ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
海外Report
クーネ+ナーゲル脱・フォワーダーを目指して3PLやトラック輸送を強化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 46 ワンストップショッピングを提供 クーネ+ナーゲル(K+N)は急成長中の ロジスティクス企業だ。
本社はスイスのシン デレギで、チューリヒからローカル線を二回 乗り換えてたどり着く田舎町に置いている。
二〇〇五年の売上高は一四〇億四九〇〇万ス イスフラン=CHF(日本円で約一兆二六〇 四億円)、最終利益は三億一五〇〇万CHF (同二八五億五〇〇〇万円)。
五年前と比べる と売上高で六六%、最終利益で九七%伸びて いる計算になる( 図1)。
日本の連結売上高ランキングに当てはめる と、ちょうど日本通運とヤマトホールディン グスの間に入るほどの大企業でありながら、高 い成長率を続けているのには驚かされる。
株 価も堅調だ。
二〇〇六年に入ってからは若干 弱含みではあるが、五年前に比べると四倍の 八〇CHF台で推移している( 図2)。
クラウス・ヘルメスCEO(最高経営責任 者)は同社の経営戦略をこう説明する。
「当社の究極の目的は、荷主企業のロジステ ィクス活動の最初から最後までを請け負える ような幅広いサービスメニューを揃えること にある。
K+Nはこれまでフォワーダーとし て世界各国に拠点を作ってきたし、全業務分 野で使える共通のIT(情報技術)プラット フォームを整備している。
主力サービスであ った海上貨物と航空貨物のフォワーディング 業務に加え、トラック輸送や物流センター運 営を軸とした3PL業務に対応することで、 客先への最初と最後の一マイルを含めた荷主 のロジスティクス業務の全工程をカバーして いく」 つまりK+Nは荷主にとってワン・ストッ プ・ショッピングが可能となるロジスティク ス企業を目指しているのだ。
さらにクラウス・ ヘルメスCEOは次のように続ける。
「SCM クーネ+ナーゲル 脱・フォワーダーを目指して 3PLやトラック輸送を強化 クーネ+ナーゲルといえば、フォワーダーとしてのイメージが強い。
しかし ここ数年、同社は相次ぐ企業買収によって3PL部門やトラック輸送部門を 強化することで、総合ロジスティクス企業への転換を図っている。
フォワー ダーとして築いてきたネットワークの上に新しいサービスメニューを追加する ことで、荷主の需要を取り込もうとしている。
クーネ+ナーゲルの クラウス・ヘルメスCEO 47 SEPTEMBER 2006 全体を外部に委託したいという荷主の動きが 年々強まっている。
同業他社との競争に勝ち 抜くためには、ロジスティクス業務の全メニ ューを揃えることが必須の条件となっている。
例えば、K+Nが物流センター業務を請け負 えないとすると、荷主はその部分を他社に任せることになる。
もしそのライバル企業が、フ ォワーディング業務にも対応できるとすると、 荷主がK+Nからその企業に切り替えること もありうる。
また、サービスメニューが少な いままだと、価格競争のプレッシャーにさら され、仕事を失ったり、利益率の低下を余儀 なくされることにもなる」 公開企業かつオーナー企業 K+Nの創業は一八九〇年にさかのぼる。
この年にオーガスト・クーネ氏とフレデリッ ヒ・ナーゲル氏がドイツ北部の港町・ブレー メンに海上フォワーディング会社を設立した。
クーネ+ナーゲルの社名は、両氏の名字から とったものだ。
ナーゲル氏が亡くなった後は、 クーネ家が会社を所有してきた。
現在のクラウス‐マイケル・クーネ会長は、 創業者の孫に当たり、株式公開企業である同 社の株の五七%を保有している。
上場企業で あると同時に、オーナー企業でもあるのだ。
ロジスティクス企業に限らず、いかなる企 業も買収の対象となりうる現在において、過 半数の株を持つオーナーの存在によって、 K+Nは買収する立場にはあっても、買収さ れることはないというユニークなポジション にいる。
創業当初はドイツ国内のフォワーダーであ った同社が海外展開に乗り出したのは第二次 世界大戦後の一九五〇年代に入ってからのこ とだ。
