ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
ケース
SCM東京ガス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

二〇年手つかずのサプライチェーン 規制業種として長らく安定した経営を続け てきた東京ガスだが、ここ数年は厳しい競争 に晒されている。
一九九五年以降、段階的に進んでいるガス事業の規制緩和(自由化)の 影響だ。
ガス会社同士はもちろん、とりわけ 近年は「オール電化」を掲げる電力会社など 異業種を相手にした競争も徐々に激しさを増 しつつあるという。
二〇〇七年に予定されている都市ガス市場 の規制緩和などを通じて、さらなる経営環境 の悪化が懸念される東京ガスにとって、目下 の課題はコスト競争力を向上させることにあ る。
その具体策の一つとして同社では現在、 サプライチェーン改革を推進している。
対象 となっている製品群はガス管などの工材やメ ーターだ。
「工材やメーターのサプライチェーンは二〇 年以上も手つかずの状態にあった。
これにメ スを入れることで、大幅なコストダウンやサ ービス水準の改善を実現する。
二〇一〇年を めどに新しいサプライチェーンを完成させた い」と資材部物流改革プロジェクトグループ の中山康晴課長は説明する。
もともと東京ガスでは、各種工事の委託先 である工事会社(大手七社+中小約二〇社) や、ガス機器などの販売窓口である「エネス タ」などに、工材やメーターを供給する物流 拠点を首都圏に計六カ所設置していた。
この うち三カ所はサプライヤーが運営する拠点 (メーカー倉庫)で、残りの三つは東京ガス が管理を委託する営業倉庫だ。
そしてこの六 カ所から工事会社の物流拠点五〇カ所、エネ スタ約一五〇カ所などに工材やメーターを供 給してきた。
工事会社の傘下には実際の工事を請け負う 「施工会社」が約一〇〇〇社存在している。
そ のうち経営規模が小さく、自社でバックヤー ドを持っていない施工会社は工事に必要な工 材やメーターを工事会社の物流拠点まで自分たちで取りにいき、工事現場まで運ぶルール になっていた。
もっとも、こうした従来の物流体制は決し て効率のいい仕組みだとは言えなかった。
例 えば、首都圏の六つの倉庫はいずれも「メー ターならメーターのみ」といった具合に、特 定アイテムの管理に特化した拠点であったた め、工事会社やエネスタへの配送はアイテム ごとにバラバラに処理されていた。
配送トラ ックの積載効率を高めるため、各供給先への 配送は週一回を基本とするなどサービスレベ ルも低かった。
SCM 東京ガス 末端の施工会社まで管理対象を拡大 物流拠点の統廃合で在庫を半減 NOVEMBER 2006 28 2002年からガス管などの工材やメーターを対象 にしたサプライチェーン改革を進めている。
各種 工事を請け負う協力会社向けの供給拠点を最終的 に1カ所に集約するほか、協力会社が首都圏各地 に設置している倉庫も半減させる計画だ。
拠点再 編や在庫水準引き下げによって、年間10億円のコ ストダウンを実現する。
資材部物流改革プロジェ クトグループの中山康晴 課長 施工会社が工事会社の物流拠点に工材や メーターを取りにいく仕組みにも問題があっ た。
施工会社は原則として系列もしくは元請 けである工事会社の物流拠点から工材やメー ターを調達することが義務づけられていた。
そのため、仮に工事現場の近くに系列外の工 事会社の物流拠点があったとしても、そこか ら工材やメーターを引き取ることができず、 非効率だった。
このほかにも、サプライヤーとの情報連携 が不十分で過剰在庫や欠品が発生するなど既 存のサプライチェーンには課題が山積してい たという。
そこで東京ガスでは二〇〇二年夏 にプロジェクトチームを発足。
サプライチェ ーン改革に乗り出した。
「これまで当社は工事会社やエネスタまで を『オール東京ガス』と定義し、この領域までの物流を管理の対象としてきた。
その先の 施工会社まではカバーしきれていなかったの が実情だ。
これに対して改革プロジェクトで は施工会社までを含めたサプライチェーンの 全体最適を目指すことになった」と資材部物 流改革プロジェクトグループの柳沢伸行副部 長は説明する。
工材の在庫金額を二〇%削減 東京ガスではサプライチェーンの再構築を 二段階に分けて進めている。
最初に手掛けた のは工事会社やエネスタ向けに工材やメータ ーを供給してきた首都圏六カ所の物流拠点の 統廃合だった。
具体的には二〇〇四年九月に 従来の六拠点を、メーターを扱う「小物倉 庫」(東京)と工材を扱う「大物倉庫」(神奈 川)の二カ所に集約した。
二カ所のうち、小物倉庫はもともとガス機 器の出荷を担当していた拠点だ。
この倉庫に 新たにメーターの出荷機能を加えたことで、 工事会社やエネスタに対するガス機器とメー ターの混載配送が可能になった。
一方、工材 に関しても出荷拠点を一本化したことによっ て、トラックの積載効率が高まったほか、配 送頻度も週一回から週二回へと改善することができた。
二拠点出荷体制がスタートした翌月には、 新たに開発した在庫・需給管理システム「H AYATE」を稼働させた。
新システム導入 の狙いは各サプライヤーとの情報連携を密に することで、工材やメーターの在庫を削減す ると同時に、欠品の発生を防ぐことにあった。
SCPソフトを活用して過去の出荷実績な どを基に三カ月先の需要を予測し、そのデー タを主要なサプライヤーに提供。
