ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
海外Report
独3PLダクサ自前のネットワーク武器に事業を拡大

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2006 62 一九三〇年に創業 まずはダクサというドイツやヨーロッパ大 陸以外ではあまりなじみのない企業について 簡単に紹介します。
ダクサは、物流センター を中心にした3PLサービスを提供する企業 です。
私の祖父であるトーマス・ダクサが一 九三〇年にドイツ南部のケンプテンで創業し ました。
現在、創業者一族として経営に携わ っているのは私一人で、株式は公開していま せん。
二〇〇五年の売上高は二八億ユーロ(約四 二〇〇億円で、前年比一七%増)で、年間輸 送トン数は一六七〇万トン(同一四%増)、輸 送件数は二八七〇万件(同九%増)となりま した。
従業員は一万三四〇〇人で、ヨーロッパ大 陸 とアメリカ、アジアに二三五カ所の営業所 を構えています。
自己資本比率は三三%で、 過去一〇年間の投資総額は一〇億ユーロ(一 四〇〇億円)。
物流資産としては合計一〇〇 万平方メートルの物流センターと車両六八〇 〇台(トラックやトレーラ、トレーラヘッド の合計)を保有しています。
一九三〇年代の創業間もない頃、ダクサは チーズなど地元の酪農製品の輸送業務を手掛 けていました。
第二次世界大戦をはさんだ五 〇年代からは、ドイツ全土にトラック輸送の ネットワークを整え、同時に海上・航空のフ ォワーディング業務に乗り出しました。
六〇 年代 に入り、ドイツ国内の規制が緩和される と、鉄道の通運業務に進出して、八〇年代に は食品の冷蔵輸送を始めました。
九〇年後半にはフランスの同業者を買収し てヨーロッパ全土のネットワークづくりの足 掛かりとしました。
しかし買収はあくまでも 当社のネットワークを整える手段の一つにす ぎません。
未上場企業の一つの利点は、株主 の利益を増やすため事業を無理やり拡大する 独3PLダクサ 自前のネットワーク武器に事業を拡大 ドイツのダクサ(Dachser )は未上場ながら社歴七〇年を超す有力3PLとして知ら れる。
自らを物流センターや車両を持つアセット型3PLと定義する。
未上場であるが ゆえ、性急な株主の要求に左右されることなく、安定した経営を続けることができ、それ が年率二〇%近い成長の源泉になっている。
創業者の孫に当たり、現在五人の経営陣の うちの一人であるバーナード・シモン氏が、同社の経営戦略について語った。
(取材・編集=本誌欧州特派員 横田増生) 欧州3PL会議2005報告《第3回》 ダクサのバーナード・シモン氏 63 MAY 2006 必要がないことです。
買収については、当社 の事業計画に一致した場合にのみ行うという 姿勢です。
ダクサには現在、ヨーロッパ大陸の陸上輸 送業務、食品ロジスティクス業務、海上・航 空フォワーディング業務の三つの部門があり ます。
その三部門をIT(情報技術)による コミュニケーションで結ぶことによって、い ろいろな産業の荷主に対して輸送業務と3P L業務を提供しています( 図1 )。
その中でもサービスの中核となるのが、ヨ ーロッパ内外にネットワークを持った「エン ターゴ」と呼 ぶ陸上輸送業務です。
ヨーロッ パ全域と北アフリカと中東までの約一二〇カ 所をカバーして、毎日三二〇〇台の車両を運 行しています( 図2 )。
ヨーロッパでは、EU(欧州連合)統合で 欧州全体が一つの市場として機能するようになってから、3PL業務に対する需要が飛躍 的に高まりました。
以前のように輸送、倉庫、 通関といった特定の業務に強いだけで商売が 成り立った時代は終わり、各荷主の要望に細 かくこたえられるよう様々なサービスメニュ ーをそろえ、しかもまんべんなく強みを 発揮 できるようでないと競争に勝ち残ることがで きない時代となってきました。
万能型プレー ヤーとなることで、ようやく利益が上がるの です。
原材料の調達から物流センター業務、エン ドユーザーへの配送までを請け負う能力が必 要です。
サービスメニューの中には、通関や ピッキング業務といった従来通りの内容に加 えて、コンサルティングやセンター建設の代 行といった機能まで求められています。
