ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
ケース
コスト削減住友化学

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

小口のユーザー直送を推進 住友化学には石油化学部門、基礎科学部 門、情報電子化学部門など六つの事業部門が ある。
このうち、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂をはじめ、合成ゴム、石 油ガス類、高機能樹脂などの事業からなる石 油化学部門は、売り上げ構成比が最も高く三 割強を占めている。
樹脂の用途は、自動車や家電製品の部材か ら、建築資材、厨房・サニタリー関連、家具 などの生活用品、さらに食品容器や包装用フ ィルムまで多様でアイテム数が多く、ユーザ ーの裾野は極めて広い。
住友化学では、これらの多様な用途を持つ 樹脂製品を千葉工場一カ所で生産し、全国の ユーザーに供給している。
このため、千葉工 場とその周辺に三五カ所の外部倉庫を借りて 製品を保管し、各地の中継拠点(ストックポ イント=SP)を経由してユーザーへ配送す る物流体制を敷いている。
SPは比較的規模 の大きいものだけで、北海道に一カ所、名古 屋に二カ所、大阪・四国・中国に各一カ所、 九州に二カ所置いている。
従来、住友化学ではこれらのSPに在庫を 持ってユーザーからの注文に対応してきた。
千葉地区の保管基地からSPへの在庫の補充 は西日本方面を中心に主に海上輸送で行って いた。
一時期は横持ち輸送における海上輸送 の比率が六割近くに達していたこともある。
一昨年からこの輸送体制を見直して、なるべ くSPに在庫を持たず工場からユーザーへ直 送する形に切り替えてきた。
ユーザーへ配送する時の荷姿は、出荷単位 によって大きく三通りに分けられる。
最も小 さい単位で一般的なのは二五キログラム入り の紙袋や樹脂袋。
その上は五〇〇キロ、ある いは一トンクラスのフレキシブルコンテナ。
さらに、フィルムメーカーの工場など受注ロ ットの大きいユーザーへは一〇トンクラスの ホッパー(バルク)コンテナで配送する。
このうち、ホッパーコンテナによる大口ユ ーザー向け配送は、以前から鉄道を利用する などしてすべて直送体制をとっていた。
また 千葉地区に保管基地が集中していることから、 関東・東北一円では一トン未満の小口オーダ ーも積み合わせによってユーザーへの直送を 実施していた。
これに加え、一昨年からは中部・関西方面向けの小口配送についても直送 の対象とし、拡大を図ってきた。
関西までの 距離なら、船からトラックに切り替えても輸 送コストがほとんど変わらず、直送によって SPの規模縮小や集約が可能になるからだ。
直送の方法は、各地域の小口オーダーをま とめて大型車で名古屋と大阪のSPまで輸送 し、SPでルート別に仕分けて四トン車など に積み合わせて配送するというもの。
一般に クロスドッキングと呼ばれる方式だ。
合成樹脂のような荷扱いの面倒な製品でク ロスドッキングを実施するには、一貫パレチ コスト削減 住友化学 樹脂用のバルクコンテナを大型化 拠点を集約して横持ち輸送も解消 FEBRUARY 2007 56 住友化学は合成樹脂の輸送効率化に力を入れてい る。
大口ユーザー向け輸送に、16トンまで積載可 能なバルクコンテナを650台導入して大型化を推進。
また今秋には千葉工場の近くに4万トンクラスの大 型倉庫を新設し、周辺に分散する保管基地を集約、 横持ち輸送の解消を図る。
ゼーションが前提となる。
住友化学は九〇年 代初めに、それまで手積みが一般的だった合 成樹脂のパレット輸送を石油化学業界で最も 早く開始している。
合成樹脂の基本的な取引単位は一トンから で、二五キロ入り袋の場合は四〇袋分で一ト ンになる。
これを安定した荷姿で輸送するの に最適なパレットとして、石油化学業界では JIS規格の14型(一四〇〇ミリ×一一 〇〇ミリ)を標準パレットに定めている。
住 友化学はこの14型パレットを他社に先駆け て導入した。
その後、石油化学工業協会の主導により、 レンタルパレットを使って輸送し、ユーザー から共同回収する「石化方式」のプールシス テムが構築されると、同社はこれに同調、自 社の保有するパレットをすべてレンタル業者 に売却して「石化方式」に参加した。
現在、 合成樹脂についてはほぼ一〇〇%がこの方式 で一貫パレチゼーションを実施している。
クロスドッキング方式をとることで、直送 比率は飛躍的に向上した。
ただし例外もある。
自動車や家電品用の部材などユーザーの要望 で、受注してから短時間で納品しなければな らないケースでは、これまで通りSPに在庫 を持って対応している。
