ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
物流産業論
中国特需で好況続く外航海運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2006 68 外航海運の主戦場はアジア 二〇〇五年、世界の貿易額は約一〇 兆ドルに達しました。
一方、海上輸送 量は六七億八四〇〇万トンでした。
戦 後間もない一九四七年の海上輸送量は およそ五億トンでしたから、半世紀の 間に十数倍に拡大したことになります。
七〇年代に発生した二度の石油危機に よって一時的な減少が見られたものの、 この時期を除けば、貿易額と海上輸送 量は右肩上がりで推移しています。
世界の海上荷動きの主要品目は原油、 石油製品、石炭、鉄鉱石、穀物で、こ れらで全体の半数以上を占めています。
内訳は原油一八億二〇〇〇万トン(約 二七%)、石油製品四億八八〇〇万ト ン(約七%)、石炭六億九〇〇〇万ト ン(約一〇%)、鉄鉱石六億五〇〇〇 万トン(約一〇%)、穀物二億四二〇 〇万トン(約四%)です。
工業製品や雑貨は主にコンテナ船で 輸送されるため、その輸送量は二〇フ ィートコンテナの個数(TEU)で計 算されます。
二〇〇四年の世界のコン テナ輸送量は約八三〇〇万TEUでし た。
航路別では基幹航路である太平洋 航路(アジア・北米)が約一七〇〇万 TEU、アジア・欧州航路が約一三〇 〇万TEUで上位を占めています。
とくにアジア域内の航路の荷動きは 大きく、合算すると一〇〇〇万TEU を超えます。
背景には中国およびアジ アが「世界の工場」として機能するだ けではなく、近年は有望なマーケット として成長を続けていることがありま す。
例えば、太平洋航路の荷動きを見 てみると、アジアから北米に向かう航 路では香港を含む中国からの出荷が全 体の六五%を占めています。
日本発は わずか八%にすぎません。
北米からアジア向けについては日本 向けの割合が比較的大きく、全体の二 四%を占めていますが、これに対して 中国向け(香港含む)は四二%に達し ています。
かつて太平洋航路の貿易と いえば、日本〜米国を意味していまし たが、現在はアジアと米国の貿易を指 し、しかもその中心は中国へとシフト しているのが実情です。
二〇〇五年、日本の貿易額は約八七 兆円でした。
輸出入関連の輸送量は九 億五〇〇〇万トンです。
ご承知の通り、 日本は天然資源に乏しく、資源調達の 多くを輸入に頼っています。
鉄鉱石や 羊毛、綿花はほぼ一〇〇%、原油や天 然ガスは九五%以上、大豆や小麦、塩 などの食料品は六〇%を外国から輸入 しています。
そしてこれらのほとんど が船舶によって輸送されています。
一方、輸出は工業製品が中心です。
八〇年代以降の円高進行で日本の製造 業が海外に生産拠点を移管しつつある ことを受けて、近年は海外工場向けの 資材や部品の輸送が増えています。
最 近では電子部品など高額な製品は航空 機で輸送されるケースが増えており、 金額ベースで見ると航空機による輸出 入割合は全体の三〇%を超えるまでに なりましたが、重量ベースでは依然と して外航海運による輸送が九九・七% を占めています。
第7回 中国を中心としたアジア地域における外航海運貨物の荷動きが活 発です。
その恩恵を受けて邦船大手三社はここ数年、好調な業績を キープしています。
日本の外航海運業は今後も発展を続けていける のでしょうか? 今回は外航海運の現状と課題を整理します。
中国特需で好況続く外航海運 もり・たかゆき流通科学大学商学 部教授。
1975年、大阪商船三井 船舶に入社。
97年、MOL Di stribution GmbH 社長。
2006年4月より現職。
著書 は、「外航海運概論」(成山堂)、「外 航海運のABC」(成山堂)、「外航 海運とコンテナ輸送」(鳥影社)、 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)、 「戦後日本客船史」(海事プレス社) など。
日本海運経済学会、日本物流 学会、日本港湾経済学会、日本貿易 学会CSCMP(米)等会員。
