ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
ケース
物流子会社--オリンパスロジテックス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 36 一九〇億円の在庫を削減 オリンパスは二〇〇一年八月、計一五カ所 に分散していた在庫拠点を、神奈川県川崎市 に新設した「東京センター」一カ所に集約した。
これによって同社は年間七億一〇〇〇万 円の支払い物流費を削減。
さらに、その後の 約一年間にわたる全社的な在庫適正化活動で、 一九〇億円分の在庫を削減することに成功し た。
在庫の半減だ。
それまでは国内外の工場で生産した製品を、 製品群別に長野県伊那市と東京都八王子市 の二拠点に保管し、国内の取引先や海外現地 法人、代理店などに配送していた。
二拠点に 入りきらない在庫が発生 すると、それぞれの 拠点の周辺に保管スペースを借りて対応して いた。
対処療法的な借庫を繰り返すことで九 三年に六五五〇坪だった総保管面積は、ピー クの〇一年三月には七一%増の一万一一七九 坪にまで膨れあがっていた(図1、2)。
「自分たちの目に見えるところに在庫がな い。
いくら在庫が増えても借り増せば困らな い。
そのことで在庫増に歯止めがかからなか った面があったことは否定できない」と、当 時オリンパスの物流推進部グループリーダー を務めていた酒井路朗オリンパスロジテック ス取締役・東京センター長は説明する。
在 庫拠点の分散は、SCMも難しくしてい た。
リードタイムの短縮と在庫レベルの極小 化を実現する物流情報システムの構築、静脈 物流子会社 オリンパスロジテックス 料金体系から人事制度までメス入れ 物流のスペシャリスト育成を図る 親会社の物流改革プロジェクトの重要テーマと して、子会社体質からの脱却が求められた。
社内 に改善専門のチームを設置して継続的な生産性向 上を図るとともに、物流のスキルを高めるための 独自の教育制度も整備した。
地道な取り組みで着 実な成果をあげている。
37 JUNE 2006 物流の改善、輸入品増大に伴う輸入物流ゲー トの一元管理、受注受付業務の集中化など、 九〇年代後半からサプライチェーンの大規模 な改革計画が目白押しだった。
物流拠点が分 散していては、対応が複雑になるのは目に見 えている。
そこでオリンパスの物流推進部は、物流子 会社のオリンパスロジテックスと共同で九九 年春にグループの物流改革プロジェクトを発 足させた。
最大のテーマはもちろん物流拠点 の集約だ。
プロジェクトメンバーは、まずは 実態を把握するため、各事業部(カンパニー) の企画・営業・工場・国内販売・代理店な ど約二〇部門に足を運んだ。
どこにセンターを設ければ全体の輸配送費 が最小になるか、シミュレーションを繰り返 した 。
将来的には海外生産の比率がさらに高まることも予測された。
空港や港の輸出入の アクセスポイントが近いことを考慮した結果、 一五カ所に分散していた倉庫を全廃し、新た に川崎に拠点を設置して在庫を一カ所に集約 するという判断を下した。
人事制度改革で子会社体質改善 一連の改革プロジェクトで拠点再編と並ぶ 重要テーマとされたのが、物流子会社の体質 改革だった。
それまでロジテックスは、発生 した費用をそのまま親会社に請求し、親会社 もそれを黙って支払っていた。
継続的なコス ト削減などの明確な使命も与えられていなか った。
「三〇年前にロジテックスが設立された当 時は、物流子会社は一般的にも親会社の余剰 人員の受け皿としての要素が強かった。
それ が綿々と続いてきたわけだ。
しかし今はそん な時代ではない。
一流といわれる会社は、一 流の物流を持っている。
グループの物流を担 う ロジテックスも、一物流企業として体制を 改める必要があった」と、酒井取締役は振り 返る。
まず聖域だった人件費に手をつけた。
それ まで人件費はロジテックスの総経費の三分の 一を占めていた。
配送を傭車で処理している 割には高い水準だ。
理由の一つに出向社員の 多さがあった。
