ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
特集
クロネコヤマト解剖 元請けの座は3PLにシフトした

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 22 重量逓減タリフでは儲からない ――特積み会社は長らく物流業界のリーダー的立場に あったわけですが、ここ数年、各社の業績は低迷が続 いています。
「二〇〇六年三月期の決算を見ると、特積み会社の場 合、3PLや航空フォワーダーなどに比べ、本業部分 の収益性を示す営業利益率が極端に低くなっています。
いまや特積み事業を主力とするトラック運送会社は業 界のリーダーどころか、マーケットにおいては負け組 として認知されているというのが実情です」 ――この傾向をどう分析していますか? 「国内貨物量は縮小均衡にあります。
原油高騰や人材 確保の問題などコストアップ要因 も少なくない。
特積 み会社を取り巻く環境が厳しさを増しているのは事実 です。
ただし、特積み会社の不振の原因はそれだけで はない気がする。
お客さん側(荷主)の特積み会社の 使い方が昔とは大きく違ってきていることが影響して いるのではないでしょうか。
簡単に言ってしまえば、 物流の元請けとして機能していた特積み会社が、その ポジションを3PLや区域業者に奪われてしまったこ とが大きい」 「少し乱暴な表現をすれば、物流やロジスティクス の重要性がそれほど認識され ていなかった時代は、貨 物のサイズに合わせて特積みと貸し切り輸送をきちん と使い分けるという発想がお客さん側にはなかった。
『とにかく目的地まで貨物を運んでくれればいい』と いうスタンスで、輸送業務の管理はトラック運送会社 に丸投げしていたわけです。
そしてその受け皿が特積 み会社でした。
それこそ高度経済成長の時代やバブル 景気の頃、トラック輸送は売り手市場で、運賃は言い 値でしたから、特積み会社はかなり儲かっていた」 ――ところが、九〇年代に入り流れが変わった。
「お客さんが物流の合 理化に目覚めたのです。
ロッ トがまとまる貨物は貸し切りで運ぼう。
貸し切りのほ うが運賃は安いし、中継地での積み替え作業などが発 生しない分、輸送品質もいい。
貸し切りにマッチしな い貨物だけを特積みに任せよう、といった具合にお客 さんが自分たちで輸送をきちんとコントロールするよ うになった。
規制緩和でトラック運送事業者同士の競 争が激しくなり、運賃は低下し、それに伴い市場の主 導権は売り手側から買い手側に移りました」 「3PLと称してお客さんの懐に 深く入り込み、物 流センター運営や輸配送を一括で受託するなど一部の 区域業者が実力をつけたことも特積み会社にとっては 痛手だった。
お客さんは物流の元請けに区域業者を指 名するようになった。
それによって特積みと区域の立 場が逆転してしまい、現在では特積みは区域の下請け に甘んじているのが実情です。
建設業界では依然とし て経営規模の大きいゼネコンが元請けとして機能し、 その下に中小零細の建設業者が下請け、孫請けとし てぶら下がるピラミッド構造になっています。
これに 対して、物流業界では中小 零細の区域業者に頭を下 げて、大手の特積み会社が貨物をもらう逆転現象が 起こっている。
珍しい業界です」 ――元請けの座を失った結果、特積み会社には儲から ない貨物しか集まらなくなった。
「現在、特積み会社に寄せられている貨物のジャン ルは大きく三つに分けられます。
一つは中ロットと呼 ばれる一トンや二トンといったサイズの貨物です。
中 ロットの貨物は四トン車や一〇トン車を貸し切るとコ ストが合わないため、特積みが利用 されています」 「適正運賃を収受できていれば、特積み会社は中ロ ット貨物でもきちんと利益を出せるはずです。
しかし 「元請けの座は3PLにシフトした」 フットワークエクスプレス浅井克仁 社長 特積み会社には中ロットや異形物など利幅の薄い貨物 ばかりが集まるようになった。
輸送の元請けとしての立場 を失ってしまったことが影響している。
キロ当たり単価の 高い小ロット貨物のマーケットも奪われつつある中堅クラ スの特積み会社は3PLに新たな活路を見出そうとして いる。
(聞き手・刈屋大輔) 路線便の陳腐化と次の一手 23 JULY 2006 市場では昭和五七年や昭和六〇年といった運賃タリ フの水準で取引されているため、ほとんど利益が残ら ない。
