ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
大学院体験記
現場から見たウォルマート

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 76 現場から見たウォルマート 日本もアメリカも、大学は夏休み中。
アメリカに留学中のさ わちゃんはインターンシップで頑張っています。
上司のトロイ さんも迎えて、現場ならではの話を聞かせてくれました。
(本誌編集部) Y さわちゃん、倉庫でのインターンシップは順調? 3ヵ月半 のプロジェクトも、もう半分を過ぎたね。
業務を通じて新しい 気づきはあった? S 本当にあっという間。
サプライチェーンにおいて、生産され た商品を市場に送りだす倉庫は、ヒト・モノ・情報が交錯する 場であるということが再発見できたよ。
また、ロジスティクス の一番の基本である、モノを動かすという現場に自分自身を置 くことで、安全で仕事をしやすい環境を整備するということが どんなに大切なことなのかを実感している。
プロジェクトも順調。
自分の観察や分析結果をもとに、進捗 会議でプレゼンも経験したし。
プロジェクトに関わることで、現 場とマネジメントの関係や、組織のリーダーシップのあり方に ついても勉強することが多いよ。
Y 流通加工という機能において、倉庫のオペレーションでどの ような付加価値をつけられるのか、そのために現場のどういう 動線や配置が必要なのか、リアルに接することができるね。
私も、研修でサンフランシスコ支店にいた時に、クリスマス 商戦時の倉庫業務で、ベトナム人や中国人、メキシコ人の現場 スタッフとマネジメント陣との両方の立場から、作業員として も管理者としても、双方を体験できたのは貴重だった。
実際に 自分で作業してみないと分からない部分がほとんどで、実作業 を通じて初めて仕事しやすい環境づくりや改善提案ができるこ とを実感したよ。
ウォルマートの発言力 S 小売業の取り組みにも、日本とアメリカでいろいろな違いが あるよね。
今回はそれぞれの代表例を比較してみようか。
アメリカ代表の小売業としては、やはり売上げナンバーワン のWALMART。
DC(在庫型拠点)は全米に114もあるといわ 第10 回 Yuki Sawako Yuki Sawako プロジェクトのメンバーが全米各地に分散してい るため、進捗会議は電話会議システムを通して行 う。
77 SEPTEMBER 2006 れる。
ベンダーから大量に安く仕入れ、消費者に「Always Low Price」を提供できるモデルは、自前の流通システムを確保する ことによる徹底したコスト削減からも成り立っているといえる よね。
国内では、労働力の賃金問題や出店でのネガティブな面 もささやかれているけれど、海外では、進出・撤退を繰り返し ながらも儲かる市場に積極的に資本を投下する姿勢はすごい。
8月7日版のフォーチュン誌で「The Green Machine」とい うWALMARTの特集記事があったのだけど、その記事の中で、 CEOのリー・スコット氏が“世界一のリテイラーであるWALMART を世界一環境に優しい企業(Greenest)にする”と言っ ていた。
今後3年間に、輸送での効率性を25%アップさせ、店 舗で使われるエネルギーを30%、店舗での廃棄物を25%減ら すという目標を実現しようと取り組んでいる。
今後、サプライ ヤーや流通システムに与えるインパクトは大きいだろうね。
Y WALMARTがグリーン(環境問題)に取り組むというのは、 世界的にもアピールになるね。
スケールメリットのある企業の 社会的な取り組みは、それに追随する企業への波及効果も期待 できる。
環境というテーマは次の物流のキーになるから、これ からのWALMARTの動きは注目だね。
RFIDについても、納入先トップ100企業から今年末には300 企業に、自社仕様のRFIDを同じアイテムのパレットやカートン 単位で貼付させて納品させているよね。
私もサンフランシスコ にいた時に、同様の流通加工を希望する顧客の動きがあったの を覚えているよ。
S インターン先のDSCでロジスティクスマネジャー?(ナンバ ー2)を務めるトロイ・パウエル氏が、WALMARTのオーダー について話を聞かせてくれたよ。