物流拠点に おける工材とメーターの出荷実績や在庫状況 といったデータも、サプライヤー側がリアル 29 NOVEMBER 2006 NOVEMBER 2006 30 需要動向を、一方の施工会社側は物流拠点 における工材やメーターの在庫状況などを把 握できないといった問題を抱えていた。
これに対して「TODO君」では東京ガス と施工会社がダイレクトに結びついている。
東京ガス側から「TODO君」を通じて工材 やメーターの入荷予定情報や納期回答が提供 されるため、施工会社は必要な時に必要な分 だけ工材やメーターを購入できるようになっ た。
従来、施工会社は在庫状況を正確に把握 できず、欠品を恐れて余計に発注する傾向が 強かったという。
東京ガスにとってもメリットは大きい。
「工 事会社―施工会社」間の取引実績データや、 施工会社の事前予約(事前発注)データなど を活用することで、よりムダの少ない調達が 可能になった。
「TODO君」でやり取りさ れるデータはサプライヤーにも提供されてお り、サプライヤーはそのデータを工材やメー ターの生産計画の立案に役立てている。
第二ステップでのもう一つの目玉は、工事 会社が設置している物流拠点約五〇カ所の統 廃合だ。
例えば、同じエリアにある工事会社 Aの物流拠点と工事会社Bの物流拠点を集 約し、複数の工事会社が共同で利用する「共 同倉庫」に改めていくことで、拠点数を減らそうとしている。
先述した通り、施工会社は工事に必要な工 材やメーターを工事会社の物流拠点に取りに いっていたが、物流拠点の共同利用化を進め ていくにあたって、このルールも見直した。
従来、施工会社は系列もしくは元請けの工事 会社の物流拠点から工材やメーターを調達す る必要があったが、これを最寄りの物流拠点 からでも引き取れるように改めた。
ただし、新ルールの導入には工事会社から の反発が予想された。
調達先の変更は工事会 社にとって取引減を意味するからだ。
そこで タイムで把握できるようにした。
その結果、 サプライヤーは工材やメーターの柔軟な生産 が可能になり、製造コストを低く抑えられる ようになった。
「HAYATE」の稼働を機に、東京ガス では工材やメーターの在庫管理レベルを月次 から日次ベースに切り替えたほか、欠品予測 データに基づいてサプライヤーに対し不足分 を自動発注する仕組みも導入した。
こうした 物流拠点の統廃合や需給調整機能の高度化 といった一連の業務改革によって、例えば工 材の在庫金額は従来に比べ約二〇%減少。
物 流コストも従来比で一〇%強の削減に成功す るなどの成果を上げた。
商物分離で倉庫を共同化 現在、東京ガスのサプライチェーン改革は 第二ステップに突入している。
ここでの改革 の目玉の一つは、工事会社や施工会社との受 発注業務で活用する情報システムの刷新だ。
従来は「ペガサス」と呼ぶ専用端末や、電 話・ファクスなどを利用して受発注を処理し てきたが、今年五月からは新たに開発したウ ェブベースの情報システム「TODO君」で のやり取りに移行している。
これまで工材やメーターの受発注は「東京 ガス―工事会社」、「工事会社―施工会社」 間でそれぞれ処理され、「東京ガス―施工会 社」間は情報が連携していなかった。
そのた め、東京ガス側は工材やメーターの末端での 東京ガスは2004年9月に6カ所の物流拠点を2カ所に集約した 資材部物流改革プロジェ クトグループの柳沢伸行 副部長 東京ガスでは商流と物流を切り離し、たとえ 施工会社が系列外など異なる工事会社の物流 拠点から引き取った場合でも、請求はもとも と取引のあった工事会社に上がるようにした。
一方、引き続き倉庫を運営する工事会社は利用者から手数料を受け取るルールを設けた。
サプライチェーン改革プロジェクトをサポ ートしてきたベリングポイントの木村弘美シ ニアマネージャーは「工事会社にとって倉庫 の運営コストは大きな負担となっていた。
倉 庫の数が多いとその分、在庫も抱えなければ ならなかった。
倉庫の共同利用はもともと工 事会社側から提案されたアイデアだった。
そ れだけに話を進めやすかった」と振り返る。
東京ガスではすでに三カ所の閉鎖に成功して おり、最終的には工事会社の物流拠点を従来 の五〇カ所から二〇カ所程度にまで削減した い意向だ。
来年四月に物流拠点を一本化 東京ガスでは二〇〇七年から二〇一〇年ま での三年間をサプライチェーン改革の深掘り 期間と位置づけている。
現段階で予定されて いる同期間中のプロジェクトの一つは小物倉 庫と大物倉庫の統合で、早くも来年一月には 実行に移す方針だ。
ガス機器とメーターを扱 う小物倉庫を大物倉庫の隣接地に移転するこ とで、工事会社やエネスタ向けの出荷拠点を 一本化する。
これを受けて東京ガスでは同年四月からガ ス機器、工材、メーターの混載配送をスター トする。
配送効率の向上と、供給先の荷受け 業務を簡素化するのが狙いだ。
拠点の統廃合 と三アイテムの共配化で、さらなる物流コス ト削減を目指す。
発注サイクルの短縮化や需給管理機能の強 化を進めて、メーターの安全在庫水準引き下 げにも踏み切る予定だ。
二〇〇七年七月をメ ドにメーター在庫を従来の二五万個から十二 万個に半減させる計画を打ち出している。
東京ガスではサプライチェーン改革で年間 一〇億円のコスト削減を見込む。
ただし、こ の数字には工事会社や施工会社側のコスト削 減効果は含まれていない。
「サプライチェー ン全体として見た場合には一〇億円以上のコ ストダウンを実現できる見通し」(柳沢副部 長)だという。
( 刈屋大輔) 31 NOVEMBER 2006 神奈川・鶴見の大物倉庫。
来年1月には隣接地に小物 倉庫が移転してくる

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