ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
特集
佐川急便の変貌 日本型ラストワンマイルを海外へ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 24 対インテグレーター戦のシナリオ 佐川の貨物航空会社新設は、国際インテグレータ ーとの本格競争への布石という側面を持っている。
国 内の貨物輸送と並行して、中国を始めとしたアジア諸 国にネットワークを拡大させて、UPSやフェデック スと同様の国際貨物キャリアをグループ内に確保しよ うという狙いだ。
もっとも数百機の貨物航空機を自社所有する欧米 のインテグレーターと比べると、佐川の国際輸送の実 力はあまりにも脆弱だ。
フォワーディング用のインフ ラも比較にならない。
大型買収を実施する以外に、先 行する欧米のインテグレーターをキャッチアップする のは難しい。
佐川の栗和田栄一会長兼社長も「まと もに戦えばとても太刀打ちできない」と、ライバルと の格差を認めている。
しかし、このまま現状を放置すれば、いずれ足元の 日本市場を侵食されるのは目に見えている。
既に日本 の国際スモールパッケージ市場は事実上、外資が支配 している。
さらに外資の矛先は日系物流企業やフォワ ーダーとバッティングする一〇キログラム以上の貨物 にまで拡大している。
今や規模の拡大が期待できなく なった日本の国内市場では、パイの奪い合いが避けら れない。
一方、欧米の国内市場は成熟し、後発が参入する 余地はない。
しかし、中国を始めとしたアジア諸国の 国内市場にはまだチャンスが残されている。
国際イン テグレーターのネットワークも、アジアの国内市場に 関しては整備の途上にある。
競争の舞台をアジアに特 化して、各国の国内物流を握ることができれば、そこ から派生する国際物流の需要まで囲い込める。
佐川が ビジョンとして掲げる「アジア?1の総合物流企業」 のシナリオだ。
ただし、国際貨物や外貨を自国にもたらすことが期 待できるフォワーディング業務とは異なり、外資系企 業による国内物流市場への参入は、現地の政府や物 流業界には基本的に歓迎されない。
ライセンスの取得 が容易でないことに加え、各国の労働事情や言葉の問 題が外資系企業にとっては障壁になる。
しかも現地で宅配便を展開するには、ネットワーク の構築に多額の投資が必要になる。
宅配便はインフラ の稼働率がものを言うプラットフォームビジネスだ。
損益分岐点を超える取扱規模を確保するまで、重い 固定費負担を覚悟しなければならない。
それでも「リ スクが大きいからと躊躇している時間はない。
その間 にも市場はどんどん動いている」と栗和田会長は引か ない構えだ。
台湾の国内市場における経験が、強気の発言の裏 付けとなっている。
二〇〇〇年三月、佐川は大栄汽 車貨運に次ぐ台湾で二番手の大手運送会社、新竹貨 運と技術提携を結び、同社の経営指導に乗り出した。
台湾政府が国内物流企業への出資を外資に解禁した 時点で、新竹が佐川の出資を受け入れることが条件だ った。
佐川は日本の物流業のノウハウをそのまま新竹に移 植した。
荷物に直接、住所を書き込んでいたそれまで のやり方を改め、バーコードを印刷した送り状を採用。
仕分け機などのマテハン設備やITシステムを日本か ら持ち込んで事業の近代化を進めた。
当時の台湾の 路線便は、国土面積が九州と同程度でありながら、 一・五日程度の配送リードタイムがかかっていた。
そ れに対して新竹は翌日午前中には確実に届けられる体 制を整えた。
労務管理にも佐川流を導入した。
セールスドライバ 日本型ラストワンマイルを海外へ 上海と北京に続き、韓国でも宅配便事業を開始。
他のアジ ア諸国も秒読み段階に入った。
青縞のユニフォームを着た日 本と同じセールスドライバーをアジア全域に配備する。
国際 輸送キャリアとしてではなく、各国の国内市場に土着するラ ストワンマイル企業として海外展開を進める。
第2部 25 JULY 2005 ー制を導入して社員教育を徹底。
古い商慣習の染み ついた営業所長の多くは解雇した。
当然、反発も起き た。
一部の営業所ではストライキも経験した。
しかし 新たな仕組みを導入したことで、それまで低迷してい た新竹の業績は一気に好転した。
提携初年度の二〇〇一年度中に新竹は最大手の大 栄貨運の売り上げを抜き、台湾の国内物流企業とし てトップに躍り出た。
以降、現在までその地位を維持 している。
さらに今年に入って新竹は軽自動車を使っ た宅配専用の配送部隊を新たに設置した。
