ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
ケース
3PLHOTTA

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

成功モデルを捨てる 京都に本社を置く物流企業のHOTTA は、中堅規模ながら近い将来の株式公開も期 待される急成長企業だ。
過去五年間の売上高成長率は平均一七%を超える。
それが二〇〇 六年三月期に一転して減収に陥った。
売上高 三六億二八〇〇万円。
対前年比マイナス十 一%だ。
それでも同社の堀田芳史社長は意に介して いない。
「前期の減収はあえてやったこと。
既 存顧客の整理が、新しい事業に特化するのに 必要だった。
二〇〇九年三月期に当社は売上 高八五億円を達成する目標を掲げている。
成 長のステージを上げるためにビジネスモデル の転換を進めている」と説明する。
二〇〇七年一月、そのモデル事業が本格的 にスタートする。
荷主は住友林業だ。
全国に 二六カ所ある同社の物流拠点のうち、十一カ 所をHOTTAが管理する。
住友林業の資材 発注システムとHOTTAの物流情報システ ムをつなげて納品の予定と実績を管理する仕 組みを構築、必要なときに必要な分だけ現場 に建材を調達する体制を整える。
HOTTAの前身である堀田運送は京都に 特有の「急便事業」を主業として一九七四年 に設立した。
堀田社長が入社したのは八七年、 二三歳の時だった。
九三年に実父に代わって 社長に就任すると間もなく、急便事業から撤 退した。
元請け運送会社の幹部とそりが合わ ず、若気の至りで喧嘩してしまったことがき っかけだった。
その穴を埋めるため、がむしゃらに荷主を 開拓した。
布団メーカー、酒類卸、建材メー カーなど、業種や積み荷を問わず、足で回っ てなんとか地元の荷主を掴んだ。
この時点で は、どこにでもある地場の運送会社の一つに 過ぎなかった。
その後、住宅物流に特化した ことが飛躍の転機になった。
「衣料品や食料品業界ではめまぐるしく流 通改革が進んでいる。
その一方、住宅業界では非効率な商慣習が昔から続いていて、改革 の取り組みが遅れていた。
事実、いまでも遅 れている。
それだけに我々のビジネスチャン スがあると考えた」と堀田社長は言う。
建築資材の流通構造は複雑だ。
木材、外壁、 内装部材、住宅設備、サッシなど、商材ごと に縦割りでチャネルが形成されている。
しか も、それぞれのチャネルに商社や問屋、代理 店、納材店といった中間流通業者が多段階で 存在する。
当然、マージンや在庫が膨らみ、 最終的には価格に反映される。
そこにメスを入れようという動きが起こり 3PL HOTTA 急成長をもたらした事業モデルを転換 着荷主の視点で建材流通の改革図る DECEMBER 2006 52 建材メーカーを荷主に資材を現場に納品する販売 物流で急成長を遂げた。
もう一段、経営規模を拡大 するために、事業構造にメスを入れた。
建材の着荷 主となる工務店に顧客ターゲットを転換。
工務店の 調達物流を担うことで建材流通の効率化を狙う。
堀田芳史社長 つつあった。
メーカーから建築現場への直送 だ。
ただし建材メーカーの納品先となる建築 現場は広域にわたって分散している。
そのた め当時は路線業者しかその担い手がいなかっ た。
長尺物や嵩のはる荷物が多いためドライ バーからは敬遠されがちで、しかも事故のク レームや現場との行き違いが頻繁に起こって いた。
HOTTAはそこに目をつけた。
建材に特 化した独自の配送ネットワークの整備に乗り 出した。
当時、資材メーカーは路線業者のデ ポを自社の配送センターとして借り、一日六 時間しか車が稼働していなくても一日分の料 金を支払っていた。
荷主にとって配送費は固 定費だった。
それを変動費化した。
荷捌き場をスペース 単位の料金設定にし、輸送費も個建てにした。
しかも運賃は全 国一律。
車両を 複数の荷主が二 四時間の枠の中 でシェアリング する仕組みだ。
当初は京都から 九州まで二トン 車で直配するよ うな非効率な輸 送も少なくなか った。
しかし荷 主の数を増やし ていくことで共同物流を軌道に乗せた。
営業活動は荷主よりも納品先を重視した。
HOTTAの経営陣や営業所長が納品先を 定期的に訪問することで吸い上げた情報を荷 主に提供した。
顧客の生の声は荷主の資材メーカーに重宝された。
口コミで顧客企業が広 がっていった。
一九九五年の阪神大震災が、もう一つの転 機となった。
震災の後、神戸地区には路線業 者のトラックが完全にシャットアウトされた 時期があった。
多くのハウスメーカーは資材 の搬入に路線便を使っていたため、当該地区 の新築現場やモデルハウスに資材を搬入でき ず、仕事が進まない。
ところがHOTTAが配送を手がけていた 現場だけには次々と資材が搬入される。
現場 の事情や積み荷の特徴を把握している強みだ った。
トラックの入れないところにも台車を 使うなどして運び込んだ。
このことがハウス メーカーから注目されるキッカケになった。
もっともメーカー直送は、中抜きされる既 存の問屋や建納店にとっては死活問題だ。
そ れを助長する存在としてHOTTAが目の敵 にされる場面も増えてきた。