しかも、荷主の企業活動の国際化が進んで いますので、欧州の3PL企業にとっては自 国内だけでなく、ヨーロッパ大陸 から世界各 国へとネットワークを広げることも不可欠で す。
さらに荷主の産業にかかわらず、また事 業規模の大小にかかわらず、業務を引き受け る柔軟性も大切になってきます。
ダクサにつ いていえば、当社自身が未上場企業であるこ とから、国際的な大企業よりも、同じような 中堅規模の企業との取引が多いのが特徴です。
4PLには成功例なし ヨーロッパの荷主の間では、サプライチェ ーンを最適化する方法として三つの方法があると考えられています。
一つは、現状を大幅に変えることなく手直 しする方法。
それまで付き合ってきた3PL を使い続けながら、業務内容や契約内容、料 金設定などを変えることで乗り切ろうとする やり方です。
これでもある程度の業務効率化 やコスト削減は可能でしょうが、長期的にみ て大きな成功をもたらすとは考えにくい。
こ の方法だと全体を見直すことなく小手先だけ の コスト削減は限界に達しているのではない かという疑問もつきまといます。
二つ目は、アセットを持たない4PL業者 ヨーロッパ大陸の陸上輸送業務 67 % ITとコミュニケーション 3PL業務 食品ロジスティクス業務 14 % 輸送業務 海上・航空フォワーディング業務 19 % 図1 ダクサの経営3本柱 注)%は売上高全体に占める割合 図2 ダクサの欧州ネットワーク ダクサの拠点 パートナー企業の拠点 MAY 2006 64 に委託するというやり方です。
4PLを標榜 する企業は、「私たちは独自の資産を持たない で、市場にあるサービスを使い、それをIT で結びつけて、荷主に必要な独自のソリュー ションを提供します。
物流資産にこだわる必 要がない分、安価な提案ができます」とアピ ールします。
確かに、それができれば理想でしょうが、ま だ市場には4PLに業務を任せるに足りるだ けの成功例がありません。
4PL業務の一番 の問題点は、他社の資産を使うた め、立ち上 げ当初から業務プロセスがある程度完成して いる必要があるということです。
途中での変 更は、自社戦力でないだけに混乱とコスト高 となって跳ね返ってくる危険性があります。
三つ目の方法は、最も現実的で、ダクサが 採用しているのもこの方法です。
それは、物 流センターを中心にして自社で確固たるネッ トワークを築き、高品質のサービスを提供す ることです。
当社は多くの荷主と取引をして スケールメリットをだすことで、同業他社と の差別化を図っています。
その際大切なのは 品質 です。
品質は、自社でネットワークや物 流資産に投資してはじめて高めることができ るものなのです。
問われる在庫管理能力 では荷主は実際、どのような3PLサービ スを望んでいるのでしょうか。
まずヨーロッパ各地で均一なサービスを受 けられることを望んでいます。
これはここ十 数年、EU統合が進む中で、当社が最も腐心 してきた点です。
荷主企業からは、例えば 「これまでドイツにあった工場を閉鎖して、今 度、オランダ(あるいはポルトガル)に移る ことになったから、移転先でもこれまでと同様の業務を引き受けてくれ」という話が後を 絶ちません。
どこの国でも同じKPI(重要業績評価指 標)を使って 、同じレベルの業務をこなすの は、容易なことではありません。
国によって 労働環境も違えば、物流業界の慣習も違う。
従業員のレベルも違えば、各種の規制も異な ります。
荷主企業が考えるほど簡単ではない のです。
次に荷主が求めるのは柔軟な対応です。
い ずれの産業においても、企業は素早く市場に 反応することが求められる時代です。
3PL には、荷主企業のビジネスを迅速にサポート する体制、短時間で新しいビジネスモデルに 対応できる姿勢が求めら れます。
柔軟な対応 の一環として、荷主ごとの繁閑期の物量の多 寡を吸収することも求められます。
これは、繁 閑期の異なる多様な荷主と取引することによ って、はじめて3PLは吸収することができ るようになります。
もう一つは、荷主のサプライチェーンの多 くを引き受ける能力です。
特に物流センター 内の在庫管理までをカバーできる能力が必要 です。
