ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
特集
中国&インドの物流 日系進出企業のインド戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 24 トヨタ工場向けにミルクラン 一九九一年に経済自由化路線に転じて以来、イン ドが驚異的なペースで発展を遂げている。
九一年度か ら二〇〇四年度までの実質GDP成長率は年平均で 六%を超えた。
今後も高い経済成長が見込まれる人 口一〇億人超の巨大市場に新たなビジネスチャンスを 見出そうと、先進各国の企業はインドへの投資を強化 している。
九〇年代後半以降、日系企業もインドへの進出を 積極化してきた。
在インド日本国大使館によると、現 在インドに進出している日系企業は三五二社(今年 六月時点)。
その数はこの三年間で一〇〇社以上増え ている。
それでも日系企業のインド進出は未だ中国へ の進出数の六〇分の一程度にすぎないが、当面その勢 いは衰えそうにない。
インド進出を果たした日系企業を業種別に見ると、 自動車関連企業の数が圧倒的に多い。
インドの乗用 車市場で五〇%近いシェアを握っているスズキ(現地 企業名マルチ・ウドヨグ)や、二輪車市場で四〇% 以上のシェア獲得に成功しているホンダ(ヒーロー・ ホンダ)といった自動車メーカーと、彼らが現地に構 えている組立工場に部品を供給する自動車部品メー カーなどが中心だ。
日系自動車メーカー各社は販売台数の拡大が続く インドで工場の新設や増強を計画している。
そのため、 今後も日系企業のインド進出は自動車関連企業を軸 に、その数が増えていくことが予想されている。
日系物流企業の進出も年を追うごとに増加しつつ ある。
日本通運や郵船航空サービス、近鉄エクスプレ スといった大手航空フォワーダー、日本郵船や商船三 井などの海運会社、そして三井物産や三菱商事とい った総合商社がインドの主要都市を中心に現地法人 や駐在員事務所を設置。
主に日系企業向けに物流サ ービスを提供している。
日系物流企業の場合、もともと日本や欧米で付き 合いのあった荷主企業に請われるかたちでインドに進 出しているケースがほとんどだ。
荷主企業がインドに 日系物流企業を呼び寄せるのはほかもでない。
現地に はロジスティクス管理のノウハウに長けた、実力のあ る物流企業が存在しないためだ。
荷主企業には、長年 のパートナーである日系物流企業にロジスティクスの オペレーションを委ねることで、インドにおけるライ バル企業との競争を優位に進めていきたいという狙い がある。
バンガロール郊外に設けた工場で、「イノーバ」や 「カローラ」といった車種を生産しているトヨタ自動 車(トヨタ・キルロスカ・モーター)。
同社では九九 年に操業を開始して以来、現地での部品調達で発生 する物流業務を、三井物産がインドの有力物流企業であるTCI(Transport Corporation of India)と 共同出資で設立したTLI(Transystem Logistics International)に委託している。
TLIはバンガロー ルやその周辺都市に点在する部品メーカーからミルク ラン方式で部品を回収。
トヨタの工場の生産ラインに ジャストインタイムで供給する役目を担っている。
TCIは一九五八年創業の老舗トラック運送会社 だ。
同社はインド国内でドア・ツー・ドアサービスを 展開している宅配便会社(ブランド名はXPS)や内 航海運会社などを傘下に収めるインドの巨大物流企 業グループの一つで、年商は八六億四一〇〇万ルピー (約二二五億円)に達する。
日系物流企業の間では 「インドの日本通運」とも呼ばれている。
それでもトヨタはTCIのロジスティクスプロバイ 日系進出企業のインド戦略 自動車メーカーをはじめとする日系企業がインド進 出を加速させている。
これを受けて、日系物流企業の インド進出も相次いでいる。
中国と並ぶ巨大マーケッ トを開拓していくうえで不可欠な、ロジスティクスの 仕組みづくりがインドで本格化している。
(刈屋大輔) 第3部インド市場のロジスティクス 25 SEPTEMBER 2006 ダーとしての実力に懐疑的だった。
TCIに直接ミル クランのオペレーションを委託するのではなく、三井 物産という日系企業が資本参加するTLIをパート ナーに指名したことは、トヨタにとってリスクヘッジ の意味合いもあったようだ。
