ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
ケース
低温物流--ニチレイ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 36 都内百貨店が一斉に納品集約へ ?デパ地下ブーム〞以来、百貨店の食品売 り場は激戦区として注目を集めている。
各店 舗とも、人気のスイーツや和洋総菜から高級贈答品まで、幅広いジャンルで魅力的な商品 を品揃えして集客に力を入れている。
だがブ ームの裏では、これらの商品の納品車両によ る店舗周辺の交通混雑に、関係者は頭を痛め てきた。
百貨店の食品売り場に並ぶ商品の多くは、 取引先の仕立てた車両で店舗に直接納品され ている。
百貨店で扱う他の商品と比べて、食 品は取引先の数が多く、それだけ車両台数も 多い。
そのうえ?デパ地下ブーム〞で素材や 調理法にこだわった商品が増え、鮮度がより 重視されるようになったことから、納品の少 量多頻度化が以前よりも進んできている。
店舗周辺の渋滞問題に百貨店がまったく手 をこまぬいてきたわけではない。
これまでも 納品車両を減らすために、さまざまな対策を 講じてきた。
とりわけここ数年は、アパレル 製品や雑貨類などで調達の見直しが進んでい る。
主要な百貨店が相次いで「指定納品代行 制度」を導入。
これまでの取引先別の納品を 改め、指定納品代行業者のセンターを経由し て店 舗に一括して納品するかたちに切り替え ている。
そのなかで最後まで集約の遅れてい たのが食品だった。
関東百貨店協会が二〇〇四年に行った推 計によると、都内の百貨店に出入りする車両 台数は一日当たり一万一〇〇〇台近くに上っ ている。
このうち七五%を売上構成比では二 割強に過ぎない食料品の納品車両が占めてい る。
百貨店で扱う商材のなかでも突出してい るのは明白だ。
環境対策に力を入れる東京都からのアドバ イスもあって、都内の百貨店各社は〇四年か ら食品分野の調達物流改革に本腰 を入れて取 り組み始めた。
しかも同年十一月には、関東 百貨店協会の名で「加盟する都内の全店舗が 食品を含めたすべての商品について、〇五年 度中に指定納品代行制を導入する」という宣 言まで行っている。
新しい制度を導入するに当たり百貨店各社 の足並みが揃わないと、取引先側の対応に不 都合が生じる。
取引先の協力を得やすい環境 をつくるために、百貨店業界が一丸となって取り組む姿勢を明らかにしたのがこの宣言だ。
さらに期限まで明示することで早期実現の意 欲 をアピールした。
この宣言を機に、都内の百貨店では食品の 調達物流改革の機運が一気に高まった。
ニチ レイが百貨店向けの食品共同配送という新規 分野に目を向けたのは、こうした機運の高ま りを背景にしている。
ニチレイグループは、量販店やCVS、外 食チェーンなどのセンター運営および店舗配 送事業ではすでに多くの実績を持っている。
しかし百貨店の調達物流はこれまでほとんど 低温物流 ニチレイ 食品の納品代行制導入を追い風に “デパ地下共配”に新規参入 ニチレイが百貨店向けの食品共同配送事業に乗り出 した。
都内の百貨店は一昨年から食品を店舗に納品す る車両の台数削減に着手している。
この動きを受け、 新たな共配市場の開拓が期待できると見て参入を図っ た。
今年1月に三越から納品代行業者の指定を受けた ことも弾みとなり、既に荷主数は9社まで増加している。
37 JULY 2006 手つかずだった。
この分野で、百貨店みずか らが調達物流の見直しに乗り出したことを、 新たな市場開拓のチャンスととらえた。
社内研修で新規事業を提案 ニチレイグループは〇五年四月に持株会社 体制に移行した。
持株会社のニチレイの下、 加工食品や低温物流などの従来の社内カンパ ニーがそれぞれ事業会社となって、傘下のグ ループ企業を管理するかたちだ。
低温物流部 門では、これに先立つ〇四年四月に組織改革 を実施し、「低温物流カンパニー」のもとに 事業をネットワーク型と地域保管型とに再編 している。
この枠組みは、持株会社体制へ移 行した後もそのまま引き継がれた。
新体制では従来の低温物流カンパニーに代 わって、事業会社の「ニチレイロジグループ 本社」が、傘下にある輸配送会社の「ロジス ティクス・ネットワーク」、3PLの「ロジ ス ティクス・プランナー」、特定顧客向けの センター運営会社「ロジスティクス・オペレ ーション」、そして地域別の倉庫会社を統括 している。
( 図1 ) これら傘下の会社はそれぞれの特徴を活か して事業を展開し、「ニチレイロジグループ 本社」はこれを支援する。
同時にロジグルー プ本社はグループ全体で取り組む新規事業の 開発にも当たる。
今回の百貨店共配の事業化 も、ロジグループ本社の営業推進部が主導し ている。
ニチレイには、キャリア開発支援を目的と した社内研修制度がある。
実践的なカリキュ ラムが特徴で、経営や財務 の基礎を学ぶだけ でなく、成長の見込める分野における新規事 業の提案も行う。
