ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
ケース
物流センター--ミドリ安全

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

拠点新設でビジネスが拡大 「この三年間で当社の売り上げは約一七〇 億円増えている。
物流インフラを整備したこ とが大きい。
価格競争力のある輸入品の取り扱いを増やすことができているのも、新セン ターがあってこそだ」と、ミドリ安全の水野 良人専務取締役営業統轄本部副本部長は興 奮気味に語る。
同社は二〇〇三年十二月、二六億円を投 じて埼玉県草加市に延べ床二万三〇〇〇平 方メートルの物流センターを新設した。
その 後、同社の売上高は年間一〇%のペースで伸 びている。
センター設立前の二〇〇三年五月 期に五四七億円だった売上高が二〇〇六年五 月期には七一六億円になった。
外食チェーンの店などで使用される滑りに くい業務用シューズがヒットしている。
同社 が開発し、中国で生産している商品で、扱い 量はセンター稼働前と比較して四倍に増えた。
従来の物流体制では到底、捌ききれなかった。
シューズを突破口にして他の商材まで一括し て納品する提案営業も、拠点集約によって可 能になった。
ミドリ安全は、工場や店舗などの作業現場 で用いる安全衛生用品の最大手だ。
扱い商品 は、安全靴をはじめとする「シューズ」、作 業着をはじめとする「ユニフォーム」、ヘルメ ットやマスクをはじめとする「安全用品」の 大きく三つに分かれる。
いずれも一般的には 専業メーカーが卸経由で小売店やユーザーに 供給している商品だ。
それに対してミドリ安全は、幅広い製品ラ インナップと直販体制を特徴としている。
そ のため取り扱いアイテム数は、汎用品だけで も約一万六〇〇〇SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理の最小単位)に及ぶ。
全国 一八〇カ所に営業所を設置し、自社の営業マ ンが顧客企業に直接カタログを持参して、売 り込みをかけている。
パンクは目に見えていた物流や情報システムも基本的に自社で運用 している。
従来は、シューズ、ユニフォーム、 安全用品の部門ごとに、それぞれ福島県、埼 玉県越谷市、埼玉県草加市に倉庫を構え、在 庫を管理していた。
しかし事業規模の拡大に 伴い倉庫スペースの狭隘化が進み、外部倉庫 を借り増して対応している状態だった。
各倉庫内のピッキング作業は紙ベースの完 全なアナログ式。
しかも庫内のロケーション は番地管理がされておらず、どの製品がどこ にあるかは現場担当者の経験に頼るしかない。
物流センター ミドリ安全 直販体制と豊富な品揃えで差別化 物流も情報システムも自社で運営 OCTOBER 2006 36 総額26億円を投じて物流センターを新設し、3カ 所に分散していた在庫を集約した。
同時に業務フロ ーを見直して、サプライチェーンの効率化を図った。
その効果はコスト削減だけにとどまらない。
インフ ラ整備によって営業力が向上。
売上高の拡大に大き く寄与している。
営業統轄本部副本部長の 水野良人専務取締役 動線の無駄も多かった。
一方で、短納期化が 進んでいた。
翌日出荷を基本としながらも、 急ぎの注文に対しては緊急対応を取っていた。
緊急注文は増え続け、通常のオペレーション に支障を来すようになっていた。
二〇〇二年三月、同社は物流インフラの整 備に向けて動きだした。
埼玉県草加市の工場 跡地に新センターを建設して拠点を集約する 目的で、水野専務が議長となり、シューズ、 ユニフォーム、安全用品の各部門トップと物 流の責任者をメンバーとする「草加物流セン ター検討会」を発足させた。
大規模な物流センターの設立は同社にとっ て初の試みだった。
社内に経験者はいない。
話し合うにしても叩き台が作れない。
そこで、 施工業者として決まっていた竹中工務店のプ ラント部隊を検討会に招き、物流センターの 仕組みからマテハン機器の基礎知識まで一つ 一つレクチャーしてもらった。
半年ほどかけて、同年九月に基本構造が決 定した。
建物は四階建て。
一階は入出荷、二階は安全用品、三階はシューズ、四階はユニ フォームとフロアごとに商品を分けた。
各フ ロアでピッキングした商品を垂直搬送機で一 階に下ろし、自動仕分け機で車両別に仕分け る仕組みだ。
この基本設計を受けて具体的なオペレーシ ョンや庫内のレイアウトを決めるため、実務 者レベルのプロジェクトチームを発足させた。
水野専務は各部門トップに対し、このチーム のメンバーには部内で最も優秀な若手一名を 代表として送り込むよう指示した。
「そいつ に能力がなければ、君の部門の物流はダメに なる」と念を押した。