業務領域 をB to BからB to Cに拡大したことで、日本の佐川と ほぼ同じモデルが完成した。
東アジアで一〇〇〇億円 新竹の主要荷主となっている台湾系大手メーカーは、 多くが中国本土に拠点進出している。
今後はその国 際輸送から中国国内の配送までの物流を、台湾で築 いた荷主との関係を活かして取り込みにかかる。
一連 の展開を指揮する佐川の山本賢司執行役員国際事業 本部副本部長は「当面はASEAN諸国に中国、韓 国、台湾を加えた地域が主戦場になる。
このエリアで 一〇〇〇億円を売り上げることを目標に置いている」 という。
そのために投資と並行して人の問題に手を付けた。
それまで海外の現地法人には語学力や貿易の実務経 験を重視して人を送っていた。
しかし、現地のトップ に求められるのは、むしろマネジメント能力や営業力 だ。
語学や貿易実務は現地で優秀な通訳や実務経験者を雇えば済む。
そう考えて現法のトップのほとんど を国内の店長経験者に入れ替えた。
これによって明らかに数字が変わってきた。
改革を 開始した二〇〇〇年当初、佐川の国際事業の売り上 げは海外現法の約八〇億円と日本初の国際貨物一二 億円余りを足し合わせても一〇〇億円に満たなかった。
それが昨年度は海外現法の売り上げが約一四〇億円、 日本発の国際貨物が六〇億円と二倍に拡大した。
「それでも欧米のインテグレーターや日通などの国 際物流の大手と比べれば、依然として大きな開きがあ る。
しかし各国の国内市場に土着して当社独自のベー スを持つことで、東アジアに関しては追いつくことが できる。
手応えは充分にある」と山本副本部長は自信 を深めている。
 現地の大衆交通から市内通行許可証を取得済みの車両約70台を買い取 り、2003年1月に宅配事業を開始。
当初は初期投資がかさみ赤字体質だっ たが今年5月には単月で黒字にまでこぎつけた。
今期は通算で黒字化する。
上海から約1年遅れで事業を開始した北京も来年度の黒字化を目指す。
 フォワーディングと物流事業では、中国政府と太いパイプを持つ保利集団 との合弁で、中国初の総合物流業者として2 0 0 3 年に保利佐川を設立。
沿 岸地区を中心に3 0 拠点を展開する計画だ。
現在、3現法、5支社、8拠点を 運営している。
現時点での採算性は宅配事業よりも高い。
今期、保利佐川 は売上高13億円に対し、1億円の利益を見込んでいる。
中 国 ―― 上海と北京の宅配事業黒字化にメド ●佐川急便のアジア各国への進出状況  現地の財閥CJ系の物流会社、CJGLSからネット通販用の宅配子会社の 株式50%を取得し、今年1月に佐川急便コリアとして設立した。
これに合わせ て国際フォワーディング免許も取得した。
 韓国はインターネットを利用したeコマース先進国。
ハンジン(韓進)、ヒュンダ イ(現代)、サムソンなどの財閥系企業が軒並み宅配事業に参入している。
CJの 宅配子会社もその一つ。
現在、韓国国内で約1200台の車両を運用している。
し かし、従来は各地の運送会社をフランチャイズ展開することで配送網を組織してい た。
今後は配送を自社化してセールスドライバー制を導入。
ネット通販のB to Cだ けでなく、B to Bの宅配便事業にも着手する。
 国内物流最大手の新竹貨運をパートナーにしている。
佐川の経営指導によ って宅配便を含むB to Bの路線便をベースに、B to Cに事業領域を拡大しつ つある。
現在、一日当たり平均で27万個、ピーク時には32万個の貨物を扱って いる。
近く佐川による同社への出資も検討されている。
 台湾では佐川以外にもヤマトと日通が宅配事業を展開している。
ヤマトは現 地のセブンイレブンとの提携で「宅急便」を展開、日通も現地の東源物流を通 じて「便利CAN」ブランドを打ち出しているが、いずれも宅配専業で中ロット以 上の貨物は扱っていない。
 既にベトナム、フィリピンでは日系アパレル企業を主要顧客として倉庫事業 とフォワーディング事業を手広く手掛けている。
海外事業のヘッドオフィスとな っている佐川急便アジアを置くシンガポールおよびマレーシアには年内にも拠 点進出する予定。
タイは従来バンコクに駐在員事務所を置いているだけだった が、近く倉庫事業を開始する。
タイでは事業領域の拡大も計画している。
韓 国 ―― 現地財閥CJ系の宅配会社を買収 ASEAN諸国――各国で積極的な投資を断行 台 湾 ―― 現地最大手路線業者をパートナーに 佐川の山本賢司執行役員 国際事業本部副本部長

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