ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
keyperson
新良清早稲田大学ロジスティクス研究所客員研究員

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2007 6 めにコストがかかり過ぎれば経営的に はマイナスになってしまう。
それを最 終的に部門長が判断して、サービス レベルのターゲットを決めるわけで す」 ――しかし、リードタイムが売れ行き にどれだけの影響を与えるかは、明 確には予測できません。
「そう。
だから実際やってみたこと もあります。
特定の受注センターで、 トライアル期間を決めて、リードタイ ムを五日にした場合、六日にした場 合、七日にした場合で、売り上げが どれだけ違ってくるのかを比べてみた。
結果として、そのレベルのリードタイ ムの違いでは売り上げにはほとんど影 響がなかった。
それならコストが安い ほうがいいという判断になりました」 ――現状を前提として、どうやった らコストを削減できるかというアプロ ーチとは全く違いますね。
「市場環境が常に変わらないのであ れば、それでも構わないのかも知れな い。
しかし実際にはそんなことはあり ません。
顧客ニーズ、製品特性、競 合の状況は常に変わります」 ――マーケティング的に見たときに、 最も重要な指標になるのは? 「やはりリードタイムですね。
デルの 場合、オペレーションの方法やアウト ソーシングの範囲などは、各地域に 勝てるサービス ――日本企業の多くが、コスト削減 をロジスティクス管理のゴールに置 いています。
「もちろんコストは大事ですが、そ れ以前にマーケティング戦略上必要 となるロジスティクスのサービスレベ ルを決定する必要があります。
しかも、 それは一回設定すれば良いというも のではなく、市場環境次第で常に変 化する。
そのため私がデルでオペレー ション本部長を務めていた時には、リ ードタイムが何日だったら競合他社 に勝てるのか、マーケティング部門や セールス部門に定期的にヒアリング を行っていました」 ――リードタイムは製品ごとに設定 するのですか。
「そうです。
ノートブック、ワークス テーション、サーバーと、製品によっ て競合状況が違いますからね。
リー ドタイムが短ければいいというわけで もない。
個人ユーザーであれば納品が 夜になっても構わないから、とにかく 早く欲しいという。
しかし、法人は受 け入れの問題があるので、スピードよ りも指定した時間ぴったりに納品さ れることを望む。
つまり製品や顧客 タイプによって、サービスのターゲッ トは違ってくる」 「そのためパートナーとなる運送業 者も個人と法人では別になる。
例え ば大型のサーバーは二〇〇キロ近く の重量があり、パワーリフト付きの車 両でないと対応できません。
複数の パートナーで構成するロジスティクス において、納期を管理するにはIT が不可欠になります。
顧客は荷主に 納期を問い合わせてくる。
それに対 応できないと、アウトソーシングはで きませんから」 ――競合のサービスレベルも製品ご とに調査するのですか。
「わざわざ調査しなくても、セール スなら分かっていますよ」 ――そこで明らかになったリードタイ ムを出発点としてロジスティクスを 設計するわけですね。
「それだけでは面白くないので、い くつかシミュレーションを行って、そ れをマーケティングやセールスに提示 していました。
例えばデスクトップパ ソコンのリードタイムを当初六日と設 定していたとする。
その場合でも、六 日だけでなく、一〇日や五日にした 場合のコストまで計算して、改めて サービスレベルを検討するわけです。
もちろん売上高を考えればリードタイ ムが短いほうがいい。
しかし、そのた 新良清 早稲田大学ロジスティクス研究所 客員研究員 (元デルオペレーション本部長) 「物流は三つのKPIで管理する」 ロジスティクスは簡単だ。
まず適切なビジネスモデルを選 択する。
後はリードタイム、業務品質、コストの三つの視点 から改善を重ねていけばいい。
そのやり方でデルは日本市場 においてもサプライチェーンの競争優位を確立した。
この原 則は、あらゆるビジネスに適用できる。
(聞き 手・大矢昌浩) 任されていましたが、管理指標やそ の目標値は全世界共通にしていまし た。