出向社員の人件費はロジテッ クスのプロパーと比べると約三割高。
そこで 出向社員を三人以内に限定した。
それまで六〇人いたプロパー社員の数も、 拠点集約による異動などの影響で半減した。
マンパワーの不足はパート社員で補充した。
これ によって拠点集約前に五割強だったパー ト比率は約七割まで上昇した(図3)。
残る正社員の人事評価制度も見直した。
新たに成果主義を導入。
一人ひとりの目標を明 確にし、その成果を賞与や給与に反映させる 制度だ。
目標の項目には、物流技術管理士な ど公的な資格取得も含まれる。
「もっとも物流技術管理士を取ったからと 言って、その人が物流の仕事をうまくできる とは限らない。
外部の講習会に参加して、帰 ってきたらそれっきりで何を聞いたか忘れて しまうというのもよくある話。
そのため具体 的に意味のあるスキルを内部で切磋琢磨し ながら身につけていく仕組みにした」と酒井 取締役。
オリンパスロジテックスの 酒井路朗取締役・東京セン ター長 JUNE 2006 38 請求できた。
忙しくても一〇人、暇でも一〇 人。
そのため、少ない人数でいかに効率的に 仕事を進めるかといった取り組みが進まなか った。
これを、個建てに切り替え、その荷扱 い量に応じて要員も調整する仕組みに改めた。
改善専門部隊を新設 こうして外堀が埋められた。
このあとロジ テックスが物流企業として成長していくには、 オペレーションを継続的に改善していく以外 にない。
そのための専門組織を新設した。
そ れが現在の「物流革新グループ」だ。
東京セ ンター副センター長の高橋岳課長をリーダー とする九人が所属している。
現場でミスや問題が発生したら、物流革新 グループのスタッフが現場にかけつけ、当事 者と現場責任者と話し合って問題を解析し協 議して改善策を練る。
遅くとも問題発生の翌 日までには改善策を実施に移す。
問題を熱い うちに叩く。
それによって、より大きな 問題 を招くのを未然に防ぐ。
改善専門組織の出番は拠点集約後すぐに訪 れた。
東京センターの倉庫面積は約八〇〇〇 坪。
そこで二万一〇〇〇にも上るアイテムを 処理する。
それまでロジテックスが経験した ことのない規模だった。
現場では移転に伴う 混乱が生じていた。
作業員のエレベータ待ち や、品質問題の増加などが徐々に顕在化した。
業務を見直すためにワークサンプリングを実 施した。
ワークサンプリングの過程で、担当者の一 人が、ピッキング作業者のガッツポーズに気 づいた。
その作業者は、目指したロケーショ ンをようやく探し当ててたことがよほど嬉し かったらしく、声を上げ、 喜びを全身で表し ていたという。
「ちょっと考えると笑い話のようだが、よく 考えてみるとこれは大変重大な問題をはらん でいる。
決して、笑って済ませられる問題で はなかった」と高橋課長は語る。
ガッツポーズの作業者は、目指すロケーションを探し当てるために歩き回り、時間だけ でなく、エネルギーも費やしていたはずだ。
時間とエネルギーの損失は、注意力低下によ る作業品質の低下と業務増によるコストアッ プにつながる。
一八一人の作業者が、一日三 〇分ずつ倉庫で迷子になった場合、年間で約 二万一七二〇時間の損失で一一人工以上に 相当 する。
業務革新グループは、ロケーション探しで 迷子になる原因として、ロケーションの掲示 方法、さらにはロケーションナンバーのコー ド体系そのものを疑った。
そして、とにかく それが「スキルアップシステム」だ。
同社 が独自に定めた二五項目のスキルについて、 一項目四点の計一〇〇点で各人のスキルを評 価する。
評価項目は、包装の仕方や輸配送の 手配の仕方など現場の作業に関するものから、 円滑なコミュニケーションを進めるために必 要な日本語の表現方法やプレゼンテーション 術、改善点を発見するのに求められる複眼的 な物の見方など、仕事を行う基礎となるもの まで多岐にわたる。
スキ ルアップのための研修は年間を通して 行っている。
講師は社内の人間。
いくら得意 な分野だからといっても、人に教えるとなれ ば、改めて勉強しなければならない。