各部門から一名の計三名と、それを取りま とめる情報システム部の担当者一名の計四名 がメンバーとなった。
現状分析から取りかか った。
各メンバーがそれぞれ出身部門の入荷 から出荷までの業務フローを整理し、入出荷 量、荷姿の種類などを徹底的に洗い出した。
これに半年かかった。
商品特性の違いを反映して、各部門の業務 フローや物流条件はそれぞれ全く異なってい た。
情報システム部門の担当者は、各部門の 業務プロセスを一つ一つ突き合わせ、プロジ ェクトメンバーと相談しながら、全社で共通 する部分とそうでない部分を切り分けた。
七月から本格的なシステム開発に取りかか った。
時間的な余裕はなかった。
基本構造が 決まってから建物はすでに着工しており、十 二月に完成予定だったからだ。
完成した建物 を遊ばせておくわけにはいかない。
「〇四年 一月の稼働は至上命令。
何が何でも間に合わ せるしかなかった」とシステム開発の指揮を 執った三條信明情報システム部担当部長は当 時の状況を語る。
現場のオペレーションをフロア間で共通にするため、部門ごとの物流条件の違いを情報 システムの工夫で吸収する必要があった。
し かし、全フロアのシステム開発を一月の稼働 に間に合わせるのは至難の業だった。
実際の 稼働は、一月、三月、五月とフロアごとに二 カ月ずつずらすことにした。
最もアイテム数 が多く複雑な安全用品フロアから始め、ユニ フォーム、シューズの順で行った。
システム開発と並行して、各部門代表のプ ロジェクトメンバーは庫内レイアウトの具体 的な検討に入った。
システム構築と同様、一 月の稼働に間に合わせるためには、九月には 37 OCTOBER 2006 三條信明情報システム部 担当部長 OCTOBER 2006 38 新たに導入し たハンディター ミナルやピッキ ングカートの扱 いにもなかなか慣れず、一つ一 つの作業に時間 がかかった。
出 荷作業は毎晩深 夜にまで及んだ。
同じ敷地内に事 務所を構える用 品部門の事務職 員たちもかり出して、なんとか出荷を間に合 わせるという状態が二カ月続いた。
それでも三月に稼働したユニフォームのフ ロアでは、安全用品フロアの教訓を生かして 作業手順を徹底したことで、大きな混乱は起 こさずに済んだ。
そして最後に残されたシュ ーズは、最も歴史があり管理もしっかりして いると社内でも評判の部門で、ここまでくれ ば後はすんなり行くだろうと安心していた。
ところが現実は甘くなかった。
旧倉庫から 新センターへの在庫の移動で、商品やサイズ をランダムに送ってしまったことで、格納作 業が大混乱。
届いたらどんどん棚入れするは ずが、仕分け作業から始めなければならなか った。
次々に運び込まれるシューズの山が、 センターの周りをぐるりと囲んだ。
本来なら 棚入れが完了している夜の九時に、ようやく 商品の仕分けが終わり、棚入れは明け方まで かかる始末だった。
これまで経験したことのないプロジェクト に、現場スタッフやプロジェクトメンバーを はじめとする関係者は散々な苦労を味わった。
それでも、とにかくやるしかないの一心で、 なんとかピンチを乗り越え、安定稼働にこぎ 着けた。
コスト削減以上の効果 新センター設立によるコスト削減効果は大 きかった。
倉庫からの運送費は、物量増を考 慮すると年間で推計一億五〇〇〇万円の削減 効果があった。
三カ所からそれぞれ出荷を行 っていたものを一件にまとめることができる ようになったことに加え、ボリュームディス カウントで運賃の単価自体を引き下げること 棚業者を決めて十二月中に搬入してもらわな ければならない。
とにかくすべてが駆け足で 進んだ。
こうして二〇〇四年一月、安全用品フロア だけではあるが予定通り稼働にこぎつけた。
新センターのオペレーションには、いくつか の特徴がある。
従来との大きな違いは、バー コードの活用とロケーションの番地管理だ。
ピッキング作業には、モニター付きのピッキ ングカートとハンディターミナルを使用する。
ロケーションは番地で管理されている。
ピッ カーはモニターに「何丁目何番地」と表示さ れたとおりの場所に行けばよい。
フロアの使い方も工夫した。
各フロアはケ ース棚ゾーン、バラ棚ゾーン、平置きゾーン に分けた。
ケース棚ゾーンにはバラ棚ゾーン の在庫を補充するための在庫を置いている。
こうすることにより、バラのピッキングを行 う作業者はフロア全体を歩き回ることなく、 バラ棚ゾーン内だけを移動すれば済む。
移動 時間が短縮できる分、ピッキングに必要な時 間も短縮できる。
また平置きゾーンには最も 回転の速い商品を置き、棚入れの手間と時間 を省いた。
もっとも、稼働当初、現場は混乱を極めた。
