ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
ケース
拠点集約--本田技研工業

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

六五万点の実在庫を管理 本田技研工業(以下ホンダ)は昨年十二月、 三重県内の鈴鹿サーキットに隣接する自社の 遊休地を造成して、四輪車および汎用車の補修用部品を管理する物流センターの建設を着 工した。
建築面積約六万平方メートルの三層 構造の建物で、延べ床面積は一五万二〇〇〇 平方メートルにも及ぶ。
投資総額は約二〇〇 億円。
同社の物流関連投資としては、かつて ない規模だ。
補修用部品とは言うまでもなく、事故や故 障、あるいは車検時のメンテナンス需要など に応じて供給される交換用部品のこと。
新車 販売のアフターマーケットを形成する商品だ。
自動車には一台当たり二万〜三万点もの部品 が使われており、これらがそのまま対象商品 となる。
アフターマーケットへの部品の供給期間は 長い。
新車として量産を行っている間だけで なく、量産を終えたあとも、車が走っている 限り補修用部品の需要はなくならない。
一般 に供給期間は量産中よりも、むしろ量産を打 ち切り旧型部品となってからのほうが数倍も 長いといわれている。
しかも車のライフサイクルは年々延びる傾 向にある。
国土交通省の外郭団体である自動 車検査登録協力会の調査によると、ユーザー が新車を登録してから抹消するまでの平均使 用年数は、乗用車を例にとると二〇〇五年三 月には一〇・九三年となり、三〇年前に比べ て四年も延びた。
自動車メーカーは最短でも それ以上の期間にわたって、補修用部品の供 給を続ける必要がある。
補修用部品の需要の多くは突発的に発生し、 緊急を要することが多い。
代替の利かない部 品も少なくない。
自動車メーカーには、どん な注文にも迅速に対応できる供給体制が求め られる。
その供給レベルをいかに高められる かが、自動車販売のアフターマーケットを大 きく左右することになる。
こうした需要に応えるには、基本的に在庫 を持って対応しなければならない。
もともと 点数が多いうえ、四〜五年に一度のモデルチ ェンジのたびに新たに数千もの部品が加わる。
在庫点数は膨大な数に上る。
顧客へのサービ ス向上と在庫負担の軽減をいかに両立させる かが、自動車メーカーの補修用部品供給における最大の課題となっている。
ホンダでは、カスタマーサービス本部が補 修用部品の調達・供給・国内外の販売など を統括している。
一般に自動車メーカーでは、 量産期間が終了して旧型になってからも部品 の購買を同じ部門が担当するケースが多い。
量産部品とは別の組織が、旧型部品の調達か ら供給・販売までをすべて管理して独自の戦 略を進める体制をとるのは、ホンダのユニー クな点だ。
アフターマーケットに対する積極 的な姿勢の現われと見ることができる。
ホンダには?四輪車、?二輪車、?発電機 拠点集約 本田技研工業 総額200億円投じて新センター建設 補修用部品の物流コスト3割削減へ OCTOBER 2006 28 本田技研工業は総額200億円を投じて鈴鹿に補修 用部品の大規模な物流センターを建設している。
こ れまで2地区21カ所の倉庫に分散していた在庫を新 センターに集約。
オペレーションの改善や輸送方法、 包装形態の見直しによって、販売店までの配送のリ ードタイム短縮と3割の物流コスト削減を狙う。
や耕うん機などの汎用製品という三つの製品 分野がある。
これらの製品に対する補修用部 品の管理点数は、二〇〇六年七月末実績で 一二一万点にも上る。
昨今では、同じ機能の 部品をなるべく統合するなどの努力を続けて はいるものの、管理点数はなかなか減らない。
現状を維持するだけで精一杯だという。
マスター登録のある部品のうち実在庫とし て管理しているものが六五万点ある。
補修用 部品の需要に応えるにはそれだけの規模の在 庫を保管する必要がある、ということだ。
も っともこの六五万点の在庫のなかで、販売店 などからの注文が月に五〇〇個を超えるもの は三万点に過ぎない。
究極の多品種少量型と いう補修用部品の物流特性が浮かび上がって くる。
ホンダの悩みは、補修用部品の在庫期間が 平均三〜四カ月で、他社よりもやや高い水準 にあること。
これを改善し、さらに顧客サー ビスでも優位に立つことをめざして、同社は カスタマーサービス本部の部品供給部を中心 に補修用部品の供給改革に乗り出した。
二〇 〇億円を投じる新物流センターはその一環と して構想されたものだ。
?九九・九九%〞で業界トップに 補修用部品の在庫回転率が低いのは、点数 が多いことに加えて受注時の在庫引当率が顧客サービスの重要な要素となっていることに 原因がある。
