ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
管理会計
製品設計を改革する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2006 72 一昔前、ロジスティクスという言葉が日本 でも徐々に使われるようになってきた頃、物 流とロジスティクスでは、いったい何が異な るのかについて、活発な議論がなされていた。
しかしそれも現在では一応は落ち着き、両者 の違いについては広く認知されたといっても 良いであろう。
ロジスティクスとは、物流に加え、生産の 領域である調達や生産計画、また営業の領 域である納品サービス、チャネル政策までを 含めて、供給の最適化を図るという概念で ある。
つまりこれまでは、製品にかかわる一 連の供給機能の中で、製品企画・開発のプ ロセスのみがロジスティクスの範囲の外に置 かれていた。
今日、SCM時代を迎えたことで、管理 対象となる範囲は拡大した。
既にハイテク業 界では、製品企画・開発の領域もロジステ ィクスのトレードオフを検討する対象となっ てきている。
現状よりもさらに在庫を削減し、 かつコストを低減するためには、製品企画・ 開発のプロセスまでロジスティクスの俎上に 載せる必要が生じているのである。
抜本的な 改革を行うために、ロジスティシャンにも製 品企画・開発の領域に果敢に踏み込むこと が要求され始めている。
設計を検討する六つの視点 ロジスティクスの視点から、ハイテク産業 における製品企画・開発を検討する切り口 を米ヒューレット・パッカード社(HP)が 体系化している。
「DfSC (Design for Supply Chain) 」と呼ばれる。
プリンタ製 品の製品企画・開発を中心に始まったロジ スティクス改革を施策として整理したもので ある( 図1)。
同社のDfSCでは、以下に紹介する六 つの切り口から製品企画・開発の見直しが 行われた。
その一つひとつは目新しいもので はないが、ロジスティシャンが製品企画・開 発を見直す時の整理に役立つはずだ。
なお、 この取り組み事例は昨年度のCSCMP(旧 CLM)の「サプライチェーン・イノベーシ ョン・アワード」の候補になり、また米サプ ライチェーン・マネジメント・レビュー誌で グローバルロジスティクスへの挑戦? 製品設計を改革する ロジスティクスの管理対象は、今や製品設計の領域にまで拡大し ている。
米HP社はロジスティクスの視点から製品企画・設計を改 革したことで一億ドル以上の効果を実現した。
さらに同社は一連の 施策を「DfSC」と名付けて体系化している。
第21回 梶田ひかる アビームコンサルティング 製造・流通事業部 マネージャー 73 DECEMBER 2006 も本年六月号および七月号に記事が取り上 げられている。
品目削減 販売品目数の削減による効率化には、従 来から多くの企業が取り組んでいる。
とくに 出荷量の少ない商品の在庫削減に効果があ ることが認められている。
また品目が絞られ ることによって、効果的な販売活動が可能 になり、売上増を実現したケースも多く見ら れる。
ただし品目削減は、単に売れない品目か ら削減すれば良いというものではない。
動き の鈍いものから削減候補に挙げるのは良いと しても、それがマーケティングミックスにど のような影響を与えるのか、品目削減による 損失と効果を試算し、トータルがプラスとな ることを確認する必要がある。
この効果試算 では、本連載で繰り返し取り上げている在 庫保有コストを、いかに正確に算定するかが カギとなる。
また品目削減は、継続することが重要で ある。
アイテム数の上限を設けて、新製品投 入時に動きの鈍いものをカットするなど、ル ールの作成とその遵守が必要となる。
パッケージング 梱包サイズのコンパクト化は、とりわけ容 積勝ちの製品の場合には、輸送コスト低減 に大きく寄与する。
これもかねてから、運賃 負担力の低い商品の多い、日用雑貨品をは じめとした複数の業界で取り組まれてきた施 策だが、近年ではハイテク業界でも積極的 な取り組みが見られる。
プリンタは典型的な容積勝ちの製品であ る。
そのためHP社のみならず、他のプリン タメーカーも梱包サイズの縮小に積極的に取 り組んでいる。
またハイテク業界の他製品で も、低価格化に伴う対応策として各所で取 り組みが見られる。
デジカメでは包装のコン パクト化に加え、軽量化、製品そのもののサ イズ削減も進められている。
また部品業界で は、開梱後の作業性という観点も含めた梱 包設計を行っている事例が散見される。
ポストポーンメント(延期) 同一モデルであっても、仕様が複数ある製 品は少なくない。