まずは欧州大陸からはじめ、その後は 北米、さらにアジアへ拠点網を拡げていき、 現在では一〇〇カ国に計七五〇拠点を持つま でに至っている。
これまで同社はネットワークを構築してい く際、できる限り自前主義を貫いてきた。
業 務提携では情報システムの統合がうまくいか なかったり、サービスレベルに強弱が生じて しまうからだ。
高品質のサービスを維持する には自社のネットワークづくりが不可欠だと いう考え方は現在も受け継がれている。
その スタンスは同社の海外拠点のほとんどが一〇 〇%子会社であることからも窺い知ることが できる。
七〇年代に入り、本社をそれまでのブレーメンからクーネ家に縁のあるスイスのシンデ レギに移し、九四年には株式公開を果たした。
二〇〇四年にはコーポレート・アイデンティ ティー戦略の一環として、社名表記を従来の 「クーネ&ナーゲル」から現在の「クーネ+ナ ーゲル」に変更した(ただし発音は「クーネ・ ナーゲル」のまま)。
現在CEOを務めるヘルメス氏は二〇歳で K+Nに入社し、その後三〇年近く香港を中 心にアジア部門を担当してきた。
八八年から はアジア部門の最高責任者として日本での業 務立ち上げにもかかわった。
SEPTEMBER 2006 48 同社は七〇年代前半に三菱倉庫とジョイン トベンチャーを立ち上げた。
しかし、八〇年 代に入り、そのジョイントベンチャーを解消 して新たに一〇〇%子会社を用意した。
現在、 日本には東京・名古屋・大阪の三都市に計五 カ所の拠点を持っている。
ヘルメス氏は九九 年に本社に戻りCEOを務めている。
K+Nがサービスメニューの拡充を図る以 前は、売上高における海上貨物と航空貨物が 占める割合は九割前後あった。
それが今では 七割前後に落ちてきている( 図3)。
比率こそ 落ちてきたとはいえ、依然として海上と航空 が大幅に伸びていることがK+Nの強みだ。
「世界の貿易全体を見ると、海上貨物は年 率で八%伸びているのに対して、当社は二 〇%増、航空貨物は全体の三%増に対して、 当社は一〇%増を記録している。
K+Nの伸 びが貿易全体のトレンドを大きく上回ってい るのは、当社がトラッキングシステムを使い ビジビリティ(可視性)を提供できるのに加 え、ITをベースにしたロジスティクス商品 をそろえていること、それにこれまでの実績 だ。
海上貨物と航空貨物が、最終利益に大き く貢献していることに変わりない」とヘルメ スCEOは分析する。
主力サービスのフォワーディング業務では オーガニック・グロース(自力成長)を続け ながら、新規サービスとなる3PL業務やト ラック輸送についてはM&A(企業の合併・ 買収)で補強している点がK+Nの特徴の一 つだ。
3PL買収で特損が発生 二〇〇五年一〇月、K+NはACRロジス ティクス(旧ヘイズ・ロジスティクス)をア メリカの投資ファンド会社であるプラチナ・エクイティから四億四〇〇〇万ユーロ(六一 六億円)で買い取った。
ACRはK+Nが買 収した二つ目の3PL企業となる。
ACRはイギリスとフランスを中心に、ヨ ーロッパ十一カ国に一四〇カ所の拠点を持つ。
物流センターの総延べ床面積は二二〇万平方 メートルで、従業員は一万五〇〇〇人。
直近 の売上高は一二億ユーロ(一六八〇億円)で、 営業利益は六〇〇〇万ユーロ(八四億円)だ った。
ACRを傘下に収めるまでK+Nの3PL 部門の売り上げは一億五〇〇〇万CHF弱 (一三五億円)にすぎなかった。
「そのままで は3PLの売上高ランキングで五位にも入ら ない。
新規事業を成長部門に育てようと思え ば、一定規模の売上高が欠かせない。
少なく とも売上高で三本の指に入ることが必要だ。
今回ACRを買い取ったことで、二〇〇六年 にはK+Nの3PL部門の売上高は従来の約 三倍となり、(ドイツポストとTNTに次い で)第三位となる」とヘルメスCEOは指摘 する。
ただし、ヨーロッパのロジスティクス業界 では、K+NによるACR買収は高い買い物 だったという見方があるのも事実だ。
ACRの元の親会社であるヘイズがそのロ ジスティクス部門を売りに出したのは二〇〇 三年のことだった。
