ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
物流産業論
新規参入が続く航空貨物ビジネス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2006 58 フレーターの輸送比率が拡大 二〇〇四年、航空機による日本の貿 易貨物輸送量は三二六万トンでした。
これは貿易貨物輸送量全体の〇・三% にすぎません。
しかし、金額ベースで はすでに三〇%を超えています。
航空 機によって輸送されているのは化学製 品や半導体、電気計測機器や光学機器 など高額製品が中心です。
一方、国内貨物輸送量は一〇〇万六 五トンで、全体の〇・〇〇二%。
トン キロベースでも〇・二%にとどまって います。
国内貨物輸送はトラックが中 心で、航空が果たしている役割はそれ ほど大きくありません。
したがって今 回は国際航空を軸に話を進めていくこ とにしましょう。
航空貨物輸送は大きく定期便と不定 期便に分けることができます。
定期便 は決まったスケジュールによって運航 されるのに対して、不定期便はチャー ターと呼ばれ、運航スケジュールが決 まっていません。
航空貨物のほとんど は定期便で処理されています。
不定期 便では主に大ロット貨物や特殊貨物を 扱っています。
旅客機のスペースの一部を使った輸 送をベリー輸送と言います。
貨物は旅 客機の運航路線・スケジュールに合わ せて輸送されます。
これに対して、フ レーターと呼ばれる貨物専用機を使っ た輸送があります。
ベリーとフレータ ーの輸送割合はほぼ半々ですが、近年 はフレーターの比率が徐々に高まりつ つあるようです。
ベリー輸送の弱点はB747型クラ スの大型機でも手荷物や郵便物を含め て一機当たり二五トン程度しか積載で きないことです。
一方、フレーターは 大型機の場合、一二〇トンの積載が可 能です。
このほかに、ベリーとフレー ターの中間的なものとして貨客混用機 があります。
旅客機の客室部分を半分 に区切って貨物室として使用するもの で、セミ・フレーターあるいはコンビ と呼ばれています。
航空機への貨物搭載方法について簡 単に触れておきましょう。
搭載方法に はバルク・ローディング(ばら積み方 式)、パレット・ローディング、コンテ ナ・ローディングの三つがあります。
このうちバルク・ローディングは貨物 をばらのまま積み込む原始的な方法で 第8回 八〇年代後半の規制緩和を受けて、日本では航空事業に参入す る企業が相次いでいます。
当初は旅客が中心でしたが、近年は貨物 分野への注目度が高まりつつあります。
今回は航空貨物輸送の歴史 と現況について解説していきます。
新規参入が続く航空貨物ビジネス 59 NOVEMBER 2006 す。
旅客手荷物をベリーに搭載する際 に採用されることもあります。
パレット・ローディングはフレータ ーが就航した頃から導入が始まった手 法です。
一枚のパレットの上に貨物を 載せてネットなどで覆うことで、輸送 中の荷崩れを防ぎます。
荷役が容易に なるため、貨物の積み下ろし時間を短 縮できるといったメリットがあります。
パレット・ローディングよりもさら に荷役をスピード化できるのがコンテ ナ・ローディングです。
こちらはアル ミ合金や強化プラスチック製のコンテ ナに貨物を入れて航空機に積み込むと いうスタイルです。
コンテナには貨物 の特性に合わせた冷蔵・冷凍コンテナ や衣服コンテナなどもあります。
パレット化やコンテナ化によって航 空貨物の積み下ろしは非常にスピーデ ィーになりました。
例えば、フレータ ーでは着陸後に貨物を搬出し、次の目 的地向けの貨物を搭載して離陸するま での所要時間は約二時間だそうです。
航空貨物輸送の四タイプ 航空貨物輸送は四つに分類すること ができます。
?航空会社と直接取引す る小口扱い、?航空貨物代理店を経由 する小口扱い、?混載扱い、?フェデ ックスやUPSといったインテグレー ターによる扱い││の四つです。
この うち?は荷送人が貨物を空港に持ち込 み、航空会社が仕向地の空港まで輸送、 到着した貨物を荷受人が空港で引き取 るというものです。
?は航空貨物代理店が貨物を集めて 航空会社に持ち込み、航空会社による 空輸後、到着地で航空貨物代理店が貨 物を受け取って荷受人に配送する流れ になります。
つまり荷送人はドア・ツ ー・ドアのサービスを利用できます。
?の混載扱いも基本的には航空貨物代理店による小口扱いと同じ流れにな ります。
違いは航空貨物代理店の機能 を利用航空運送事業者が担っていると いう点です。
航空貨物代理店の多くは 利用運送事業者ですので、ユーザーに とって実質的に違いはないと言えます。