「二〇〇個しか入らない棚に、データ上は五 〇〇個の在庫が存在する。
現物とデータで場 所が違っているから、ピッカーが指示された 場所に行ってもそこには物がない。
そんなこ との連続だった」と三條担当部長。
拠点の集約で一括出荷が可能になった 各フロアでピッキングした商品は、梱包後、出 荷ラベルを貼り、垂直搬送機で1階の入出荷フ ロアに下ろす。
自動仕分け機が出荷ラベルを読み取り車両別に 仕分ける。
39 OCTOBER 2006 ができた。
もともと出荷単位の小さいユニフォームは、 他製品とまとめて出荷することで運送費がそ れまでの半分にまで下がった。
センターから 客先への直送が増えた分、各営業所から運送 業者を使っていた分の運送費もかからなくな った。
さらに外部倉庫が不要になったことで、 倉庫費用は年間一億二〇〇〇万円削減した。
「トータルのコスト削減効果を厳密に弾い ているわけではないが、期待した通りの結果 が出ている。
しかし、それ以上に大きかった のが、営業面でのプラス効果だ」と水野専務 は胸を張る。
従来は丸一日かかっていたピッキングを半 日で処理できるようになり、リードタイムが 丸一日短縮した。
従来は受注を夕方で締め切 り、翌日に出荷していた。
客先への納品はさ らにその翌日になる。
それが現在は、出荷日 当日の午前中まで注文を受け付け、受注日の 翌日に納品できるようになった。
外食チェーン向けの店舗別一括納品サービ スも可能になった。
従来は三カ所に分かれて いた倉庫から出荷する商品を一カ所でまとめ る機能がなかった。
新センターに在庫をまと めたことで一括納品が可能になった。
これに よって店舗側では荷受けが一度で済む。
大き なメリットだ。
情報提供も工夫した。
大手外食チェーンで は、シューズなどの安全衛生用品の費用を従 業員が各自で負担することになっているとこ ろが多い。
個別に現金で決済したり、給与か ら天引きしたりする。
その経理処理を軽減す る情報を、新たに提供できるようになった。
現金で決済している外食チェーンに対して は、センターから出荷される商品の納品明細書に商品名・サイズ・数量のほか、取引先の 要望にあわせて従業員名・従業員コード・従 業員渡し価格などを記載する。
この納品明細 を使って外食チェーンの店舗では、従業員ご との商品引き渡しと代金の領収をチェックす る。
チェックが完了したら、そのまま代金領 収の完了報告として本部へファクスできる。
社内処理のための書類を別途で作成する必要 がなくなった。
営業のアイデアを物流拠点に活かす 一方、代金を給与から天引きする形を取っ ているチェーンに対しては、納品明細をデー タで提供している。
チェーン側では、納品明 細データをそのまま天引きデータとして転用 できる。
手作業でデータを入力する必要がな くなった。
こうした利便性が受けて、シュー ズ単品から始まった取引が、エプロンやユニ フォームへと拡大している。
営業が吸い上げた顧客のニーズを物流に反 映することで、新たなサービスが生まれてい る。
こうした連携には、新センター設立を機 に組織体制が変わり、営業と物流の間に壁が なくなったことが大きく影響している。
従来 は、倉庫は場所だけでなく管理面でもそれぞ れ独立していた。
営業が物流サービスの改善 を望む場合、それぞれの倉庫に掛け合わねば ならず、組織の構造的に営業の声が物流に反 映されにくかった。
それが現在は、水野専務 が営業部門の責任者と物流部門の責任者を兼 務しているので、営業のアイデアが物流に直 結する。
「営業部門が物流を知ることで、お客さん の話を聞きながら、ああいうこともできる、 こういうこともできるとアイデアが湧いてく る。
それを情報システムに組み込んで具現化 する。
システムも物流も自社開発だから柔軟 に対応できる」と水野専務は言う。
現在も、顧客の契約条件によって出荷単位 を自由に制御できるよう、情報システムを構 築中だ。
通常ではケース単位でしか注文を受 け付けない商品でも、取引額など一定の条件 を満たす顧客に対しては小箱単位で注文を受け付ける。
時には運送費で赤字になる注文が あっても、取引の拡大によってトータルでプ ラスになればよしとする。
配送ステータスを確認できる情報システム の構築も計画している。
営業や顧客からの納 品状況の問い合わせに、現在は運送業者の送 り状番号をもとに紙べースで管理している。
それを情報システム上で簡単に検索できるよ うにする。
応答のスピードを高めるとともに、 現場の負担も減らそうという狙いだ。
稼働か ら二年半以上経っても、物流センターの機能 は進化し続けている。
( 森泉友恵)

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