ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
特集
クロネコヤマト解剖 ポスト宅急便のマーケティング

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 14 宅配便のコモディティ化 「宅急便」の単価下落が止まらない。
この五年間で 七三二円から六五三円へ、一〇%超値下がりした。
今 後も反転は期待できない。
市場の淘汰が終わり、勝ち 組同士の競争になった今日、サービス品質による差別 化は難しくなっている。
ライバルとの価格差は縮まる 一方だ。
郵政公社によるコンビニの囲い込みも、定価 で売れるチャネルだけに単価下落に拍車をかける。
それでも、まだ他社とは単価で一〇〇円以上の開き がある。
巨額の投資を必要とする配送ネットワークの 整備は既に峠を越えた。
今後しばらく宅急便は収穫 期 が続く。
黙っていても?金の成る木〞が実をつけて いる間に、次の収入源を育てる必要がある。
宅急便依存体質からの脱却がヤマトにとって最大の 経営課題であることは、既に九〇年代から指摘されて いた。
そのために、これまでも引越やメール便、ロジ スティクス事業、ネット関連サービス、ファイナンス 事業など数々の手を打ってきた。
しかし、今のところ どれも柱と呼べるほど育っていない。
郵政民営化は来年四月に迫っている。
これに先立 ち郵政は今年度、郵便事業の強化に一八〇〇億円に も上る投資を断行する計画だ。
配達員の携帯端末を 刷新し、貨物追跡システムを整備するほか、今年度中 にもクール便の発売に踏み切る予定だという。
人材面での補強も急いでいる。
四月には日本通運 の山崎勝英前副社長を、ファミリー企業の日本郵便 逓送のトップに据える人事を発表。
郵便事業会社の 社長候補にも、日立物流の山本博巳前社長をはじめ 物流業界の有力者が名を連ねる。
これまで以上に熾 烈なヤマト包囲網をしかけてくるのは必至だ。
郵政との闘争に、これまでヤマトは単独で挑んでき ポスト宅急便のマーケティング 宅配便市場もいよいよ成熟した。
今後は限られたパイの奪 い合いになる。
競争相手の顔ぶれは既にハッキリしている。
宅配便は佐川急便、メール便では郵政公社、国際物流は欧 米の国際インテグレーターだ。
ヤマトはどこに投資して、何 を捨てるのか。
味方とはどう協働していくのか。
(大矢昌浩) た。
事業運営はもとより、いわゆる信書便論争でも物 流業界に共闘を求めることはなかった。
しかし郵便事 業だけで約二兆円の規模を持つ郵政と、体力勝負に なるのは分が悪い。
リソースを集中して勝ちに行く分 野と、パートナーとの協働でカバーする領域を選別す る必要がある。
メール便は宅急便と並ぶ最重点事業だ。
ライバルの 佐川や日通は郵政の配送網を利用することでメール便 のインフラ投資を避ける戦略をとっている。
携帯メー ルやeメールの普及で郵便需要は年々減少する傾向 にある。
投資を回収できるほどの成長分野にはなり得 な いという判断だ。
これに対してヤマトは宅急便で得 た利益をメール便に集中投下しネットワークを自社単 独で整備しようとしている。
宅急便と同様に、商品力 によって新たな需要を創造できるという読みがその前 提になっている。
ヤマトの読みが当たれば、メール便は第二の収入源 になる。
宅急便依存体質を払拭できる。
ただし容易な 道程ではない。
当初、ヤマトはメール便を宅急便のイ ンフラを利用した付帯事業として認識していた。
しか し取扱数を増やしていくにつれ、それが間違いであっ たことに気付かされた。
宅急便のネットワークでメー ル便は配送できない。
宅配便には、配送先と対面して サインやハンコをもらう?判取り〞が必要だ。
一方の メール便はポストに投げ込むだけでいい。
ただし単価 は低い。
投げ込み作業をペイさせるには、配送密度が 必要だ。
年間約二五〇億通の郵便を扱う郵政公社は 毎日二軒に一軒の密度で配送物がある。
これに対して ヤマトのメール便は急増しているとはいえまだ郵政の 一〇分の一以下のレベル。
それを処理するために宅急便の「セールスドライバ ー(SD)」とは別に「クロネコメイト」と呼ぶ主婦 15 JULY 2006 層を業務委託契約やパートで組織化しているが、一通 一五円から二〇円程度の単価ではなかなか人が集まら ない。
