ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
特集
物流力を測る LSCから改革を始めよう

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2006 20 LSCの上手な活用法 SCMロジスティクススコアカード(LSC)に興 味を持った実務家の方々から、「診断結果を自社内で どのように活用すればいいのか分からない」、「診断結 果がどの程度の意味を持つものか分からない」、「この 診断を受けることによる自社のメリットは何か」とい った相談や質問を受けることが少なくない。
そこで本 稿では、LSCに協力いただいた企業の了解を得たう えで、具体的な活用事例と活用できていない企業像を 紹介する。
■電器メーカーA社 中堅電器メーカーA社は、物流業務を外部委託し ている。
そのため、物流部門の主 な仕事は、協力会社 の管理、および支払い物流コストの管理である。
この ところ同社の物流部門では、海外の製造子会社での 生産が増加したことで、手間のかかる輸入業務が大幅 に増えているにも関わらず増員はなく、日々の業務に 追われる毎日だった。
電器業界は近年、大手家電量販店の台頭により、従 来の流通経路や物流が激変している。
しかしながら、 日々の業務に忙殺されていた同社の物流部門では環 境の変化に対する迅速な対応ができず、競合他社に 物流サービス面で遅れを取っている状態 だった。
ちょうど、そんな時期に我々は同社の物流部門長か ら相談を受けた。
まずはA社の現状を把握するため、 LSCによる診断を行うように提案した。
その診断結 果が図1だ。
多くの項目でA社の現状は一般用電機・ 機器平均および電機・機器平均を下回っている。
この診断結果を持って、物流部門長は上司である 担当役員の説得に動いた。
そして自社のロジスティク スのレベルが競合他社と比較していかに低いかを説明 し、それは物流現場の改善で解決できる内容ではなく、 会社全体で取り組むべき課題 だと訴えた。
担当役員も従来から自社の物流には問題がありそ うだと漠然とは感じていた。
それでも自社の現状を競 合他社と客観的・定量的に比較したデータとして目 の前に突きつけられ認識を改めざるを得なかった。
そ して、自社の弱点は物流部門だけの問題ではなく、生 産や販売にまたがるロジスティクス上の課題であるこ とを理解したのだった。
これを契機としてA社は全社的な改革に動いた。
物 流部をロジスティクス部に名称変更すると共にスタッ フを増員。
生産、営業、購買などの社内各部門から 優 秀な人材を選抜してロジスティクス部に投入し、改 革を進める上で必要な組織体制を整備した。
現在、A社はロジスティクス部を中心に日々の業務 改善を進めながら、外部のコンサルタントとも契約を 交わし、新たに立案した「自社のロジスティクスのあるべき姿と実現へのアクションプラン」に基づく改革 を積極的に進めている。
■物流会社B社 次に物流会社の活用事例を紹介する。
中堅運送会 社B社は、運賃相場の下落による収入減と、排ガス 規制やスピードリミッター規制をはじめとした環境・ 安全対策費の増加 という板挟みに苦しんでいた。
業績 の悪化に歯止めがかからない状況だった。
このままで はジリ貧を免れない。
強い危機感を抱いた同社の四〇 代の二代目社長は事業戦略の建て直しを模索し、藁 にもすがる思いでJILS事務局を訪問した。
「3PL企業を目指したいが、何をどうしたらよい のか、まったく分からない」と二代目社長。
まずは現 LSCから改革を始めよう 「SCMロジスティクススコアカード(LSC)」は、サプライ チェーンの健康診断だ。
その結果に一喜一憂しても意味は ない。
現状を客観的に評価して、課題を発見し、それを解 決する具体的なアクションを起こした企業だけが、その効 果を享受することができる。
日本ロジスティクスシステム協会栗原純一会員組織部プログラムディレクター 佐川急便浜崎章洋本社営業本部サプライチェーン・ロジスティクス事業部チーフコンサルタント 第5部 21 MAY 2006 状の評価が必要であることを指摘し、3PL版のスコ アカードによる診断を行うことにした。
B社のような 中堅運送会社のベンチマーキングは、「物流子会社」 や「3PL」ではなく、単機能の物流サービスを提供 している「独立系」と呼ぶ会社と比較するのが普通だ。
しかし、このケースでは社長の強い要望があったため、 あえて「3PL」と比較することにした。
その診断結果が図2である。
