ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
keyperson
佐藤知一システムアナリスト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2006 2 うやり方です。
一方、同じ業界でも ライバルメーカーのやり方は少し違う。
確定受注生産を基本として、生産計 画を持たずに、実際に注文が入った 分だけ調達して生産している会社も ある」 ――かんばんも使わない? 「かんばんはトヨタの用語です。
実 際のオペレーションとしては、注文が 確定し順序計画が決まった時点で、そ れを部品に展開して、その部品メー カーに出荷指示を出す仕組みになっ ている」 ――それはトヨタとどこが違うのか。
「トヨタの部品メーカーに対する内 示は、最終的に購入する量との誤差 が一〇%程度に収まるそうです。
内 示に変更が生じた場合でも、修正情 報が比較的早い段階で部品メーカー に伝えられる。
それに対して他社はブ レが格段に大きい。
そのため部品メーカーは、日頃から組み立てメーカー の内示よりも多めに見込みで生産し ている」 ――それではサプライチェーン上のト ータルな在庫は減らない。
「その通りです。
少なくとも私はJ IT納品のための擬似的VMIがS CMの理想型の一つであるとは考え ていません。
サプライヤーに在庫を押 し付けているだけです」 デル方式 VS トヨタ方式 ――VMI(Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理) が広がっている。
もともとは米国の 産業界がトヨタ生産方式を応用した ものだと言われる。
しかし肝心のト ヨタにはVMI倉庫はない。
「VMIには大きく三つあると思い ます。
一つはウォルマートとP&Gが モデルとされる流通の川下のVMI です。
これは日本では、ほとんど事例 を聞かない。
米国で普及しているも のが日本に入って来ないのは、そこに 何らかの障害があるためでしょう。
日 本の流通市場にフィットしないとこ ろがあると考えています」 「二つ目がデルをモデルとする製造 分野におけるVMIです。
デルはフ ェデックスを3PLパートナーとして、 組立工場の横に部品用倉庫を設置し た。
そこにベンダーが所有権を持った ままの状態で部品を在庫させて、実 際に使った分だけ支払うという形で BTO(Built to Order:受注組立生 産)のためのVMIを運用している。
このタイプのVMIは今、日本の電 子業界にも広がっている」 「そして三つ目がトヨタ生産方式に 代表されるJIT(Just In Time)物 流です。
もっとも、トヨタは組立工場 のそばにベンダーの倉庫ではなく工場 を構えさせて、そこから必要な量だけ 必要なときに引っ張ってくるという運 用をしている。
部品メーカーは、最終 組立工程の順序に従って、かんばん の指定時間に合うように生産して納 品している」 「ただし、なかには順引きに即応で きない部品メーカーもある。
そうした メーカーは共同で組立工場のそばに 倉庫を設けて、そこに在庫を置いて 対応している。
トヨタもそれを黙認し ている。
これもJIT納品のための 擬似的VMIといえるでしょう」 ――黙認というのは? 「トヨタとしては、VMI倉庫など 置かせたくない。
部品メーカーが在庫 を持てば、それは最終的には自分の コストに跳ね返ってくるわけですから。
しかし全ての部品メーカーがトヨタの いう通りに即時生産できるわけでは ないので、いわば妥協の産物です。
決 して推奨はしていない。
基本的には、 在庫は悪という考え方ですから」 ――それはデルも一緒でしょう? 「ただし、トヨタは自分の生産計画 を持っている。
それをもとに部品メー カーに月間調達量を内示して、後は 納品のタイミングだけを調整するとい 佐藤知一 システムアナリスト 「まだ社内でさえ統合できていない」 現状を見る限り、日本のVMIは期待される合理化効果をあ げていない。
多くはベンダーに在庫を押し付けるだけに終わっ ている。
ムダな在庫を削減するには、サプライチェーン全体の 需給計画を一カ所で集中管理する必要がある。
しかし日本企業 の多くは社内の製・販さえ、まだ統合できていない。
(聞き手・大矢昌浩) ――しかし今やVMIを導入する動 きは多くの産業に広がっている。
「必ずしも合理的な動きではないと 見ています。
トヨタのサプライチェー ンでは、トヨタだけが生産計画を立 てている。
サプライヤーは、それに従 っているだけです。
一方、トヨタのラ イバルメーカーやデルなどのサプライ チェーンでは、組み立てメーカーとは 別に、サプライヤーがそれぞれ生産計 画を持たざるをえない。