航空貨物代理店と利用航空運送事業 者の相違点については後半部分で触れ ることにします。
?インテグレーターによる扱いはシ ンプルです。
インテグレーターは集配 業務や空港間の輸送をすべて自社で担 当します。
つまりインテグレーターは 航空会社(キャリア)と航空貨物代理 店(フォワーダー)を兼ねているわけ です。
国際輸送に関しては自ら通関業 務も手掛けています。
利用航空運送とは? 航空貨物輸送に関連する法令および 航空事業と利用航空運送事業の違いに ついて整理しておきましょう。
航空貨 物輸送のビジネスには、航空運送事業、 外国国際航空運送事業、航空運送代 理店業、利用運送業などがありますが、 事業を行う場合にはそれぞれについて 国土交通省の許可を受けるか、あるい は届け出を行わなければなりません。
航空運送事業とは「他人の需要に応 じて航空機を使用し、有償で、旅客ま たは貨物を運送する有償運送事業」と されています。
類似した事業として航 空機使用事業がありますが、こちらは 測量や農薬散布などのビジネスを指し ています。
外国国際航空運送事業は海外の航空 会社のためのものです。
海外の航空会 社には日本国内での航空輸送が認めら れていないため、航空運送事業の許可 は下りません。
つまり、海外の航空会 社に対して国際航空輸送のみ許可する のが外国国際航空運送事業です。
航空運送代理店業は、航空貨物代理 店(cargo agent)とも呼ばれ、航空会社の業務である営業、航 空運送状の発行や貨物の準備などを代 行して、航空会社が提供する航空貨物 輸送サービスの販売と業務をする会社 です。
その報酬として所定の代理店手 数料を航空会社から受け取ります。
これに対して利用運送事業とは荷主 との間で物品の運送契約を締結し、他 の事業者の運送手段(トラック、船舶、 航空機、鉄道など)を使って物品の運 NOVEMBER 2006 60 送を行なう事業です。
したがって荷主 に対する運送責任は全て利用運送事業 者が負うことになります。
利用運送業 を行うためには、その事業形態によっ て国土交通大臣に事業者登録をするか、 または事業許可を受ける必要がありま す。
航空貨物輸送の歴史 航空業界と航空貨物輸送の歴史を振 り返ってみましょう。
航空機の歴史は 一九〇三年にライト兄弟が初のガソリ ンエンジン飛行機による飛行に成功し たときに始まります。
しかし、航空機 による輸送が事業として、つまり航空 運送事業がスタートしたのはその十一 年後です。
一九一四年に米国STA社 がタンパ〜セントピータースバーグ間 で飛行艇による定期航空輸送を開始し たのが最初とされています。
一九一八年にはワシントン〜ニュー ヨーク間で郵便航空輸送がスタート。
その翌年にはKLMオランダ航空が設 立されたのを皮切りに、米国、ドイツ、 オーストラリア、ソ連、スイス、フラ ンス、英国などの先進国で航空会社が 設立され、定期航空路の開設も相次ぎ ました。
日本では一九二八年に国策会 社として「日本航空機輸送」が設立さ れました。
第二次世界大戦後には航空会社やフ ォワーダーの新設が加速。
二国間協定 に基づいて路線も増えていき、航空輸 送が拡大しました。
一九四七年には民 間航空の発展を目的とした国際組織I CAO(国際民間航空機関)が発足。
五〇年代後半にはジェット機が登場し ました。
一九七〇年にはB747型機、いわ ゆるジャンボジェット機が就航。
B7 47F(ジャンボフレーター)も投入 されたことで、航空貨物は大量高速輸 送時代を迎えました。
米国では七〇年 代後半に航空事業の自由化に踏み切り、 その結果、クーリエや小口貨物の輸送 が拡大。
今日グローバルで活躍してい るインテグレーターたちが台頭してき ました。
日本でも一九八五年に規制緩 和の第一歩として航空憲法の廃止が決 まりました。
「五つの自由」とシカゴ体制 航空機の発達を背景に、一九一九年 のパリ条約で領空主権が成文化されま した。
それによって「すべての国は自 国の領空に関する完全な主権を有する」 と規定されました。
この領空主権主義 下における商業航空権の基本が「五つ の自由」です。
列記すると、第一の自 由は、ある国の領域を無着陸で横断飛 行する「上空通過権」。
第二の自由は、 貨客等の積み下ろしをしない「着陸権」。
第三の自由は、自国から相手国に向け た「輸送の自由」。
第四の自由は、相 手国から自国に向けた「輸送の自由」。
そして第五の自由は、「相手国と第三 国間で行う貨客の輸送を行う自由」と なります。
現在、国際航空のルールと機能して いる国際民間航空条約(シカゴ条約) では、これら五つの自由のうち、第一 と第二の自由のみを規定するにとどま っています。
残りの自由については、 相互に航空路を開設する二国間での航 空交渉に委ねられることになっていま す(二国間協定)。