「できるだけ既存 業者を刺激しないようにはしている。
とはい え、業界が狭いから、ぶつかる時はぶつかる。
そのへんは人間性でカバーするしかない」と 堀田社長は言う。
逆風も住宅業界における存 在感の現れと思えば、むしろ歓迎すべきこと だった。
建築業界にJIT物流を適用 しかし課題も感じていた。
工務店が資材メ ーカーに発注を行うのは通常、納品の二、三 週間前。
発注書上の指定納期日は発注時点 での計画で、実際の進捗とは必ずしも合わな い。
工事は天候にも左右される。
工事の進捗 に納品をあわせるためには、現場監督が各資 材メーカーに調整を依頼しなければならない。
しかし現場監督は一人で概ね一五棟を担当 している。
そのすべてに関して資材の搬入日 をメーカーごとに連絡して調整するのは無理 がある。
そのため計画通りに搬入しても、ま だ必要のない資材であれば持ち帰って再配送 したり、スペースの限られた現場に不用資材 を置いておかなければならなかったりという 問題が起きていた。
それを避けるためにHOTTAでは、資材メーカーの出荷指示とは別に、現場に事前連 絡をして進捗状況を聞きながら納入日を調整 していた。
「手間はかかるのに対価はゼロ。
そ れ自体は全く儲けにならないサービスだった」 と統轄本部の中村信一本部長は言う。
そんな仕事を積み重ねるうち、資材の納品 フロー自体に問題があることに気づいた。
住 宅の建築現場は、製造業で言えば生産工場。
そこでは調達物流が発生している。
にもかか わらず、現場が必要なときに必要とする物だ けを供給するための基盤が整っていない。
現 場はもちろん、サプライチェーン全体でムダ 53 DECEMBER 2006 DECEMBER 2006 54 分解して、各メーカーに発注する。
この時点でHOTTAは入荷予定が把握で きる。
予定に基づき、あらかじめ納品計画を 立てておく。
センターに資材が搬入されたら 納品先別に仕分け、現場の進捗状況に合わせて配送する。
この新たな仕組みでは、HOTTAの直接 の顧客は資材メーカーから工務店側に移る。
工務店には新たに調達物流費が発生すること になる。
資材価格は現場までの配送費を含ん でいる。
そのままでは単にコストアップにな ってしまう。
工務店側が物流を管理する仕組 みに移行するには、資材メーカーから調達す る価格から物流費を外す必要がある。
だが、 中小零細の工務店では資材メーカーに対して 取引条件の変更を交渉するのは難しい。
業界大手の住友林業がそれに乗り出した。
物流費相当分の割り出しをHOTTAがサポ ート、資材メーカーに対し従来の購入価格か ら物流費相当分を引き下げてもらうことに成 功した。
これで突破口が開いた。
当面は住友 林業をはじめ年間一〇〇〇棟以上の建築規模 を持つハウスメーカーを対象に同じスキーム を紹介し、徐々に対象を中小へと広げていく という展開が見えてきた。
営業スタイルも刷新 顧客ターゲットを川上から川下に切り替え るのに伴い、営業スタイルも刷新することに した。
「業界の相場が決まっているところに 入って行っても限界がある。
新しいマーケッ トを創造し、自分で決めた価格で勝負した い」と堀田社長。
まず二〇〇四年から二〇〇 五年にかけて、採算の悪い顧客の仕事を切っ た。
資材メーカーを対象にした新規開拓営業 もセーブした。
売り上げ減は承知の上だった。
新たに営業ステップを四段階に分けた。
「当 社に興味を持ったお客さんに、まず物流セン ターを見てもらう。
そして要件を聞いて、見 積もりを出して、受注か失注かをはっきりさ せる。
去る者は追わない。
それでも、大抵は先方から改めてコンタクトしてくる」と中村 本部長は説明する。
こちらから営業に出向く のではなく、逆に顧客に来てもらう。
顧客を 選ぶことで、価格競争を避ける工夫だ。
この 手法で大手荷主の開拓を進めている。
二〇〇六年度からの三カ年計画の一つとし て、「多機能型ロジスティクスセンター」の 建設も掲げている。
東西の二カ所に大規模な 拠点を設置、物流の枠にとらわれずに住宅産 業の分野で事業領域を広げていく。
人材のマ ッチングサービスや資材のアウトレット販売 などを予定しているという。
( 森泉友恵) が生じていた。
建築現場にも、他産業の工場で採用されて いるジャスト・イン・タイムの仕組みを適用 できないかと考えた。
複数のメーカーから出 荷された資材をHOTTAのセンターで集約 し、現場の進捗に合わせて納入する。
納期の 確認や調整、事前連絡の窓口も一元化するこ とで、情報伝達の過程で生じるタイムラグや 連絡ミスが避けられる。
さらに、取り付け施工など、従来は専門の 業者が必要だった機能も合わせて提供するこ とで、業者が現場に出入りする頻度も抑える ことができる。
オールインワンで機能を提供 すれば、メリットは大きいはずだ。
この構想を「スーパーデリバリーセンター (SDC)」と名付け、四年前から実現に向け て動き出した。
工務店が各資材メーカーに発 注する段階からHOTTAが業務を代行する。
工務店から建築図面を受け取り、建築資材に 中村信一統括本部長 センターで資材を集約し、現場にJIT納品する

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