ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
管理会計
グローバル在庫の削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2006 54 グローバル在庫量は適切か SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理 の最小単位)別の在庫をグローバルに把握 することができるようになったら、次のステ ップは在庫の適正化だ。
そのために、まずは 現状の在庫量が適切かどうかの見極めが必 要になる。
この判断が難しい。
日本国内であれば、業種によっておおまか なベンチマークがある。
輸送リードタイムが 短いため、現状の在庫量から問題点を特定 することも容易である。
しかしながらグロー バルとなると、状況は一変する。
たとえ海外販売の割合が高くても、産業 用機械のように、完全受注生産(受注して から原材料調達に着手する形態)であれば、 仕掛品、完成品とも在庫量は少ない。
自動 車部品のように、ある程度見込みが入って も、納品先個別仕様のものであれば、それほ ど多くの在庫を持つ必要はない。
一方、見込み生産を基本として、各地に 販社在庫を抱える民需向け製品では、状況 が大きく異なる。
見込み生産でも国内生産・ 国内販売比率の高い場合には、在庫は比較 的少なくなる。
これに対して海外とくにアジ アでの生産が大半で、米国や欧州の販売比 率が高い場合は、在庫は多くなる。
同じ業種業態でも各社の条件の違いによ って在庫水準には大きな開きが出る。
そのた め、競合他社とのベンチマーキングが難しい。
現状のプロセスや拠点の立地など、様々な 条件に基づき、適性在庫量を自らが判断しなければならないのだ。
適正在庫量は現状の業務プロセス、物流 ネットワークあるいは輸送方法等を見直すこ とにより低減することができる。
ここで問題 になるのがコストとの兼ね合いである。
それ ら在庫量を決定する要素の中で最も重要な ものは輸送リードタイムである。
国際間輸送 は国内と比較してリードタイムが圧倒的に長 い。
その分、在庫とコストのトレードオフが より重要になる。
エアかオーシャンか グローバル・ロジスティクスにおいて、大 グローバルロジスティクスへの挑戦? グローバル在庫の削減 グローバル・ロジスティクスでは、輸送モードの選択が大きな意 味を持つ。
同じ製品であっても環境次第で最適な輸送モードは違っ てくる。
輸送リードタイムによる影響と輸送コストとのトレードオ フは、定期的に検証する必要がある。
第20回 梶田ひかる アビームコンサルティング 製造・流通事業部 マネージャー 55 NOVEMBER 2006 きな在庫削減効果を期待できるのが、航空 機を使った貨物輸送、すなわちエアの利用 である。
しかしながらエアは海上輸送と比較 して著しく運賃が高い。
どちらの輸送モード を使うべきなのか、常に多くの企業が悩まさ れている。
これは見込み生産品だけの問題ではない。
受注生産品で在庫の陳腐化リスクが全くな い場合であっても、グローバル・ロジスティクスにおいては輸送モードの検討が重要な意 味を持つ。
輸送リードタイムの短縮には運転 資金の圧縮効果があるからだ。
単純なモデルケースで説明しよう。
一パレ ットを地点Aから地点Bに輸送するのに、エ アの方が一〇万円高くなるが、リードタイム を一〇日短縮できるとする。
仮に金融機関 からの借入金利を五%とすれば、その間の負 債資本コストは﹇商品価格﹈×五%×一〇 日÷三六五となる。
一パレットあたりの商品 価格が一億円なら一〇日で一三万七千円程 度になり、エアで運んだ方が安いという結果 となる( 図1)。
低金利が長く続いた影響からか、日本で は一般に在庫金利についての意識が低い。
し かしながらグローバル・ロジスティクスでは、 金利を軽視することはできない。
社外との取 引はもちろん、グループ内の取引であっても、 相手国にあるグループ会社は現地の金融機 関から借り入れを行っていることが珍しくな い。
その場合の金利は日本と比較してかな り高くなることが多い。
とりわけFOB (Free On Board:本船渡条件)での取引の 場合には、輸入国側における負債資本コス トをきちんと調べて輸送モードを判断するこ とが必要になる。
また資本コストは金融機関からの借入金 利だけから発生するわけではない。
株式市場 からの資金調達も含めた資金調達レート、さ らには、会社として期待する運用レートを用 いれば、商品価格が低くてもエアにすべきと いう結論になることが多い。
たとえばその会 社が、八%のWACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)を 設定していれば、一パレットあたりの商品価 格が五〇〇〇万円でもエアで運ぶべきとい う結果となる。
このように、エアを使うか否かの判断はま ず、その製品の重量あるいは容積重量あた りの販売価格と、その会社の目指す資本効 率が基準になる。
在庫保有コストの評価 見込み生産品の場合は資本コストに加え、 在庫を持っている期間中に発生する保管コ ストや保険等、さらには商品価格の下落、 陳腐化による廃棄など、在庫を持つことに よるさまざまなリスクが発生する。
その額 は期待値という形でコストに換算できる。