適正在庫をどのように設定して、どこ で持つのかによって、ロジスティクスにかか るコストは大きく変わってくるからです。
ロ ジスティクス業務の大部分を外注 する場合、 荷主企業の多くは、二〇%〜三〇%のコスト ダウンを求めてきます。
在庫が手付かずなら、 大幅なコスト削減は難しいでしょう。
ロジスティクス業務の外注化の成否は、コ ストダウンとサービスレベルという二つの側 面から測ることが可能です。
コストダウンに ついては、先に挙げたように在庫を中心とし た成果を問われ、サービスレベルについては、 オンタイム輸送や破損・損失の減少などとい う指標があります。
最近、当社が引き受けたドイツ国内の食品 メーカーの場合、業務開始後にロジスティク スコストが四〇%減り、 しかも荷主の売り上 げは一五%上がったという例があります。
そ の荷主企業は、「ロジスティクス業務に煩わさ れることなく本業に集中できたためだ」と語 っています。
ロジスティクス業務を円滑に進める上で、 ITが欠かせないのは言うまでもありません。
当社は独自に開発した情報インフラを使い、 アセット型3PLのダクサはトラック6800 台を共有している。
65 MAY 2006 倉庫管理と輸送管理を一体としてインターネ ット上でアクセスできるようにしています。
例えば荷主がネット上で検索すれば、貨物 の現在位置を含むすべての情報を見ることが できます。
この貨物追跡サービスの中で、ダ クサが力を入れているのが「アクティブ・レ ポート」と呼んでいる事故や不測の事態への 対応です。
輸送中の貨物に問題(貨物が配送先で受け 取りを拒否された、数やアイテムが間違って いた、指定された輸送時間枠に間に合わなか った、貨 物が破損したなどといった問題)が 発生したら、直ちにダクサから電子メールを 発信します。
破損などの場合には、デジタル カメラで撮った写真も添付します。
(図3)荷 主は、そのメールを見て、新たに貨物を発送 し直すのか、現状のままでOKとするのかを判断することができます。
貨物の配送が終了 した場合は、五分以内に相手のサインが入っ た配送完了の知らせを受け取ることができま す。
中国に一四拠点を開設 最後に、当社が現在力を入れている中国で の取り組みについてお話します。
本格的に中 国に進出を始めたのは二〇〇〇年で、荷主企 業の要望が高まってきてからです。
現在、沿 岸部の大都市を中心に計一四カ所の拠点を構 えています。
その中でも中心的な拠点である上海にある 外高橋保税区の物流センターでは、アメリカのシカゴに本社を置くチェンバレンという車 庫や車庫のドアを開けるリモコン装置の大手 メーカーの3PL業務を請け負っています。
チェンバレンも、ダ クサと同様に未上場企業 です。
ダクサには、それまでヨーロッパでチ ェンバレンの二カ所の物流センターの業務を 請け負った実績がありました。
チェンバレン が新たに中国に工場を立ち上げることになり、 中国でもヨーロッパで行っているのと同様の 3PL業務を引き受けてもらえないかという 打診があったのです。
ダクサはすぐにプロジェクトチームを作り ました。
そして従来使っている同じ情報シス テムを中国に導入して、当社の中国のスタッ フに、ヨーロッパと同レベルのオペレーショ ンが行えるよう教育しました。
こうすること によって、チェンバレンは業務の立 ち上げと 同時に、情報システムがつながり、ヨーロッ パと同質のサービスが享受できるようになったのです。
はじめのうちは、中国で生産したネジやネ ジ回し、電池など約二〇〇アイテムを在庫し ているだけでしたが、チェンバレンのヨーロ ッパや南アメリカの工場からの輸入を開始す るとアイテム数は徐々に増えていきました。
ヨ ーロッパでは当たり前のようになっているサ ービスも、中国ではまったく新しいサービス となることが少なくなく、ヨーロッパから中 国に進出した荷主が満足できるレベルを維持 するには、相当な時間と企業努力が必要とな ります。
図4 ダクサの世界ネットワーク ダクサの拠点 パートナー企業の拠点 図3 アクティブ・レポートでの破損写真

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