を紹介していこう。
?品目群(コモディティ別)の視点 での調達方針の立案 IBMは九四年にCPOのポスト を新設した。
初代CPOに任命され たジーン・リクター(Gene Richter) が手がけた改革の一つが、「コモディ ティ・カウンシル」の設置だった。
コモディティ・カウンシルとは、担 当品目群(コモディティ)の調達戦 略を立案する組織だ。
グローバルレ ベルでIBM全体の調達ニーズを把握し、購入量を取り纏め、長期的な 購買契約を締結する。
それにより有 利な集中調達体制を確立するのが目 的だ。
従来は、地域や工場ごとのバイヤ ーが、特性の異なる複数の品目を担 当していた。
コモディティ・カウンシ ルの設置により、同様の特性を持つ 品目群(コモディティ)単位で管理 するやり方に改めた。
調達部門の組織改革 連載第一回から第五回まで、サプ ライチェーンの統合を中心に論を進 めてきた。
だが、供給活動はそこに 載せるモノやサービスが無ければ話に ならない。
資源を中心とした需給の 逼迫のもと、近年、生産活動の元手 となるモノやサービスをいかに安定的 に確保し、また低コストで調達する かが注目されている。
IBMの調達総額は現在、年間四 〇〇億ドル(四兆八〇〇〇億円)を 超えている。
調達を担当するのは、六 〇カ国以上に配置された四五〇〇人 以上のプロフェッショナルだ。
その組 織は、調達担当役員(CPO:Chief Procurement Officer)をトップに、 JUNE 2007 74 それまでIBMの調達部門は、他部門からの指示に従って購買を手配 するだけの存在に過ぎなかった。
管理は地域や事業ごとにバラバラで相互 の連携はゼロ。
集中購買などできる状態ではなかった。
これをグローバル で一元管理する体制に改めた。
トップには、CEO、CFOに次ぐ社内 ナンバー3の地位を与えた。
戦略立案組織の設置、技術面をフォローす るエンジニアの導入といった取り組みを通じて、「強い調達」を実現した。
グローバル調達改革? 第6 回 需給逼迫度、サプライヤーとの力 関係等、さまざまな特性パラメータ ーにより最適な調達の形は変化する。
例えば、電子部品や電装品といった 括りをした場合、プリント基板とメ モリーでは、供給するサプライヤーも、 買い手も含めたマーケットの状況も 異なる。
特性が異なるものを同じや り方で扱おうとしても、そううまくい くものではない。
調達部門の汚名を返上 一般的に、調達部門は、設計や生 産といった上流部門の受け皿となる ことが多く、他部門から理不尽な要 求をぶつけられがちだ。
「サプライヤ ーが足りないから開拓すべきだ」「サ プライヤーとのコラボレーションの時 代なのに、何をやっているのだ」「も っと既存のサプライヤーを育成しろ」 といった声に頭を抱える調達担当者 は少なくないだろう。
こうした意見は、特定の品目に対 しては適合するのかもしれないし、感 覚的な大まかなものであるかもしれな い。
いずれにせよ、闇雲に全品目に 当てはめようとするのは、いささか乱 暴であると考えられる。
とはいえ、改革以前はIBMの調 達担当者もこうした声と無縁ではな かった。
社内では、所定のモノの手 配を行う「事務部門」としかみなさ れておらず、他部門から要求をぶつ けられるがままであった。
改革を機に新設されたコモディテ ィ・カウンシルには、品目ごとに特 有な、市場・サプライヤー・技術等 の動向をふまえて調達戦略を立案す る機能を持たせた。
「この品目は、こ のようなサプライヤーがいて、このよ うな供給状況にある。
従って、この ようなアクションプランを立案し、実 施している」という説明が明確にで きるようにしたのである。
これにより、他部門からの曖昧な 要求を受けた場合でも、論理的な説 明と適切なアクションで対応できる ようになった。
調達部門に対する社 内の見方が変わった。
CPOのジーン・リクターは九九 年の雑誌取材に対し、次のように語 っている。
「調達部門は、以前に比べてIBM にとってより重要なものになっている。
一〇年前の縦割り組織時代には、調 達部門はミッション・クリティカルで はなく、単に購入事務を担うだけの 部門であった。
しかし今日、調達は 会社にとって戦略的な位置づけの部 門になった。
機密情報の守り手から、 IBMの製造部門・技術部門とサプ ライヤーにおけるコミュニケーション の担い手となった」 現在、IBMに は三三のコモディテ ィ・カウンシルが置 かれており、大きく 三つに分けられる。
メモリー、電源、液 晶パネル等の生産 材一六品目群を扱 う生産材系のカウ ンシル、トラベルや人材派遣、ロジス ティックス等の十三 品目を扱う間接 材/サービス系の カウンシル、材料等 の四品目を扱うそ の他系カウンシルだ ( 図1)。
各コモディティリ ーダーのもと、カウ ンシルメンバーはグ ローバルに配置され ている。