提案のなかから経営トップによる審査に合格した案件については事業化 が認められる。
この〇四年度の研修に、営業 推進部から百貨店共同配送プロジェクトリー ダーである立川哲二副部長が参加して百貨店 共同配送を新規事業として提案した。
ニチレイの低温物流グループでは、「神戸 コロッケ」などのブランドで知られる総菜メ ーカーのロック・フィールドと以前から取引 があった。
埼玉県内の拠点でセンター業務と 首都圏などの主な百貨店への配送業務を受託 して いた。
営業推進部ではこのルートを足が かりに新規事業への参入をめざして、準備を 進めていた。
アパレル製品など非食品の納品については、 この時点ですでに、百貨店によっては九割以 上が納品代行業者に集約されていた。
それに 対し、食品は大半が自家用車などで納品され ていた。
営業推進部では独自の調査をもとに 納品のおよそ六割を自社便が占めると推定、 仮にこれらがすべて集約された場合には、百 貨店に出店するテナントの数などから関東地 区だけで二〇〇億円規模の共同配送市場が生 まれるとはじき出した。
この市場規模に対して納品代行業者の既存 の 拠点だけではスペースが不足すると見て、営業推進部では「首都圏をはじめ全国にグル ープ会社の低温物流拠点と輸配送ネットワー クを持つニチレイが、これらの基盤の上で市 場へ参入する余地は充分にある」(立川副部 長)と考えた。
三温度帯管理で差別化 この提案は経営陣に受け入れられ、翌〇五 年一月に百貨店共同配送の事業化が正式に 決定した。
ニチレイロジグループの山室達雄 執行役員経営企画部長は、「都心の交通事情 に改めて目を向けると、百貨店だけでなく駅 ニチレイロジグループ 本社の立川哲二  営業推進部 副部長 ニチレイロジグループ本社 ネットワーク事業 地域保管事業 その他事業 ロジスティクス・プランナー ニチレイ・ロジスティクス各社 東洋工機 欧州8社・中国1社 ロジスティクス・オペレーション ロジスティクス・ネットワーク キョクレイ 3 P L事業 T C・ P C事業 運送流通事業 海外事業 エンジニアリング事業 図1 JULY 2006 38 るなど、厳しい衛生管理基準も設けた。
これらの温度管理や衛生管理体制は「食品 の共同配送で顧客が最も重視する品質面で大 きな強みになっている」と立川副部長は自負 する。
なかでも冷凍倉庫を装備したことは営業活動で一つのセールスポイントになった。
というのも、食品売り場には冷凍帯で管理す る必要のある商品が思いのほか多いからだ。
店舗で揚げたての状態で販売するフライや 天ぷらなども、流通過程では冷凍帯で管理す ることが少なくない。
メーカーの工場で下ご しらえだけして冷凍状態で出荷し、店舗に納 入してから油で揚 げて売り場に出す。
これを センターで一時保管する際に冷凍施設で充分 な温度管理が行われないと、理想的な状態で カラッと揚がらない。
新たに同社の顧客とな った総菜メーカーのなかには、そうした悩み を抱えていたところもあり、センターの冷凍 庫で一時保管できるなどの品質面が、評価の 決め手になったという。
センターだけでなく輸送中の管理について も、三温度帯への対応を図った。
温度帯の異 なる商品を積み合わせる場合、四トン車クラ スではコンテナ内が二層に仕切られた車両が 普及している。
だが百貨 店では店舗の納品口 に高さ制限があり、二トン車以下の車両で納 品しなければならないところが多い。
ニチレイは、二トンクラスの車両で三温度 帯管理を実現するために、蓄冷財などの資材 を使い、冷凍品が溶けたり、常温品が湿った り、弁当などが硬くなったりしないよう、さ まざまな工夫を凝らした。
実際の輸送と同じ 条件下で商品ごとに念入りにテストを行い、 温度変化などを調べ、商品の品質に問題が発 生していないかどうか、顧客自身にもチェッ クをしてもらうようにした。
温度管理だけでなく、ショートケーキのよ うに輸送中の振動 でダメージを受けやすい商 品については、緩衝材を用いるなどの方法も 試みた。
「こうした商品ごとの一つ一つの工 夫の積み重ねがそのままノウハウとして蓄積 される」と山室部長は期待を込める。
三越の指定納品代行業者に 営業活動を開始してから一年後の今年一月、 ニチレイは三越から納品代行業者の指定を受 けた。
三越は、都内の百貨店のなかで最も早 く〇四年六月に日本橋本店で食品の指定納品代行制を導入した。
このときは紀文フレッ シュシステムなど三社が納品代行業者に指定 されている。
その後、三越はこの制度を日本 橋本店以外の店舗に拡大するため、三越の店 舗がある全国の主要都市で納品代行サービス が可能な事業者を新たに二社追加指名した。
ニチレイはその一社に選ばれたのだ。
こうして新規事業の突破口を開くことがで き た。
現在、百貨店共同配送の顧客は九社ま で拡大している。
これらの顧客の商品を対象 に、三越の各店舗のほか、三越以外の百貨店 の店舗向けにも一部、共同配送サービスを実 周辺に新しくできたショッピングモールなど でも納品車両の問題をかかえており、このビ ジネスにはいろいろな視点から広がりが出て くる」と期待する。