欧米では、使いやすいように商品価格の 何%という形で表すのが一般的だ。
これに ついては既に本連載の中でも複数回取り上 げている。
在庫保有コストという観点でエアかオーシ ャンかの判断をすると、エアの方が望ましい という結果となる商品は格段に多くなる。
た NOVEMBER 2006 56 とえば年間での価格下落率が五〇%、その 会社の資本コストが一〇%とすれば、少な く見ても在庫保有コストは六〇%となる。
エ アで運ぶことにより現地在庫が五〇日分圧 縮できるのなら、一パレットあたり二〇〇万 円の製品でもエアで運んだ方が、トータルコ ストは低くなる( 図2)。
パソコン、プラズマテレビなどハイテク製 品が過去にエアを多用したのは、パレットあ たりの商品価格が高く、かつ価格下落率も 高かったからである。
時間の経過とともにパ レットあたりの商品価格が下がり、かつ価格 下落率も鈍ってくれば、そのような状況も変 わってしまう。
発売当初はエアで運んだ製品でも、商品 価格が下がり一パレットあたり一〇〇万円 となり、年間価格下落率が三〇%になれば、 船で運んだ方が良いという結論になる。
また、 そのような商品であっても、商品切り替え直 前の時期には価格下落のリスクが高まるた め、再びエアで運ぶという判断にもなり得る。
エアを使う理由は、在庫保有コストとの トレードオフによる判断だけではない。
約束 納期を守ることによる将来的な顧客離れの 防止、市場投入当初のシェア確保など、単 純に一回の輸送のみの費用対効果で決めら れるものではない。
しかしながら、どのような理由によって、 どのような判断基準によってエアを使うのか は、常に明確にしておく必要があろう。
とり わけロジスティクス上の判断となる、輸送リ ードタイム短縮と在庫保有コストのトレード オフについては、状況変化に応じて定期的 に再検証しておくことが望まれる。
リンクとノードの再編 海上輸送と判断されたものについては、さ らにFCL(Full Container Load:コンテ ナ単位の貨物)とするか、LCL(Lessthan Container Load:混積貨物)とするか という判断を行うことになる。
運賃負担力 がない商品であっても、フルコンテナにまと めると数年分の在庫となってしまうような場 合なら、輸送費は割高でも小口で運ぶ方が 望ましくなる。
そのような運賃負担力の低い商品を扱う 企業では、すでに様々な工夫が行われている。
販売地域における拠点集約もその一つだ。
現 地における陸上輸送コストは上昇するが、在 庫の削減、在庫管理に要する各種費用の削 減効果が期待できる。
売れ行きの鈍いC商 品だけを集約する方法も行われている( 図 3 )。
いずれも施策としては日本国内で取り 組まれているものと同じであり、その効果も 国内と同等のレベルが期待できる。
同じバイヤー向けの小口貨物を発地側で 積み合わせてフルコンテナに仕立てる「バイ ヤーズ・コンソリデーション」も、在庫削 減・輸送コスト低減の方法として近年取り 組んでいる例が見られる( 図4)。
いわばグ 57 NOVEMBER 2006 ローバルな共同配送だ。
発地側での集荷や 出荷処理のコストは上昇するが、国際輸送 のコストを削減できることに加え、着地側企 業では集中荷受けによる荷受コストの低減、 製品別輸送ロットの小口化による在庫量の 圧縮とそれによる効果などが期待できる。
輸送コストだけを考慮すれば、コスト低減 に威力を発揮するのは、生産の販売地近隣 への移転である。
特に日本から遠く離れた欧 州での販売では、東南アジアで生産して輸 送している企業と、東欧で生産して輸送し ている企業を比較すると、在庫レベル、輸送コストともに大きな差がある。
このような生産の現地化は、その企業の 海外販売比率が高まるのに伴って進展する。
前号で触れた「グローバリゼーションが進む と在庫が減る」という傾向には、そうしたメ カニズムが働いているのである。
「見える化」レベルの整備 ここ数年、日本においても本社におけるグ ローバル・ロジスティクス企画機能を強化し ようとしている企業が増えている。
目的とす るのは、連結ベースでの在庫と物流コストの 削減である。
しかしながら、グローバルレベルで物流拠 点や輸送のネットワークを最適化し、共同 化などの物流システムを企画するためには、 SKU単位の在庫量や販売量のデータを把 握するだけでは不十分だ。
ロジスティクスの 「見える化」には、生産主導のSCMよりも 広範囲かつ大量の情報が必要となる。
システムの改変によるコスト効果をシミュ レーションするためには、世界各所における 入出庫実態、輸送明細、さらには個々の料 金や運賃データ、すべてのSKUの重量や サイズの情報など、多種多様なデータが必要になる。
それらのほとんどは、ロジスティク ス部門以外には把握の必要性を感じていな いデータである。
ロジスティクス部門が声を 上げない限り、関連部門が用意してくれる ことはありえない。
これらのデータを揃えるのには時間がかか る。
また、その分析を行うことのできる人材 の確保と育成も一朝一夕にはいかない。
一 方でグローバリゼーションは多くの人が想像 していた以上のスピードで進んでいる。
グロ ーバル・ロジスティクスの効率化・効果の向 上を狙うのなら、データ収集だけでも早期の 着手が望まれるのである。

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