外航海運の分類とは? 世界の船舶量は、漁船、客船など船 の種類や、内航船と外航船の区別なく 一〇〇総トン以上のすべての船舶を計 算すると、八万九九六〇隻、六億三三 〇〇万総トンです(二〇〇四年末時 点)。
国別の保有ではパナマが圧倒的 に多く全体の二〇・八%を占めていま す。
次いでリベリア、バハマ、ギリシ ャ、シンガポールとなっています。
日本は第十二位で六九三七隻、一三 〇〇万総トン、全体に占める割合は 二・一%にすぎません。
これは日本を はじめとする先進海運国の多くが外航 貨物船の大半を外国に籍を置く便宜置 籍船として保有しており、それらが自 国の船舶としてカウントされていない ためです。
便宜置籍船とは、高い税金 や厳しい規制を避ける目的で、便宜的 に他国に登記された船舶を指します。
日本の場合、登記税が高いだけでな く、船舶は固定資産とみなされ固定資 産税が課せられます。
これに対してパ ナマなどでは自国での船舶登記を促す ために税金を安く設定し、規制を緩や かにする措置を講じています。
船舶保 有の上位国であるパナマ、リベリア、 バハマはいずれも便宜置籍国です。
続いて外航海運の分類を見ていきま しょう。
外航海運は一般に定期船と不 定期船に分けられます。
このうちライ ナーと呼ばれる定期船は一定の航路をあらかじめ設定されたスケジュールに 従って運航する船舶です。
不特定多数 の荷主から多種多様の貨物を引き受け、 公表された運賃表(タリフ)をもとに 運賃を収受して輸送を行います。
現在、主要定期航路はほとんどがコ ンテナ化されています。
したがって定 期船はコンテナ船あるいはコンテナ輸 送と同義であると言えるでしょう。
コ ンテナ輸送とはコンテナを媒体として 輸送貨物を単位化するユニット・ロー ド・システムです。
海陸の輸送業者が 互換性のあるコンテナを使用するため、 ドア・ツー・ドアの複合一貫輸送が可 能です。
ちなみにコンテナは現在、二 〇フィートと四〇フィートの二種類が 主流となっています。
一方、トランパーと呼ばれる不定期 船は、決まったスケジュールによって 運航される定期船に対して世界中どこ へでも貨物を追って配船される船舶を 指します。
帆船が主流だった時代はす べてが不定期船でした。
一九世紀半ば に蒸気船が登場し、規則的な運航が可 能になり、はじめて定期船と不定期船 が区別されるようになりました。
現在、不定期船という言葉は、ばら 積みの乾貨物(ドライバルクカーゴ) を輸送する船舶という意味で使われて います。
不定期船は原則として単一荷 主の単一貨物を航海傭船契約によって 満船ベースで輸送します。
不定期船で 輸送されるドライバルクカーゴは鉄鉱 石、石炭、穀物の三品が主要品目で、 これらはメジャーバルクと呼ばれてい ます。
そのほかにボーキサイト、燐鉱 石、塩、砂糖、セメント、木材、ウッ ドチップなどがあり、こちらはマイナ ーバルクと呼ぶことで区別しています。
不定期船の運送契約は一航海単位ご とに取り決めるのが基本です。
しかし、 船会社としては安定収益確保のために、 荷主としては安定輸送の観点から船舶 を特定せず一定量の貨物輸送を一年あるいはそれ以上の一定期間を定めて契 約する方法もあります。
通常、このよ うな契約形態は数量契約(COA)と 呼ばれています。
外航海運で輸送される貨物にはドラ イバルクカーゴのほかに、原油、石油 製品、液化ガス、自動車(完成車)な どがあります。
したがって定期船と不 定期船という昔ながらの分類が馴染ま なくなってきました。
そこで近年は会 69 OCTOBER 2006 OCTOBER 2006 70 社ごとに多少の違いがあるものの、外 航海運会社では定期船部門、不定期船 部門、自動車船部門、タンカー部門、 液化ガス部門といった具合に区分けし ています。
定期船部門以外を総称して 非定期船部門、あるいはノン・ライナ ー部門と呼ぶこともあります。
現在、外航海運では専用船化が進ん でいます。
完成車は自動車専用船、液 化ガスはLNG専用船、原油はタンカ ー、化学薬品はケミカルタンカー、鉄 鉱石は鉄鉱石専用船、雑貨はコンテナ 船といった具合に、輸送品目ごとに専 用船が用意されています。