管理指標は大きくは三つ、リー ドタイム、品質、コストです。
この三 つの基本KPI(Key Performance Indicator:主要業績評価指標)はど んなビジネスでも変わらないと思いま す。
その下にどのようなサブKPIを 展開するか。
KPIの目標値と実績 にギャップが出た場合に、どうやって それを解消するか。
改善活動をどう 展開するか。
そのノウハウさえあれば ロジスティクスは管理できる。
至って シンプルです」 ――具体的なKPIとしては何を使 っていましたか。
「リードタイムは、受注から納品ま でのトータルリードタイムですが、そ れを?受注からシステム入力まで、? 経理部門における与信処理、?生産、 ?物流というサブプロセスのリードタ イムに分解していました。
また業務品 質は、紛失(Missing)、誤配(Wrong)、 破損(Damage)の『MWD』の発生 率でみていました。
コストは一システ ム当たりのロジスティクス・コスト (Cost Per System)を使用していま した」 「ただし指標管理の前に一つ確認して おくべきことがあります。
事業モデル の評価です。
といっても別にこれも難 しいことではありません。
ポイントは 限られています。
一つは受注生産か 見込み生産か、あるいはその中間か ということ。
また、それをサポートす るITは整備されているか」 「物流に関しては、オペレーション をどう組み合わせるか。
直送、クロス ドッキング、VMI、共同化など様々 な選択肢のうち、どれがその会社に とって最適なのか。
またそれをインハ ウスで運営するのか、アウトソーシン グするのか。
あるいはプロセスによっ てインハウスとアウトソーシングを組 み合わせるのか。
重要なプロセスだけ 自社で処理して、付加価値の低いプ ロセスはアウトソーシングする。
しか も海外にシフトしてしまうという選択 肢もあり得ます。
そうした事業の骨 格、ビジネスモデルを決定した後で初 めて運用や指標の問題が出てくる」 デルマン心得七か条 ――指標は他社とベンチマークする のですか。
「リードタイムを除けば、他社は気 にしていませんでした。
ベンチマーク の対象は社内です。
全世界の拠点を 横並びに比較します。
もっとも業務 品質やコストはエリアによって環境が全く違うので絶対値を比較するので はなく、毎年どれだけ改善したのかを 評価する」 「具体的な改善手法については、決ま った方法はありません。
デル・モデル には何も書かれていない。
そして、最 後はそこが勝負になる。
デル・モデル に限らず、ビジネスモデルを運用する のは結局、人間です。
いくら合理的 なビジネスモデルを設計しても、それ を動かす人間がいなければ機能しな い。
むしろビジネスモデル自体は真似 しようと思えばできる。
しかし、それ をきちんと動かすことは誰にでもでき ることではない」 ――品質改善には、どのような手法 をとりましたか。
「品質は人が絡む問題だけに、改善手 法も地道で泥臭いものになります。
例 えば配送に関する顧客クレームを減 らすために、パートナーの物流企業と 連名で『デルマン心得七か条』とい うスローガンを作ったことがあります。
ドライバーの行動原則を七か条にま とめ『配達員はデルの顔』というコン セプトでポスターを作り、至る所に張 った。
日本と韓国で実施したのです が、いずれも顧客クレームが激減しま した」 ――欧米でも、そこまで荷主として アウトソーシング先に入り込んで管 理しているのでしょうか。
「いや、そこまではやっていません。
日本や韓国と比較すると、アウトソ ーシングの線引きがもう少し上層に ある。
3PL側にKPIで管理する カルチャーがあるため、荷主がそこま で首をつっこむ必要はない。
3PL の成熟度の違いだと思います。
そう した環境の違いを無視して原則を押 しつけても、ビジネスモデルは上手く 回らないのです」 7 JUNE 2007 にら・きよし 一九九七年、デルコン ピュータ(現・デル)入社。
九九年、 オペレーション本部長就任。
日本およ び東アジアにおける同社のロジスティク ス担当責任者を務める。
〇五年十一月 退職。
〇六年四月、早稲田大学ロジス ティクス研究所客員研究員就任。
大手 IT企業のエグゼクティブなどを兼任し ている。

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