実際、TCIと取引のある日系企業の物流担当者 は「(TCIは)図体が大きいだけで、物流のサービ スレベルは日本の有力物流企業のそれに比べはるかに 劣っている。
そもそも彼らは自社トラックをほとんど 所有していない。
一台持ちのオーナーオペレーターや 五〜一〇台持ちの零細トラック会社を利用して運賃 をピンハネしているだけ。
規模の大きい?水屋〞にす ぎない。
ロジスティクスの細かな部分のノウハウは乏 しい」と指摘する。
インド物流は儲からない このように新興国であるインドでは高水準のサービ スを提供できる物流企業がまだまだ成長していないのが実情だ。
依然として日系企業の「日の丸ブランド」 の物流サービスに対する期待感は大きい。
これを受け て、日系物流企業はインドへの進出を加速させている が、各社とも肝心の収益がきちんと確保できていない ことに頭を悩ませている。
外資の本格参入などで競争が激しくなってきた結果、 インドでは採算を度外視した水準の運賃や料金を荷 主企業に提示し、受注に漕ぎ着けようとする現地物 流企業が増えている。
「燃料代の実費に毛の生えた程 度の運賃で仕事を引き受けているトラック運送会社も 少なくない。
利用する側としては有り難い話だが、そ んなに安い運賃で本当に事業が成り立つのか。
こちら が心配になるくらいダンピング幅は大きい」(日系総 合商社)という。
そして日系物流企業はこうした現地価格に引きずら れる格好で、運賃や料金の値下げを余儀なくされ、収 支バランスを崩している。
さらに事態を悪化させる要 因となっているのが欧米系物流企業の存在だ。
現地 物流企業よりも高い水準のサービスを提供する能力を 持つ欧米系が、新規受注を目指して価格の引き下げ に転じたことで、日系物流企業は完全に逃げ道を塞が れてしまった。
トラック輸送など単機能サービスの分野ではコスト 構造の違いから現地企業と互角に勝負できないと判 断した日系物流企業は、より付加価値の高いサービス を提供することで、価格競争に巻き込まれるのを回避 しようとしている。
デリーとバンガロールに拠点を置 く郵船航空サービスでは今後、航空貨物のフォワーデ ィング業務のみならず、海上貨物の取り扱いや物流セ ンターの運営、コンサルティングなどを含めたトータ ルロジスティクスサービスを展開することで、収益を 確保していく方針だ。
同社が主力とする航空フォワーディングの分野では ここ数年、自動車関連部品を中心に荷動きが活発化 している日本発インド着の貨物をめぐる事業者間の競 争が激しさを増している。
欧米系と日系のフォワーダ ーが値引き合戦を繰り返した結果、同区間の運賃は 採算ラインを下回る水準にまで低下してしまっている のが実情だという。
「インド単体でのビジネスで採算を目指すのではな く、インドに拠点を用意しておくことで、国際物流事 業全体が儲かればいい。
そういうスタンスでインドに 進出している日系物流企業が少なくない。
インドをき ちんと押さえておかないと、日本やASEAN諸国で のビジネスを失ってしまう。
そんな各社の危機感が運 賃低下に拍車を掛けている」と郵船航空サービスデリ ー駐在事務所の宮崎遍太主席駐在員は説明する。
ニッチな市場に特化する 一方、競合が少ないマーケットにターゲットを絞り 込むことで、インドでの物流ビジネス拡大を模索しよ うという動きも出てきた。
例えば、インドで定温物流 事業を展開している三菱商事では、「当面インドでは 他の物流分野に足を踏み入れるつもりはない。
定温物 流のネットワークを強化することだけに専念していく」 (物流事業ユニットの大矢隆司マネージャー)方針だ という。
三菱商事は九五年にインド初となる定温物流会社 「スノーマン・フローズン・フーズ」に資本参加。
同 社の経営権を握り、同じく株主であるインド側のパー トナー企業やニチレイ、三菱倉庫などとともに、イン ドにおけるコールドチェーンネットワークの整備を進 めてきた。
現在、インドの主要都市に計一五カ所の冷 蔵・冷凍倉庫を用意。
保冷トラック約一〇〇台を使って野菜や果物、冷凍食品やアイスクリームなど温度 管理が必要な商品をインド全域に供給している。
スノーマンは生産者から加工メーカー、小売店など の流通業者に至るまでのサプライチェーン全体のロジ スティクスをカバーしている。
