ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
特集
個人情報保護法の衝撃 機密文書を回収・処理して再生紙を販売

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 14 シュレッダーで処理させない 一般に官公庁や企業のオフィスでは情報の漏えいを 防ぐため、機密文書をシュレッダーで細かく刻んで処 理している。
今年四月に個人情報保護法が施行され たのを受けて、新たにシュレッダーを購入・設置した オフィスも少なくないはずだ。
しかし、実は紙資源の有効活用という観点からする と、シュレッダーで機密文書を処理するのは大きな間 違いだ。
機密文書などに使用されているコピー用紙の ような上質紙は再生率が高いだけに、シュレッダーで 裁断するのではなく、本来は?引きちぎる〞のがベス トなのだという。
その理由は簡単だ。
?引きちぎる〞処理では紙の繊 維がきちんと残るため、リサイクル工場に持ち込めば、 コピー用紙やトイレットペーパーなどに再生できるか らだ。
これに対して、シュレッダーによる処理は紙の 繊維まで裁断してしまうため、細かくなればなるほど 再生率が低下していく。
結局、シュレッダーで細かく 刻まれた紙クズはゴミとして焼却処分するしかなくな るという。
「シュレッダー処理をやめませんか」――こんな謳い 文句で営業攻勢をかけているリサイクル会社がある。
鈴与、トナミ運輸、リソース東海の三社が共同出資し て設立した「静岡ドキュメントセキュリティ」だ。
同 社はオフィスから排出される機密文書を紙の状態のま ま回収し、特殊な機械で引きちぎってデータを抹消。
コピー用紙やトイレットペーパーなどにリサイクルす る事業を展開している。
昨年一〇月、静岡県内を対 象エリアにサービスを開始した。
同社の浦上光男営業部長はサービスの特徴につい て、こう説明する。
「現在、多くの企業では機密デー タを抹消するのにシュレッダーが活用されている。
し かし、シュレッダー処理は環境にやさしくない。
とは いえ、環境対策だからといって、オフィスで機密文書 を一枚ずつ手作業で引きちぎるわけにはいかない。
そ こで当社の出番となる。
当社は紙の状態のまま回収し て、データを抹消した後、再生紙にリサイクルしてい る。
つまり、当社のサービスを利用することで、各オ フィスは機密データの安全な処理と環境対策を同時に 実現できるわけだ」 物流センターで機密データを抹消 「静岡ドキュメントセキュリティ」が提供するサー ビスの流れはこうだ(図1)。
まず企業は機密文書回 収用の専用ボックス「エコロック」を購入する。
「エ コロック」にはコピー用紙など上質紙用の「エコロッ クSW」と、パンフレットなど中質紙以下用の「エコ ロックSC」があり、企業は紙質に合わせて、処理し たい文書を分類する。
ただし、ファイルやバインダー などで管理されている機密文書などは「エコロック」 で分類せず、綴じられた状態のままでもいい(ステッ プ1)。
続いて「静岡ドキュメントセキュリティ」がトラッ クで各オフィスから「エコロック」を回収する。
機密 文書が輸送中に盗難されるのを防ぐため、トラックに は施錠機能が付いている。
トライバーは回収時に「機 密文書預かり確認書」を発行し、オフィスの責任者に 手渡す。
トラックは回収した「エコロック」をリサイ クルセンター(静岡市葵区にある鈴与の倉庫)に運ぶ。
ちなみにリサイクルセンターには監視カメラや指紋 照合型入退出管理システムなどが導入されており、回 収用トラックと同様、万全のセキュリティー体制を構 築している(ステップ2)。
Case Study――静岡ドキュメントセキュリティ 機密文書を回収・処理して再生紙を販売 鈴与やトナミ運輸などが共同出資して設立した会社が 静岡県内でユニークなサービスを展開している。
官公庁や 金融機関から機密文書を回収し、物流センターで中間処 理。
その後、製紙工場でコピー用紙などに再生して排出 者に販売している。
(刈屋大輔) 第2部法規制をビジネスチャンスに転化 15 JULY 2005 リサイクルセンターでは最初に金属製のクリップや 綴じ紐といった?禁忌品〞を除去する作業を行う。
再 生紙に不純物が混入するのを防ぐためだ。
次に禁忌品 を取り除いた文書を紙質別に仕分けして、機密情報 抹消機に投入する。
抹消機は繊維を痛めないよう紙を 引きちぎって細かく砕き、さらに水分を含ませて揉み 込んで、文書を判読不能な状態にする。