また製品のなかには、 ユーザー仕様による着色加工を施してから納 品するものもある。
加工工程を外部に委託し ているため、これを直送の対象に加えるのは困難だ。
こうしたケースを除き、関西地区で は小口オーダーのほぼ一〇〇%が直送に切り 替わった。
全体の直送率も八五〜九〇%に達 している。
一〇トンから一六トンへ 直送の拡大とともに、中部・関西方面向け の幹線輸送はすべて船からトラックへ変わっ た。
現在も海上輸送を行っているのは中四 国・九州方面だけ。
これによってモーダルシ フト率は鉄道も合わせて四五%となり、従来 よりも下がった。
その代わりに同社では、中 継基地からの配送距離の短縮や輸送単位の大 型化を進めることで、輸送の効率化を図って いる。
まず、SPからユーザーへの配送距離を最 短にするために、ユーザーの分布をもとにS Pのロケーションを見直した。
中国地区では 尾道から岩国へ、四国地区では新居浜から坂 出へシフトを行っている。
また〇六年からは、 バルク輸送の大型化にも取り組んでいる。
これまで遠隔地の大口ユーザーへはホッパ ーコンテナを利用して主に鉄道で輸送してい た。
ホッパーコンテナとは、合成樹脂のよう な紛体や粒体をしたバルク貨物の輸送用に開 発された箱形の二〇フィートコンテナで、上 部に注入口、後ろに排出口がある。
工場で注 入口から充填を行い、ユーザーのサイロなど 貯蔵施設に対して排出口からホースを使って 排出を行う。
アルミ製で自重が一・六五トン あり、最大で一〇トンまで積載できるタイプ だ。
だが〇三年の総重量規制緩和で、二〇フィ ートドライコンテナについて総重量が最大三 〇・四八トンまでの内陸輸送が可能になった ことや、JR貨物が総重量二〇トンを超える コンテナの荷役機械を主要駅に導入し、これ に対応したコンテナ車両の整備を進めたこと などを受けて、住友化学ではバルク輸送の大 型化を検討。
従来のホッパーコンテナよりも さらに積載重量の大きいバルクコンテナの開 発・導入を図った。
コンテナの外観はホッパーコンテナとほと んど変わらない。
箱型で注入口と排出口がつ 57 FEBRUARY 2007 住友化学の大岩勇次 購買物流室物流担当 部長 FEBRUARY 2007 58 下させる方法をとっている。
このときに製品 が排出口へと速やかに流れ、内袋に残ったり、 ホースが詰まったりしないよう、内袋の厚さ や寸法、構造などに独自のノウハウを活かし て工夫を凝らした。
工場での充填方法やユーザーのもとでの排 出方法は、従来のホッパーコンテナと基本的 に変わらない。
従って、ユーザー側では受け 入れ施設の変更をせずに、新型バルクコンテ ナに対応できる。
同社では〇六年からリースによって新型バ ルクコンテナの導入を開始し、これまでに六 五〇台を投入した。
サイロの容積が小さいと ころや、配管設備によって工場内の車両走行 に高さ制限があるケースなどを除き、同社で は顧客に大型コンテナでの配送を呼びかけ利 用の拡大を図っている。
購買物流室の大岩勇次物流担当部長は「輸 送効率だけでなく、環境負荷を軽減できるメ リットもあるので、顧客の協力を得ながら大 型化を進めていきたい」と話す。
鉄道貨物駅 と同社およびユーザーの拠点までのトラック 輸送が大型化することにより、すでに新型コ ンテナへの切り替えが決定したものだけで、 CO2の排出量を一年間に一七%あまり削減 できる見込みだ。
製品をコンテナに直接詰める従来の方式で は、復路は空のままコンテナを回収しなけれ ばならなかった。
内袋を使用する新型コンテ ナなら、帰り荷に樹脂製品以外の貨物を積む ことも可能だ。
このため同社では今後、グル ープ内の貨物を対象に鉄道輸送の往復化を図 っていく考えだ。
千葉地区に大型倉庫を新設 さらに〇七年には、拠点間輸送を解消する ため千葉工場周辺の倉庫群の集約に着手する。
すでに述べたとおり、工場周辺では保管基地 が三五カ所に分散している。
いずれも一棟あ たりの保管能力が一、二万トンクラスの小規 模な外部倉庫だ。
製品のアイテム数が増える のに伴って庫腹を増やしてきた結果、これだ けの数になった。
保管場所が分散しているため、出荷の際に は複数の倉庫から製品を一カ所に集めて品揃 えする必要があり、その都度、倉庫間の横持 ち輸送が発生していた。
輸出品などはこうし た横持ち輸送による品揃えが終わってからでないとバンニング作業を開始することができ ない。
このためコンテナの搬出入をスケジュ ール化するのが困難だった。
そこでまず輸出品を対象に、保管基地を集 約することにした。
千葉地区に建設中の四万 トンクラスの保管能力を持った大型倉庫を、 物流子会社の住化物流東日本が賃借し、住 友化学の専用拠点として運営する。