不得意 な人は得意に、得意な人はもっと得意になる ことで、全体のレベルアップにつなげようと いう狙いだ。
親会社に請求する料金体系にもメスを入れ た。
固定費の流動費化だ。
それまで保管料は 坪貸しで、親会社の事業計画に基づいて必要 とされるスペースを算出し、契約した坪数分 の費用を請求していた。
例えば一〇〇坪と契 約して、結果として一〇〇坪使わな くても、 一〇〇坪分の保管料を請求する仕組みだった。
これを実際に使った坪数に応じて請求する仕 組みに変えた。
親会社は在庫を減らすことで、 保管費用も抑えることができる。
在庫削減の モチベーションが上がる。
荷扱い料も、従来は人数固定で、その作業 に一〇人掛かると言えば、一〇人分の費用を 東京センター副センター長 の高橋岳課長 39 JUNE 2006 誰でも分かりやすいロケーションナンバーと その掲示方法を追求する取り組みが始まっ た。
ピッキング行数が四割アップ ロジテックスでのピッキング手順は、?ピ ッキングリストを出力し、?リスト上のバー コードをハンディターミナルで読み取り、? ハンディターミナル上にロケーションナンバ ーが表示され、そのロケーションに行き、? ロケーションに貼ってあるバーコードとピッ キングした商品に貼ってあるバーコードを読 み取り、それがエラーでなければ、?次の商 品のロケーションナンバーが表示されるので、 そこへ向かう――というものだ。
このピッキング手順で使用するロケーショ ンナンバーのコード体系がどうあるべきかを 考えた。
ロケーションナンバーを見ただけで、 場所のイメージが思い浮かぶ、これからピッ キングに向かう最短動線が自然と分かる、第 一歩から最短動線に乗ってスタートできる、 初めてのピッカーでも容易に理 解できる―― などが挙げられた。
改善前のロケーションナンバーには、アル ファベットが二文字並んで使用されていた。
保管データ、つまり、重量棚・中量棚・ある いはパレットの平置き、などの情報を盛り込 んだためだ。
しかし、アルファベットが複数 出てくると、直感的に場所のイメージが思い 浮かばない。
作業者は自信を持って第一歩を 踏み出せない。
目指すロケーションになかな か辿り着けない。
検討の結果、図4のように コードを改善した。
ラックや壁に貼り付けてあるロケーション の表示も改めた。
作業者が意識しなくても表 示が目に入ってきて、自然 と目的地に行き着 くことができるよう、大きく見やすい表示に 変えた(写真参照)。
これと並行して、動線 の最短化やレイアウトの変更など、いくつか の改善も実施した。
一連の業務改革の効果は、定量的にも定性 的にも現れた。
ワークサンプリングの比較で は、改善前に最大二万八〇〇〇歩、平均一 万七〇〇〇歩だったピッキング作業員の歩行 数が、改善後はそれぞれ一万三〇〇〇歩(五 四%減)、一万六〇〇歩(三八%減)に減っ た。
時間当たりのピッキング行数は五五行か ら七七行と向上し、クレームは半減した。
派遣・パート要員を一八一人から 一四六人に削 減できた。
成果はこうした数字的なものだけではない。
大小合わせて一万八〇〇〇枚あった新表示を パート作業員も含めて全員参加で作成した結 果、全体の協力意識や改善意欲が高まったこ とも、大きな収穫だった。
ロジテックスの新たな課題は、今年五月に 新しく導入した倉庫管理システムの活用だ。
庫内作業の進捗状況をシステムで把握して、 業務分析を行い、現場の生産性をさらに高め ようとしている。
(森泉友恵) 写真上→メイン通路正面の高い位置にエリアを表示。
畳一畳分の大きさで、自然と目に入る。
両脇には棚列 番号が通路側の目より高い位置にせり出し、奥まで見 通せるようになっている。
写真下→棚列内の棚連番号 も、通路側の見やすい位置にせり出す形で表示。
また、 正面に棚列番号が表示されているので、小通路の中に 入っても自分がどの棚列にいるのかが把握できる。

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