ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年5号
SOLE
東京電力の柏崎刈羽原発を見学大規模施設の運用保全に驚嘆

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2007 82 る。
だが、原子力設備の防災対策、 中でも地震対策が気になるところ だ。
これが保証されなければ設備 の保全など論外である。
特に新潟 県では二〇〇四年一〇月に中越地 震が起きたばかりだ。
震源地近く の小千谷では最大一五〇〇ガル (注)が観測されており、その後も 小規模ながら長岡近辺で時々発生 している。
これに対し柏崎刈羽発電所は左 記の対策を施しているとのこと。
当 然のこととは思いながらも、まずは 一安心した。
●原子炉建屋を岩着立地とする耐 震設計を基本としていることか ら、原子炉建屋は岩盤まで掘り 下げて設置している(柏崎側: 地下三五メートル、刈羽側:地 下四五メートル。
従って原子炉 建屋は地下四〜五階、地上三階)。
●岩盤の上に六メートルのマットを 作り、この上に原子炉建屋を建 設している。
マットには地震計 を置き、地震を感知したら自動 的に制御棒が作動する仕組みに なっている。
中越地震の際には 震度四で六〇〇ガルを計測し、自 動的に制御棒が入ったという。
原 子炉建屋と内部の設備は、建築 基準法の基準の三倍の地震力に 号参照)。
今回の見学は、原子力発 電設備に関する情報収集活動の集 大成としての意味も持つ。
ギネスブック認定の発電能力 柏崎刈羽発電所の敷地面積は、 四二〇万平方メートルと広大だ。
東 京ドーム九〇個分、東京ディズニ ーランドの約五倍に相当する。
日本海岸の防風林に囲まれた清 閑な地に、BWR型(沸騰水型) 原子力発電設備七基(うち二基は 改良型BWR)がある。
総発電能 力八二一万二〇〇〇キロワットの 出力は一カ所の発電所としては世 界最大で、ギネスブックに認定さ れている。
見学者は、まずサービスホール に案内される。
ここには映画館の 他に、発電所や原子炉の縮小モデ ルなどが展示されている。
発電所 全体や原子力発電の仕組み、発電 設備の構成などを手慣れた説明者 が紹介してくれるので、素人でも 非常に分かりやすい。
SOLE日本支部が開催する フォーラムでは、実務に役立つ見 聞を広めることを目的の一つにし ている。
教室で先達から貴重な知見を聞 き、参考情報に基づいた考察をす ることは非常に大切だ。
だが、実 際に現地に赴いて現場を見る、ま た現場の実務者から生の声をお聞 きして知見を深めるのも重要なこ とと考え、今年は四回の現場見学 会を計画している。
今回はその第一回目として、東 京電力の柏崎刈羽原子力発電所 (新潟県柏崎市)を見学した。
以下、 見学会で得た情報とロジスティシ ャンとしての印象を報告する。
なお、当学会とRAMS研究会 では、本年度から大規模システム のロジスティクス研究をテーマに掲 げ、まずは必要な基礎知識を再確 認する作業を進めている。
昨年十 二月のフォーラムでは、原子力発 電設備に造詣が深い井村功氏(元 柏崎刈羽原子力発電所副所長)に ご講演を願った(二〇〇七年二月 SOLE日本支部フォーラムの報告 東京電力の柏崎刈羽原発を見学 大規模施設の運用保全に驚嘆 The International Society of Logistics 充実した一般向け見学施設は海 外でも少ないことを考慮し、建設 当初から、一般の方々に見て頂け るよう計画したそうだ。
現在は年 間七万人の見学者が訪れるという。
今回の見学では、最初に映画館 で立体映像による当発電所の概観 と原子力発電システムの概要を紹 介された後に、サービスホール内に 展示されている発電所全貌の模型、 原子炉の五分の一縮小模型、タービン発電機の模型、原子炉壁の実 寸大モデル、できた電気の送電ル ート等について説明を受けた。