そのような仕様の違いを、 なるべく製造工程の終わりに近い段階で処 理するように持っていこうというのが、この ポストポーンメント(Postponement)だ。
日本語では延期戦略ないしは遅延差別化戦 略などと呼ばれている。
プリンタを例にとれば、同じモデルでもパ ネルや電源、マニュアルには国別対応等の違 いがある。
そこで、それらの仕様の違いを処 理する直前の半製品の段階まで生産を進め ておき、仕様別の実需が確定した後に最終 工程を処理するかたちに可能な限り近づけ る。
これによって見込みで仕様別の完成品 在庫を持つリスクを避ける。
ただし小型プリンタを対象に、このような 取り組みを行うには、設計に大きな制約が かかる。
最終工程で仕様を処理できる構造を、小型化・低廉化するためにコンパクトに 実装しなければならない。
そのようなトレー ドオフを、在庫削減を優先して実施したの である。
アーキテクチャー標準化 部品、コンポーネント、インターフェース 等を標準化することにより、需要変動に応 えやすくするのが、このアーキテクチャー標 準化である。
九〇年代には家電業界を中心 に盛んに取り組みが進められ、部品削減や 生産リードタイム短縮に効果があることが実 証された。
しかし、時を経るにつれ、設計上 DECEMBER 2006 74 の制約が大きいことから、次第に取り組みの 気運は弱まってしまった。
家電品の標準化 を維持するには、設計にかなりな困難が伴う ようだ。
一方、プリンタよりも構造が複雑な自動 車、パソコンなどでは、インターフェース標 準化を基本として、機能別に複数の部品を 組み合わせて一つのユニットにまとめるモジ ュール化が進められている。
もちろん、これもまた設計上の制約が伴う。
しかしながら、モジュール化することにより、 開発期間短縮、最新技術のスピーディーな 取り込み、組み立て作業の負担軽減などが 実現されているのは周知のとおりである。
コ スト低減のみではなく、市場ニーズや最新技 術をいち早く取り込んだ製品投入による売 上増も期待できることになる。
税効果の考慮 グローバルロジスティクスでは、各国の税 制も大きく影響する。
拠点進出した現地で の部品調達や加工などによって関税等が優 遇されることがある。
各国の法人税の違いも また、工場や物流拠点設置時に考慮する必 要がある。
連結決算の対象となっているグループ会 社間の取引に伴う移転価格も同様だ。
連結 でより大きな利益を出すためには、拠点進出 している、あるいはこれから進出する国の税 制について十分に調べておく必要がある。
進 出後に税制が変わり、その対応が必要にな ることもある。
もっとも、このような考慮が必要になるの は、主に工場や販社の進出時である。
物流ネットワーク見直しの時に、税効果の見直 しによってメリットの出るケースは多くはな いと思われる。
HP社でも見直した結果、す でに対応がなされていたことを確認したに留 まった。
リサイクル 環境問題への対応は、今や常に考慮しな ければならないテーマである。
たとえコスト アップになっても、対応の避けられない課題 が並ぶ。
それらを行なうコストを低廉化する ことが、ロジスティクスの観点となる。
特に 欧州向けの製品には、環境上の各種制約が ある。
ただし、これらについてはすでに熟考 されていることが多く、改めて見直して効果 の出るケースは多くなさそうである。
一億ドル以上の効果 HP社はこれら六つの観点から製品企画・ 開発の見直しを行った結果、現在までに一 億ドル以上の効果を得ている。
特に効果を 上げたのは、品目削減とポストポーンメント だ。
ポストポーンメントによってHP社の物 流の仕組みは大きく変わった。
従来は工場 内で最終製品まで仕上げ、各国に輸送、そ こで在庫していたものを、消費地近隣の複 数国を対象とした集約センター内で、それら の対応を流通加工として行えるように変更 した( 図2)。
とりわけ欧州市場では、この施策が大き な効果を上げた。
欧州には市場規模の著し く小さな国が少なくない。
物流費負担力の 乏しい製品をそれら各国にダイレクトに送れ ば、在庫や輸送費の増加による収益の悪化 は自明である。
そこで欧州内の集約センター までコンテナ単位(FCL)で大量輸送し、 各国の需要変動に応じてセンター内で最終 製品に組み立て、顧客に送り込むことで効 率化を図った。
製品企画・開発も巻き込ん だこのような取り組みが、グローバル物流ネ ットワークの抜本的改革を可能としたのであ る。

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