組み立てメー カーの生産計画に対し、サプライヤ ー各社がそれぞれサバを読んで、内示 のブレを見込んで生産する。
通常は 内示よりも多く生産する。
さもない と欠品ですからね。
その結果、サプラ イチェーン全体の在庫は膨らむ」 ――VMIにはベンダー側のメリッ トもあるはず。
組み立てメーカーはV MIを導入するにあたって生産計画 を早い段階でベンダー側に公開する。
ベンダー側では、それを自分の生産 計画に反映させることで在庫が削減 できるとされている。
「問題は計画が当たるかどうかです。
トヨタの内示の確度が高いのは、販 売側に引取り量を一部約束させてで も、それを売り切る販売力があるか らです。
そのため生産の平準化が可 能になっている。
他のメーカーはそう した販売力がないために、注文がき てから生産するという方法を選ぶほ かない。
そのために生産が平準化で きない。
内示もブレる」 「大手部材メーカーの仕事を手がけた ことがあります。
部品材料業界は基 本的に受注生産です。
それでも実際 には見込みで作って在庫を持たざる を得ない。
翌月の販売予測の何割分 かを、安全在庫として月末に持つよ うなケースもあるようです。
納品先ご との販売予測を積み上げて翌月分の 需要を弾いても、実際の注文とはか なりのブレが出てしまうからです」 「しかも、JIT納品を要求する大口 顧客が遠距離にある場合など、その 顧客の工場のそばに専用倉庫を設け て、なんとか要求に応えていました。
その一方で、当の部材メーカー自身 も原料の調達先に対し、VMIを要 求するケースもある。
調達先は原料 を部材メーカー工場の隣に在庫して、 それに対応するしかない。
そうやって VMIが川上に逆流するかたちで広 がっているわけです」 VMI導入の課題 ――理論的には、できるだけ原料に 近いサプライチェーンの川上で在庫 を持ったほうが、需要変動した場合 にも軌道修正しやすい。
「それは、その通りです。
鉄鉱石や 石油などを扱うサプライチェーンの本 当の最上流であれば、末端の需要の 変動も吸収してくれるかも知れない。
しかし、そうでない中間材の場合に は、そうは行きません。
結局そうした 中間的なポジンションにあるメーカー が割りを食っている」 ――SCMが本当に競争力の鍵を握 っているのであれば、そうした矛盾は 競争力を阻害するはず。
しかし現実にはそうなってはいない。
少なくとも デルは、パソコン業界において過去 一〇年にわたって勝ち続けてきた。
「デルの強みはトヨタと同様、やは り販売力だと思います。
パソコンと自 動車のサプライチェーンでは完全に違 っている部分が一つあります。
流通 チャネルです。
自動車メーカーの流通 チャネルは基本的にメーカー系列で 抑えられている。
そのためサプライチ ェーンの一カ所だけで計画を立てる ことができる」 「一方でパソコンは、メーカー系列 ではない大手量販店が力を持ってい る。
メーカーは販売をコントロールす ることができない。
川上の部品サプラ イヤーの系列色も薄い。
そのため同 じサプライチェーン上に、違う計画が いくつもできてしまう。
ただしデルだ けは違う。
直販であるために、少なく とも販売は自分で全てをコントロー ルできる」 ――そうであれば、課題にすべきは、 サプライヤーとどうやって計画を一 本化するかということになる。
「本来はそのはずですが、実際はな かなかそうは行かない。
たしかに世間 でSCMプロジェクトと呼ばれている ものは増えてきています。
しかし、その ほとんどは、一つの会社の中の製販 統合の取り組みにとどまっています。
一つの会社のなかで、製造と販売が 別々の考えをもって違う計画を立て てきたケースが多いのです。
営業が販 売予測を立てる。
しかし、生産はそれ を信用しないで、別の生産計画をつ くる。
それをどう統合するかという段 階で努力しているのが現状です。
つま り一つ会社のなかでサプライチェーン の意思決定をする部署が二つある。
ま だ取引先との統合をうんぬんできる段 階にはないんです」 3 NOVEMBER 2006 佐藤知一(さとう・ともいち) 日揮勤務。
現在、産業プロジェ クト統括本部ビジネスソリュー ション事業部グループリーダー。
国内外の製造業の情報化にかか わるシステム分析とプロジェク ト・マネジメントに従事。
「革新 的生産スケジューリング入門」 (日本能率協会マネジメントセン ター)のほか、「BOM/部品表 入門」(同共著)、「サプライチェ ーン・マネジメントがわかる本」 (同共著)、「図解サプライチェー ン・マネジメント」(日本実業出 版・共著)など著書多数。

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