ヘイズのロジスティクス 部門はティベッツ&ブリテン(後にエクセル に買収される3PL企業)やエクセル(現在、 ドイツポスト傘下のDHLエクセル)と並ぶ イギリス屈指の3PL企業だった。
しかしA CRの親会社は本業である人材開発や人材派 遣に特化するために、ロジスティクス部門の 売却を決めた。
アメリカの投資会社に売却したときの価格 49 SEPTEMBER 2006 が一億ポンド(二〇〇億円)だった。
そのヘ イズ・ロジスティクスがACRに名前を変え て二年もたたない間に、買収価格が三倍以上 に跳ね上がった。
この取引で利益を上げたの は投資会社だった、と囁かれている。
しかし、ヘルメスCEOはそうした見方に 反論する。
「ヘイズからACRへと経営主体がかわった ことで、経営手法もそれまでの旧式のイギリ ス型の経営から新しいものへと様変わりした。
当社が買収するまでの一八カ月の間に、AC Rの業績は大幅に改善された。
買収金額は妥 当なものだったと自負している」 ヘイズが二〇〇三年にロジスティクス部門 を売りに出したとき、K+Nは同部門を買い たくても買うことができなかったのには理由 があった。
K+Nは二〇〇一年にアメリカの大手3P L企業USCOを三億ドル(三三〇億円)で 買収し3PL部門の土台を作った。
USCO は北米七〇カ所に一三五万平方メートルの物 流センターを持ち、従業員約三〇〇〇人の未 上場企業だった。
USCOの主な荷主として は製薬メーカー、小売業、ハイテクメーカー などがあった。
買収前の三年間は売上高が年 間三〇%以上伸びていた。
しかし買収が完了してから、USCOの経 営内容が、事前に調査した内容とは食い違っ ていることがわかった。
そのため、二〇〇二 年の決算では、二億CHF(一八〇億円)を 超える特別損益を計上する結果となった。
こ のため、二〇〇二年は最終利益がゼロとなっ た。
この特損さえなければ、売上高とともに、 最終利益でも右肩上がりのグラフを作成でき るはずだった。
つまり、ヘイズ・ロジスティ クスが売りに出された二〇〇三年はまだ特損 処理の段階で、新たにヘイズを買う余裕がな かったのだ。
「買収後最初の決算となる第一・四半期の 結果によって、われわれの判断が正しいもの であったことを確認できた。
ACRの買収で 3PL部門の売上高はほぼ三倍に伸びた。
現 場にも大きな混乱などはない」とヘルメスC EO。
USCOとACRを手に入れたことに よって、3PL部門を強化するための買収は ほぼ完了したという。
買収でドイツの配送網を整備 一方、K+Nがトラック輸送部門の拡充に 本腰を入れ始めたのは二〇〇〇年から。
まず は同社にとって最も取扱貨物量の多いドイツ 国内の配送網を整備するため、IDSネット ワークという地場の中小トラック会社が共同 で作った路線便のネットワークに参加。
それ と同時に、同社の株式を三〇%取得した。
また、IDSネットワークに参加していた トラック運送会社を合計で四社買収した。
四 つ目となる企業を買収したのは今年四月のこ とだった。
ドイツ北部のオルデンブルクに本 社を置くF・W・DEUSという会社だ。
K+Nの売上高全体に占めるトラック輸送 部門の収入比率は高くないが、二〇〇五年には前年比三二%増となっている(決算では 「鉄道・トラック貨物」として計上)。
「ドイツ をヨーロッパにおけるトラック輸送業務の中 核として、EUに加盟している東欧諸国や北 はスカンジナビアまで広げていく。
そこから 南や西に伸ばしていく方法として、新たにト ラック運送会社の買収を考えているところだ」 とヘルメスCEO。
今後は従来のサービスと新規サービスをど のように有機的に結びつけて、業績につなげ ていくかがK+Nの課題となりそうだ。
( 本誌欧州特派員 横田増生) 会社概要 社名クーネ+ナーゲル (Keuhne+Nagel) 本社スイスシンデレギ (Schindellegi) 創業1890年 会長クラウス-マイケル・クーネ CEO クラウス・ヘルメス 売上高140億490万スイスフラン (1兆2604億円=2005年度) 従業員数2万5607人(2005年度) クーネ+ナーゲルの本社

購読案内広告案内