TROY 私はDSCに入社して11年、コロンバスの倉庫では5年間、食 と栄養を考えるグローバル食品メーカーK社の3PLとして、主要 な小売業DCへの出荷を担当しています(Sawakoメモ参照)。
私どもの倉庫がWALMARTから受注するオーダープロファイル についてお話ししましょう。
現在、私が所属する拠点では、WALMART向けに月に6000 オーダー以上を処理しています。
出荷量の約3分の1がWALMART 向けです。
K社にとって、WALMARTは売上げの重要な 部分を占めますから、何があっても、サービスレベルの高い要 求に答えなくてはなりません。
例えば、他の小売業で受注後48 時間以内の納入リードタイムも、WALMART向けでは34時間 以内を目指さなくてはいけません。
他の小売業と比較するとケ ースピッキングが多いことも特徴のひとつですね。
S なるほど。
WALMARTが、いかに要求の多い厳しい顧客かが Yuki Sawako Sawako 24時間体制で入出荷を行う Troy SEPTEMBER 2006 78 分かります。
ご自身の経験をもとに、ここ5年間に起こった変 化を教えてください。
TROY ご存知の通り、WALMARTは、売上げ規模世界一の小売業 です。
しかし、2000年の段階では、K社にとってはトップのお 客様ではありませんでした。
WALMART向けに出荷するオーダ ーの平均SKU(Stock Keeping Unit:最小在庫単位)も、現 在では18ですが、5年前は約半分に過ぎませんでした。
それが、スーパーセンターとしてグロサリービジネスを拡大し たことで、それまでの食品小売業界の様子をガラリと変えまし た。
今では、店舗での売上げ状況(POSデータ)に基づいた自 動補充発注方式をとることで、オーダー件数も5年前と比べる と約5倍になりました。
Y POSを利用した自動発注によって取引コストを下げている点、 そして納期厳守を徹底させられるバイイングパワー(購買力)。
この2点を規模の経済で実現できているのが、WALMARTの成 功の方程式だね。
S 本当にその通りだね。
アメリカが注目する日本のコンビニ Y 多摩大学大学院の「SCM産業論」という授業の中で、様々 な業態(メーカー・卸・流通・小売)の立場から、その業態に おけるSCMプレイヤーとしての有効なあり方を考えたよ。
その際取り上げた小売のケースは、セブン−イレブン・ジャ パン。
同じ小売とは言っても、WALMARTとは規模も商品ライ ンナップも異なり、違う仕組みを独自に作り上げている企業だ よね。
S OSU(オハイオ州立大学)でも、日本のコンビニエンススト ア業界は大変ユニークで注目されていると春学期の授業の中で 教授が話していたよ。
この間も、日本発のコンビニとしてファ ミリーマート(FAMIMA)のアメリカへの出店がニューズウィ ーク誌に紹介された記事を読んだよ。
Y 氷売りからグローサリーストア、街のよろずやから小売チェ ーンへと進化した本家アメリカのセブンーイレブン。
日本のセ ブン−イレブン・ジャパン(以下SEJ)は、単品管理と単位面 積当たりの売り場効率にこだわって仕組みやインフラの全く異 なる企業に発展したけれど、これは海外進出をする企業にとっ てモデルとなる取り組みだね。
Yuki Sawako Yuki Sawako Yuki 納入リードタイムは受注後34時間以内 Troy 79 SEPTEMBER 2006 S 正直なところ、アメリカのセブン−イレブンと聞くと、新鮮 というキーワードをとっさに思い浮かべることはできない。
商 品の品揃えにもSEJとは全く異なった印象を持つけれども、91 年にSEJがアメリカのセブン−イレブンの親元であるサウスラ ンド社を買収したことで、SEJの成功事例から学ぼうという動 きが見られるみたい。
ところで、SEJのオーダープロファイル(ロットサイズ・SKU 情報・オーダー件数・頻度などの、発注に関する要求やサービ スの取り決め)にはどんな特徴があるの? Y SEJのオーダープロファイルはかなり徹底されているようだよ。
「温度管理」と「売れ筋商品」に徹底したこだわりを持っている から、これを軸とした戦略が物流にも見受けられる。
店舗への納入体系は、温度や商品特性によって5つに分かれ ている。