船舶の大型化も加速しています。
V LCCは一度に三〇万トンの原油の輸 送が可能です。
鉄鉱石専用船でも三〇 万トンクラスが相次いで投入されてい ます。
自動車専用船は乗用車六〇〇〇 台を輸送できます。
さらにコンテナ船 の大型化も進んでおり、間もなく一万 個積みのコンテナ船竣工が予定されて います。
一九六六年に就航した最初の コンテナ船「ゲートウェイシティ」(シ ーランド所有)の積載能力は三五フィ ートコンテナ二二六個でした。
わずか 四〇年でコンテナ船の積載能力は二五 倍にまで高まった計算になります。
日系大手三社の実力 現在、日本の外航海運会社は二六五 社あり、売上高の合計はおよそ三兆七 〇〇〇億円に達しています。
このうち 日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手 三社の売上高合計は二兆四四〇〇億円 (二〇〇四年度)で、全体の七割近く を占めています。
日系外航海運会社は大手三社グルー プに属しているか、日鉄海運(新日鉄) やトヨフジ海運(トヨタ自動車)のよ うに大手製造業の子会社であるケース が少なくありません。
後者は親会社の 資材や製品を輸送することが主たる業 務であり、インダストリアルキャリア と呼ばれています。
このほかに、ある 特定航路やある製品の輸送に特化する 外航海運会社も存在します。
大手三社についてもう少し詳しく見 ていきましょう。
大手三社の特徴はコ ンテナ船、不定期船、自動車船、タン カー、LNG船などあらゆる種類の船 を運航していることです。
このように 多種多様な船舶を運航している船会社 は世界でも珍しい存在です。
大手三社 は特にLNG船などを用いた資源・エ ネルギー輸送や、自動車船による自動 車輸送に強みを持っています。
運航船腹量の世界ランキングでは商 船三井が第一位、日本郵船が第三位、 川崎汽船が第七位と、三社はいずれも トップテン入りを果たしています。
船 の種類別で見ると、ドライバルクでは 三社がトップスリーを独占しています。
自動車船では日本郵船が第一位、商船 三井が第三位、川崎汽船が第四位。
L NG船では商船三井が断トツの第一位 となっています。
ただし、コンテナ船 では日本郵船が第九位、商船三井が第 十二位、川崎汽船が第十三位にとどま っているのが現状です。
日系の外航海運会社は長らく定期船 分野において苦戦を強いられてきまし た。
コスト面での国際競争力がなかっ たためです。
とくに八五年のプラザ合意以降の円高の進行は、収入の七〇% 以上がドル建てであった日系外航海運 会社にとって大きな痛手となりました。
しかし、先述した船舶の便宜置籍化 や、船員合理化、コストのドル化など 構造改革に取り組んだ結果、二〇〇〇 年頃までに競争力の回復に成功しまし た。
さらに九〇年代後半以降の中国特 需で輸送量が拡大し、ここ数年は好業 績が続いています。
大手三社の売上高合計は一兆八九二 〇億円(二〇〇一年度)、一兆九一〇 〇億円(二〇〇二年度)、二兆一二五 九億円(二〇〇三年度)、二兆四四二 八億円(二〇〇四年度)、二兆七九八 五億円(二〇〇五年度)と拡大を続け ています。
経常利益についても二〇〇 一年が八一三億円、二〇〇二年が八八 一億円、二〇〇三年が一八九〇億円、 二〇〇四年が三三九二億円と大幅な増 益を記録しました。
二〇〇五年は二七 一七億円と減益を余儀なくされました が、依然として利益規模は大きく、堅 調に推移しています。
ちなみに二〇〇 四年には各社とも経常利益が一〇〇〇 億円の大台を突破しました。
増加する外国人船員 先述した通り、先進海運国ではパナマやリベリアといった便宜置籍国に船 舶を登録することが主流になりつつあ ります。
便宜置籍国のメリットとして 船舶の登録費用や抵当権設定費用、ト ン税などが日本に比べ安いことが挙げ られますが、船会社にとって最大の魅 力は船員の配乗が自由であるという点 です。
船会社は発展途上国の船員を配 乗することで、船員費を大幅に削減で きるからです。