61 NOVEMBER 2006 国際民間航空の基礎づくりを目的に、 米国の提唱で一九四四年に開かれた会 議(参加は五二カ国)では、シカゴ条 約や上空通過協定(国際航空業務通過 協定)などが決まりました。
この二つ の条約および協定、そしてICAO (国際民間航空機関)、IATA(国際 航空運送協会)などに基づく国際航空 運送事業を一般的に「シカゴ体制」と 呼んでいます。
しかし今日、戦後六〇年以上が経過 し、世界情勢が大きく変化している中 で「シカゴ体制」も揺らいでいます。
米国を中心とした「オープンスカイ」 への動き、さらにEU域内における航 空自由化などを背景に、「シカゴ体制」 は見直しを迫られています。
航空業界の規制緩和 日本の民間航空の歴史は、一九二 二年に「日本航空機輸送研究所」が水 上機を使って大阪〜徳島間で郵便輸送 を開始したことで幕開けしました。
続 いて朝日新聞社が東亜定期航空会社と 川西機械の日本航空株式会社が宣伝飛 行や郵便輸送をスタート。
このように 初期の航空事業は郵便輸送がメーンで、 その後徐々に旅客輸送へと拡大してい きました。
一九二八年には国策会社である日本 航空輸送が設立され、戦時下において 民間航空事業は姿を消すことになりま した。
そして第二次世界大戦終了後は GHQが日本人による航空機の運航を 一切禁止。
日本が航空主権を回復し、 国営会社として日本航空がスタートし たのは一九五二年でした。
以降、全日本空輸(ANA)の前身 である日本ヘリコプター輸送をはじめ 民間航空会社が相次いで設立されまし た。
しかし多くの会社は競合の増加で 経営不振に苦しみ、合併などを余儀な くされました。
こうした中、一九七二 年には運輸大臣通達「航空企業の運営 体制について」が出され、これが「航 空憲法」あるいは「四五・四七体制」 と呼ばれ、その後の日本の民間航空事 業の方向性を決定づけました。
「航空憲法」は昭和四五年に閣議決 定し、同四七年に通達が出たため、「四 五・四七体制」と呼ばれています。
一 九八五年に廃止されるまで続きました。
その具体的な中身は、?日本航空は国 際線と国内線、国際航空貨物を担当す る、?全日空は国内幹線およびローカ ル線と近距離国際チャーター便の充実 を図る、?東亜国内航空は国内ローカ ル線および一部幹線の運航を行う││ で三社が事業分野を棲み分けるという ものでした。
航空憲法の下、三社は発展・成長を 遂げてきましたが、米国における航空 分野の規制緩和を背景に、従来のルー ルは見直しを迫られるようになりまし た。
運輸政策審議会は、?国際線に日 本航空以外の日本の航空会社の参入を 認める、?日本航空の完全民営化、国 内線の競争促進のため一路線に複数の 航空会社の航空路開設を認める、いわ ゆるダブル・トラッキング、トリプ ル・トラッキングを認める││などを 柱とした航空憲法改正に向けた中間答 申を運輸大臣に提出。
これを受けて政 府は一九八五年十二月に航空憲法の廃 止を閣議決定し、日本の航空事業は自 由化に向かって歩み始めました。
この 年には全日空と海運会社が貨物航空の 専門会社である日本貨物航空(NC A)を設立、米国への乗り入れを開始 しました。
規制緩和を受けて、全日空は国際線 に進出。
さらに九〇年以降は新規参入 が相次ぎました。
九六年には北海道国 際航空(AIRDO)とスカイマーク エアラインズ、翌九七年にはスカイネ ット・アジア航空、二〇〇二年にはス ターフライヤーが誕生しました。
貨物分野でも新たな動きが出始めて います。
二〇〇五年には佐川急便がギ ャラクシーエアラインズを設立しまし た。
一方、NCAを日本郵船に売却し た全日空は、日本郵政公社と共同で新 たにANA&JPエクスプレスを立ち 上げました。
航空事業では近年、貨物 分野への積極的な投資が目立つのは、 旅客の大幅な伸びが期待できない中、 貨物は今後、中国を中心としたアジア 地域での需要拡大が見込まれているか らにほかなりません。
もり・たかゆき流通科学大学商学 部教授。
1975年、大阪商船三井 船舶に入社。
97年、MOL Di stribution GmbH 社長。
2006年4月より現職。
著書 は、「外航海運概論」(成山堂)、「外 航海運のABC」(成山堂)、「外航 海運とコンテナ輸送」(鳥影社)、 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)、 「戦後日本客船史」(海事プレス社) など。
日本海運経済学会、日本物流 学会、日本港湾経済学会、日本貿易 学会CSCMP(米)等会員。

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