?20℃管理による米飯共同配送センターからの弁当・ おにぎり類が1日3回、?5℃管理によるチルド共同配送センタ ーからの調理パン・サラダ・牛乳類が1日3回、?常温による加 工食品・雑貨共同配送センターから週3回、?マイナス20℃管 理によるフローズン共同配送センターから週3〜7回、?本や雑 誌類の配送センターから週6回。
環境に優しい配送を目指し、共 同配送センターから、ドミナント戦略によって狭い地域に固ま ってある店舗を循環し、1店舗あたり1日9台以下の配送になる ように工夫されている。
S さすが、日本のコンビニは鮮度の高い商品の流通を支える仕 組みが整っているね。
Y SEJもWALMART同様、POSデータを完璧にリアルタイムに 利用していて、自動補充の発注ができるくらいのデータと情報 を持っているけれど、SEJでは最後の発注のさじ加減を人間に 任せているところがWALMARTとの大きな違いだね。
店舗の周辺地域のイベントや天気、学生の間で流行っている もの等を、店長だけでなくアルバイトの主婦や学生が「気づき メモ」として共有し、自動発注データに+αの発注をしている。
そして、たとえこの仮説が外れても、結果を徹底検証して次の 発注に活かしている。
知識経営的なところとシステム的なとこ ろの共存ができているんだね。
「発注は商人に任された唯一の意 思決定手段である」という思想が根付いている。
S SEJがWALMARTやアメリカのセブン−イレブンと異なる点 として、サンドイッチやおにぎりなどの鮮度の高い商品の売上 げ比率が高いところが挙げられる。
賞味期限以内に、いかに売 れ残りを少なくして、需要にマッチした供給を確保するかの意 Yuki Yuki Sawako Sawako Sawako ガチョウ観察もひとつの楽しみ SEPTEMBER 2006 80 思決定は本当に難しそう。
こういった商品に対して合理的な判 断を人間が最終チェックするところに、日本的な経営手法が見 え隠れしているようだね。
それにしても、SEJの企業規模で、現場主義・地域密着型に なっているのはすごいね。
Y これを成し得るのはコンビニという業態の特殊性もあるね。
単 品管理とはいえ、アイテム数も3000〜4000程度で、数万を超 える他の小売に比べると少ないし、何より定価販売が容認され ている。
最近ではコンビニにもディスカウントの流れができてき たけれど、定価販売が暗黙に容認されることで得られる利ざや は大きい。
SEJは卸に対して、集約問屋制によってベンダーを組織化さ せ、自社専用のセンターを要求している。
とはいえ、卸にとっ てはそのサービス対価分の利ざやが得られるというメリットが ある。
アメとムチのようだけど、定価販売と経済規模をSEJが 守っている限り、この関係は崩れないだろうね。
S コンビニに対する消費者の一番の目的は、欲しいものをスピ ーディにであって、価格の重要度は低いものね。
Y WALMARTもSEJも、ネームバリューと規模の経済性を持っ ているところが、メーカーや卸を引きつけている要因だね。
そ れに加えSEJの定価販売による利益率の波及効果。
業態は異な るけれど、目指す方向性は同じだと再度実感したよ。
S 異なるところは、発注方法や価格設定、商品の品揃えだね。
それに、ワンストップショッピングで安いものを求めるWALMART の消費者と、今すぐに欲しいものを少しだけというSEJ の消費者の目的の違いがインフラ整備にも反映されているよう で面白い。
今後もいろんな発見が期待できそうで楽しみ。
(以下、次号に続く) Yuki Yuki Sawako 日本の大学に在学中、米国ワシントン州ゴンザガ 大学、中国北京大学に短期留学。
大学卒業後、日 本通運に入社。
通関士を取得。
米国・サンフラン シスコ支店で1年間研修。
帰国後、メーカー物流 に携わる傍ら、昨年4月、多摩大学大学院経営情 報学研究科修士課程ロジスティクスコースに入学。
小林由季(こばやし・ゆき) オハイオ州立大学マーケティング・ロジスティクス 専攻を卒業後、OTEC, Inc. (米国)、フレームワ ークス(日本)で働いた経験を持つ。
フレームワー クスでは、新工場・倉庫建設プロジェクトにかかわ った。
昨年9月、オハイオ州立大学大学院ビジネス ロジスティクス工学修士課程に入学。
岩田佐和子(いわた・さわこ) Sawako

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