予想以上の低いスコア に二代目社長は意気消沈した様子だった。
しかし、L SCは改革の出発点に過ぎない。
その目的はあくまで も経営改善につなげることであって、良いスコアをと ることではない。
肩を落と す社長に我々は次のように アドバイスをした。
?少年野球の選手(レベル1)が、いきなり大リーガ ー(レベル5)にはなれない。
まずは焦らないこと。
?社長自らがプロジェクトリーダーとなり、3PLプ ロジェクト(PJ)を立ち上げること ?PJでは、主要荷主とその業界のことについて徹底 的に調べること ?PJメンバーには、輸送だけでなく、物流全般を勉 強させること 社長はすぐにアクションを起こした。
三〇代の社員 三人を選抜。
日常業務から外して、半年間にわたる 3PLプロジェクトの専任メンバーに起用した。
物流 技術管理士講座の受講や各種セミナーへの参加、関 連資料からの知識の習 得を促して、人材のレベルアッ プを図った。
社長自らも荷主企業の担当者やコンサル タント、先進的な取り組みをしている物流会社の経営 層などと積極的に会い、情報収集に努めた。
約三カ月後、社長とプロジェクトメンバーは、同社 の主要顧客である荷主企業の課題、その原因、そして 解決案についての提案を実施した。
荷主企業の担当 者は当初、物流会社から改善の提案を受けたこと自 体に驚いた様子だった。
それでも、その後もB社が段 階的に提案を実現していく姿勢を見て 、活動を高く 評価してもらえるようになったという。
この経験を通じて、同社は提案の重要性に気付い た。
そしてプロジェクトメンバーを中心とした提案営 業部隊を、恒常的な組織として格上げすることにした。
これを契機に同社には、それまでつき合いのなかった 荷主からも物流コンペを開催する時には声がかかるよ うになった。
まだ数は少ないものの3PL案件を受託 した新規荷主も出てきた。
二代目社長が目指す3P L会社へ、B社は着実に変身を遂げようとしている。
診断結果を活用できない企業 ここに紹介した二社は理想的な活用事例といえる。
実際にはLSCを使って診断を行いながらも、残念ながらその結果を有効に活用できていない企業も我々は 多数見てきた。
それらの企業には、次のどちらかの傾 向がある。
1 診断結果に一喜一憂する 診断結果が平均より高かったために、「当社のロジ スティクスは進んでいる」と満足してしまう。
あるい はスコアが悪かったことで「なぜ、こんなにスコアが 悪いのだ」と担当者を叱ってしまうケース。
いずれも 診断結果の数値に一喜一憂しているだけで、自社のロ ジスティクスの課題を認識したり、解決に向けて対策 を練ろ うとしていない点では変わらない。
健康診断に例えると、血糖値に問題がない(=スコ アが高い場合)からといって、健康管理に無頓着では 特集 物流力を測る 1ー?取引先との取引条件の明確さと情報共有の程度 1ー?人材育成とその評価システム 2ー?資源(輸送手段)や在庫・拠点の DFLに基づく最適化戦略 2ー?市場動向の把握と需要予測の精度 2ー?SCMの計画(受注から配車まで) 精度と調整能力 2ー?在庫・進捗情報管理(トラッキング情報) 精度とその情報の共有 2ー?プロセスの標準化・可視化の程度と体制 3ー?ジャストインタイム(フロア・レディ)の実践 3ー?在庫回転率とキャッシュツーキャッシュ 3ー?顧客リードタイムと積載効率 3ー?納期・納品遵守率/物流品質 3ー?トータル在庫の把握と機会損失 3ー?環境対応 3ー?トータルロジス ティクスコストの把握 4ー?EDIのカバー率 4ー?バーコード(AIDC)の活用度 4ー?PC、業務・意思決定支援ソフト (ERP,SCMソフト等)の有効活用 4ー?オープン標準・ワンナンバー化への対応度 4ー?取引先への意思決定支援の程度 5 4 3 2 1 0 1ー?企業戦略の明確さと ロジスティクスの位置付け 1ー?納入先との取引条件の 明確さと情報共有の程度 1ー?顧客満足の測定と その向上のための社内体制 一般用機器平均 全体平均 電機・機器平均 A社 図1 スコアカード各項目の値《電器メーカーA社》 特集 物流力を測る MAY 2006 22 将来が危うい。
これまでLSCを使って三〇〇社以 上の診断をしてきたが、全てレベル5という企業は一 社もなかった。
スコアが平均値より高くても、改善す べき点はいくつも残されている。
一方、血糖値に異常値(=スコアが低い場合)が出 ているにも関わらず、現状を嘆くばかりで具体的な対 策を打たないのは、大病を患っていながら、治療も受 けず食生活や生活習慣すら変えないのに似ている。