倉庫は〇 七年秋に完成する予定だ。
一カ所に集約する ことによって、バンニングを行うための横持 ち輸送が要らなくなる。
同社の試算によれば、 これによって年間に燃料の使用量を二五六キ いている。
コンテナの長さと幅のサイズも同 じ。
ただ高さだけが一五センチほど高く二・ 六メートルある。
このため容積が従来の二五 立方メートルから三二・五立方メートルへと 七・五立方メートル増えた。
従来と異なるのは、コンテナの材料をアル ミ製よりもコストの安い鉄製に変えたこと。
自重が二・二三トンあり、アルミ製のコンテ ナよりも〇・六トンほど重くなったが、最大 で一六トンまでの積載が可能になり、積載率 は大幅に向上した。
しかも、コンテナの製作 コストをアルミ製の一〇分の一以下に抑える ことができたという。
内袋の利用で往復輸送も可能に もう一つの特徴は、コンテナのなかに内袋 をセットすることにより、製品をコンテナに 直に注入するのではなく、内袋の中に注入す る方法を採用した点だ。
従来の方法では、コ ンテナに注入する製品の銘柄やグレードが変 わるたびにコンテナを洗浄する必要があった。
新しいコンテナは、内袋を交換するだけで切 り替えが容易にできる。
内袋には強度のある樹脂製のものを採用し た。
バルクコンテナへ製品を注入・排出する 方法はいろいろある。
住友化学の場合、工場 では注入口から重量落下方式でコンテナに充 填を行い、ユーザーへ納品する際には、ダン プアップトラックでコンテナを傾斜させ、排 出口からホースを使いサイロなどに対して落 ロリットル削減できる見込みだ。
また管理を一元化することによって、バン ニングから港へのコンテナ搬入までの一連の 作業を計画的に行うことができるようになる ため、それに伴ってコンテナ輸送の効率化も 可能になると同社では見ている。
港への搬入 を終えた車両が倉庫へ戻るタイミングに合わ せてバンニング作業をすませておき、車両の 回転率を上げるというものだ。
コンテナ輸送の計画化とともに、千葉港の 利用拡大も検討している。
千葉港はコンテナ 船の航路が少ないため、これまではわざわざ 東京や横浜の港までコンテナ輸送していた。
中期港湾計画のなかで千葉港はコンテナ貨物 の増大や船舶の大型化に対応した物流機能の 強化を打ち出しており、「今後、港のキャパ が拡大して寄港する船舶の数が増えれば千葉 港の利用を増やしていきたい。
それによって 計画出荷もやりやすくなる」と大岩部長は期 待する。
千葉地区では、着工中の倉庫のほかにも、 事業者が同規模の大型倉庫の新設計画を進 めており、同社では今後、これらの新たな庫 腹を確保することによって、三五カ所に分散 している倉庫群を五カ所程度の拠点に集約し ていく方針だ。
住友化学の物流は、本社の購買物流室で全 社的な管理を行っている。
かつては各事業部 門の工場にそれぞれ物流管理担当を置いてい た。
その後、〇三年に三井化学との事業統合 をにらんだ物流組織の再編を行い、戦略の立 案を含めた本社の物流機能や各工場の物流管 理業務を、このとき新設した物流子会社「住 化物流」に移管したことがあった。
だが統合 を見送ったのに伴い、〇四年七月に「住化物 流」を解散して再び機能を本社にもどした経 緯がある。
その際に再編前よりも本社の購買物流室の 機能が強化された。
具体的には、各工場の物 流管理担当者が購買物流室を兼務する体制 をとり、工場で製品の充填を終えた後の構外 物流については購買物流室が管轄するかたち になった。
これに並行して現業部門を担って いた物流子会社の再編強化を行い、住化物流 東日本および住化物流西日本という東西の物 流子会社に統合。
この体制のもとで、SPの 集約や輸送体系の見直しなど事業部門を超え た物流効率化策を進めてきた。
購買物流室では現在、事業部の損益管理 を支援するため、ユーザー別・届け先別に、 品目・グレード別・輸送手段別などの細かな 物流費の管理・分析ができる情報システムの構築を行っている。
十年ほど前から同様のシ ステムを運用してきたが、〇五年に新しい基 幹業務システムを導入したのに伴い、これに 対応してリニューアルが必要になったものだ。
新型バルクコンテナの利用拡大などの施策 を進めるには、受注単位の見直しが必要。
「デ ータはすべて基幹システムに蓄積してあり、 それを見えるようにすることで(事業部の) 意識を変えるようにしていきたい」と大岩部 長。
来年度中にシステムの本格稼動をめざし ている。
( フリージャーナリスト・内田三知代) 59 FEBRUARY 2007

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