品質面の問題も大きい。
そこで一昨年から年間 契約のパート社員として「メール便ドライバー(M D)」と名付けた新たな職制を設定。
メイトからの転 換を進めている。
今年三月末時点でヤマトは全国に約 七万七〇〇〇人のパートタイマーを抱えている。
うち 一万五〇〇〇人程度がMDと推測される。
残りの大 部分はパート契約のメイトも含めた長期パートで、業 務委託契約のメイトや短期バイトはそこに含まれてい ない。
この膨大なパート層の労務管理が現在、ヤマト の最も 大きな課題となっている。
普通の3PLには手を出さない リスクをとって、メール便のインフラ整備を進める 一方、その他の事業は利益重視を明確にしている。
3 PL事業も「無理をして手は拡げない。
先入れ先出し など倉庫内の在庫管理も含めた貨物のトレーシングや、 国際物流絡みの保管業務など、当社の強みを活かせ る分野に対象を絞る。
一般に言われている3PLなら、 どこでもできる。
オンリーワンを目指す当社の戦略は 3PL事業でも変わらない」とヤマトHDの瀬戸社長 は説明する。
郵船グループや西濃、日通といった大手同業者との 提携も、選択と集中の結 果だ。
競争力のある宅急便 周りの事業では独力で郵政や佐川、国際インテグレー ターに立ち向かえる。
しかし中堅以上のメーカーとの パイプや、中ロット以上の輸送インフラ、国際物流は 不得手としてきた領域だ。
買収も検討したが、有望な 案件に乏しい。
市場は待ってくれない。
規模の拡大を追わず、宅配専業で手堅くキャッシュ を積み上げていくべきだとの声もある。
しかし成熟市 場で右肩上がりの成長が止まれば組織が保たない。
物 流市場は業界再編と淘汰の時代を経て、生き残 った 勝ち組同士が国境を越えて荷物を奪い合う大競争時 代に入っている。
専業のまま手堅く立ち回ろうとして も、競争と無縁ではいられない。
それは他の日系物流企業も同じだ。
国際物流でヤ マトと手を組んだ日本郵船の宮原耕治社長は「当社 も海上輸送だけの一本足打法では生き残っていけない。
とりわけ陸送部分をどう補強するかは、ここ数年の大 きな課題だった。
今回、ヤマトさんと単なる業務提携 ではなく資本提携まで踏み込んだのは、この提携が形 式だけの取り組みで はないことを示したかったからだ」 と話している。
物流企業同士の提携は過去にほとんど成功例がな い。
投資家受けを狙った言葉だけの提携も枚挙に暇が ない。
不採算事業の共同化によるコスト削減など、そ の狙いもこれまでは後ろ向きのものが多かった。
物流 企業の大規模な買収も活発化していない。
日本の物流業界には上場している大手でも創業者一族のファミ リービジネス的な企業が多い。
合理的な買収提案であ っても経営破綻しない限り売り手にはならない。
今後、日本では勝ち組同士による資本提携が常 套 手段となりそうだ。
ただし資本の交換や、相互のネッ トワークを繋げるだけでは何も果実は生まない。
設計 思想の違うインフラを繋げた不完全なプラットフォー ムは機能しない。
むしろアセットが制約となって、3 PLのようなカスタマイズしたソリューションにはマ イナスに働く。
新しいサービス商品の開発が突破口に なる。
荷主のニーズを分析し、それを満たす商品を設 計して、提携先と投資やオペレーションのリスクと報 酬を分担する。
その売れ行きが提携の求心力になる。
物流サービスのマーケティングが問われている。
物流市場の勢力図とヤマトHDの戦略 日本郵船グループと提携 商品別宅急便 UPSと提携 宅急便 クロネコメール便 大手特積各社と提携 クロネコヤマト 引越センター ドイツポストと提携 特 集 宅急便のコモディティ化が進んでいる 大手各社の宅配便平均単価の推移(単位・円) 750 700 650 600 550 500 450 400 17 年度 16 年度 15 年度 14 年度 13 年度 12 年度 732 721 710 682 666 653 537 518 605 佐川急便 ペリカン便 宅配便 ゆうパック

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