LSCはあくまでも診断ツールである。
その結果を 参考にして、問題点を解決するためのアクションを起 こさなければ意味はない。
この時、問題点の解決方法 が自社でわかっている企業はプロジェクトチームを編 成して対応すれば良い。
課題解決の方法が分からない 場合は、コンサルタントなどの外部の専門家に頼むこ とも検討するべきだろう。
2 診断結果を疑う 「設問には定性的な内 容が多いので、回答する人に よって、診断結果に差がでるのでは?」というように、 LSCの診断方法とその結果の信頼性を疑ってしま うケース。
実はこの指摘は、本スコアカードの設計上、的外れ とは言えない部分がある。
本誌に掲載されている質問 票を確認すると分かるが、各設問のレベル設定には数 値による判断を必要としない項目が少なくない。
回答 者の主観によって、スコアが2になったり3になった りする可能性は否めない。
しかし、そのために本スコアカードの診断結果の信 頼性が低くなり、有効性が失 われているわけではない。
データのばらつきを抑えるために我々は、LSCを回 答するにあたって、物流部門の部長と課長、あるいは 物流部長と生産部長というように、複数人で相談し ながら回答することを勧めている。
また同じ会社の営業部長、生産部長、物流部長と いうように、各部門の責任者に、それぞれ回答しても らい、診断結果の差(ギャップ分析)から組織間の認 識の違いを明らかにして問題点を導き出しているケー スもある。
無料SCM診断のススメ 今回、活用事例として紹介した二社以外にも、「己 を知り、敵を知る」ためにLSCを活用して、ロジス ティクス改革のきっかけを作った会社は多数ある。
自 社の弱みや問題点は、薄々と感じているだけではアク ションには移せない。
現状を可視化することと定量化 することにより、初めて問題点を認識することができ る。
そして、問題点を認識することが解決の第一歩と なる。
そのためのツールが、このLSCだ。
現在、JILSでは製造業、物流事業者、流通業 というサプライチェーンの川上から川下までのプレー ヤーに対応するLSCをそれぞれ用意し、無料診断を 行っ ている。
本稿を読んで興味を持った方は、次頁以 降にLSCの質問票と回答用紙を掲載したので、こ れを利用してほしい。
質問票は製造業を対象とした 「メーカー版」、物流事業者が対象の「3PL版」、卸・ 小売りなど流通業を対象にした「流通版」の三種類 に分かれている。
また回答用紙は「メーカー版」と 「3PL版」が共通で、「流通版」は二八頁に掲載さ れている。
今後もJILSでは東京工業大学大学院の圓川研 究室とともに、診断結果において比較対象となるデー タの充実化を図ると ともに、本スコアカードの国際比 較や経営管理指標との関係などの研究を推進してい く予定である。
1ー?取引先との取引条件の明確さと情報共有の程度 1ー?人材育成とその評価システム 2ー?資源(輸送手段)や在庫・拠点の DFLに基づく最適化戦略 2ー?市場動向の把握と需要予測の精度 2ー?SCMの計画(受注から配車まで) 精度と調整能力 2ー?在庫・進捗情報管理(トラッキング情報) 精度とその情報の共有 2ー?プロセスの標準化・可視化の程度と体制 3ー?ジャストインタイム(フロア・レディ)の実践 3ー?在庫回転率とキャッシュツーキャッシュ 3ー?顧客リードタイムと積載効率 3ー?納期・納品遵守率/物流品質 3ー?トータル在庫の把握と機会損失 3ー?環境対応 3ー?トータルロジス ティクスコストの把握 4ー?EDIのカバー率 4ー?バーコード(AIDC)の活用度 4ー?PC、業務・意思決定支援ソフト (ERP,SCMソフト等)の有効活用 4ー?オープン標準・ワンナンバー化への対応度 4ー?取引先への意思決定支援の程度 5 4 3 2 1 0 1ー?企業戦略の明確さと ロジスティクスの位置付け 1ー?納入先との取引条件の 明確さと情報共有の程度 1ー?顧客満足の測定と その向上のための社内体制 3PL平均 全体平均 物流平均 B社 図2 スコアカード各項目の値《物流メーカーB社》 回答用紙送付先・問い合わせ先 日本ロジスティクスシステム協会 普及開発部 〒一〇五 ―〇〇一四 東京都港区芝二 ―二八―八 芝二丁目ビル3F 〇三 ―五四八四―四〇二一 〇三 ―五四八四―四〇三一 E-mail kurihara@logistics.or.jp

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