年間を通じて出荷数の少ない部 品でも、事故などの際に緊急を要するものは 常時、在庫を用意しておく必要がある。
在庫 削減によって在庫引当率が下がり、顧客サー ビスの低下につながることはどうしても避け なければならない。
ホンダは、この二律背反を打開するべく、 現状の在庫引当率を維持しながら在庫削減を 進める方法を探った。
その結果、部品メーカ ーに対する発注の仕組みを見直して、精度の 高い需要予測をもとに自動的に補充発注を行 うシステムを導入することにした。
ヒット率 の高いアイテムを中心に在庫を絞り込み、回 転率を高めることが狙いだ。
既存のソフトパ ッケージをベースに自社開発を行い、すでに テスト導入を始めている。
年内に本稼動する 予定だ。
今回の改革でホンダは、在庫削減とともに、 顧客サービスの向上というもう一つの命題を 掲げた。
顧客サービスには二つの重要な要素 がある。
一つは受注時の在庫引当率の高さ。
もうひとつは配送のスピードだ。
このうち在 庫引当率については、すでに述べたように現 状を維持する考え方をとっている。
ただしそ の一方でホンダは、在庫引当率とは別の切り 口で顧客満足につながるサービスに取り組む ことにした。
これを説明する前に、同社の補修用部品の 供給の流れを見てみよう。
ホンダは補修用部品を自動車販売店(ディ ーラー)ルートで販売している。
このほか部 品販売会社を経由して部品商や自動車整備 工場などに販売するルートもある。
これらの ルートで部品を短時間で供給するために、ホ ンダでは「HDW」と呼ぶ出先倉庫を全国七 四カ所に設けている。
都道府県ごとに平均一 〜二カ所という細かい拠点網だ。
HDWには車のメンテナンスや修理によく 使われる出荷頻度の高い補修用部品を中心に 在庫を持ち、販売店からの注文に対して翌日 午前中までに届けるサービス体制をめざして いる。
HDWには部品販社がホンダから仕入れる在庫も保管されている。
原則として在庫 管理はホンダの部品供給部が担当し、庫内オ ペレーションは部品販社に委託している。
HDWに対する商品の補給は、鈴鹿地区と 狭山地区の倉庫から行っている。
また受注し た商品のうちHDWに在庫のないものについ ても、自動的に鈴鹿と狭山の倉庫に引き当て がかかり、HDWを経由して販売店に届けて いる。
〇五年度実績で販売店からの注文は、四輪 車と汎用製品の部品を合わせて月平均で一八 七万件あった。
この注文に対しHDWの在庫 29 OCTOBER 2006 部品供給部の石津克久部長 OCTOBER 2006 30 引き当てるか、あるいはただちに納期を回答 できるようになった。
「このサービスは業界で もトップレベルと認識している」と部品供給 部の石津克久部長は自負する。
翌朝九時着エリアの拡大これを達成したうえで同社は、次のステッ プとして「スピード」というもう一つのサー ビス強化を図ることにした。
新設する物流セ ンターを軸にした「在庫型からフロー型への オペレーション改革」(石津部長)によって、 それを実現しようとしている。
これまでホンダでは補修用部品の倉庫に大 きな投資をしてこなかった。
在庫・出荷基地 である鈴鹿と狭山地区の倉庫は大半が借庫。
管理点数が増えるごとに新たに倉庫を借りて 庫腹を増やしてきた結果、現在までに倉庫数 が二一カ所、総保管面積は二一万平方メート ルという規模になっている。
ただし、在庫が二つの地区でたくさんの倉 庫に分散しているのは、何かと非効率だ。
一 カ所あたりの規模が小さく、デッドスペース が生まれやすい。
また保管やオペレーション の改善をしたくても、自前の倉庫ではないた め限度があり、ランニングコストもかかるな ど問題が多い。
HDW向けに出荷する際は、鈴鹿と狭山の それぞれの地区でまとめて二カ所から各HD Wへ送っている。
出荷頻度の高い部品や嵩モ ノは二地区に在庫を持って東西に出荷エリア を分け、それ以外は各地区からすべてのHD Wに出荷する。
このため出荷時に各地区の倉 庫間で荷揃えのための横持ちが必要となり、 二地区間でも在庫の融通のための横持ちが発 生する。
最も大きな問題は、二つの地区から出荷し ているため一地区あたりの輸送量がトラック 一台分にまとまらないことだ。
HDWまでの 輸送にチャーター便を利用することができず、 で引き当てることのできた件数は一三五万件。
在庫引当率は七二%だ。
モデルチェンジなど に合わせて在庫の中身を見直しながら、おお むね七〇〜八〇%の引当率を維持していると いう。
これに鈴鹿と狭山の在庫に引き当てた 分を合わせると、受注時の在庫引当率は九 八%に達する。
先に「現状の在庫引当率を維 持する」と述べたのは、この数字のことだ。