顧客リストにはインド での出店を強化しているハンバーガーチェーンのマク ドナルドも名を連ねる。
スノーマンは倉庫での保管、 配送といった物流サービスの提供だけでなく、卸とし ての機能も有しており、メーカーなどに代わって小売 店から代金を回収する業務も請け負っている。
インドでは食品を扱う小売店やレストランにおける 業務用冷凍・冷蔵庫の設置が徐々に進みつつある。
ま た、購買力のある中産階級以上の家庭への冷凍・冷 蔵庫の普及も始まっており、定温商品の販売量が急 SEPTEMBER 2006 26 激に伸びている。
それに伴い、インドにおける定温物 流サービスのニーズも急拡大している。
これまでスノーマンのコールドチェーンネットワー クはインド南部を中心に整備が進められてきた。
南部 は一年を通して気温が高く、アイスクリームなど定温 商品の消費量が多いからだ。
しかし、今後は冷凍・冷 蔵庫の普及によって南部と同様に定温商品の消費拡 大が期待される北部のデリーや西部のムンバイ、東部 のコルカタなどの主要都市と、その近郊地域のネット ワーク網の整備に乗り出す計画だという。
三菱商事がインドの物流市場で「定温」というニッ チな分野に特化する戦略を打ち出しているのはほかで もない。
ドライ貨物を対象にした国内物流の領域では 現地のトラック運送会社とのコスト競争に勝てないと 判断したからだ。
「定温は倉庫や車両に投資が掛かる ため、誰でも簡単に参入できるビジネスではない。
実 際、インドには競合するプレーヤーがまだほとんどい ない。
それだけに勝機がある」と大矢マネージャーは 見ている。
二輪車メーカー向け物流センター 一方、日新はインド市場でのニーズ拡大が見込まれ ている倉庫業を強化していく構えだ。
同社はデリー中 心部から南に車でおよそ一時間、ウッタル・プラデー シュ州の新興工業地区であるノイダに、大型物流セン ターを設けている。
敷地面積約三万平方メートル、倉 庫部分の延べ床面積約一万五〇〇〇平方メートルの 平屋建てだ。
二〇〇四年八月にオープンした。
同拠点は一キロほど離れた場所に組立工場を置く 日系二輪車メーカーの完成車用保管倉庫として機能 している。
日新では工場〜倉庫間の横持ち輸送とセン ター運営、さらに二輪車メーカーがインド各地に用意 している計二〇カ所のデポや、販売先である現地ディ ーラーへの配送業務などを請け負う。
センターから出荷される完成二輪車は一日平均で 大型トラック二〇台分に達する。
最も遠い供給先はセ ンターから約二八〇〇キロ離れており、そこにはツー マン体制のトラックで約八日間かけて配送していると いう。
日新では自社トラックをほとんど保有しておら ず、実運送の大部分を地場のトラック運送会社にアウ トソーシングしている。
「配送の対象エリアはインド全域。
目的地に向かっ てちゃんと運行を続けているかどうか。
各配送トラッ クの現在位置を確認するため、GPSを活用した運 行管理システムを導入している」と高橋是清シニアマ ネージングディレクター。
日新が問われているのは現 地のトラック運送会社をきちんとコントロールする能 力だ。
顧客である二輪車メーカーは日本や欧米に比べ 遜色のない効率的なロジスティクスをインドにおいて も展開することを目指している。
日新は九九年に現地の有力物流企業であるABC インディアと合弁で「日新ABCロジスティクス」を 設立し、インド市場に参入した。
西ベンガル州のハル ディアに生産拠点を構える日系の化学品メーカーから 工場での構内作業を任されたことがインド進出の契機 となった。
そして二〇〇四年には日系二輪車メーカー向け倉 庫の運営をスタートするなど日新のインドでのビジネ スは徐々に拡大しつつある。
今後もインド市場の開拓 に力を注いでいく方針だ。
具体的にはフォワーディン グ業務への進出や営業倉庫の新設などを計画している。
「インド進出を加速させている日系企業を中心に顧客 層を拡げていきたい」と営業推進部の原口廣インド室 長は意気込んでいる。
27 SEPTEMBER 2006 三菱商事の大矢隆司物流事 業ユニットマネージャー 三菱商事は定温分野に特化してイン 日新は99年にABCインディアとドでの物流ビジネス拡大を狙う 合弁会社を設立。
日系化学品メー カーや二輪車メーカーの物流業務 を請け負っている

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