ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
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トランコム

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DECEMBER 2006 56 新たな成長ストーリーを模索 トランコムは名古屋市に本社を置き、東海 地区を中心に事業展開している。
主な事業は、 家電量販店向けの共同配送や貸切輸送を行う 貨物運送事業(二〇〇六年三月期連結売上構 成比一九%、連結営業利益率五・九%)、荷 物情報と空車情報のマッチングビジネス(求 貨求車システム)である物流情報サービス事 業(同五〇%、同三・四%)、荷主の物流セ ンターにおいて在庫管理や仕分け作業を行う LM(ロジスティクスマネジメント)事業(同 二七%、同五・八%)である。
二〇〇六年三 月期の連結売上高は四七八億円で、連結営業 利益は二一・八億円だった。
同社はもともと家電量販店向け物流センタ ーの運営と共同配送事業を中心に業績を拡大 してきた。
しかし、家電量販店の物流拠点集 約化に伴う取引縮小の影響で、共同配送事業 は収入減を余儀なくされた。
そのような環境 変化の中で、同社は二〇〇〇年に経営戦略の 見直しに着手した。
装置産業かつ労働集約産業の典型である物 流業界に身を置きながら、いち早くハード重 視のビジネスモデルからの脱却を図った。
具 体的には大手物流企業にひけを取らない情報 システム力や品質管理能力などを武器に、大 手荷主の物流アウトソーシング需要の受け皿 として機能する3PL事業や、物流の非効率 性の解消につながる求貨求車サービス事業に 経営の軸足を移すという判断を下した。
その結果、同社の主力事業は現在、求貨求 車サービスを中心とした物流情報サービス事 業とLM事業の二本柱へとシフトしている。
両事業の九九年三月期から二〇〇六年三月期 の年率換算増収率はともに三三%。
また、同 期間の売上高構成比も物流情報サービス事業 が二八%から五〇%へ、LM事業が一六%か ら二七%へと上昇している。
同社は二〇〇五年に二〇〇六年三月期を初 年度とする三カ年の中期経営計画を発表。
現 在は二〇〇七年三月期上期の決算を終えて、 ちょうど「折り返し地点」を過ぎたところで ある。
この中期経営計画では従来の中部圏を 中心とした事業展開から、関東や関西へと事 業領域を拡大する「攻め」の姿勢を鮮明に打ち出している。
また、設備投資を積極化することで、従来 は独自展開だった貨物運送事業(支線配送)、 物流情報サービス事業(幹線輸送)、LM事 業(物流センター)の各事業間での相乗効果 を狙うといった新たな成長ストーリーも描い ている。
最終年度である二〇〇八年三月期に は連結売上高六四〇億円、連結営業利益三三 億円の達成を目指す。
現在、物流業界では過当競争による運賃単 価の下落が続いている。
こうした環境下で、 トラックの積載効率向上をいかに進めるかが トラック運送各社にとって重要な経営課題の 一つとなっている。
効率化に改善の余地があ 第26回 尾坂拓也 野村證券金融経済研究所 シニアアナリスト トランコム 共同配送に代わる収益の柱として 求貨求車と生協向け個人宅配が成長 求貨求車サービスの強化と並行して貨物運 送事業の建て直しを進めている。
共同配送事 業の落ち込みをカバーしているのは生協向け 個人宅配事業だ。
業績は当面高い成長率で推 移する見通し。
現在の株価には割安感がある。
57 DECEMBER 2006 る物流業界において同社が強化している物流 情報サービス事業の潜在需要は依然として大 きいと想定している。
物流情報サービス事業は、荷物を探すトラ ック運送会社の空車情報と、荷物の運び手を 探す貨物情報を上手にマッチングして手数料 を得るというモデルである。
物流情報サービ ス事業はノンアセット型のさや抜きビジネス であるため、LM事業などに比べ売上高粗利 益率は相対的に低い。
ただし、従業員一人当 たりの売上高や粗利益などを考慮すれば、効 率の高い事業と言える。
荷主企業の物流アウトソーシング需要は旺 盛であり、それはもう一つの利益成長の牽引 役であるLM事業にも拡大余地が残されてい ることを意味する。
実際、同事業ではパート 社員を活用した競争力のある価格提示や、物 流システムを駆使したサー ビス提供などが奏功し、新 規荷主の獲得に成功してい る。
今後も環境規制の強化、 さらに在庫圧縮や物流コス ト削減に対する要請は続き、 それに伴いメーカーを中心 に物流アウトソーシングも 進展すると見られている。
同社の場合、情報システム 力(物流関連ソフトを荷主 向けにカスタマイズする能 力)や輸送品質力、倉庫内 での物流効率の改善提案力 などが競争優位の源泉とな るであろう。
年率一〇%超の利益成長を予想 貨物運送事業では構造転換を推進中である。
共同配送事業に代わって、生協向けの個人宅 配事業を今後の牽引役として位置づけている。
個人宅配事業は従来のトラック運送事業より も輸送品質が重視される分だけ相対的に収益 性も高いと推測できる。
九〇年代後半以降、生協の事業構造は大き く変化している。
「共同購入」と「個人宅配」 から構成される無店舗事業の売上高は年一・ 四〜一・五兆円と横ばいで推移してきたが、 その内訳を見ると個人宅配の構成比が上昇傾 向にある。
九六年三月期に二%であった個人 宅配の売上構成比は、二〇〇六年三月期に四 七%にまで上昇した。
個人宅配の市場規模は 九六年三月期から二〇〇六年三月期にかけて 年率四〇%で拡大し、二〇〇六年三月期には 約七〇〇〇億円に達している。
夫婦共働き、 高齢化、近所付き合いの希薄化など生協組合 員の生活環境の変化が個人宅配のマーケット 拡大に寄与したと言えよう。
生協は二〇〇〇年以降、物流センターの運 営や個人宅への配送といった物流業務のアウ トソーシングを加速させている。
こうした背 景からも貨物運送事業においてメーンのター ゲットを共同配送から生協向け個人宅配にシ フトさせたトランコムの経営判断は評価に値 する。
先月十日に発表された二〇〇七年三月期上 期の連結決算は前期比一七%の増収、同九% の営業増益であった。
増収額に対して営業利 益が伸び悩んでいるとの印象も受けるが、そ の主因は事業再構築を進めている貨物運送事 業の減益である。
もっとも、同事業の減益は 当初の見込みどおりであり、利益成長の牽引 役として期待される物流情報サービス事業と LM事業の収益力で十分カバーできた。
野村證券金融経済研究所では二〇〇七年三 月期以降、物流情報サービス事業やLM事業、 生協向けの個人宅配事業を柱に、年率一〇% 以上の利益成長を継続すると予想している。
このうち物流情報サービス事業では二〇〇七 年三月をめどに新規に三拠点を開設すること を発表しており、それが二〇〇八年三月期業 績の上振れ要因となろう。
一方、LM事業でも二〇〇七年二月に同社 最大の物流センター(愛知県東海市)が竣工 する予定となっている。
二〇〇七年三月期予想ベースの連結PER (株価収益率)一五倍は、運輸セクター平均 の二〇倍と比べて割安感があると判断してい る。
同社の高い収益性(二〇〇六年三月期の 連結ROIC三九%)と、中期の成長力(中 期連結EPS成長率一六%)の高さにも注目 したい。
トランコムの過去10年間の株価推移

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