ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
ケース
物流拠点--国分

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2006 34 歴史的なターニング・ポイント 国分は昨年一〇月、同社にとって最大規模 の汎用物流拠点「八潮流通センター」を稼動 した。
センターの開所式で国分の國分勘兵衛会長は、「グループの『共配』や『在庫の共 同利用』で物流の効率化を図っているのが、 このセンターのミソ」と強調。
ここでの物流 管理が従来の国分のやり方とは一線を画して いることを説明した。
八潮センターは国分グループの既存六拠点 の統合を目的に設置された。
首都圏の汎用拠 点としては「稲毛流通センター」(千葉県)、 「神奈川流通センター」(厚木市、二〇〇五年 七月号既報)に次ぐ 三カ所目の大型拠点だ。
そして、国分の物流管理にとって歴史的なタ ーニング・ポイントとなる拠点でもある。
過去の国分は、支社ごと、グループ会社ご とに物流を管理してきた。
それぞれに独立し た物流拠点を構えて、コスト管理も経営体ご とに行うのが一般的だった。
創業から三〇〇 年近い歴史を誇り、その間に多くの卸を日本 的な手法で吸収しながら成長してきた国分グ ループらしい柔軟な管理手法といえる。
これは国分の成長を支えてきた考え方では あった。
だが結果として大小さま ざまの物流 拠点が分散し、近年では物流の効率に問題が 生じていた。
特定小売り向けの専用センター が急増した二〇〇〇年代初頭には、それまで 国分の汎用拠点を利用していた顧客が、自ら 専用センターを新設して抜けていく事例が頻 発。
汎用物流ネットワークが歯脱けになり、 稼働率が下がるという状況を招いた。
危機感をもった同社は、物流管理の方針を 最近三年ほどで大幅に見直してきた。
二〇〇 三年の夏に、数年前から首都圏北東部で探し ていた大型物流拠点のための土地を埼玉県八潮市で取得 。
これによって一連の物流改革が 具体的に動き出した。
八潮センターの稼働を一つのゴールに設定 しながら、三つのプロジェクトが同時並行で 立ち上がった。
物流拠点を具体的に構築する 「八潮流通センター構築プロジェクト」、当該 エリアの物流拠点を再配置する「首都圏物流 再編プロジェクト」、そして物流管理のため の情報システムを抜本的に改める「次期物流 システムプロジェクト」である。
こうした活動の成果が八潮センターに結実 した。
グループ企業の在庫の共同管理や、マ 物流拠点 国分 新たな物流システムを2年越しで構築 IT・設備とも転換点の八潮センター 2005年10月に稼働した「八潮流通センター」は、 国分の物流管理にとって転換点となる拠点だ。
ケース 自動倉庫など高機能のマテハンを同社として初めて導 入するとともに、2年越しで開発してきた新しい物流 システムを稼働した。
グループの全体最適という観点 から“商物分離”も本格化しようとしている。
「八潮流通センター」(埼玉県八潮市) 【施設概要】敷地面積18,918m2、倉庫面積22,932m2、 配送エリア:東京・埼玉・千葉、取扱商品:食品・ 酒類・ビール・菓子、取扱アイテム:約20,000、年 間出荷量:最大1,200万ケース、在庫保管量:最大 32万ケース、主な設備:ケース自動倉庫(8,652棚・ ダイフク製)、システマストリーマー(収容能力3,000 〜4500ケース・イトーキ製)ほか、対応業態:量販 店・酒販店・CVS・ドラッグストア・ホームセンタ ーほか、全体設計の協力事業者は富士通 35 MAY 2006 テハン活用の高度化、物流システムの刷新な ど数々の機能を盛り込んだ。
いずれも次世代 をにらんだ?実験〞の意味合いが色濃い取り 組みであり、このやり方が国分の主流になっ ていくかどうかは今後の成果次第だ。
庫内設備だけで一五億円を投資 国分は八潮センターに総額五二億円を投じ た。
おおよその内訳は、土地に一五億円、建 物に二十二億円、マテハン・情報システムで 一五億円。
初稼働した「次期物流システム」 は今後も流用できるとはいえ、土地・建物以 外への投資の大きさが目立つ。
八潮センターのマテハンは、過去の同社の 物流拠点とは段違いに重装備だ。
同社として 初めてケース自動倉庫(ダイフク製)を採用 したほか、順立て出荷などのために「システ マストリーマー(SAS)」(立体高速ピッキング仕分機=イトーキ製)も初導入した。
国分・物流統括部の山本栄二取締役物流 統括部長は、同社の変身ぶり をこう説明する。