ここ数年、都心に登場した六本木ヒルズや 丸ビルなどオフィスビルのショッピングゾー ンには、どこもデリカテッセンなどのショッ プやレストランがテナントとして軒を連ねて いる。
また最近では品川駅構内をはじめとし た?エキナカ〞商業施設の開業が相次ぎ、こ こでも食品関連のインショップが増えている。
こ うした動きも視野に入れて市場開拓に乗り 出した。
都内の百貨店にテナントとして出店してい る食品メーカーや卸のなかから一五〇社を独 自にリストアップして、営業活動を本格的に 開始した。
これに先行して、神奈川県内に百 貨店共配専用の低温センターを設置。
そこに ロック・フィールドのセンター業務を移して、 配送業務をスタートした。
同センターは二階建てで延べ床面積は約四 〇〇〇平方メートル。
百貨店の食品売り場に 並ぶ商品は、総菜や弁当、生菓子のように管 理する温度帯がさまざまで、しかも安全性を 確保するために厳しい品質 管理を必要とする ものが多い。
これに対応するため、チルド帯 の仕分けスペースのほか、センターの二階部 分に常温品と冷凍品の保管スペースを設けて 三温度帯の管理ができるようにした。
またセ ンターへの入館時にアルコール消毒を徹底す 39 JULY 2006 施している。
三越の調達物流では、指定納品代行業者 として検品や伝票発行業務も代行。
さらに日 本橋本店や銀座店などの大型店舗では「店内 キャリーサービス」も担当し、納品口で商品 を降ろしたあとで、各売り場のテナントが指 定する場所まで商品の搬送を行っている。
「店舗への配送と店内搬送を一貫して受託 できたことは、運用面で意義が大きい」と立 川副部長は強調する。
顧客によっては、単独 で車両を仕立て、業務も別々に委託していた ときと比べて、トータルでかなりのコストダ ウンとなったケースもあったという。
百貨店の店舗配送は、 ニチレイがこれまで に手がけた外食チェーンなどと比べて納品の指定時間枠がかなり狭い。
百貨店が調達物流 の見直しにあたって納品時間の集中化を進め たためで、各店舗ともおおむね開店前の朝六 時から九時頃までの間を納品時間に設定して いる。
この三時間のなかですべての配送を終 えなければならない。
百貨店によって納品の受け入れルールは異 なっている。
なかには店内搬送の仕組みが整 備されていない店舗もある。
またテナントご とに納品場所の指定もまちまちだ。
これらの 要素を考慮したうえで、「短い時間で効率よ く回れるよう、いかにスケジュールを組み立 てられるかがこのビジネスのポイント」(立 川 副部長)だ。
このためニチレイでは、毎日の配送状況を システムによって細かく管理してスケジュー ル化に役立てている。
ニチレイグループが以 前から導入している配送管理システムをベー スに、ドライバーが携帯電話を使って店舗へ の到着・出発のたびに情報を入力する仕組み を新たに追加した。
車両ごとに積載率を把握 して、コース別の損益管理を行うこともでき る。
これらを参考にして月に一度、コースや 車両台数の見直しを行っている。
初年度である〇五年度、百貨店共同配送 の売り上げは九億円だった。
今年は三越に続 いてもう一社、都内 の百貨店から指定納品代 行業者の内定を受けており、今夏のスタート をめざしている。
さらに来年以降は、三越の 地方店舗での展開に合わせて全国へ事業を拡 大していく考えだ。
これによって二年後の〇 七年度には売り上げの倍増を見込んでいる。
関東百貨店協会の調査によると、実施規模 に違いはあるものの、都内の百貨店のうち食 品の扱いが著しく少ない店舗を除く三一店舗 すべてが、〇四年秋の宣言どおり今年の三月 までに食品の納品集約に着手しているという。
さらに、東京以外の首都圏の三県と横 浜市な ど四市が加盟する八都県市首脳会議から今年、 協会に対して東京と同じ取り組みの要請があ った。
協会では一月にこれらの地域に出店してい る百貨店とその主要な取引先を集めて説明会を開催している。
早くも集約の動きは近隣の 都市へと広がる気配だ。
改正道交法で大型店 舗周辺の道路は駐車違反取り締まりの重点地 域となり、自社便での納品はますます困難な 状況にある。
集約が加速されることは間違い ない。
ニチレイグループには、汎用型のT Cだけ で首都圏に一〇カ所の拠点がある。
狙い通り これらの拠点を活かした事業展開へと、食品 共同配送の新規需要を取り込んでいくことが できるか注目される。
( フリージャーナリスト・内田三知代 ) 図2 百貨店共配事業のフレームワーク A店 ニチレイロジグループ B店 C店 一括納品 ベンダー仕立て便 または集荷 検品 方面別集積 店舗仕分け 工場 物流センター 百貨店 ベンダーA社 ベンダーB社 ベンダーC社

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