ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
海外Report
付加価値サービスはすぐに陳腐化利益の上がる契約書の作り方とは

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 48 荷主はコスト重視か? キャップジェミニ フィリップ・ハーカー エグゼクティブ・コンサルタント(以下、 司会) 今日のロジスティクス市場におい て3PL企業の関心はいくつかに分けるこ とができます。
関心の大きなものとして? 荷主の国際化にどう対応するのか、?荷主 と3PL企業はどのような協力関係をつく るのか、?どのような付加価値サービスを 提供すればいいのか、?どうすれば利益の 上がる契約が結べるのか――という四点に集 約できます。
その中でも、今回のパネルデ ィスカッションでは、?と?に的を絞って 議論を進めていきたいと考えています。
コンサルティング会社であるキャップジ ェミニは過去一〇年にわたって欧米の3P L業界におけるアンケート調査を行ってき ました。
最新の調査結果からは非常に興味 深い傾向が読み取れます。
荷主が契約を結 ぶ際に何を一番重視するかという質問に対 して、二年前は、付加価値サービスがトッ プでした。
これに対して昨年は基本サービ ス(コア・サービス)が一番です。
そして 今年はコストが一番となりました。
この二年で、荷主は付加価値サービスよ りも、コストを重視するようになったと読 むことができますが、実は3PL業界のレ ベルアップが原因だという分析もできます。
付加価値サービスはすぐに陳腐化 利益の上がる契約書の作り方とは 最新の調査によると、荷主が3PLと契約を結ぶ際に最も重視するのはコストだという。
付加価値サービスの提供も、もはや他社との差別化要素にならなくなってしまった。
荷主 と3PLとのパートナーシップ関係は未だ構築されていない。
互いの腹を探り合う状況は どうすれば解消できるのだろうか。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州3PL会議2005報告《第5回》 キャップジェミニフィリッ プ・ハーカーエグゼクティ ブ・コンサルタント パネリスト メンロ・ワールドワイド・ロジスティクス欧州 ガート・アスクス マネジング・ディレクター ウィンカントン リチャード・コネリー トランスポーテーション・ソリューション部長 BAXグローバルマーティ・ディクソン マーケティング部長 司会者 キャップジェミニ フィリップ・ハーカー エグゼクティブ・コンサルタント 3PL座談会 49 JULY 2006 各社が付加価値サービスを追求した結果、 それまで基本料金とは別に料金をもらって いた付加価値サービスが、基本サービスと なっているのです。
これは3PL企業が利 益を確保していくうえで、大きな課題です。
パネリストの皆さんには自己紹介に加えて、 まずこの付加価値サービスについてお話を うかがいたいと思います。
ウィンカントン リチャード・コネリー トランスポーテーション・ソリューション 部長(以下、ウィンカントン) 当社はイ ギリス南部に本社を置く、売上高約二三億 ユーロ(三二二〇億円)の3PL企業です。
現在は欧州一五カ国で業務を展開していま す。
私は、トランスポーテーション・ソリ ューション部門のトップを務めています。
本社にある私の部門は、業務の現場とは別 の部隊で、IT(情報技術)や人事、コン サルティングなどの専門家を抱えて、既存 の三〇〇社の荷主に対して業務改善を提案 しています。
本社に部隊をつくったのは、現場は日々 の業務をこなすのに忙しく、担当している 荷主のサプライチェーン全体を見直すため の時間的なゆとりがないからです。
五年前 には本社の別部隊から荷主に改善提案をす るのが付加価値サービスでした。
しかし現 在では基本サービスの一環として行ってい ます。
司会者の話にあった通りで、昨日ま での付加価値サービスが、今日には基本サービスになり、新たな付加価値サービスを 生み出す必要に迫られています。
BAXグローバル マーティ・ディクソン マーケティング部長(以下、BAX) B AXグローバルはアメリカに本社を置き約 二五億ドル(二七五〇億円)を売り上げる ロジスティクス企業でしたが、二〇〇五年 下期にシェンカーを子会社に持つドイチ ェ・バーンの傘下に入りました。