「当社の物流は労働集約的にやってきた面が 多々あった。
今後は情報システムやマテハン を使って人に頼らない仕組みにしていく」。
こ の言葉通り、過去の国分は物流の現場作業を 人手中心でまかなってきた。
しかし、近年は そうした管理の限界が見えていた。
人手で現場を運営している限り、単位時間 あたりの処理能力は機械に比べるとどうして も劣る。
ケース自動倉庫の導入は、こうした 菓子小分けエリア 破材コンベア 入荷コンベア 破材圧縮機 入荷コンベア ソーター 大量品エリア 入出荷コンベア ケース自動倉庫 垂直搬送機・EV システマストリーマー ケース・不定形エリア 冷蔵庫・ワイン庫 酒類小分けエリア 食品小分けエリア 出荷コンベア ケースエリア 出荷 ヤード 入荷 ヤード 1階事務所 5階事務所 4階食堂 3階事務所 2階会議室 3階 2階 1階 3階でバラピッキング 小分け済みオリコンの出荷 ソーター不適品の例外処理 1階の入荷コンベヤ 初導入のケース自動倉庫 2階ケース出荷エリア ケース品をコンベヤへ システマストリーマー 独自開発の入荷検品台車大量定番品の保管酒類商品の置き場店別等にカゴ車へソーターへのコンベヤ 八潮流通センターの鳥瞰図 MAY 2006 36 化だ。
経営体ごとの物流管理を志向していた 国分が、ここではグループ各社の在庫の共有 化などを明確に意識している。
これは?商物 分離〞へとつながる大きな変化でもある。
グループ内で?商物分離〞を加速冒頭でも述べた通り、国分が八潮センター を設置したそもそもの狙いは物流拠点の再編 だった。
既存の六拠点(国分二カ所、廣屋国 分三カ所、国分菓子販売一カ所)の統合を前 提としており、だからこそ「首都圏物流再編 プロジェクト」の一環として行われた。
実はこれに先立つ二〇〇三年三月、国分は 本社内に「物流統括部」を発足している。
そ れまで管理本部にあった物流部門を、営業本 部内に移管。
物流と営業を一体化して、なお かつ全国レベルで見ていこうとする姿勢を打 ち出した。
ただし、国分にとって最大の商 圏 である首都圏については例外扱いとし、単独 で物流再編を進めることを決定。
二〇〇三年 夏に再編プロジェクトをスタートした。
プロジェクトがまず手掛けたのは、首都圏 (一都三県)に立地する国分グループの汎用 拠点の状況を正確に把握し、再編の対象にで きる拠点を洗い出すことだ。
同社にとっては、 グループ横断的な物流改善の取り組みそのも のが新しい試みだった。
二〇〇三年中に行った調査の結果、首都圏 の汎用拠点は四〇カ所(二〇〇四年初頭)あ り、このうち三十一カ所が統 合の対象にでき るという結論に至った。
再編プロジェクトは、 これを最終的に一六カ所まで減らすという目 標を立案。
以降、八潮センターについては、 再編プロジェクトとは別の二つのプロジェク トが中心に構築作業を進めていった。
この頃の国分は、対外的には物流再編がど うのといった話をほとんどしていない。
だが 水面下では、二〇〇四年中にかなりの見直しを進めた。
物流拠点を利用している顧客の入 れ替えなどを頻繁に行い、とにかく物流拠点 を減らしていった。
旧廣屋の東京物流センタ ーを閉鎖して、国分の中央 支店や稲毛流通セ ンターに業態ごとに振り分けるといった事例 では、新物流システムの稼働を待たずに物流 共同化を現場レベルで実現した。
物流拠点の統合を進めていくなかで新たな 問題も出てきた。
従来の?商物一体〞の体制 であれば、物流拠点の運営や管理もそれぞれ に行っていればよかった。
ところが、これを 物流だけ抜き出して共同化するとなると、い 課題をクリアするための一つの試みだ。
また、 SASについても同様で、量販店などで要望 の高まっているカテゴリー仕分けなどを高度 化するうえで、自動化機器を有効活用してい こうという狙いが ある。
入荷検品台車とピッキング台車はオリジナ ルで開発した。
無線ハンディ端末による作業 者への指示だけでなく、ハンディ端末とラベ ルプリンターのデータ交換にも無線を利用し て、同じ機器を多くの用途に流用できるよう にしてある。
またピッキング台車の自重は約 四五キロと、従来型に比べると大幅な軽量化 が図られた。
このピッキング台車などは今後、 国分の標準仕様にしていく方針だ。
もっとも、こうしたマテハン活用は、国分 にとっては画期的でも、すでに世の中に普及 しているものに過ぎない。