そして再生紙 の原料となる紙粘土状の白い物体を作り出す(ステッ プ3)。
リサイクルセンターでは再生紙の原料がトラック一 台分溜まった段階で、それを製紙工場に持ち込む。
製 紙工場はこの原料を溶解・リサイクル処理して、古紙 一〇〇%のコピー用紙やトイレットペーパーに再生す る(ステップ4)。
最後に「静岡ドキュメントセキュリティ」が製紙工 場から再生紙製品を回収。
機密文書を排出した各オ フィスに配送する。
その際に「機密抹消リサイクル証 明書」を手渡し、機密情報が適正に処理されたことを 報告する(ステップ5)。
負担額は月額八九〇〇円 回収・処理の料金は「エコロックSW」が一箱七 五〇円、「エコロックSC」が一箱八五〇円に設定さ れている。
どちらも一箱につき約二〇キロ分の文書を 梱包できる。
排出企業は回収・処理の料金のほかに 再生紙の購入費用を別途負担しなければならないが、 実はそれでも「『エコロック』を利用したほうが、シ ュレッダーで処理するよりもランニングコストは安い」 (浦上部長)という。
「静岡ドキュメントセキュリティ」の試算によると、 一カ月当たりの排出量が一二〇キロのオフィスでは、 シュレッダー処理に掛かる費用が、シュレッダーの刃 の交換費用やゴミ袋の購入費、シュレッダー処理を行 う社員の人件費などを積み上げていくと、月額で約二 万二五〇〇円に達するという。
これに対して、「エコ ロック」の場合はメンテナンス費用などが掛からない ため、わずか八九〇〇円の負担で済む計算だ(図2)。
もっとも、サービスを開始してから間もないことも あって、「エコロック」がシュレッダー処理よりも環 境面ではもちろん、経済的にも優れているということ はまだ広く浸透していないのが実情だ。
実際、「静岡 ドキュメントセキュリティ」では回収業務で稼働して いるトラックがわずか二台にとどまっている。
事業そ のものが採算ベースにのるまでにはもう少し時間が掛 かりそうだ。
もともと、このサービスは、トナミ運輸が北陸電力 や中越パルプ工業などと共同出資して設立した「ジェ スコ」が二〇〇一年に北陸三県でスタートした事業が ベースになっている。
「ジェスコ」でもサービスを開始 した当初は集客に苦労したが、四年経った現在では事業がようやく軌道に乗り始めている。
「シュレッダーと『エコロック』の料金比較表や?紙 粘土〞を見せたり、『エコロック』一箱でトイレット ペーパーが一〇〇ロール作れることなどを説明したり して、このサービスが環境保護という意味でいかに有 効であるかを粘り強くアピールし、理解を求めていく しかない」と浦上部長。
今後の営業上の課題はサービ スの認知度をいかに高めていくかだ。
もっとも、「静岡ドキュメントセキュリティ」は「ジ ェスコ」よりも短期間で黒字化に成功する可能性が高 い。
個人情報保護法が追い風となっている。
同法が施 行された今年四月以降、金融機関や情報関連会社な ど個人情報を扱う企業からの問い合わせが相次いでい るという。
図1 機密文書を回収・処理して再生するまでの流れ 図2 シュレッダーと「エコロック」のコスト比較(1カ月当たり) シュレッダー 使用料 エコロック (排出量は120kg/月) 機密文書の排出 禁忌品の除去・仕分け・データ抹消 溶解リサイクル処理 ●排出企業は紙質別 に仕分けて梱包 ●トラックで回収して 「機密文書預り確 認書」を発行 ●禁忌品を取り除き、 紙質別に仕分け ●“紙粘土”を溶解して 再生紙を製造 ●再生紙を排出企業に販売 ●引きちぎった紙に水 を加えて紙粘土状に してデータを抹消 製紙会社のリサイクル工場 回収 再生紙の販売・利用 本体価格は35万円で5 年リースの場合 機密文書投入容器「エコポス ト」(本体価格4万5000円) を5年リースで利用する場合 メンテナンス 費用 カッターの刃(12万円) を40カ月で交換する場 合 ゴミ袋代 事業系ゴミ袋(1枚167 円)を15枚使用する場 合 人件費 120kg分の紙をシュレッ ター処理するのに5時間 掛かり、その要員の時給 を2000円として計算 した場合 「エコポスト」に紙を投函し たり、「エコロック」を梱包し たりする作業に1時間掛かり、 要員の時給を2000円とし て計算した場合 運搬・処理費 「エコロック」750円×8箱 合計 7,000円 900円 3,000円 0円 2,505円 0円 10,000円 2,000円 22,505円 8,900円 0円 6,000円 特集1 個人情報保護法の衝撃

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