続いて発電施設の建屋に案内さ れ、運転中の六号機・七号機の中 央制御室の作業状況および原子炉 の上面室、タービン発電設備を建 屋のギャラリーから見学した。
全 行程二時間半強でほぼ歩き詰めの 強行軍である。
中央制御室では、原子炉の運転 状況全体、各設備機器状況、主要 計測値がリアルタイムで表示され、 異常値、状態が瞬時に把握できる よう可視化の工夫がされている。
壁 いっぱいの表示は大きく、また、色 分けされており、確認しやすくなっ ている。
我々の見学の目的はロジスティ シャンとして原子力発電設備の保 全に関する知識を深めることであ 83 MAY 2007 耐えられるように作られている。
徹底したセキュリティー サービスホールで原子力発電設 備や送電に関する一通りの説明を 聞いた後に、マイクロバスで発電 施設の実機六号機の原子炉建屋と タービン建屋、中央制御室の見学 に移動した。
原子力設備と言えば、まずは放 射線に対する防護であり、また、テ ロや情報機密に対する防御であろ う。
サービスホール内では身体検 査も受けず、自由に動き回ること ができたが、発電施設の敷地内に 移動するところからセキュリティー に対しての緊張が高まった。
移動 のバスの中では身分証明書の提示 を求められた。
発電施設の敷地に入るゲートを 通るところでは、「これから中は幾 ばくかの放射線被爆を受けること を承知で‥‥」との案内があった。
案内上そう言うが、東京電力では 放射性物質の漏れ出しに対する防 護策として五重の障壁を設け、放 射線を封じ込めている。
五重の障壁とは第 一:燃料ペレット(焼 結体)、第二:燃料被 覆管、第三:原子炉 圧力容器、第四:原 子炉格納容器、第 五:原子炉建屋であ る。
このことは知識と しては得ていたが、今 回はその実物を見るこ とができた。
第一〜第四の壁は サービスホールに展示 された模型を使って、 第五の壁は実際に原子 炉建屋(炉および周辺 の機械類を丸ごと包ん だコンクリートの入れ 物:壁厚一〜二メートル)に出入 りすることで実体験した。
原子炉建屋は外気より若干負圧 にコントロールされており、空気が 炉外に漏れることがないようにされ ている。
また、原子炉建屋の出入 りのチェックは空港のボディーチェ ック以上の厳密さであった。
この ようなセキュリティーエリアに何千 人もの人が点検保守作業で出入り することを考えると、このようなシステムの保全に必要な知識は技術 的な面だけでなく、人の動員や動 線管理も重要なことだと感じた。
筆者は石油精製設備などの建設 に携わってきたので、少々の大型 設備には驚かない。
だが、原子力 設備は何はともあれ一つひとつが 大きいことに驚かされた。
原子炉建屋でギャラリーから原 子炉の上面室を見たときは、この 下に普通のビルで約四階建の高さ の原子炉圧力容器があり、その肉 厚一六センチメートルが原子力発 電設備の寿命の決め手になってい るのを想像し、改めて規模の大き さを考えさせられた。
同時に、このような大物設備も 何百万もの部品やエレメントで構 成され、それら一つひとつの寿命 が設備の寿命を決めていることを 考えると、大規模システムの設備 保全に関わる業務の複雑さ、大変 さが多少なりとも理解できた気が した。
なお、現在、柏崎刈羽発電所の 設備点検は定期保全を基本に行わ れているが、昨今の設備の長寿命 化ニーズの高まりから、保全の考 え方もRCM(R e l i a b i l i t y Centered Maintenance:信頼性 重視の保全)に変わりつつある。
R CMを実施するためには部品やエ レメント一つひとつの寿命に関す るデータが必要だ。
そのための情 報収集の大変さを想像すると溜息 が出た。
(注)ガル 地震動の大きさを加速度で 表す単位。
東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(パンフレットより)

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