九八%の在庫引当率というのはかなり水準 が高い。
ただし分母が大きいだけに、絶対数 で見ると、オーダー時点での欠品は相当数に 上る。
このままでは顧客に不満が残ってしま う。
だが、引当率を上げれば在庫削減の命題 を果たすのが困難になる。
そこでホンダでは、受注時に在庫を引き当 てられなかった注文に対しても、その商品を いつまでに顧客のもとへ届けられるかを即時 に回答できるようにすることで、顧客へのサ ービス向上を図ることにした。
そのために取引先の部品メーカーと、補充 発注とはまた異なる取り組みを進めてきた。
事前に部品メーカーから部品ごとの納期を約 束してもらい、受注時に顧客に対して自動的 に納期を回答する仕組みを新たに作り上げた。
部品メーカーには約束した納期を確実に守っ てもらう。
商品が直ちに届かなくても、納期 が保証されれば顧客にとって修理計画を立て やすくなるなどのメリットがでる。
この取り組みを進めた結果、顧客から受け たオーダーの九九・九九%に対して、在庫を 31 OCTOBER 2006 すべて路線便を使っている。
そのために輸送 のリードタイムが長くかかってしまう。
すでに述べたようにホンダでは、補修用部 品をHDWから販売店へ、注文の翌日午前中 までに届けることをサービスの目標としてい る。
これを達成するため、HDWに在庫がな い商品についても、午後三時半までに入った 注文に対しては、鈴鹿と狭山の倉庫から当日 中に出荷して翌日の午前九時までにHDWに 届けることをめざしている。
九時までにHD Wに着荷すれば、HDWの在庫品と一緒に販 売店へ午前中に配送することは可能だ。
だが現状では、路線便を利用しているため、 鈴鹿地区から東北地区向け、狭山地区から中 四国地区向け、および両地区から北海道・九 州向けに出荷する便は、翌日午前九時までに HDWに着荷することができない。
包装面にも問題があった。
補修用部品の注 文は一個単位で包装もすべて個装。
部品メー カーが納めた荷姿ではなく、ホンダの倉庫で 専用包装を施して出荷するケースが多い。
路 線便は中継輸送が行われるため、積み替え時 などに商品へのダメージを受けないよう、緩衝材を入れるなど包装を厳重にしなければな らない。
包装材も三割削減へ こうしたさまざまな問題を改善するために、 ホンダでは自ら投資して物流センターを新設 することにした。
鈴鹿と狭山の二地区に分散 していた保管・出荷機能を、新物流センター にすべて集約する。
これによって出荷の物量 がまとまり、チャーター便を利用できるよう になる。
これまで翌日午前九時までに着荷で きなかったエリアのうち、北海道を除く全エ リアでの着荷が可能になる見込みだ。
また路線便からチャーター便に切り替わる ことで、リターナブル容器の導入が可能にな る。
これまでの過剰包装をやめて、段ボール の使用量を減らすなど包装の簡素化を図り、 簡易包装の状態でリターナブル容器に詰めて 輸送する方法に改めていく考えだ。
出荷頻度 の高い部品を中心に包装材を三割程度削減す ることをめざしている。
ホンダは欧米をはじめ世界各地で生産の相 互補完を進めており、これに伴って部品を地 域間で輸送する際に、リターナブル容器によ る循環型輸送体制の構築を進めている。
すで にトライアルを開始しており、日本の導入体 制が整うことでリターナブル容器のグローバ ル展開が実現する。
補修用部品の拠点集約は二輪車用を先行 させた。
鈴鹿地区で既存の自社倉庫を使い、 二〇〇五年一月に新体制をスタートしている。
これに続く第二弾として今回、四輪車用と汎 用製品用のセンターを着工した。
新センター には物流機能のほか品質管理機能も取り込む 予定だ。
三層を合わせて一五万二〇〇〇平方メート ルという新物流センターの延べ床面積は、既 存の倉庫の総面積よりも六万平方メートルほ ど少ない。
デッドスペースをなくして保管効 率を高めるともに、これまでよりも在庫回転 率の高いオペレーションを前提としているた めだ。
無線ハンディターミナルを活用して作 業の進捗をリアルタイムで管理するシステムを導入し、搬送や仕分け作業は可能な限り自 動化する。
「これまでの在庫削減や顧客サービス向上 への取り組みを、新物流センターを中心とす る物流改革によってサポートする。
新センタ ーによってわれわれのめざす顧客サービスを 効率よく実現していきたい」と石津部長は強 調する。
新物流センターは来年五月に稼動す る予定。
この物流改革で同社は、保管・輸 送・包装など物流コストの三割削減を目標に している。
( フリージャーナリスト・内田三知代)

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