必要に応じて品 目群の中でサブ品 目群分けも行われ ている。
品目群や サブ品目群の括り は固定的ではない。
特定購入品目の汎 75 JUNE 2007 とで、強い調達部門を実現している。
調達エンジニアは、一般に「ティ ア・ダウン」と呼ばれる、製品を構 成要素に分解して分析する手法を用 いて購買対象品を吟味する。
そして、 その製品で適用されている工法や材 料から適正な購入価格を割り出す。
さ らに、購入品や工程の品質評価を行 い、設計をはじめとする社内部門と サプライヤーとの技術的な橋渡しと しての役割も果たしている。
「調達部門の役割は、サプライヤー の技術ロードマップ、購入コスト評 価、供給継続性を設計段階から確実 にしておくことにある」と、調達エン ジニアリング部門のトップであるソフ ィー・ベックは語っている。
?グローバルで一元管理を行う調達 組織の最適配置 品目群ごとの調達組織を束ねるグ ローバル本部のトップがCPOだ。
現 在の二代目CPOは二〇〇〇年に就 任したジョン・パターソンが務めてい る。
IBMでは、CPOの地位は高 く、会長のパルミサーノ、CFO(最 高財務責任者)のローリッジに次い でいる。
CPOは配下に調達企画部門、管 理部門を置き、IBMの調達全般を グローバルで一元管理している。
バイ ヤー職、調達エンジニア職といった 職種ごとのキャリアパスの定義や、調 達スキル取得のためのプログラム開 発やトレーニング企画もグローバルで 一元的に行っている。
昨年一〇月には、中国・深 のグ ローバル集中購買センターの機能を 拡充し、調達の本部機能を米国本社 から移転した。
IBMの全社的な組 織の本部機能が米国以外の地に設置 されるのは、これが初めてだった。
本 部の移転に伴い、ジョン・パターソ ンCPOはニューヨークから深 に 異動となった。
調達の本部機能を移転し、自らも 現地に赴任した目的について、パタ ーソンは次のように説明している。
「アジア全域および世界的に、ソフ トウエアおよびサービスのスキルに対 する需要が拡大している。
この需要 に対応するためには、新しいパートナ ーおよびサプライヤーとの関係を構築 することが必要であり、また、既存パ ートナーおよびサプライヤーと協力し サービス市場でグローバルに競争でき るよう、そのスキルやプロセス、経営 慣行の確立を支援していくことが必 要である」 「社内で培った調達のスキルをアジ ア地域で拡大、強化するとともに、リ ーダーを育成してグローバルな役割を 担えるようにする」 ここで重要なのは、前例にとらわ れることなく、CPOが自ら現地に 赴き調達拠点を統括する柔軟性だ。
現 地で直接、陣頭指揮をとり、サプラ イヤーを開拓する。
このようにトップ 自らが「真のやる気」を見せることで、 IBM全体として本当に有利な調達 の実現を目指している。
グローバル集中購買センターの設 立で、ハードウエア事業のグローバル 調達の仕組みはかなりの完成をみた。
現在は「オンデマンド・プロキュアメ ント」の名のもと、ソフトウエアサー ビス事業におけるグローバル調達の 仕組み強化に取り組んでいる。
用化・陳腐化や技術特性の変化を反 映して、常に見直しが掛けられてい る。
IBMでは、「調達部門は事業部門 に対し、説明責任(Accountability) を果たさなければならない」という基 本原則が貫かれている。
それを支え ているのがこうした仕組みである。
多くの日本企業には、この部分が 欠けているように思われる。
最適なコ ストを実現しているか、供給に対し て適切な策を講じているかを判断し てアクションに移す仕組みを持たず、 バイヤーの個人的な嗅覚に頼ってい る調達部門は少なくないように見受 けられる。
?技術査定が可能な調達エンジニア リングスタッフの保有 価格査定や品質面における対応力 強化の必要を感じている日本企業の 調達部門にとって、テクニカル面で の能力拡充をどうするかは課題の一 つだろう。
調達改革においてIBMは、コモ ディティ・カウンシルとともに「調達 エンジニア」を新たに導入した。
調 達エンジニアとは、適正な品質、価 格を維持し、サプライヤーと自社の 技術連携を促進するための技術職だ。
バイヤーとペアとなり仕事を進めるこ JUNE 2007 76 てらしまてつふみ シニアマネージングコンサルタント 外資系コンサルティング会社を経て日 本IBMに入社し、IBMビジネスコンサ ルティングサービスにて現職。
現在、 製造業(インダストリアル)事業本部 調達購買領域リーダー。
これまで多く の調達購買改革プロジェクトに従事す るとともに、調達購買マネジメント分 野をトータルにカバーできる体系的コ ンサルティング・メニュー確立を推進 している。
購買・調達担当者の交流組 織である購買ネットワーク会にも参画。

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