現在の運賃水準からすると、五〇〇キログラム を超えるロットの仕事の多くはコスト割れして赤字で す。
特積みの運賃は重量が増すごとに貨物一キログラ ム当たりの運賃単価が小さくなっていく『重量逓減』 の仕組みになっています。
その逓減率があまりにも強 すぎて中ロット以上の貨物は商売にならなくなった」 小ロットも取られてしまった ――キロ当たり単価の高い小口分野にターゲットを絞 るという選択もあるでしょう? 「すでにこの領域はヤマト運輸や佐川急便によって 支配されつつあります。
かつてこの二社がメーンにし ていたのは宅配便サイズの貨物、つまり三〇キロ以下 の貨物でした。
それが近年では一〇〇キロや二〇〇キ ロといった、ロットがまとまっていても比較的キロ当 たり単価の高い貨物にまでターゲットを拡げてきてい ます。
もともと特積み会社はこうした小ロット貨物と 中ロット貨物の双方を集めることで収益のバランスを 保ってきました。
しかし、彼らに肝心の小ロットの仕 事を奪われてしまった」 ――二つめのジャンルは? 「一 個二個といったもっと小口のバラバラとした貨 物です。
繰り返しになりますが、この分野に強いのは ヤマトや佐川です。
両社のようなきめの細かいネット ワークを持っていない当社みたいな中堅クラスの特積 み会社にとって、一個二個といった貨物を扱うことは あまり効率のいい仕事とは言えません。
道交法改正で 路上駐車の取り締まりが厳しくなっており、今後は集 配トラックのツーマン乗車を余儀なくされる可能性も あります。
仮にそうなったらコスト負担が増すわけで すから、ビジネスとして到底合わなくなってくる」 「三つめは建材や合板やドラム缶といった異形物と 呼ばれる貨物です。
区域の業 者はパレット積みで荷役 が容易なまとまった貨物を好む。
その結果、バラ扱い で荷役に時間が掛かり、積載効率の悪い異形物が特 積みに流れています。
現在、中ロット、小口、異形物 の三つのジャンルの仕事は、残念ながら現行の運賃タ リフ下では全て負けゲームになってしまう」 ――事態を改善できる可能性はありませんか? 「運賃値上げとコストダウンに尽きます。
すでにコ スト削減は限界の域に達しており、実際には運賃値上 げしか手段は残っていない。
ところが、運賃はなかな か上がら ない。
業界内で運賃値上げの機運が高まって も、最終的には業者同士が足の引っ張り合いをして実 現できていません」 「お客さんに『運賃を上げさせてください』と頭を 下げる営業スタイルでは通用しません。
付加価値のあ るサービスの提供など他社との差別化が不可欠です。
ヤマトや佐川に対抗してネットワークの充実を図って 小口を開拓していくという戦略は、非現実的な話です。
結局、中堅クラスの特積み会社は区域業者と同様、3 PLに活路を求めるしかありません」 ――3PL化に成功して いる特積み会社は少ない。
「ネットワークさえ用意しておけば、黙っていても 貨物が集まる。
もうそんな時代ではない。
経営トップ はもちろん、現場で働く社員たちにも頭の中を切り替 えてもらう必要があります。
特積み会社は運賃の計算 こそできますが、お客さんの物流コストをどうやって 下げていけばいいのかといったロジスティクスやSC Mの勉強をこれまでしてこなかった。
特積み会社が3 PLや区域業者から物流の元請けの座を奪い返すま でには時間が掛かりそうです」 PROFILE あさい・かつひと 東京大学経済学部卒業後、三菱 銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。
INSEAD (欧州経営大学院)にてMBA取得。
ビジョン・キャ ピタル・コーポレーション、オリックスを経て、 02年オーエスエル(現・フットワークエクスプレ ス)副社長。
03年代表取締役社長に就任し、現在 に至る。
特積み貨物のkg当たり運賃 輸送重量(kg) 120 100 80 60 40 20 0 kg当たり運賃(円) 500kg〜3500kgま でのkg当たり運賃の 差はわずか2円程度 100 300 500 3500 平成11年基準運賃 輸送距離501km〜550kmまでの場合 特 集

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