日本船主協会の試算に よると、すべて日本人で船員を構成し 71 OCTOBER 2006 た場合の船員費を一〇〇とすると、そ れをフィリピン人に改めると二六とな り、船員費は四分の一程度になります。
前号で解説したように内航海運はそ の国の企業・船舶だけに営業が認めら れています(カボタージュ)。
これに対 して外航海運は「海運自由の原則」に よって参入が自由化されています。
つ まり、外航海運は常に世界単一市場で の競争にさらされているわけです。
日本の外航海運会社は国際競争力の 観点から船舶のほとんどを便宜置籍船 として保有しています。
日本の外航海 運会社の運航船腹は二〇〇四年時点で 二〇〇九隻、約八〇〇〇万総トン(二 〇〇〇総トン以上の船舶)ですが、こ のうち日本船籍は九五隻、約七〇〇万 総トンと全体の一〇%にも満たず、残 りはすべて便宜置籍船を主とした外国 傭船となっています。
一方、乗組員もその大半はフィリピ ンやインドネシアといった発展途上国 の出身者が占めています。
日本人の外 航船員は八〇年代初めに三万人を超え ていましたが、現在では三〇〇〇人を 割り込んでいます。
このように外国人 船員の構成比が拡大していくのに伴い、 日本人船員の役割は実務ではなく、指 導・監督、あるいは安全運航のための マニュアルや仕組みづくりへと大きく 変化しつつあります。
日本の外航海運 大手三社はいずれもフィリピンなど船 員供給国に独自の船員学校を創設する など船員教育に力を注ぎ、労働力の質 的向上に努めています。
燃料費高騰が懸念材料に ここ数年、好況に沸いている外航海 運業界ですが、課題も少なくありませ ん。
まず懸念されるのは原油価格高騰 による燃料油(バンカー)の上昇です。
大手外航海運会社は常に六〇〇〜七〇 〇隻の船舶を運航しているだけに、バ ンカー価格の値上がりが経営に与える 影響は決して小さくありません。
バン カーの年間購入量は一社当たり五〇〇 万トンに達するといわれています。
二〇〇五年初めのバンカーは一トン 当たり二四〇ドル程度でした。
それが 翌二〇〇六年一月には三三〇ドルと一 年間で一〇〇ドル近く上昇しました。
荷主から徴収するバンカーサーチャー ジによる相殺分を考慮しても、最終的 にバンカーが一ドル上昇することで、 日系の外航大手三社は合計で八・四億 円の損失を被るとされています(みず ほコーポレート銀行・産業調査部の推 計)。
また、バンカーの購入はドル建 てが基本であるため、為替変動の影響 も受けることになります。
海運政策と税制の問題もクローズア ップされています。
定期船ビジネスは 一三〇年にわたって海運同盟によって 独占禁止法の適用を除外されてきまし た。
しかし現在、欧州において適用除 外の廃止が提案され議論されているの を受けて、日本でも同様の動きが広が りつつあります。
海運同盟そのものは すでに形骸化しており、もはや従来の ような役割は期待できませんが、独占 禁止法適用除外の廃止で一気に海運同 盟の全廃へと発展し、海運市場の寡占 化を後押しすることが予想されます。
これを契機に海運会社同士の生き残 りをかけた競争が激化することが想定 されますが、そのような環境は必ずし も荷主企業にとって好ましいとは言え ません。
寡占化の進行で一部大手海運 会社が市場と価格を支配する体制が構 築されてしまう恐れがあるからです。
また、昨年からはトン数標準課税制 度(トンネージタックス)導入が議論 されています。
これは現行の日本の法 人税制である利益に課税する仕組みと は異なり、利益に関係なく運航船舶の トン数に課税するものです。
すでにオ ランダをはじめとする欧州各国、米国、 韓国、インドが導入を決めるなど世界標準となりつつあります。
海運業界における競争には、企業間 での競争と、税制を含めた各国の自国 海運保護などの制度間、あるいは国家 間の競争という側面があります。
国際 競争力の維持や自国籍船の減少に歯止 めを掛けるという観点から、他国と同 等の制度面でのサポートを外航海運業 界は求めていますが、なかなかコンセ ンサスが得られないのが実情です。

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