むしろ注目すべき は、約二年間をかけて富士通と一緒に開発し た 「次期物流システム」によるソフト力の強 多くの関係者が参列した八潮センターの開所式 (中央が國分勘兵衛会長、2005年9月撮影) 2005年度 売上高 13,378億円 食品 6,642億円 49.7% 酒類 6,226億円 46.5% その他 509億円 3.8% 2001年度 11,346 68 2002年度 11,715 78 2003年度 12,397 70 2004年度 13,221 85 2005年度 13,378 115 国分の連結売上高の推移と内訳 (億円) 売上高 経常利益 37 MAY 2006 ったい物流センターの運営は誰が担うのかと いう課題に直面してしまったのである。
そこで国分は二〇〇五年一月、物流統括部 の中から、首都圏エリアの担当だけを切り出 して「首都圏物流部」を発足。
共同化した物 流拠点の運営・管理を、ここで行う体制を整 えた。
首都圏を先行させるかたちでグループ 会社の?商物分離〞を進めて、センター管理 を国分本体が肩代わりする枠組みを作った。
ゴール地点で見えてきた課題 この?商物分離〞による新体制が、システ ムなども含めて全面的に稼働したのが八潮セ ンターである。
ここで在庫している商品の所 有権は、よほど特殊な商品を除けば、すべて 国分本体にある。
一般に言う商物分離とは少 しニュアンスが異なるが、過去の国分の物流 管理との比較という意味では、たしかに「商 流」と「物流」の分離が進んでいる。
ここでは、たとえばグループ会社の廣屋国 分の営業部門が得意先から注文を受けると、 まず国分の首都圏物流部の発注センターにこ れを伝える。
そして、首都圏物流部が八潮セ ンターから商品を出荷した 時点で、所有権が 廣屋国分に移り、廣屋国分の商品として客先 に届けられることになる。
「この枠組みを発展させていくと、首都圏 で営業展開をしている営業支社は首都圏物流 部に物流業務を委託するという考え方になっ ていく。
当然、社内的な精算業務が発生する。
従来はある意味で?どんぶり〞で物流を管理 していればよかったのだが、今後はメニュー プライシングのように、物流の作業内容に応 じてグループ会社への請求金額を変えるとい った工夫も必要になってくるはずだ」と物流統括部の高波圭介副部長は説明する。
首都圏では専門 部門(首都圏物流部)を作 ったが、こうした考え方を全国展開していく となると、今後は物流統括部が中心にならざ るをえない。
これに備えて物流統括部では現 在、八潮センターに四人の若手を送り込んで 経験を積ませている。
彼らのミッションは、 今後の物流改革を進めていくうえで必要なノ ウハウを身につけることだ。
国分が三年前から進めてきた一連の物流改 革プロジェクトは、八潮センターの稼働で一 つのゴールに到達した。
すでにセンター運営 そのものは、計画通り首都圏物流部から派遣 された二人(センター長と副センター長)で 手掛けら れるようになっている。
昨年一〇月 に稼働し、最初のピークだった年末繁忙期を 乗り切ったことで現場は落ち着いた。
稼働半年後の今年三月に、庫内作業を委 託していた協力物流会社を変更するという見 込み違いはあった。
再編の最終目標としてい た一六カ所という拠点数についても、予想外 に物量が伸びたため計画を修正している。
そ れでも物流業務そのものは、まったく新たな 物流システムだったにもかかわらず滞りなく こなせている。
当面する最大の課題は、まだ八潮でフル稼 働に対して半分程度の物量しか確保できてい ない点だ。
別の拠 点で手掛けている業務を移 管するにしても、新規顧客を獲得するにして も、八潮センターを使うメリットをグループ 内で理解してもらうことが前提になる。
また、 せっかく導入した最先端のマテハンをフルに 使いこなすためにも、新しい仕組みを社内外 にアピールしていく必要がある。
物流統括部としては、今後は八潮センター で確立したノウハウを全国に横展開していく方針だ。
すでに今年八月に稼働する広島の大 型拠点で新物流システムを導入することも決 まった。
従来の強みと、高度にシステム化し た物流ノウハウを、いかにバランスしていく かが課題になっていく。
今後の管理に欠かせなくなるであろうメニ ュ ープライシングについても、社内で正確に コストを把握するのと、これを社外へのサー ビス価格に反映させるのとでは大きな差があ る。
同社らしい舵取りを問われるところだ。
いずれにせよ、国分の物流管理が新たな一歩 を踏み出したことは明らかだ。
(岡山宏之) 物流統括部の高波圭介 副部長

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