BAXグ ローバルの主な業務は、フォワーディング と3PLです。
フォワーダー出身というこ ともあり、われわれが得意とするのは、荷 主の国際化に絡んだ業務です。
荷主のサプ ライチェーンが海外にのびる時に威力を発 揮します。
付加価値サービスについていえ ば、ヨーロッパでの環境保護のための規制 強化の動き(家電リサイクル法案、通称W EEE指令)が加速した二〇〇二年頃から、 われ われが規制の対象となる家電メーカー に代わって、リバースロジスティクスの業 務を行うケースが増えています。
メンロ・ワールドワイド・ロジスティクス 欧州 ガート・アスクス マネジング・デ ィレクター(以下、メンロ) メンロはサ ンフランシスコに本社を置く3PL企業で、 親会社は路線便業者も持っているコンウエ イです。
私はメンロのヨーロッパ部門で営 業を統括しています。
付加価値サービスや 契約の実態を話し合うには、荷主と3PL 企業の関係がどうなっているのか。
依然と して古いタイプの仕事を発注する側と下請 け側という主従関係なのか。
それとも本当 の意味でパートナーシップを結んでいるの か。
それをじっくり考える必要があります。
もちろん荷主との関係は、荷主ごとに違う ものですが。
その関係を考えることが付加 価値サービスや、契約の内容ということを 話し合ううえでの前提になります。
オープンブックなら利益は二〜三% 司会 3PL企業が付加価値サービスを提 供する理由は三つあります。
一つは利益率 を増やす、あるいは確保するため。
二つ目 は契約を更新するため。
そして三つ目は、新たな業務受注につなげるためです。
では 今日、荷主はどんな付加価値サービスを求 めているのでしょうか。
メンロ 産業ごとに求めるサービスは異な っていますが、中でも製造業において顕著 になってきたのは、従来のロジスティクス 業務にとどまらず、より製造ラインに近い 業務を求められるようになっていることで す。
工場のアウトバウンド業務であれば、 製造の最後の工程に当たる簡単な組み立て 作業までを3PL企業の業務範囲に入れて くれという要求です。
インバウンド業務な メンロ・ワールドワイド・ロ ジスティクス欧州 ガート・ アスクスマネジング・ディ レクター JULY 2006 50 ら、単に仕入先に部品などを取りにいくだ けではなく、ベンダー管理まで行ってほし いという声です。
かつてははっきりと分か れていた製造ラインとロジスティクス業務 の境目がだんだん曖昧になってきて、その 部分を3PL企業に引き受けてもらいたい という要求が増えつつあります。
司会 3PL企業は現場のオペレーション を行うと同時に、サプライチェーンの設 計・計画に携わってほしいという荷主側の 意見もありますが、実際はどのくらいの荷 主が設計や計画までを任せようとしている のでしょうか。
BAX それも荷主によって大きく異なる でしょう。
IBMやジレットのように長年 ロジスティクス業務を外注してきた企業は 3PL企業との付き合い方においても成熟 しています。
しかし、外注を始めたばかり という荷主は3PL企業との取引に手探り の部分が多く残っています。
そういう荷主 が3PL企業にサプライチェーンの設計や 計画までを任せるには時間がかかります。
一つはラーニング・カーブの問題。
二つ目 として企業文化の問題もあります。
3PL 企業は外注先にすぎないのだから、現場の 仕事だけをやっていればいいんだという荷 主も少なくない。
そういったタイプの荷主 は、それまでの外注の期間の長短に関係な く、設計や計画を外部に任せるという発想 がありません。
ウィンカントン 荷主と結ぶ契約にも同じ ようなことがいえます。
初めての契約の場 合は互いの仕事のやり方やレベルがわから ないため、「オープンブック」と呼ばれる輸 送原価を公開してそれに利益をプラスする という方法をとるのが普通です。
しかし、この手法だと利益率はせいぜい二、三%ど まりです。
最初の契約から二、三年経つと、 3PL企業は「オープンブック」から「ク ローズドブック」に切り替えて利益率を高 めようとしますが、中にははじめから話に 耳を傾けない荷主もあります。
「あなたたち は、貨物をトラックに積んで運んでくれさ えすればいいんだ」という態度です。
そう なると3PL企業のできることは限られて く るし、儲かる商売にはなりません。
逆に、荷主の経営者が参加する戦略会議 にわれわれ3PL企業を参加させてくれる 企業もあります。
そこでは社外秘の戦略が 具体的な数字とともに話し合われています。
3PL企業として荷主のサプライチェーン の最適化に貢献するには、経営の内情を知 っておく必要があることを理解してくれて いるのです。
メンロ 3PL企業から仕掛けて荷主にサ プライチェーンの重要さを認識してもらう こともできます。
わが社には「ドリーム・ ザ・フューチャー」プロジェクトと呼んで いる非公式の会議がありますが、この会議 の目的は荷主のロジスティクス担当者に協 力してもらい、荷主の経営陣と話し合うこ とです。
そこでの話し合いの中身は、その会社の 未来のサプライチェーンのあるべき姿です。
現状の問題点や、業務内容を変更したら契 約にどう影響するのかといった現実の問題 を、いったん全部棚上げにして、五年後の 理想のサプライチェーンを描くためだけに みんなで知恵を絞るのです。
現実の条件を すべて取り払うために、そのプロジェクト から何度もすばらしいアイデアが生まれて きましたし、荷主がサプライチェーンをと らえる姿勢に変化が見られるようになった のも収穫の一つです。
司会 最初に紹介した3PL調査によると、 欧州の八〇%を超す荷主が、ロジスティク ス業務は同業他社に対して優位性を保つ戦 略となる、と答えています。
荷主はそれほ どロジスティクス業務を重視しているわけ ですが、それが契約内容に反映されていま すか。
具体的には付加価値サービスが利益 につながる構造になっていますか。
成功報酬の難しさ BAX ロジスティクス業務と同様に荷主 が重視していることにコスト削減がありま ウィンカントンリチャード・ コネリートランスポーテーシ ョン・ソリューション部長 51 JULY 2006 す。
サービスの品質とコストを常に天秤に かけて荷主と交渉していくことが求められ ます。
ある大手荷主に対して、五年前、当 社はトラック輸送全体の七五%を供給して おり、残りの二五%は下請け業者を使って いました。
今ではその比率が逆転して、当 社の貸切便は二五%となり、下請けが七 五%となりました。
BAXが依然としてロ ジスティクス業務の元請けであることに変 わりはありませんが、それでも当社の収入 は減少します。
しかし当社の業務は品質を 落とすことなく、コストを下げることであ り、その結果、当社の収入が減ってしまう こともあるのです。
メンロ 成功報酬にあたるゲインシェアリ ングの導入は、もう何年も業界で話し合わ れてきましたが、なかなかうまくいきません。
業務の効率化が図れたら、あるいは新 しいサービスを始めたら、それに見合った 報酬を出そうと決めても、業務の効率化に 関しては、荷主と3PL企業の間でお互い の貢献度に対する考えが一致することはま ずありません。
新サービスにしても、どち らが考えたのか、一緒に考えたのか、から 議論が始まって、その新サービスを導入す るときの双方へのメリット、デメリットな どについて話し合いがまとまらないことが 多くあります。
ウィンカントン 付加価値サービスを、だ れもが納得するかたちで契約に書くことの 難しさはそこにあります。
荷主と最初に契約したときから、どんな付加価値サービス を提供することになるのかは想定できませ ん。
仕事が軌道に乗った後で、改善点が見 つかりそれが付加価値サービスにつながる からです。
それに先に説明したように、五 年前、私の属する本社の専門家チームは付 加価値サービスとしてスタートしましたが、 今では基本サービスとなっています。
その ため、当社に限らず3PL各社は、新しい 付加価値サービスを常に探し出していかな ければいけないのです。
その点、家電リサイクル法の施行による リバースロジスティクス業務などは付加価 値サービスのわかりやすい例です。
それま でなかった業務を、荷主に代わって手掛け るわけですから、確実に収入アップにつな がります。
当社では、このリバースロジス テ ィクス業務を新たな付加価値サービスと して取り込んでいるところです。
BAXグローバルマーテ ィ・ディクソンマーケティ ング部長

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